未だ戦闘の余韻が残るハイウェイの上。手足を凍らされて身動きが取れなくなった
大体5m前後の範囲に
「…………佐天さん、どう?」
そんな奇妙な壁のすぐ横で、それらの金属部品を電磁力でくっ付けている御坂美琴は、中にいる自身の友人へと話しかけていた。
「――え~~と、もう少しですね。ここをこうして…………よし、終わりました!」
中からのそんな元気の良い声に苦笑しつつ、御坂は壁をくっ付けていた電磁力を一気に弱めた。硬質な音を立てて、部品がぼろぼろと落ちていく。
金属部品の中から出てきた佐天は、大変に奇妙な格好をしていた。『先進状況救助隊』の車両から回収した
「……いやあ、やっぱり無いわね」
「全くですわね。状況的にしょうがないとはいえ、余りに年頃の少女がする格好とは言えませんわ」
「まあ、庶民としては仕方がありませんわ。なんでしたら、この、婚后光子が! 直々にファッションというものを教授して差し上げますわ!」
「み、皆さん、ヒドイですよ……」
好き勝手言う友人の面々に、顔を俯けていた佐天は、朱に染まった顔を一気に上げると、ハイウェイの中心で、声高々に叫んだ。
「仕方ないじゃないですかー! この下、『裸』なんですからーーーーッ!!」
……そもそも、何故佐天がこんな格好をしているのか。それはテレスティーナ達との戦闘が終わった直後の話になる。巨大
そのため、変身が解けそうになるとすぐに、佐天は慌てた声で近くにいた御坂に応援を頼んだ。
『み、御坂さーーーん! 近くの瓦礫でバリケードお願いしまーすッ!!』
今の佐天なら氷で壁を作ることも可能だっただろうが、空気中の水分で作られた氷は、透明もしくは半透明である。下手すると、直接見られるよりもさらに劣情を煽ることになる。もっとも佐天が自分で壁を作らなかったのは、単に慌て過ぎてそこに思い至らなかったせいでもあった。
「でも、大丈夫? 下手すりゃ風邪ひくんじゃない?」
「それより何より、公然猥褻罪ですわ。初春、177支部に連絡して取り調べの準備を」
「あー……今回のこれは事故みたいなものとしても、普段の佐天さんは充分その罪に値するような気がしますね……」
佐天と親交の深い三人がここぞとばかり悪乗りして言い募る。普段からかう側に回ることの多い佐天はこういった集中砲火には慣れていなかった。
「なんで、捕まえようとしてくんですかー……こんな素肌に毛布なんて、変態ちっくな格好、私だってしたくありませんよぉ……」
――それは、ちょっと言いすぎかもー!って、ミサカはミサカは憤慨してみる!!
「……ん?」
「どうしたの、佐天さん?」
「いや…………今、時間軸とか出番とか、色々なものを無視した電波が入ったような……?」
時間軸をすっ飛ばしたメタな電波はさておき、ようやく何とか人前に出られる格好になった佐天が後方へと振り返る。そこにはいまだに、30m程の氷に丸ごと閉じ込められたテレスティーナの姿があった。その手前には、黄泉川と木山の姿があり、周辺の調査と事情聴取を終え、こちらに手招きしている。
「……全く派手にやってくれたじゃん。もっともテレスティーナについては、このまま氷漬け状態で『
黄泉川がそこで言葉を切り、隣の木山の顔を見る。その顔には、苦悩がまざまざと現れていた。
「…………正直、この女がどうなるかは私も知ったことではない。ただ、彼女が今も氷の中で保持している『ファーストサンプル』、あれだけは何としても早い内に確保しておきたい。アレがあれば子供たちを早く目覚めさせることが出来るし、さっきも
テレスティーナが文字通り完全に凍結した時点で
だから。
「わかりました。それじゃ、この氷溶かしますね」
『うむ』
佐天の声に重なって、低く重々しい声が響き、その右手を氷に向けた途端、突如としてテレスティーナを閉じ込めていた氷は水煙となって姿を消した。
「…………ッ!」
「…………あー、もうなんでもありじゃん」
二人が息を呑む中、ガランガランと大きな音を立てて
「……どうやら、息を吹き返したみたいじゃん。ちなみに佐天、今なにしたか聞いていいか?」
「あ、はい。まあ簡単なんですけどね。私が撃ち返した光球って、私のARMSの一部で出来てるので、爆発の時に氷の中に巻き込まれてたんですよ。その一部に働きかけて、氷の蒸発と蘇生措置を同時にやっただけです。もちろん、人体やさっき言ってた『ファーストサンプル』に、急激な温度変化で影響を及ぼさないように細心の注意を払ってます」
「止めるも戻すも、自由自在か……学園都市内でも、そこまでの凍結系能力者はめったにいないぞ」
あくまでARMSは『
佐天は言わないが、今の彼女は標的を『凍結』させるだけではない。巨大
その後、現場の後始末に動いていた
……それから二時間後、先進状況救助隊の附属研究所内にて。
長年研究したワクチンプログラムをスティック状のデータ端末から引き出し、そこに『ファーストサンプル』から得られたデータを元に、修正を行う。全ての入力が終了し、後は実行を残すのみとなった時、木山の手がそのキーの手前でふと止まった。
彼女の顔に浮かんでいるのは、不安。子供たちを、本当にこのプログラムで取り返すことが出来るのかと言う不安。それと同時に、彼女は子供たちが自分を受け入れてくれるのか、という不安も感じていた。
元々、子供たちが長い間昏睡状態に陥ったのは、自分が関わっていた実験によるものだ。あんなバカな実験、自分が止めるべきだったと何度も何度も後悔した。そして、目覚めた子供たちに、拒絶されるのではないか、と言う恐怖もまた感じていた。自分はこの子達の時間を何年も奪った張本人の一人だ。罵倒されるのが、当然。軽蔑されるのが、自然。こんな自分が数年費やした程度のプログラムじゃ、子供たちは戻ってくれないんじゃないか…………。
そんな風に考え、思考の堂々巡りに落ちていた木山に傍らから、一つの声が届いた。
「――――大丈夫、なの」
その声に顔を上げる。初春に肩を貸されながら声を出したのは、春上衿衣。今も眠り続ける枝先絆理と『
「枝先ちゃんがね、言ってるの…………木山先生のこと、信じてる、って」
その言葉に、しばし呆然とし、そして最後の勇気を自分の『生徒』に貰った『先生』は、プログラムの実行を、端末へと命令した。
……やたらと眩しく感じる光の中、随分久しぶりに感じる目覚めの中、枝先の視界に入って来たのは、自分にとっての『先生』の顔だった。
「…………木山先生、目の下、真っ黒」
そんな言葉に隈を浮かせた『先生』は、涙をこぼしながらゆっくりとほほ笑んだ。
「………………ああ、随分、忙しくてね」
あの日『生徒』を失った『先生』は、今度こそ自分の手で、『生徒』を取り戻したのだった。
これにてテレスティーナ戦、完全決着!次回は超電磁砲第一期のエピローグ部分と、そして、その裏側……
佐天の新能力ですが、原作バンダースナッチ同様、周囲の元素に働きかけるところは変わりません。ただその性質上、氷を作り出すと内部にナノマシンも閉じ込められるんですよね。それを逆手に取れば、蘇生措置まで可能、と……原作より数段人に優しい能力になったのは、やっぱり佐天の影響かもw
途中で入った公然猥褻な幼女の電波は、気にしないでください(笑)シリアスが続くと、メタだろうとなんだろうと、ギャグやコメディを入れたくなるんです……