とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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今回は報告書回。アニメや原作準拠で書き写すのが、メチャクチャ疲れました……



044 報告―リポート―

 

――『超電磁砲量産(レディオノイズ)計画』――『妹達(シスターズ)』最終報告書――

 

 ――本計画は、超能力者(レベル5)を生み出す遺伝子配列パターンを解明し、偶発的に誕生する超能力者(レベル5)を、100%確実に誕生させることをその目的とする。なお、本計画の素体は、『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴とする――

 

 無機質なモニターに映し出されたその文字列を読んだ御坂の脚から、かくんと力が抜けた。その様子に慌てて佐天が駆け寄り、脇に手を添え支えとなる。

 

「御坂さん!?」

「……………………ほん、とうに、本当にいた……私のクローンが……」

 

 その様子に佐天もまた歯噛みしながら、報告書を少しずつ読み進める。そこに記されていた報告書の内容は、余りにも非情な現実だった。

 

 ――御坂美琴のクローンを作るのに使用されるのは、彼女の毛髪から摘出された体細胞を注入した受精卵。そのために必要となる遺伝子配列パターンは、幼い彼女から獲得したサンプルを使用。このサンプルの獲得は、交渉人(ネゴシエーター)が――

 

「…………昔、ね、本当に昔。まだ子供だった頃、大学病院で筋ジストロフィーの治療の為だって言われて、DNAマップを提供したことがあるの……」

 

 うわごとのように呟く御坂。つまりはその提供を受けた科学者が、こうして悪用していることになるのだろう。さらに報告書の中では、その提供されたDNAマップが学園都市の書庫(バンク)に登録済みであることも書かれていた。

 

 ――実験体の確保に要する時間を短縮するためには、人体と人格、双方の成長過程を短縮する必要がある。前者については投薬によって、およそ14日で『超電磁砲(レールガン)』と同様の人体を形成することに成功。後者については、外部スタッフである『布束砥信』の監修のもと、学習装置(テスタメント)を用いて、基本的な脳内情報をインストールすることで対処した。準備は整い、後は成果を確認の後、計画は次の段階に移行。『妹達(シスターズ)』の量産体制を構築する予定であった――

 

 夕方出会った布束の名前も、報告書の中で確認。彼女が『妹達(シスターズ)』の人格形成に大きく関わる研究員であったことも判明した。

 

 そこまでの事実を確認し、御坂は握り締めた拳を画面の手前のキーボードに叩きつけた。その拳を横からそっと包み込んだ佐天は、更に報告書を読み進める。そして、その先の内容を見て、ふと眼を止めた。

 

「……あれ? 御坂さん、ココ読んで下さい、ココ」

 

 佐天の示した先を訝し気に眺めた御坂は、その内容に眼を瞠った。

 

 ――しかし、『妹達(シスターズ)』の試作型として作成された第一ロットは、度重なる問題点が浮上。まず第一に、投薬によって成長過程を短縮された個体は、遺伝子内のテロメアが非常に短くなり、免疫機能も非常に脆弱であることが判明。早くて数時間、長くとも数日で絶命することが判明した――

 

 一日も保たずに死滅するのでは、商品価値など出るはずもない。実験目的か兵器利用かはこの文面からは分からないが、ひと月も保たないのでは利用価値がぐんと低くなる。

 

 ――この問題点の改善のため、『布束砥信』とともに遺伝子工学面での外部スタッフとして招聘された『キース・グレイ』の監修の元、放射線と細菌による遺伝子操作で『超電磁砲(レールガン)』の遺伝子情報の一部を書き換え。これにより『妹達(シスターズ)』の遺伝情報は、オリジナルの『超電磁砲(レールガン)』とは一部異なるものとなったが、書き換えが行われたのは能力に深く関わる脳神経系ではなく、あくまで『テロメア形成に関わる部分』と『免疫系の極々一部』であった。またそれによって、特定の病原菌への抵抗力を弱めたり、特定物質へのアレルギー反応が起こることも危惧されたが、パッチテストの結果免疫力は以前よりはるかに向上していることが――

 

 先に続く文面で、キース・グレイが招聘された理由を理解する。何十年と遺伝子工学分野の研究を行ってきたエグリゴリのノウハウは、学園都市に比べても多大なもの。体細胞クローンなんて非道な研究をしている者たちからすれば、喉から手が出る人材だろう。

 

 キース・グレイの協力により、一度は問題点を乗り越えた。しかしそこまでしても、『超電磁砲量産(レディオノイズ)計画』は、再び暗礁に乗り上げたようだった。

 

 ――計画の最終段階において、『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』による演算を行った結果、予想外の事態が判明。『妹達(シスターズ)』の性能(スペック)は、素体である『超電磁砲(レールガン)』の1%にも満たない。その性能(スペック)は平均して異能力者(レベル2)程度であり、強力な個体でも強能力者(レベル3)を超えることはない――

 

 人体を人工的に作り上げた弊害か、それとも人格形成を機械任せにしたことに問題があるのか、ともかく『妹達(シスターズ)』は御坂とは比べ物にならない程弱い能力しか持ち得なかった。利用価値も商品価値もほとんどない個体を大量に生み出し、多額の負債を抱える未来を予測した研究チームの結論は、余りに簡潔なものだった。

 

 ――以上、ツリーダイアグラムの演算結果を受け、本計画により被る損害を最小限に留めるため、委員会は進行中の全ての研究の即時停止を命令。『超電磁砲(レールガン)量産計画』――『妹達(シスターズ)』を中止し、永久凍結する――

 

「――――…………っ、はぁぁぁぁぁ~~」

 

 最後の文面を見て、御坂の脚から完全に力が抜けた。極度の緊張が解けたせいか、地面にへたり込み、起き上がれない。

 

「なによ……やっぱりいないんじゃない、私のクローンなんて……あンのギョロ目、驚かしてくれちゃって」

 

 安堵の余り、ここにはいない布束への恨み言も少し出た。そこで顔を上げると、変わらずモニターの前に立ち、キーを操作する佐天の姿が目に入った。

 

「? 佐天さん、何してるの?」

「あ、御坂さん。少し手を貸してくれますか。これに内容入れて、持って帰りたいんで」

 

 そう言って佐天が見せるのは、研究所などで使用されるクリスタル状の記憶媒体。目を向けると、同様のメモリースティックが乱雑に入れられた引き出しが開いている。あそこから取り出したのだろう。

 

「内容って……この報告書とかのこと? こんなのもう凍結された計画なんじゃ――」

「いや、そうですけど。さっきの内容で少し気になったことがあるんですよ」

 

 佐天自身も報告書の結論から、計画が今も進行しているとは思っていない。気になったのは、もっと別の事。

 

「この『超電磁砲量産(レディオノイズ)計画』は、確かに途中の段階で中止されていますけど…………だったら、それまでに生み出されたハズの、『妹達(シスターズ)』はどこに消えたんでしょう?」

「!!」

 

 佐天が危惧したのは、量産に先立って生み出されたであろう『妹達(シスターズ)』のことだった。あくまでこの計画が量産(・・)計画である以上、その量産体制構築のための『試作品』が生み出されていたはずだ。何より報告書の中で、計画初期においては形成された人体そのものが脆弱だった為、遺伝子操作で強靭な個体に作り替えたともあったのだ。寿命が短い最初期の個体はともかく、テロメアや免疫力を調べるために作られたその後の個体が、生き残っている可能性は高い。

 

「もしいるって言うなら、そのコたちも助けてあげたいし、追いかけるにはここのデータが必要なんです。御坂さん、お願いします!」

「よし、分かった! 任せといて!」

 

 モニターに駆け寄り、御坂の能力で機器を電子的に操作。削除されていたデータも含めて全て復元して記憶媒体に入れ、痕跡を消去する。その部屋から撤収するまでに要した時間はおおよそ5分程度だった。

 

 そして、彼女らがいなくなった部屋の中心に、空間からにじみ出るように、一人の少年が現れた。彼女らがつい先ほどまで操作していたモニターを見て、一人ほくそ笑む。

 

「……最初のチェックポイントはクリア。さて、次の障害は切り抜けられるかな?」

 

 その言葉が薄暗い部屋に溶けた頃、不意に部屋の入り口の扉が開き、無骨なゴーグルを頭にかけ、御坂美琴とうり二つの少女が入って来た。静謐が支配し、人影もない部屋の様子を、彼女の無機質な瞳が見つめていた。

 




報告書回収、完了。これで佐天と御坂の手元に計画の詳細なデータと、『妹達』編では出なかった『彼女』の登場フラグが立ちました。それに伴って、原作ではここで出ないはずだった『二人』の登場フラグも……
ヒントとしては、計画の永久凍結前に製造された可能性が高く、計画再始動前には確実に亡くなった『彼女』です。

妹達。原作と違い、キース・グレイが手を加えました。しかも手を加えたのが、アレルギー反応や拒絶反応を司る免疫系。多分読者の皆さんが感じる危惧は、大正解です。

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