とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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アニメ版ではすぐに行われた妹との邂逅。しかし実は、原作でも日が空いていたんです。今回と次回は空白期!



045 女王蜂―クィーンビー―

 

 カチャカチャと、硬質な音が部屋の中に響き渡っていた。傍らでそれを眺める少女たちは緊張した面持ちで、一様に固唾を呑んで見守っていた。それを一歩離れたところから見守っていたツンツン頭の高校生もまた、場の空気を乱さないよう努めて静かにしていた。

 

「…………出ました!」

「「「ホントッ!?」」」

 

 端末を操作していた花飾りで頭を彩った少女の言葉に、周囲の少女は一斉に声を上げた。

 

「初春っ、いいいい一体、おおお姉様の妹様は、どこにいるんですのぉぉぉぉぉッ!!」

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい、白井さん! なんでそんなに焦ってるんですか!?」

「これが落ち着いていられますか!! お姉様のクローンですのよ、妹様ですのよ!? つまりは何も知らない純粋無垢で白一色のミニマムなお姉様をわたくし色に染め上げる絶好の機会が――――!! ゲヘヘヘヘ」

「フザけんな、こらぁぁぁぁぁぁ!!? なんなのよ、そのエロオヤジみたいな笑いは!!」

「…………あー、初春? とりあえず話進めてくんない?」

 

 背景で巻き起こる何時もの電撃(おしおき)を盛大にスルーして、佐天が話の続きを願う。そして佐天に問いかけられながら、背後で巻き起こる空前絶後の電撃処刑(スペクタクル)に目を白黒させる初春。

 

 一歩離れた視点でそんな一切を眺めていた上条は、隣に座っていたインデックスと共に机に置かれたお茶を一啜り。

 

「……最近、この光景に慣れてきた自分がいる」

「……全くなんだよ」

「……うん。まったく」

「「?! いや、いつからいたんだよ(の)!?」」

 

 いきなり聞こえてきた姫神の声に、二人同時に飛び退った。

 結局白井がいい感じに焦げ、飛び交っていた電撃も収まって事態が収拾したのはそれから十分後のことだった。

 

「……それで話を続けますけど。御坂さんのクローンを生み出す計画は、確かに途中で頓挫しています。しかしその一方で、計画の前段階として生み出された個体が存在するようです」

 

 報告書の中に示された御坂のクローン、『量産能力者(レディオノイズ)』にはいくつか必要とされた性能(スペック)が存在した。御坂から受け継いだ『電撃使い(エレクトロマスター)』の能力、兵士として運用できる程度の身体能力、銃火器の扱い方の習熟、各種言語と一般常識の獲得、そして軍事転用した際に戦争継続中は死なないくらいの寿命、とおおよそ倫理的でもなければ人道的でもない性能を要求された。当然最初は失敗続きで、生み出された個体はデータを取るだけ取ったら『処分』されると言う結末を迎えていた。

 

 他人(ひと)の勝手な都合によって生み出され、また生命を絶たれた自分のクローンたちを想い、御坂が自身の腕を抱き締め強く歯噛みする。そんな御坂を、この場に繋ぎ止めるように、白井がその腕をほんの少しだけ握り締めた。

 

「現時点で生存が期待出来る個体は、それほど多くありません。候補は後でまとめますが――中でも生きている可能性が高いのは、作成個体間で脳波が同一であることを利用した『情報共有化システム』の実験個体です」

 

 通称『ミサカネットワーク』。クローニングした個体は全て同一の脳波を持ち、『電撃使い(エレクトロマスター)』で電気信号に変換して送受信することも出来る。それによって例えばAという個体が見聞きしたものを、Bという個体にも認知させることが出来る。学習や経験をフィードバックすることが出来るため、個体ごとに再度の学習・経験を行わせる手間が省けるという訳だ。

 

「でも、なんでそのコたちは生き残ってる可能性が高いのよ?」

「あー、それはですね……報告書内でもこのネットワーク構築は『最重要案件』として定義されていたらしくて……他の個体に比べても寿命は長めに調整されてましたし、どの程度の記憶や学習が蓄積されて共有化されるのか長期に渡って調べるとされていましたので、生存の可能性は極めて高いと思います!」

 

 御坂の質問に、初春が報告書の内容から読み解いた事柄を聞かせる。正直な話をすれば、生きている可能性自体は低いかもしれない。この実験を主導した者からすれば、証拠になり得る存在を残しておくメリットは少ないのだ。でも、もしかしたら間に合うかも知れない。助けられるかも知れない。そう考えたら、御坂も、初春も、白井も、佐天も、そして上条たちも、止まるつもりは無かった。

 

「初春、アリガトね。それで、場所は!?」

「はい、佐天さん! 第二学区にある『才人工房(クローンドリー)』と呼ばれる研究所です!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 『才人工房(クローンドリー)』。それはかつて世界に存在した偉人や天才を現代に蘇らせるという馬鹿げた研究を行っていた研究所。一時は学園都市の都市伝説サイトにも登場した、存在すらあやふやだった研究所。

 

「そんなモンが、爆発物実験場や騒音対策設備のオンパレードな第二学区にあったとはな……」

「ある意味お似合いじゃない? ここなら年中エンジン音や爆発音の嵐だから、騒ぎが起きても気にもされないわよ」

 

 上条のぼやきに御坂が答えるが、言ってる傍から聞こえてきた飛行機用のジェットエンジンの音が半分くらいかき消していた。第二学区はエンジンや爆発物など騒音が出る研究対象を研究するための学区だ。隣の学区まで音が響かないように消音設備もあちこちに存在するし、ここに好んでくるのは各研究所に勤める研究員くらいだろう。年中いたら、耳がおかしくなりそうだった。

 

 やがて乗って来たタクシーがある路地の入口で止まる。全員そこで下りて道の先を見上げると、周囲の建物と比べても一際大きく無骨なビルが存在した。

 

『皆さん、聞こえますかー?』

「お。聞こえた聞こえた。感度は良好みたいだな」

 

 片耳に取り付けたレシーバーから聞こえてきた初春の声に、上条が返す。ここに来たのは、当事者である御坂、戦闘能力の高い佐天、移動・輸送に強みのある白井、そして防衛役の能力者がいた場合の対策として上条、の計四人だ。残りの初春、インデックス、姫神の三人は指揮監督役。もっとも初春以外の二人は、お茶を飲みお菓子を食べ、『休憩係』とでも言うべき状態だ。

 

警備員(アンチスキル)のデータベースやその研究所から直接引き抜いたデータでナビしますから、皆さんは安心して研究所に忍び込んで下さーい。あ、データ参照とハッキングの手間を省きたいので、内部のセキュリティは御坂さんお願いします』

「りょーかい。あんまり中で研究員倒したり、派手にやるなってことね」

「いや、本当にお願いしますよ、御坂さん。御坂さんの電撃が一番派手なんですから」

「そういや俺も初対面で雷落とされたっけなあ……」

「それは、類人猿さんが不埒な真似でもしたのではありませんこと? 女性の胸にダイブしたり、女性の入浴に乱入したりしそうないかがわしさが、顔からにじみ出ていますわ」

 

 潜入前の軽いミーティング、そんな感じで談笑を繰り広げていたところ、それは起こった。

 

 

「不法侵入は、駄目なんダゾ☆」

 

 

 余りにも軽い言葉と共に、佐天、白井、上条の手足がまるで石になったかのようにピタリと止まった。ただ一人御坂だけは、持ち前の電撃で無効化し、その衝撃にわずかにのけぞる。

 

「ッ!? この、能力は……!」

「ハァイ、御坂さん☆」

 

 現れたのは、御坂や白井と同じ常盤台の制服を身に着けた少女。長い金髪を風になびかせ、白いレース入りのニーソックスとローファーを纏った靴音が路地にカツンと鳴る。少女は同じレース入りの手袋を纏った手で、無骨なリモコンを弄びながら妖艶に微笑んでいた。

 

食蜂(しょくほう)操祈(みさき)…………!」

「そうよぉ☆ 一体この研究所に、何の用なのかしらぁ?」

 

 学園都市第5位の超能力者(レベル5)。最強の精神系能力者、『心理掌握(メンタルアウト)』。常盤台の誇る二人の超能力者が君臨していた。

 

 そして、そんな研究所の路地の片隅で。

 

「――――あー……改めて見ても、とんでもないメンバーなんですケド?」

『まあ、正面切って戦う必要はないよ。主要な何人かに致命傷(・・・)を負わせてくれるだけでいいからね』

 

 そこにいたのは御坂たちと変わらない年恰好の一人の少女。特徴的なのは黒に色を統一した改造制服と、肌に直接纏うタイツ状の衣服。頭の両側で結わえたツインテールと、まるで泥濘を練り固めたような光の見えない瞳を持った少女だった。

 

『キース君の情報があったとは言え、関係施設の撤収作業には少しばかり時間がかかる。それまで頼むよ、警策(こうざく)君』

「…………はぁい」

 

 通信機へと返事を返す少女の足元。マンホールの蓋が銀色の液体に押し上げられ、ゴポリと重たげな音を立てていた。

 




しいたけとみーちゃん、登場。アニメ版のみの人は、置いて行かれること請け合いです。詳しいことは原作漫画へGO!

前回の報告書で、今もカプセルで眠る『彼女』に大覇星祭を待たずに救済フラグが立ちました。まあ、キース・グレイが絡んでいる時点で一筋縄ではいかないですがw

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