とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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久しぶりに、書けました!


004 友達―フレンド―

「――――ふへええええ、疲れた~~」

 

 学園都市の一角、風紀委員(ジャッジメント)第177支部。そこに設えられたテーブルの上で、私、佐天涙子はだらーっと突っ伏していた。

 

「……仕方ないですよ、佐天さん。あんなに沢山怪我人が出てしまった以上、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)もちゃんと調べないわけにもいかないんですから」

 

 今日、私がここにいるのは他でもない。先日の事件に関して風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)の両方から事情聴取を受けるためだ。この場所で受けていたのは、誘拐されかけたもう一人の当事者、初春がここの所属であるためだ。

 

「……うん。誘拐されかけたことはともかく、流石に怪我させちゃったのは、ね。でも、そこまで重い怪我じゃなくて良かったよ」

 

 それは、本当に幸いだった。ちなみに被害者のスキルアウト達だが、所持品から薬物の類が見つかり、退院後すぐに警備員(アンチスキル)の監視下に置かれるそうだ。私の方は、『能力の暴走』によるものとして事件性は薄いとされ、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)両方からの各二時間のお説教のみとなった。

 

「それにしても――――『武器変化(ARMS)』、でしたっけ? 佐天さんの、新しい能力。完全な新種の能力なんて、珍しいですね」

 

「そんなにいいもんじゃないよー? まだ一度しか発動してないし、その一度も完全な『暴走』だったし」

 

 あの後、カエル顔の先生との話し合いで、私の『右腕』に関しては、『肉体変化(メタモルフォーゼ)』の一種として、書庫(バンク)に登録することになった。とはいえ、分からないことの方が多い上、事情聴取のときに、確認のため発動を求められたけど、どういうわけかあれから全く以って反応が無い。

 

 先生もその確認に立ち会ってくれて、「まあ、当分は無能力者(レベル0)のままなんだね?」なんて言われた。……ふえーん。

 

「……あー、えーと。さ、佐天さん! そんなところで落ち込んでないで、気晴らし行きましょう、気晴らし!!」

 

「…………きばらしー?」

 

 テーブルの上にたれながら、首だけを初春の方に向けてみた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――――常盤台のオジョウサマ、ねー」

 

 話を聞いてみると、初春はこれから、『親友』の風紀委員(ジャッジメント)が、学園都市でも有数のお嬢様学校、『常盤台中学校』の生徒だということで、そのルームメイトに会いに行くのだとか。しかもその相手は、なんと学園都市でも7人しかいないトップクラス、超能力者(レベル5)の第三位、『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴本人だと言う事で、テンション上がりっ放しらしい。

 

「そうなんですよ、そうなんですよ! 憧れますよね、佐天さん!」

 

「……あー、えー、ウン、ソウダネー」

 

 正直なところ、私はあんまり興味が無い。私の能力なんて、『レベルが上がれば、UVカットしなくて済むな~!』程度に思っていただけで、まさかあんなおっかない能力の副産物だったなんて夢にも思わなかった。だから先日の出来事以来、超能力者(レベル5)になることにも、あまり積極的ではなかったりする。

 

「でもさ、お嬢様学校の娘って、話しかけ辛くない? なんか、肩こりそうなんだけど?」

 

 お嬢様学校の生徒というのも、問題だ。正直そっちの友達がいるわけじゃないけど、どこかお高くとまってそうな印象なのよねえ……。

 

「大丈夫ですよ。白井さんも常盤台ですけど、すごく話しかけやすい人ですから」

 

「へ~。ちなみに普段はどんななの?」

 

「え? そうですねー………………っ?!」

 

「? 初春?」

 

 話の途中で、初春が硬直した。??なんか、正面を向いたまま硬直してる?私が何気なくそっちに視線を向けてみると、

 

 

 ファミレスの中で、物凄く蕩けきった顔で、同性に抱きつく常盤台の生徒がいた。

 

 

「…………………………は?」

 

 たっぷり十秒ほど硬直して、出せたのはそんな間抜けな声一つ。だってしょうがないじゃない。抱きついてる娘、もんのすごいイイ顔で、よだれまで垂らして抱きついてるんだもん。

 

「…………ねえ、初春。まさかとは思うけど……」

 

「………………アレが、私の『知り合い』ですね……」

 

 何気に初春の中でのランクが、『親友』から『知り合い』に引き下げられていた……。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「オホホホホ、申し遅れましたわ。わたくし、風紀委員(ジャッジメント)第177支部で初春の同期になります、白井黒子と申します」

 

 ……いや、白井さん?そんな白々しい挨拶されても、さっきの光景はなかったことにできませんからね?乙女にあるまじき「グエヘヘヘ」とかいう笑いも見ちゃいましたし。まんまエロオヤジでしたし。

 

「まったく、黒子は! ……ゴメンね、待たせちゃって。私は御坂美琴。黒子の先輩で、ルームメイトよ」

 

 おおう。こちらは、さっきと打って変わって大人の対応。『待たせちゃった』と言うが、そりゃ待ちましたよ。主に白井さんへの電撃折檻(おしおき)が終わるまで。ちなみに白井さんは、まだあちこち焦げてる。

 

「わ、私! 白井さんと同じ支部で柵川中学一年の、初春飾利です! よろしくお願いします!」

 

「あー……初春のクラスメートの佐天涙子です。よろしくお願いしまーす……」

 

 正直さっきまでの、超能力者(レベル5)への気後れだとか、お嬢様への敬遠だとかは、もうないんだけど、今度は違う意味で、あんまり近付きたくなかった。だって、白井さんの行動からその後の妙に手馴れた電撃折檻(おしおき)まで、ファミレスのほかのお客さんに見られてるんですよ!?そのせいで、ファミレス追い出されてるし!!

 

「さて! それじゃとりあえず――」

 

 お?他のところに移動するのかな?お嬢様のいきつけって、一体どんな――――

 

「ゲーセン行こっか!!」

 

「「へ?」」

 

 私達二人の間抜けな声と、白井さんのため息がシンクロした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そこからは、まあお嬢様の『お』の字も出てこない、極フツーの、一般的な学生の遊びだった。ゲーセンでゲームに興じ、帰りに買い食い。まあ、オマケのゲコ太が貰えなかった事で突っ伏す姿勢とかは、少し幼い感じもしたけど。

 

「……なんかさー、初春ー」

 

「はい?」

 

「全然、お嬢様じゃなくない?」

 

「……」

 

 初春、そこで黙っちゃダメ!

 

「で、でも良かったじゃないですか! 思ってたよりずっと親しみやすい人で!」

 

「あー、まあ、そりゃねえ……」

 

 まあ、親しみやすくはある。あるんだけど……

 

「さあ、お姉さま~。 わたくしのクレープ、一口味見を☆ わたくしはその後で、美味しくじっくりねっぷりと頂きますわー♪ グヘヘヘヘ……」

 

 ……白井さんには、ついていけないなー。

 

「――あれ?」

 

「ん、どうかした? 初春」

 

 クレープを美味しく頂いていると、初春が明後日の方向を向いた。なになに?

 

「いえ、あの向かいの銀行、どうして昼間なのに、シャッターが閉まってるのかなって――――」

 

 初春の言葉は、途中で巻き起こった爆発音に遮られた。え!?一体何!?

 

「初春! 風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)に連絡を! その後は、付近の市民の避難ですわ!」

 

 混乱していた私の横を、真面目な顔をした白井さんがすり抜けた。さっきまでとまるで別人……。御坂さんも一緒に駆け出そうとしたみたいだけど、それは白井さんに止められた。

 

「くっ……」

 

「御坂さん! 私達は風紀委員(ジャッジメント)じゃないですけど、周りの人の避難だけでも手伝いましょう! その方が初春たちだって助かりますよ!!」

 

「佐天さん……そうね! 手分けしてやりましょう!」

 

 そうして私達は、それぞれ周りの野次馬を掻き分けに行った。風紀委員(ジャッジメント)でも警備員(アンチスキル)でもない私達の言う事を聞かない人もいたけれど、それでも何とか人を下がらせていた時、目の前に大きな影が落ちた。

 

「――へ? 駆動鎧(パワードスーツ)? 警備員(アンチスキル)が到着したの?」

 

 そんな疑問の声に、目の前の駆動鎧(パワードスーツ)は何故か答えず、黙って此方に手を伸ばしてきた。

 

「ちょ、ちょっと?! きゃあああああ!!」

 

 気がつくと、私は駆動鎧(パワードスーツ)に掴まれ、宙吊りにされていた。

 

「?!」

 

「佐天さん!」

 

「な!?」

 

 初春や御坂さんたちの声が響くけど、正直それどころじゃない。コイツ、何て力で締め付けてんのよ!

 

「……は、ははははは! どうやら形勢逆転だな、風紀委員(ジャッジメント)!! 予め逃亡用に、仲間が銀行警備用に配備されてた駆動鎧(パワードスーツ)を奪う計画だったのさ! こんな風に役に立つとは思わなかったぜ!!」

 

 地面に押さえつけられて、拘束されていた男がそんなことを叫んでいた。これじゃ、皆やられちゃう。私のせいで皆が!

 

 そう考えた時、ふと、駆動鎧(パワードスーツ)のもう片方の手を見た。そこにいたのは……

 

 

「ふえっ、ふえっ…………お姉ちゃん、いたいよお、こわいよお……」

 

 

 駆動鎧(パワードスーツ)に掴まれながら、しゃくりあげる男の子の姿が。

 

 瞬間的に、視界が真っ赤に染まった。辺り一面赤かった、あの日のように。

 

――力が、欲しいか?

 

(ええ、今私は……)

 

 だから、また声に応える。

 

(力が、欲しい!)

 

――力が欲しいなら、くれてやる!

 

 次の瞬間、辺り一面に響き渡る轟音。周りに雨のように降り注ぐ金属片。その光景の中心で、私は……

 

「子供を盾に逃げようとするなんて……許せるわけないじゃない!」

 

 気絶した子供を左腕、引き裂いた駆動鎧(パワードスーツ)の腕を『右腕』に抱え、叫んでいた。

 




ARMS、二度目の発動!
なんと銀行強盗に、駆動鎧(パワードスーツ)を追加してみました。いやーARMSの力で壊していい敵って、案外少ないんですよねー……『今の』佐天さんだと、まだ任意に火の玉作られると対応不可だろうし……

ここで駆動鎧(パワードスーツ)出したのは、ARMS本編のサイボーグの代わりだったりします♪

それとここらへんから、嘘予告とのセリフの違いが出てきてます。まあ、アレはダイジェストですし……

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