とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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帰省から復帰、第一話!


056 無敵―インビンシブル―

 

「う――――あぁああああああああああああ!!」

 

 雄叫びを上げ、二人の少女が色素を抜いたような少年に襲い掛かった。辺りはたちまち、紫電が舞い斬撃が飛び交う戦場と化したが、それでもその中心の少年はまるで他人事のように呟いた。

 

「何だァ? 抜き打ちで早速、次の実験かァ?」

 

 あまりにも軽く言いながら、たん、と軽くステップをつく。それだけで彼の身体は不自然なほど高く浮き上がり、人間の身長以上の高さがあるコンテナの上へと飛び乗った。

 

「逃げるなぁ!」

 

 白抜きの少年を囲うように、周囲がたちまち帯電し、四方八方から電撃が突き刺さった。だと言うのに、少年には変化が見られない。その衣服は相変わらず焦げ跡一つ無い新品同様のままだ。

 

「オイオイ。電撃の類は、今までの実験で見飽きてンぜェ?」

 

 あくまでも小馬鹿にしたような口調。それを見て御坂の頭に血が昇る。その軽い口調が、仕草が、何もかもが。たった今、目の前で生命を断たれた『あの娘』の全てを、否定しているように感じた。

 

 そして、全く同じ思いを、もう一人の少女も抱いていた。

 

「お前ぇぇええぇぇぇ!」

「お?」

 

 白抜きの少年がふと顔を上げると、空から四条の斬撃が降って来た。まるで瀑布のような攻撃。どんな能力者であったとしても、回避も防御も不可能なはずの一撃だった。

 

 それでも、所詮は圧縮した液体窒素でしか無く、ただの『物理現象』の攻撃では、目の前の少年には届かない。

 

「な――――」

 

 確実に相手を捉えていた筈の斬撃が、いきなり四散した。相手が撃ち落としたのではなく、少年に当たった瞬間に、嘘のようにその方向を変え、辺りに飛び散ったのだ。飛散した斬撃によって足元のコンテナが細切れになり、少年は重力に従って地面へと降りた。

 

「離れてて、佐天さん!!」

 

 少年が地面に降りると同時に、御坂が自らの足元から真っ黒な竜巻を発生させる。自身の電磁力で土中の砂跌を操り、高速振動であらゆるものを斬り裂く竜巻だ。その凶器の塊のような竜巻を、御坂は迷うことなく白抜きの少年へと向かわせる。少年は何をすることもなく、黒い竜巻に呑み込まれた。

 

「――――!!」

 

 竜巻に覆い尽くされた空間に、更なる追い打ちを仕掛ける。近くにあった金属製のレールを引き寄せ、電磁力で砲弾として飛来させた。

 

 申し分のない攻撃。この攻撃ならば相手がどんな能力者であれ、無傷では済まないだろう、と二人は希望を抱いた。

 

「――――面白ェ使い方すンなァ」

 

 希望は、竜巻の中の白いヒトガタの絶望が打ち砕いた。声を聞いた瞬間、佐天の背筋に言いようのない悪寒が奔る。とっさに、御坂のすぐ前に着地し、御坂を立っていた場所から押し出した。

 

 ごん、と重い音を立てて、飛ばしたレールの鉄骨が弾かれた。鉄骨はそれを飛ばした御坂の方へと集中的に飛来し、地面に倒れた御坂の頭上をかすめていく。

 

「ぐ――――――!!」

 

 飛んできた鉄骨の一本が、容赦なく佐天の脇腹を抉り、突き刺さった。如何にARMSを持つ佐天といえど不意の衝撃には耐えられず、まるで車に轢かれたように後ろへと吹き飛んだ。

 

「佐天さん!」

 

 吹き飛んでいった彼女を見て、地面から起き上がり、咄嗟に追いかけようとする。白抜きの少年に、背を向け。そんなことを、少年は決して許さなかった。

 

「――――オイ、何処行く気なンだ?」

 

 暴風のように吹き荒れた重圧が、御坂の足を強制的に縫い留める。ぎしり、とぎこちない動きしかしなくなった関節が、どうしようもなく彼女を苛んだ。

 

「何か、おかしいと思ってたらよォ……オマエ、オリジナルかァ」

 

 ぎし、ぎし、と動かなくなった首をブリキ人形のように回し、少年の方を振り向く。重圧で狭まる視界の中、御坂は少年の口元に引き裂くような三日月の笑みを見た。

 

「いいねェ、クローンども(アイツラ)は、所詮テメェの代用品だって話だし……よくわからねェ能力者(・・・・・・・・・・)のツレもいるみてェだし……テメェをこの場でブッ殺せば、この退屈な実験も少しは早く終わンじゃねェかァ?!」

 

 哄笑を浮かべ、足元に大規模なひび割れを生じさせる。それだけで大地から、とんでもない規模の飛礫の津波が発生した。間違いない。ここに至って御坂は確信した。目の前の少年は、学園都市の第一位だと。自分と同じ超能力者(レベル5)の位階にして、頂点に君臨する少年だ。

 

 その能力名は、『一方通行(アクセラレータ)』。誰もその名を知らない、最強の能力者の呼び名。物理現象を、事象を操る能力の頂点。

 

 迫りくる飛礫の津波に、御坂は動かない足を引きずるように後退った。勝てない。噂が真実なら目の前の相手は、核爆弾でも生存可能と言われる慮外の化け物だ。その事実が、怒りを超えてしまった『恐怖』が、何より彼女の足を縛り付けていた。

 

 

『――――『絶望』するには早いぞ、御坂美琴』

 

 

 突如として目の前に半透明の巨体が降り立ち、飛礫の津波をその獰猛な爪で一息に引き裂いた。

 

「ヘェ……見た事ねェ(・・・・・)が、ますます面白そうじゃねェか……」

 

 『一方通行(アクセラレータ)』の顔に、興味の色が浮かぶ。御坂の前に降り立ったのは、バンダースナッチ、その本来の姿。先程の佐天の負傷によって、強制的に覚醒した『滅び』そのもの。

 

『…………』

 

 バンダースナッチは、その視界の中に白い少年を収め、何も語らない。しかし、その内心は他人には計り知れない激情が渦巻いていた。網膜に焼き付くのは、重い車体に押しつぶされる寸前の少女の姿。足をもがれ理不尽に生命を奪われる、一人の子供の姿。その姿が、その死に様が――。

 

 アリスの『きょうだい』を、思い起こさせた。

 

『…………愚かなる能力者よ。全能を気取る憐れな小人よ! 耳あらば聞け、目あらば見よ! 我こそは真の最強、無敵の存在! 我は滅びの体現にして、絶望より生まれし神獣! 我が名は、バンダースナッチなり!!』

 

 バンダースナッチの咆哮が、大気を震わせる。それを受けてなお、一方通行(アクセラレータ)は笑みを崩さなかった。

 

「……面白ェ。テメェが『無敵』だって言うンならよォ! テメェを倒して、俺が新たな『無敵』になってやンよォ!!」

 

 地面に更なるひび割れを発生させ、一方通行(アクセラレータ)が砲弾と化した。地面に衝撃を発生させたと言うのに、まるで物理法則を無視して、一直線にバンダースナッチへと突っ込んでくる。空中で、無造作に、槍のように、何者も抗えぬ凶器と化した両手を伸ばしてくる。

 

 それを視界に収めながら、バンダースナッチもまた笑んだ(・・・)

 

『バカめ!!』

 

 突如としてバンダースナッチの爪が、一方通行(アクセラレータ)のほんのわずかに上、何もない空中を引き裂いた。何もないはずの空間。虚空。そのはずなのに、何故か横で見ていた御坂には、空間を引き裂いた爪痕が、はっきりと見えていた。

 

 ビキリ、と大きな音を立てて、何か巨大な気配が霧散した。

 

「…………あン?」

 

 空中を突き進んでいた筈の一方通行(アクセラレータ)が、どういう訳か何事もなく地面に着地していた。攻撃が終わったのではなく、まるで突進の力そのもの(・・・・・)を破壊されたように。少しだけ呆然とする彼の右手を、バンダースナッチの左手が『直に』掴んだ。

 

『これで――――』

 

 空に高々と掲げたバンダースナッチの右腕から、バキバキと音が鳴り響く。爪はさらに長大化し、腕にもありとあらゆる所にも、宿る絶大な『力』が感じ取れた。

 

『――――終わりだ!!』

 

 その終焉の『爪』は、天高くから無慈悲に振り下ろされ――――

 

 

「そういうわけには、いかないな?」

 

 

 横合いから割り込んだブロンドの長髪を束ねた少年によって、中断された。

 




キース・グレイお得意の、横槍でEND!

ベクトル操作も所詮『能力』なので、バンダースナッチの爪なら引き裂けるんですが……爪に宿った能力の事を、当時意識朦朧としてた佐天さんだけ知らないって言うね!遠距離戦でなく最初から近距離戦挑んでれば、今頃一方通行は、三枚に卸されてますw

ちなみに一方通行、佐天さんのこともバンダースナッチの事も初見です。この辺り、情報を止めた金髪少年がいたり……

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