とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

61 / 91
麦野の『表』の口調が、わからない……!



060 激突―クラッシュ―

 

「――フレンダの方に、電撃使い(エレクトロマスター)が行ったみたいねぇ」

 

 夜間の車中にて学園都市の暗部組織、『アイテム』のリーダー、麦野は独り言ちた。今回の作戦(ミッション)は、二箇所同時防衛。戦力の分散は否めないが、フレンダが対応出来ない氷結持ちで無かっただけマシか、と嘆息する。もっともフレンダが得意とするリモコン爆弾が使えない上、相手のレベル次第では普通に負けるだろうが。

 

(もう片方には絹旗の奴が行ってるし、アイツならこっちが電撃使い(エレクトロマスター)をボコるまで充分耐えられるだろ。イマイチピリッとしねえフレンダより、よっぽど信用できる仕事するからな)

 

 内心では普段の取り繕った口調ではなく、高慢な本性が見え隠れする口調ではあったが、その内容には長時間応援なしの状態で耐えることが決定した絹旗の能力への信用が窺えた。それだけ彼女の能力も実力も評価しているということだ。

 

 そう言う意味では、彼女の傍らでぼーっと虚空を眺めながら身体を休めている滝壺も同様だった。こっちについては性格はどうも馬が合わないが、能力に関しては破格。自身の能力との連携(コンボ)ならば、いかなる相手も打倒できると考えていた。

 

 だからこそ、彼女のそんな自信が、降って湧いた『天災』に狂わされるとは、全くちっとも思ってもいなかった。

 

『麦野! 応答願います、麦野!』

「――ん? 絹旗? どうしたのかしら、何か問題でも?」

 

 端末から聞こえた絹旗の切羽詰まった声に訝しみながらも、表面上は上品に返答する。内心と外面を完璧に切り離せる辺り、大した役者と言えるだろう。

 

『こちらはもう、超駄目です! 施設の防衛は失敗です! 完全な不測の事態が起きました!』

「…………あ゛ぁ?」

 

 まだフレンダの方で襲撃者(インベーダー)の確認をしてから、十分と経っていない。最近の襲撃の手際を見ても、襲撃者は時間を合わせて襲ってくるはずだ。そんな短時間で絹旗が負けるとは考えにくい。そうなると完全なイレギュラーだろう。施設の電気系統がイカレて、火災でも起きたか?それとも崩落か。そこまで思考を進めて、改めて端末越しに絹旗に確認した。

 

「落ち着きなさい。詳しい状況を教えてくれるかしら? 一体何が――」

第二位(・・・)です!!』

 

 絹旗の言ったことが、すぐには理解できなかった。

 

「……………………………………………………………………………………何だって?」 

『ですから、麦野と同じ超能力者(レベル5)の一人、第二位の垣根帝督(かきねていとく)が! 『未元物質(ダークマター)』が超横槍を入れてきたんですよ! 施設の崩壊おかまいなしに!!』

 

 続いて端末の向こう側から、重い瓦礫が一気に崩れるような音が聞こえてくる。そこで通信は切れた。車中に響くのは、ツーッ、ツーッという特徴的な音のみ。

 

 しばらくの間、そのままの体勢で顔を俯けていた麦野は、やがて再起動すると同時、一気に吼えた。

 

「…………あンの、クソ野郎ぉぉぉぉぉーーーーーーーーーッ!!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 一方、連絡を取っていた絹旗の眼前では。おおよそ信じられない光景が展開されていた。

 

「……まずは、小手調べでもいっとくか?」

 

 口元に笑みを浮かべた垣根がそう呟くと、背中の翼の羽根が一斉に外側に広がった。そして、肉眼では決して見えぬ速度で天井ごと上層部のコンクリートを根こそぎ粉砕する。やがて重力に従い落下した巨大なコンクリート塊を、白い翼がふわりと支える。

 

「受けてみろよ、バケモン」

 

 言葉と共に、重さ数tを超えるであろう塊が射出される。翼を器用に操り、まるでメジャーリーガーの剛速球のように投げつけたのだ。向かう先は、佐天と白井。回避が不可能と悟ると、佐天は白井よりも前に出てその変化した右腕を振りかぶった。

 

「お断りっ!」

 

 特大の斬撃を作り出し、コンクリートを両断する。細かな破片を防ぐため、更に右腕を盾状に変化させ、白井と共にその影に身を寄せ合った。バチバチ、ガガガと硬質な音が右腕全体に響き渡った。やがて石飛礫の雨がやみ、横合いから顔を出す。

 

「おー、やるじゃないか、オマエ。あの『真っ白なバケモンの姿』もまんざら伊達じゃねえってトコか?」

(……やっばい。バンちゃんのこと、全部ばれてる……!)

 

 垣根がさっきから匂わせて来る会話の内容に、佐天は思わず戦慄する。目の前の相手は明らかに以前佐天が暴れた時の完全体の姿を、現在の右腕しか解放していない佐天を結び付けている。つまり『連続襲撃犯』(イコール)『純白の獣』という図式だ。もしもこの上名前や学校までバレれば、佐天は二度と表を歩けなくなるだろう。それだけは何としても阻止したかった。

 

 突然の事態に佐天が何とか考えをまとめようとあれこれ考えていると、先に垣根の方に動きがあった。

 

「……まあ、こっちはオマエの素性とかはどうでも良くてな――俺様に下された仕事は、オマエをこの場でバラバラに解体して、研究機関行きの特別便に詰め込むことだけだ」

 

 その幻想的な外見とは裏腹に、背中の白い翼の周囲の大気が歪む。まるでその凶暴な内面を覆い隠すように。瞬間的に、佐天は判断した。

 

「……白井さん、コイツは私が押さえます。白井さんは、この施設内の研究員たちを少しでも遠くに逃がしてください」

「っ、正気ですの、佐天さん! 第二位といえば、お姉様より上ですのよ!?」

 

 小声でのやり取りに、白井が噛み付く。先程目の前の少年が言ったことが真実であるならば、佐天に敵う道理はない。自身の敬愛するお姉様より上の実力者に対し、友人一人を放り投げることなど、白井には到底受け入れられなかった。

 

「大丈夫ですよ。白井さんが研究員たちを素早く遠くに逃がしてくれれば、私だって本気(・・)が出せます。それまでは時間稼ぎに徹しますから」

「…………!」

 

 実は彼女たちは、今回の研究施設襲撃に当たっていくつか取り決めをしていた。その一つが、施設の研究員たちの『人的被害の抑制』である。彼らは胸糞悪くなる研究を行っていた張本人ではあるが、それでも人命であり、佐天たちも彼らと同じ外道にまで堕ちるつもりはない。そのため、御坂は能力の代名詞である『超電磁砲(レールガン)』を、佐天はその身に秘めたARMSの『完全体の解放』を、それぞれ封印していた。どちらも能力の規模が大きすぎて、施設の破壊や崩壊に研究員を巻き込む恐れが非常に高いせいだった。そのため今回のように、それだけで対処できない相手が出てきてしまうと、途端に窮地に陥るのだ。

 

 しかし、研究員の避難が完了してしまえばその限りではない。佐天(かのじょ)の人知を超えた本領であれば、少なくとも逃走は可能となるだろう。そこまで考えを進めて、ようやく白井は口を開いた。

 

「…………はぁ。わかりましたわ。出来る限り急いで周囲を無人にいたしますから、それまでやられないで下さいまし」

「はい!」

 

 返事と共に、視界から白井の姿が消える。空間移動(テレポート)。彼女に距離の隔たりなど無いに等しく、そう時間をかけずにこの施設は無人となるだろう。

 

「それまで一人で何とかしのぐ、かぁ……こりゃ、結構ハードだよねぇ……」

 

 愚痴りながら、顔には不敵な笑みを浮かべる。それでも、負けてやらない。そんな彼女の内面が漏れ出たような表情だった。

 

「……来な」

「先手っ、必勝ぉっぉぉぉぉ!!」

 

 白く強靭な豪腕から降り注ぐ冷気の斬撃と、それを振り払う純白の翼。かくして白を纏う二人の戦士の戦いが始まった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 場所が変わって、研究施設上層階。爆心地近くの研究員を順番に外へと避難させた白井は、現在崩壊した上層部で逃げ遅れた人員の確認を行っていた。

 

(大分崩壊が進んでますわね。急がないと手遅れになりかねませんわ)

 

 チラリと崩れたコンクリートに押しつぶされた元機械室らしき部屋を一瞥し、要救助者の有無を確認する。内部の監視カメラは初春が完全に掌握していたが、ケーブルが物理的に切れては使えない。そのため彼女は、こうして直接人力での確認を強いられていた。実際これは彼女にとって能力の度重なる連続使用となり、消耗もまた著しかった。

 

 そして、そんな事情は、敵方(・・)には一切関係ない。

 

「なッ?!」

 

 轟音と共に、彼女が踏みしめていた床が粉微塵にはじけ飛んだ。咄嗟の事に能力で逃れることも出来ず、後ろに大きく跳躍して逃れる。しかし、飛び散ったコンクリート片は、容赦なく彼女の手足を打ち据えて無視できない損傷を加えていく。

 

「ぐ…………一体何が……」

「――――やぁーーっと、見つけました」

 

 彼女の苦鳴に、床下から聞こえる場違いに呑気な声が重なった。その事実に身を固めていると、床下から白井と比べても余り変わらない小柄な背格好の人影が飛び上がった。とん、と非常に軽やかに降り立った彼女の名は、絹旗最愛。『アイテム』の構成員であり、この施設の防衛を任された者だ。

 

「第二位が介入してきた以上、施設の破棄は超確定ですが……襲撃者(インベーダー)の一人も捕まえないまま、逃げ帰る訳には超いきません。貴女だけでも拘束させてもらいます」

「……! ……そう上手くいくとは、思わないで下さいまし!!」

 

 交錯する二人の少女。空間と大気を操る少女たちは、無人の研究棟で激突した。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 再び場面は移って、研究棟一階。異なる白を纏う二人の戦士の戦いは混迷を極めていた。

 

「っ、の! でぇい!」

「……」

 

 攻め続けているのは、佐天の方。しかし、先程から、ソレが効果を上げている様子が一切見られない。通常であれば、一撃でも致命の斬撃。それを何度も何度も、ただ翼で払いのけているだけだ。業を煮やして何度か突撃も試みたが、そのたびに彼女は翼の打撃によって遠くまで押しのけられた。

 

「ふーっ、ふーっ……」

「……はぁ」

 

 斬撃の合間、ほんの僅かな間隙に、垣根のそんな吐息が漏れた。怒涛の攻撃を繰り広げていた佐天は、しかし様子が変わった相手を警戒し、後ろへと素早く飛び退った。右腕を構え、如何なる攻撃にも対処できる防御態勢をとる。

 

 

「――――――――少し、飽きたな」

 

 

 それはまるで、ビデオのコマ送りのようだった。突如として、何の脈絡もなく、佐天の右腕が宙を舞った。

 




前回から場面は進み、佐天VS垣根、白井VS絹旗へと移行。絹旗と佐天でガチバトルさせることも考えましたが、この場で未元物質も取り込んでしまう佐天相手だと瞬殺されるので、あえなくお蔵入り。白井がピンチヒッターと相成りました。窒素装甲をどう突破するのかが、攻略の鍵ですね。

そして佐天の方は、完全に『飛車角落ち』の状態であることが判明。完全体ナシだと、本当に勝ち目が……。ここで本当は垣根の『天敵』っぷりを思い切り出す予定でしたが、あまり今回は内容的に進まず。次回!次回以降に必ず……!

ここまで話に一切絡まない、心理定規などの他のスクールメンバー。以前の馬場君の時とは違い、一応登場の予定はあります。もうしばらくお待ちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。