8月21日、夜半。次なる実験予定場所で相手を待っていた
集団の先頭に立つのは、ツンツン頭の男子高校生。見た目は平凡。強いと言われる高レベル能力者の中にはいなかったタイプの人間だ。その後ろにいるのは、それぞれ違った印象を受ける中学生くらいの女子が五人と、高校生位の奴が一人。その中に先日襲い掛かって来た二人の少女を見つけ、さらに集団の後ろにいる、今回の実験相手と見られる今までの相手と全く同じ顔をした少女を見て、はぁと溜息を漏らした。
「なンだなンだァ、なンですかァ? てめェ等は人払いもまともに出来ねェのかよ?」
大方、前回襲ってきたオリジナルが、安っぽい正義感でも発揮して、おまけに徒党を組めば勝てるとでも勘違いしてやって来たんだろうと当たりをつける。自分の居場所を探るために、今回の実験相手も捕縛されたであろうことも。
「……全く、だりいなァ。コイツはアレかァ? 目撃者は皆殺しってお決まりのパターンかァ? 参るぜ、量産品の人形じゃねェ一般人殺すってェのは――――「黙れよ」――――あァ?」
先頭の高校生の声に、言葉を切る。その時になってようやく目の前の少年と視線を合わせる。少し、驚いた。瞳に怯えの色が全く見られない。そのことに、少し興味を抱く。
「……お前わかってンのかァ? この俺は、
「――ぐだぐだ抜かさねえで、テメェはもう黙れって言ってんだ!!」
激昂した少年の言葉に、一方通行の言葉が途切れる。面白い。目の前の少年は、第一位という彼の実力にビビッてはいないらしい。もっとも、今までにいたそんな数少ない相手でも、自分がほんの少しチカラを使ってやれば、その瞳を恐怖に染めてきた。目の前の少年がどんな風に表情を歪めるのか、一方通行の中で嗜虐心が頭をもたげる。
「……お前、面白ェわ」
たん、と軽く踏み出した足の裏、地面一帯に縦横に罅が入る。それに対しても少年は、恐れを見せない。決意に満ちた表情を見せるだけだ。
「どれだけ、そのやせ我慢が続くか見せてみろよォ、三下ァ!!」
物理法則を超越し、地面と平行に高速で移動する。対する少年は、ただその右手を拳の形に強く強く握り締める。
「テメェらがこんな血生臭い方法でしか、目的を遂げられねえって言うんなら――」
相手を見据え、その拳を強く大きく振りかぶる。
「まずは、その幻想をぶち壊す!!」
◇ ◇ ◇
「……始まったわね」
眼前で繰り広げられる
「るいこ……とうまは、勝てるよね?」
「…………」
不安そうにするインデックスの言葉に、咄嗟に返すことができない。あそこにいるのは、学園都市の頂点だ。先日不意をついて倒せた第二位とは格が違うと分かるからだ。
それでも、一人魔術サイドの人間であるために、どんな事態に陥ろうとも手が出せない彼女の不安を少しでも拭うため、佐天は空元気でも明るい声を出した。
「だーいじょうぶだって! 上条さんならあんな白モヤシ、すぐにケチョンケチョンにして戻って来るって!」
「そうですわね。何だかんだであの類人猿さんはしぶといですから、相手が第一位でもゴキブリ並みの生命力で生き残れますわ」
「し、白井さん、酷いです……」
「でも。事実」
皆が口々にインデックスを励ます中、ちらりと御坂の方へと視線を向ける。その拳はきつく握り締められ、口元も固く引き絞られている。今、この場で一番辛いのは彼女だろう。それが分かったからこそ、佐天も白井も初春も、直接御坂に声をかけはしなかった。
上条の奮戦をただ見つめて数分が経った頃、ふと佐天が顔を上げた。
「……ごめん、みんな。今度は私にお客みたい」
言いながら彼女は、戦場とは異なる明後日の方向へと向く。
「ここは大丈夫ですわ。ですから佐天さんも、来客の対応に出向いて結構ですわよ」
「そ、そうですね。あの、佐天さん!
初春のその言葉に一つ頷いた佐天が、呼ばれている方向へと駆け出す中、コンテナ群の向こう側、二箇所の異なる方角から、爆音が響き渡った。
◇ ◇ ◇
「あー、くそ! 邪魔してんじゃねえぞ、第七位!!」
茶髪のホスト風の少年が憤り、その背中の翼で空中へと舞い上がる。
「いーや、邪魔する。お前みたいに根性の足りない奴は、この先には進ませねえ!!」
拳を振り、蹴りを繰り出すたびに、物理法則とか無視した感じで巻き起こる爆発を眺め、煙草をくわえた赤髪の少年は、溜息を漏らした。
「なんでこの僕が、あんな暑苦しい奴と一緒に行動しなきゃならないんだ……まあ、この先には『彼女』もいる。元より誰一人通しはしないけどね?」
言いながらステイルは、その背に炎の魔人を従える。目標は、垣根と共に現れた彼の仲間、スクールのメンバー。
「この場で火葬されたくなければ、早々に退くことをお薦めするよ」
◇ ◇ ◇
「なん、なんだ、テメェはああああああああっ!!?」
――が。
「――――≪唯閃≫」
そのレーザーを、長大な日本刀で両断する、超能力者以上の理不尽が降臨していた。
「なんでそんなポン刀で斬れんだよッ?! こっちの熱量もエネルギーもどんだけあると思ってんだ!!」
「その辺りは知りませんが、別に種が無いわけでもありません。名刀の一つである『雷切』伝承を術式で再現しているだけですよ」
そんなことを言いながら、神裂は油断なく対峙した四人を見据える。一人も逃がせない。ここを通せば、彼女らの努力が水の泡なのだから。
「月並みな言葉ですが、ここを通りたければ私を倒して通りなさい」
「いいぜぇっ、焼き殺して黒焦げにした死体の上を通ってやらぁっ!!」
五人の少女の戦場は、その激しさを増していく。
◇ ◇ ◇
そして、それらの戦場から離れた場所では。
「どうしたの、エリー!?」
「ちょ、ちょっとぉ、しっかりしなさいよぉ!」
ベッドの上で自らの身体を抱き締めるように蹲る少女の様子に、彼女を看護していた二人の少女が慌てふためいていた。
そんな二人の様子を尻目に、この場にいる唯一の医療従事者であるカエル顔の医者は、静かな口調でエリーへと話しかける。
「……何が起こっているんだね?」
その問いに、ただただエリーは、怯えた目で答えを返した。
「…………………………………………
決戦スタート!かなり戦場は広く別れましたね。
ステイル・削板組は、スクールの相手。神裂はアイテムの相手です。必然的に、佐天の相手は……。
そして場面は変わり何かを感じ取っているエリー。ようやく彼女らも参戦です!