とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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さっき帰って来て、文章の手直し終わったので、投稿します。遅くなってしまい、本当にスイマセン!!



073 帝王―カイザー―

 

 それ(・・)が現れた時、周辺で戦いを繰り広げていた者たちが、まず真っ先に異変に気付いた。

 

「……なんだい、アレは?」

「でけぇな……」

 

 垣根ら暗部組織『スクール』の足止めに終始していたステイルと削板は、突如として自分たちの後方に現れた樹木のようにも見える巨大な構造物に眼を奪われていた。それは垣根らも同様だ。前回自分らを退けた佐天たちへの復讐に出向いたものの、現在彼らの視線の先にあるのは明らかな異常事態。正直判断に迷う状況だった。

 

「さて、後ろでも異常事態なようだし、出来れば休戦できないかな? こちらとしては、一刻も早く戻りたいところなんだが」

 

 ステイルが、口元の煙草をくゆらせながら言う。実際、彼の目的は目の前の集団の足止めと撃退だけなのだ。ここで彼らを皆殺しにするというのも、少しばかり気が進まない。必要とあらばやる覚悟はあるが、ここに彼らがやって来た理由が、「先日負けたから」というだけの相手だ。そこまでする必要もないというのが、ステイルの判断だった。

 

 戦闘中に生じた、一時的な休息。その空気を切り裂くように、心理定規(メジャーハート)の端末が着信を告げた。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――麦野。統括理事会から、超緊急の仕事です」

 

 同じころ、神裂と戦っていたアイテムの面々。こちらでも絹旗が連絡員からの着信を受け、その依頼内容をチェックしていた。

 

「ア゛ァ?! こっちは、忙しいんだ!! 急ぎじゃなきゃ仕事はキャンセルしとけ!」

「いえ、超急ぎだそうです。しかも、手すきの暗部構成員全員に。強制任務の形だそうです」

「は? 結局、何をしろって言うワケ?」

 

 このやり取りの間、神裂もまた油断なく彼女らの一挙手一投足に目を配らせていたが、その内心は揺れ動いていた。後方に見える巨樹は明らかな異常事態。出来ればすぐにでも、インデックス達がいるあそこへと行きたい。そんな気持ちで一杯だった。

 

 奇しくも、端末からもたらされた任務は、そんな神裂の要望すらも汲んだ形となっていた。

 

「学園都市内すべての勢力は――『あの巨樹の破壊、及び首謀者の捕縛・殲滅を第一目標とせよ』だそうです」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「あ…………ああッ…………!!」

 

 そして、ステイルや神裂とは離れた一角でも、また。巨樹を目の当たりにし、異変をその身に感じたエリーが、質量すら伴いそうなほど圧倒的な共振に、その身をかき抱いていた。

 

「……あの、巨大な樹が、あなたの体調不良の原因みたいねぇ?」

 

 エリーに寄り添い、彼女を心配する警策とは違い、食蜂は親の仇を睨むかのように、突如として現れた樹を射殺さんばかりに睨みつけている。

 

 しかし、彼女はそんな食蜂の言葉を、喘ぎながらも否定した。

 

「――はぁ――――はぁ――――、ち、がう…………!」

 

 その視線を向ける先は巨樹のある方角。しかし彼女は、全く別のもの(・・・・)を見ていた。

 

「あそ、こに…………! 絶望(・・)が、いる……!」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「素晴らしいだろう……」

 

 天を衝くかのように屹立した樹木を背に、キース・グレイが嘯く。その顔は愉悦に満ち、自身が待ち望んだ瞬間が、目の前まで来ているとよく表していた。

 

「かつて……僕の父、キース・ホワイトは、この(・・)アザゼルの集合体を以て、『神』になるつもりだった。もっともその企みは、失敗したんだけどね」

 

 その言葉に、学園都市の住民である上条や御坂らは、困惑する。『神』。それは科学優位の街において、あくまで概念的・思想的な存在でしかなかったからだ。ゆえに、白井が口にしたのは、当然の疑問だった。

 

「……こんな御大層な仕掛けまで施して、一体何を以て『神』になるなどとほざきますの? 寝言は寝てから行うべきですの」

 

 そんな彼女の罵倒にも、グレイはあくまで笑みを以て応じた。そして、ARMSを理解する上での、大前提から懇切丁寧に説明をしだす。

 

「まあ、通常の反応はその通りだろうね。ところで、君たちは、『ガイア仮説』というものをご存知かな? この『地球』という惑星そのものが、『生物』と同じような恒常性を持つ、一個の生物であるとみなす考え方なのだが」

 

 本来大学などで語られる学説なのだろうが、学園都市屈指の進学校である常盤台の生徒である御坂は、その学説について聞き覚えがあった。行き過ぎた環境保護思想の産物か、惑星科学に関わる人間にしか関係ない理論だろうと思っていたが。

 

「――まあガイア仮説自体には賛否もあるだろうが、問題は地球を一個の生物と捉える考え方でね。かつて僕の父は、ARMSの起源たる金属生命アザゼルが、惑星誕生の時代に分化した鉱石の一部――つまりは『地球の兄弟』であったと知った時は、狂喜したそうだよ」

 

 そう呟きつつ、いささか大仰な身振りで、両手を広げた。

 

「もしも、『地球の兄弟』たるアザゼルを――そして、その子供にして、人類との融合種であるARMSを完全に制御下におき、さらに大量のアザゼルでその力を極大化したならば! 惑星そのものになる(・・・・・・・・・)ことも可能ではないか?とね」

 

 その言葉の意味を知り、御坂と白井が絶句した。他のみんなは、未だその内容について来れないようだった。

 

「これは、アザゼルと地球が、完全に起源を同じくする金属生命であるがゆえに考え出された仮説でね。実際、ARMSの中には、地球とシューマン共振を使うことで、影響を及ぼせる個体がある。実に有望な仮説ではあったんだけど――」

 

 はぁ、と溜息を漏らすように肩を落とす。

 

「――現実には、『地球になる』ことは失敗に終わった。もしも地球になれていたならば、まさしく人類というミクロの単位では扱う事の出来ない、マクロの現象すら自らの意志一つで自由にできる、文字通りの『神』が誕生していたことだろうけど」

 

 そんなことになっていれば、断言できる。そんな存在に対して、人類は為す術なく滅びる。誰かの意志のままに、全ての生殺与奪を自由に出来る世界なんて、碌なものじゃないのは明白だった。

 

 と、ここで、ポンとキース・グレイが気の抜ける動作で手を叩いた。

 

「あちゃ、話をするのが楽し過ぎて、大分脱線してしまったよ。君たちが知りたいのは、僕がこんなことをした動機だろう? かつて失敗したと分かっていながら、アザゼルをわざわざ集合させた意味は、何か、だね?」

 

 そう告げながら、後ろの巨樹を一度見上げる。そこには、何処か危うい光が灯っていた。

 

「まあ、単純なことだよ。神になれぬと悟った人類が、その歴史において、何度も何度も欲してきたもの。そして、民衆が永い歴史の中、何時の時代も須らく求めてきたものだ」

 

 ゆっくり、ゆっくりと、その両腕が上がっていく。その様は、まるで翼を大空に広げるかのようだった。

 

 

「『神』と『人』の狭間にあるもの――――――僕は、『王』になりたい」

 

 

 その言葉と共に、アザゼルから伸びた触手が、いくつもキース・グレイの身体へと巻き付いた。それだけでなく、そのうちいくつかは、彼の肌と一体化し、ドク、ドクと鼓動のようなものを響かせ始めた。

 

「本当は、直接アザゼルと同化出来ていれば、こんな苦労もなかったんだけどね……金属生命アザゼルと完全な適合を見せたのは、『アリス』と呼ばれる少女だけだ。ARMSの適合者でしかない僕は、『黄金錬成(アルス=マグナ)』を発動させ、アザゼル達の全てを思考の中で掌握して、初めて同化が可能となる。おかげで随分と遠回りをしてしまった」

 

 次第に、キース・グレイの姿が、触手に覆われて見えなくなっていく。それと共に、巨樹と化していたアザゼルから、高音の共振が聞こえ始めた。

 

「…………っ! くっ……!」

 

 自身のARMSに伝わる共振に、必死になって耐える佐天。周囲の御坂らも、地震すら伴い出した地鳴りに、必死になって地面に伏せて耐える。

 

 やがて。唐突に地鳴りは鳴りやみ、辺りには不自然なほどの静寂が生まれた。

 

「――――さあ、誕生の時だ」

 

 蹲っていた全員に、巨大な影が差した。全員が空を見上げると、さっきまで地面を明るく照らしていた満月との間に、とんでもなく大きなヒトガタの何かがいた。その輪郭は、まるで布に垂らしたインクのように滲み、正確につかむことが出来ない。まるで底の知れない深淵が、人のような輪郭を得て、そこに屹立しているかのようだった。光を通さぬ暗闇の中、その両眼だけが、鬼火のように燃え盛っていた。

 

「この世界に存在するアザゼルの集合体を取り込んだ、巨大≪ハンプティ・ダンプティ≫。地球そのものには及ばずとも、人類には考えられないほどの圧倒的なチカラを行使できる存在……真に『王』に相応しい存在……」

 

 闇の中、その巨大なヒトガタの額に、少年の貌が浮かび上がった。そのまま、首、肩、胸、腕と少年の細い肢体が、まるで滲むようにせり出してきた。

 

「これで……これで、やっと……! 作られた生命である僕が、世界中の全ての人類から、認められる『自分』になることが……!!」

 

 自身の体内を巡るチカラに酔いしれ、熱に浮かされたようなグレイの言葉。それは、確固たる基盤となる『自分自身』すら、不確かなものとして生まれた彼が、本当に心から望んだ希望に溢れた未来だった。

 

 

 しかし。

 

 

『――――――――残念だが、そんな未来は、訪れない』

 

 

 不意に響いた言葉と共に、グレイの細い腰は、横から飛び出した『光輝く騎乗槍(ランス)』によって斬り落とされた。

 

「…………………………………………………………………………………………………………え?」

 

 心底意外そうな声とともに、斬り落とされたグレイは、ゆっくりと地面へと落ちていく。そして、グレイがいた場所から、新たに人の顔が浮かび上がった。

 

「――まったく、孝行者の息子を持って、私は幸せだよ。よもや我が生涯を懸けた『計画』が破れた後、こんな形で次善の回答が得られるとは」

 

 浮かび上がった顔は、十分に成熟した男性のもの。あくまで少年に過ぎなかったグレイとは違い、まったくの別人とも言える人物がハンプティ・ダンプティの漆黒の輪郭の中に現れたのだ。

 

「自身のアイデンティティの確立とは、ひどく矮小な息子だったが……感謝もしているよ。こうして異なる世界のアザゼルを無数に取り込まなければ、私は『神の卵』の外に出ることは難しかっただろうからな!」

 

 落ちていくグレイを嘲弄する男。それだけで佐天は、目の前の男が一体誰なのか悟ることが出来た。

 

「アンタ、まさか――――!」

 

 けれど。それを彼女が誰かに伝えることは出来なかった。

 

 ビスッ、と余りにも軽い音をたてて、佐天の左胸を閃光が貫いていった。

 

「――――――――あ?」

 

 かくり、と膝から力が抜ける。ぺたんと地面に座り込んでしまう頃には、焦げた服からは白煙が上がり、着ていた衣服には血痕が飛び散っていた。

 

「悪いが、君に今暴れられると非常に困る。かと言って、私が取り込む前に死んでもらっても困るのでね……。そこでコアに罅を入れたまま、しばらく横たわっていてくれたまえ」

 

 その言葉の通り、佐天は暗くなっていく意識にどうしても堪え切れず、固い砂利の上にその頬をくっ付ける。後ろの方で、初春らしき声が叫んでいるのが聞こえるが、どうしても身体に力が入らない。逆にどんどんと意識が遠ざかっていく。

 

「では――はじめようか」

 

 その言葉と共に、≪ハンプティ・ダンプティ≫の背中が広がる。まるで植物の成長を早送りで見ているかのように、背中からいくつもの枝が生え、異形の果実が生っていく。

 

 

「――――――――私は、ARMS計画の提唱者にして、全ての父、キース・ホワイト」

 

 

 ハンプティ・ダンプティから生まれ落ちる異形の子らは、かつての世界でモデュレイテッドARMSと呼ばれた者たち。かつてはヒトの内面を吸い、その闇に相応しい獣の姿となった者たち。

しかし、今目の前にいる彼らには、あの時確かに存在した人間の意志は感じ取れない。姿かたちを似せているだけの、文字通り『人形』だった。

 

 

「――私こそが、世界の『王』。人類よ、神が作り上げた失敗作どもよ。我が分身にして、次代を担う新人類、ARMSの前にひれ伏すがいい!!」

 

 

 その場に集う、すべての人間を睥睨するキース・ホワイト。樹木のごとく枝分かれし、星空の天蓋を覆い尽くす≪ハンプティ・ダンプティ≫。そこからまるで、御使い(エンジェル)のごとく降りてくる、魂なきARMSたち。世界崩壊の危機は、こうして訪れたのだった。

 




世界滅亡の危機、到来。やはりARMSの山場は、こうでないと!

以前から言っていた、ルナティックモード到来です。ラスボスはアザゼル大量吸収して、一万人分ほど学園都市の能力もラーニングした巨大ハンプティ・ダンプティ。中にいるのは、ARMS知り尽くしたキース・ホワイト。しかもそこに至るまでの雑魚敵は、魂ないけどラーニング能力持ちの量産品(モデュレイテッド)ども。ちなみに数は、なおも無限増殖中。そして、主人公である佐天は、いきなり戦闘不能……。

つまり、この最終決戦のキモは、『佐天復活』か、『奇跡』が起きるまで、学園都市勢と魔術サイドで耐えきれるか?ということになります♪ちなみに、学園都市内に敵ARMS逃がしても駄目です。虐殺起きますから。絶望しか見えねえ……!

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