とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

76 / 91
最初は、学園都市の表側の動きから始まります。



075 駿足―マッハ―

「どういう事じゃん、これは!」

 

 学園都市第七学区。コンテナ置き場からほど近いハイウェイの上では、到着した警備員(アンチスキル)たちが、事態の把握に苦慮していた。なにせ目に見える範囲に、あからさまに巨人が存在している状況なのだ。詳細を知ることなど容易には出来ない。その上、更に異常事態は続いた。

 

「撃っても撃っても倒れない、ゾンビみたいな怪物(モンスター)の集団とか! 一体、学園都市のどこにあんなのがいたんだ!?」

 

 周辺の調査を行っていた彼らに、突如として謎の異形集団が現れ、襲い掛かったのだ。たちまちその場は戦場真っ只中と化していった。

 

「ぜ、全然数が減りませんよ?! 私たちB級パニック映画の、やられ役みたいなんじゃ――」

「ゴチャゴチャ言うな! コイツ等に子供たちを襲わせるわけにいかないじゃん! ここで食い止めるのが、私たちの仕事だ!」

 

 子供たちを守る。ただその信念のため、彼女たち警備員(アンチスキル)もまた防衛戦へと加わるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「周辺の交通管制システムにアクセスして! 異常が起こっている地域に、一般市民が立ち入らないよう封鎖するわよ!」

 

 警備員(アンチスキル)が奮戦する中、固法ら風紀委員(ジャッジメント)もまた戦場を大きく囲むように展開し、彼女らに出来ることを行っていた。

 

 本来風紀委員(ジャッジメント)はあくまで学生自治の精神で活動するものであり、事故や災害の現場ならともかく、『戦場』にまで直行する必要性はないのだ。そうした鉄火場に出るのは、あくまで警備員(アンチスキル)の職務であり、彼女らが行うのはそのサポート。現場での活動が円滑に行われるよう支援する活動である。

 

(……ほんの少し、情けないわね)

 

 本当の現場を、大人達に任せなければならない不甲斐なさ。現場にいることすらできない苛立ち。固法の胸には、そうしたものが常に渦巻いていた。

 

 だから、彼女はある意味羨ましかったのだ。事件とあらば、すぐに現場に突撃することが出来る白井が。現場の管轄など飛び越えて、電脳戦なら八面六臂の活躍が出来る初春が。そして、風紀委員(ジャッジメント)ですらないのに、警備員(アンチスキル)を遥かに超える実力を示す、御坂と佐天が。自分には、出来ない。彼女らのように、現場に直接飛び込むことなんて出来ない。

 

 けれど。

 

(――それでも。今もどこかで戦っているかも知れないあのコ達の背中くらい支えてあげなきゃ、『先輩』の立つ瀬がないじゃない!! そうですよね、黒妻先輩!)

 

 どこか、佐天の変貌にも似た姿を持つ異形の軍団。それらの根源とも言える漆黒の巨人。それらを真っ直ぐに見据え、固法は自らの戦場で後輩(かのじょ)たちの日常を守るため、戦い続けるのだった。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 そして、戦場の中心で。高音の共振を辺りに響かせながら、御坂ミコのARMSが解放された。

 

 それは、少女の脚には似つかわしくない、脚甲(グリーブ)型のARMSだった。太腿部分から幾何学紋様が現れ、膝の部分からは完全に別個のシルエットへと変わっていた。膝から足首にかけて優美でなめらかな曲線を描きつつ、その硬さを感じさせる白色の金属光沢に覆われていた。特徴的だったのは、両方の膝から空を刺すように突き出た角状の突起。そして、彼女のローファーの側面、ちょうど踝の辺りから飛び出た翼状の突起だった。

 

 御坂ミコは、一、二歩、その場で足の具合を確かめるように足踏みし、次いで足首を屈伸させた。そして最後に、ジャリッと音を立てて地面を踏みしめ、下半身を柔らかく曲げると――

 

 ――次の瞬間には、先頭にいたモデュレイテッドの一体に、その硬いローファーを突き刺していた。

 

「――――な」

 

 一部始終を見ていた布束の口から、そんな呆けたような声が漏れた。そして、ミコの姿は、既に彼女の視界から消え去っている。ただ周囲に響く、空気を切り裂く轟音と、モデュレイテッドどもが漏らす衝突音と破砕音、そして周辺の空気を焼く雷撃の弾ける音だけが響き渡っていた。

 

 断続的な破壊の光景を、布束は目の当たりにしていた。普通なら、驚愕のあまり手を止めていたかも知れない。それでも妹達(シスターズ)の容態を考えて、作業の手は止めずに、残った冷静な思考でわずかに目の前の光景について考察した。

 

(グレイは彼女のARMSがどんな能力になるのか、詳しくは分からないと言っていた。一方で、移植者の影響を受けやすいとも。So...この能力は、彼女自身の資質と、本人の欲求や心情が表面化した結果ともいえる)

 

 御坂ミコの心情については、今現在彼女がどんな風に成長しているのか、学習装置(テスタメント)に監修した布束にも分からないので、そこは置いておく。問題は、彼女の資質についてだ。

 

 彼女の能力は、電撃使い(エレクトロマスター)。ARMS移植前は低能力者(レベル2)相当の能力でしかなかったが、移植後に行った簡易検査では、大能力者(レベル4)相当にまで上がっていた。これが影響を及ぼしたと考えたら、どうだろうか?電撃で、今彼女が行っているような、超高速機動戦闘は可能だろうか?

 

 そこまで布束が考えを進めた、ちょうどその時。ミコが何十体目かの敵を足裏で砕き、くるりと反転し、地面を削りながら着地した。その足に、正確には踝から覗く翼状の突起に、バチバチと音を立てる雷が帯電しているのを見て、布束は答えに至った。

 

「Oh...周囲の電磁波や地磁気に、帯電させた翼で干渉して、自分自身を『電磁加速』させているの……?」

 

 つまり、ミコが行っているのは、彼女の姉である御坂美琴と同じなのだ。御坂は、ゲーセンのメダルを電磁加速させて超高速の弾丸と化している。ミコは、『自分自身』をその弾丸へと変えているに過ぎないのだ。もっとも、ミコよりも優れた能力を持つ御坂であれば、彼女以上の出力も速度も容易に出すことは出来ただろう。

 

 それでも、この『自身の電磁加速』という戦闘方法は、姉である御坂にすら決して不可能な、御坂ミコにしか出来ない戦闘手段と言えた。何故なら、結局は生身でしかない御坂では、加速の際の衝撃や反動、それに摩擦熱など、様々な要素を防ぐことが出来ないのだから。ARMSを移植し、コア以外の再生すら可能となった御坂ミコだからこそ、可能となった戦闘方法だった。

 

 今もなお、ARMSによって生まれ変わったミコが、まさに目にも止まらぬ戦闘を繰り広げている。レベルが上がり、自分の周りに電波の擬似レーダーまで張れるようになった彼女に、死角は無い。どれだけの高速戦闘中であろうと、狙い定めた獲物へと、空を舞う翼を生やした靴先を届かせる。

 

「――まるで、神話に出てくる『タラリアの靴』ね……」

 

 大いなる翼を持ち、履く者をその道先へと届ける伝説の靴。黄金の電撃を纏わせた両脚は、確かにそのように見えた。

 

 と、ここで、ミコの足が一時止まった。

 

「……ダメですね、減りません。とミコは、己の不甲斐なさを嘆きます」

 

 目の前に未だに山と積まれたモデュレイテッドどもを見据える。その四肢や顔面を砕かれ、襤褸雑巾のようになっていた個体も、ゆっくりと首をもたげ、徐々に再生しつつある。例え意志がなくとも、モノは完全体のARMSそのもの。異常なほどの耐久力と、再生能力は健在だ。この集団を打破するには、全個体のコアを砕きまわるか、圧倒的な攻撃力で(・・・・・・・・)欠片も残さず消し飛ばす(・・・・・・・・・・・)か、そのどちらかしかない、と悟り。

 

 彼女は、実にあっさりと、それ(・・)を為すことの出来る存在へと至った。

 

「――――レプリカントARMS≪ユニコーン≫、完全解放(・・・・)。と、ミコは絶対の切り札を切ります」

 

 戦場に、貞潔を司る優美なる幻獣が顕れる。

 




警備員、風紀委員周りの動き。そして、ユニコーンの初解放、終了です。きちんと『教師』している黄泉川さんや、『先輩』してる固法先輩が好きです。

ARMS≪ユニコーン≫。第一・第二段階は脚甲型となります。ここら辺、武士と同じですね。もっとも、膝からユニコーンぽい角や、『タラリアの靴』の翼が踝から出てるので、かなり異なる形ですが。白兎の第二段階より、第一段階の方が形状的には近い、かな?

『タラリアの靴』。ミコが名付けると思えないので、布束さんが命名。本来の伝説では翼の生えた黄金のサンダルで、神ヘルメスの持ち物。ペルセウスのメデューサ退治に貸し出されたのが有名ですね。
能力そのものは、自分の電磁加速。御坂も原作中で電磁力で離れた足場や壁に緊急回避する場面がありますが、ブレーキが利かず痛がってる場面があります。ARMSで再生できるミコはそういう心配もいらないので、手加減なしの超加速です。

次回、完全体、解・放!全体の構造とか、姿かたちとかは頭の中に浮かぶのに、パソコンで絵が描けない自分が悔やまれる……!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。