とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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休日出勤の昼休み中に思いつき、勢い任せで仕上げました。

他の連載作品はとりあえず置いといて、投稿します!



007 鬱屈―グラビトン―

「――『連続虚空爆破(グラビトン)』事件、かあ……」

 

 ここは、御坂さんがよく寄る公園。で、目の前には彼女のケリの跡がついた自販機。今日は『ヤシの実サイダー』が出たようだった。

 

「そーなのよ。何でも『量子変速(シンクロトロン)』っていう、アルミを基点に重力子を加速させ、一気に放出する能力が――」

 

「よくわかんないけど、アルミを爆弾に変えてるってことですね!」

 

「すっごく、大まかに理解したわね……」

 

 世の中、深く考えちゃ駄目ですよ!偉い人も言ってます!『考えるな、感じるんだ』って!

 

「まあ、とにかくそんなカンジ。それで今日も、黒子も初春さんもカンヅメってわけよ」

 

「んー、今度気晴らしに誘いますか――――」

 

 ◇ ◇ ◇

 

「と、いうわけで、やってきました、『セブンスミスト』!」

 

「いきなり、何ですか、佐天さん?」

 

 初春、細かいこと気にしちゃ駄目よ?こういうのは、テンプレなんだから!

 

「いいじゃん、いいじゃん! 今日は初春の気晴らし兼ねてるんだから!」

 

「その口調は、どこかの誰かを呼び寄せそうだからやめてください……」

 

 なによー、そこまでテンション低くしなくてもいいじゃないのよー。そう思いながら、早速テンションを上げる行動に!

 

「じゃー、まず私の気晴らしから!」

 

「わきゃああああ!?」

 

 今日はグリーンか~。

 

 ◇ ◇ ◇

 

「うう、ひどいですよ……」

 

「アハハ、ゴメンゴメン。あ、だったらさ初春、今度からこういうの履いてみたら?」

 

「へ…? ○×△□!? そんなの履けるわけないじゃないですか!」

 

「え~、でもコレすごいよ? 布そのものは全体をガードしてるのに、全体がレースだからスケスケで。リボンを引くと何故か中央から開くように――」

 

「聞きたくありません聞きたくありません! 大体ソレを履くことが、何の解決になるっていうんですか!!」

 

「え? 堂々と見せられるじゃない」

 

「見られたくないんですよ!」

 

 まあ、初春が堂々と下着晒す娘だったら、私もここまでスカートめくりに興じてないけどね!

 

「御坂さんは、何買うんですか?」

 

「あ、うん。私はパジャマを――」

 

 その言葉が不意に止まり、視線が一つのパジャマで止まる。おおう、これは何とも――

 

「ね、ね、これカワ――」

 

「アハハ、見てよ、初春。この子供っぽいデザイン」

 

「小学生くらいまでは、こういうの着てましたけどね。さすがに今、これはちょっと……」

 

 そうだよねー。……ん?御坂さんが何か言いかけていたような……

 

「そ、そうよね! さすがに中学生にもなってこれはないわよね!!」

 

「は? はあ……」

 

 この反応……もしかして、気に入ってた?……それなら、悪いことしちゃったし、よし!

 

「それじゃ御坂さん、私達向こうで水着見てきますから。御坂さんは『気に入ったパジャマ』でもあれば、他のお客さんに買われないうちに買っちゃった方がいいですよ? 私達、しばらく向こう行ってますから」

 

「ッ!? そ、そう? じゃ、じゃあお言葉に甘えて、そうさせてもらうわ」

 

「え、あの、佐天さん?」

 

「さー行こうね、初春ー」

 

「え、え、え?」

 

 初春を押し出すように、その場を離れる。フフフ……よし!ドサクサに紛れて、初春に悩殺水着を買わせよう!絶対面白くなるし!

 

「よーし! それじゃ初春、これなんて、どう?」

 

「は、はわわわわ!? 何で布が、前も後ろも紐だけなんですか?! そんなの、どんな場面で着ていけっていうんですか!!」

 

「そりゃー、彼氏が出来たときよ! あ、でもその時は、私にも報告してね? 『娘が欲しければ、父親であるこのワシを倒して見せよ!』ってのやってみたいから☆」

 

「どんな格闘家の父親ですか! ウチのお父さんは、ごく一般的なサラリーマンです!」

 

 んー、でも初春ってお父さんとかに溺愛されてそうだなー。反応が、一々可愛いし。嫁に出るときに、似たようなことは言われるんじゃ?

 

 なーんて、ことを考えてると、声が上がった。

 

「――あ、ああああ、アンタがどうしてこんなトコにいんのよ!?」

 

「「ん?」」

 

 その大きな声が残してきた御坂さんのものだったので、私達二人ともがそっちを振り向く。すると、そこには御坂さんだけではなく、見覚えのない高校生くらいの男の子がいた。髪はあちこちツンツン飛び跳ねているが、目はなんか生活に疲れたように垂れ下がっており、なんか表情から『不幸』な感じがした。

 

「どうしたんですか、御坂さん?」

 

「この人、誰――あー! そっか、御坂さんの彼氏ですね!?」

 

「なッ!?」

 

「はあ? 上条さんは、ビリビリ中学生の彼女をもった覚えはありません。圧倒的に年上派ですことよ――――って、アレ?」

 

 上条さんというらしいその人が、その台詞を言った途端、空気が変わった。ここは、もはや一般的な、平和な日本の街角じゃない。ここは――――『死地』だ。

 

 バキンッ、というおよそ女子中学生の歯から鳴るとは思えない音とともに、空気がパキパキと音を立て、紫電をほとばしらせ――って!

 

「御坂さん、ストーーーーップ!」

 

「ダ、ダメですよ、御坂さん! ここお店の中ですよ?!」

 

「お、おお、お願いだから放して! コイツだけは、コイツだけは!」

 

「うお!? あぶなっ! ふ、『不幸』だぁーーーーっ!」

 

 飛んできた電撃をかわし、大急ぎで逃げ出しながら上条さんはそう叫んだ。今のは『自業自得』っていうんですよ!

 

 ◇ ◇ ◇

 

「――はあ、びっくりしたあ……」

 

「ホントです……」

 

「う……ごめん……でもさっきのはアイツがムカつくこと言うから……」

 

 まあ、非常にデリカシーに欠ける言動でしたねー。あれは、その癖鈍感で、周り中にフラグを立てて放置するタイプとみました。

 

 そんなとき、初春の携帯が鳴り響いた。

 

「あ、はい、白井さん? どうかしたんですか?」

 

『大変ですわ、初春! 虚空爆破(グラビトン)事件の続報です! たった今、衛星が新たな重力子の加速を確認しましたわ!』

 

「?! 分かりました! 観測地点は、どこですか! 私も急いでそちらに――」

 

『第七学区の≪セブンスミスト≫という洋服店ですわ!』

 

「!」

 

 その言葉に、初春の目が見開かれる。……今、このお店の名前言わなかった?

 

「ラッキーです! 私、今そのお店にいます! すぐに避難誘導を行いますね!」

 

『何ですって?! 待ちなさい、ういは――』

 

 携帯を切り、初春がこちらに向き直る。その瞳は、いつものあわあわしてるときとはまるで別人。

 

「――『虚空爆破(グラビトン)』事件の次の標的は、この店です。お二人には申し訳ありませんが、避難誘導にご協力願えませんか?」

 

 ◇ ◇ ◇

 

 それから、初春の指導のもと、店内の客の避難を行う。観測から避難までが早かったせいか、皆そんなに混乱もなく避難できている。これなら間に合いそうだ。

 

「何とか間に合いそうですね、御坂さん。けが人もいないみたいですし」

 

「そうね。でも油断しちゃだめよ? 実際前の事件では、9人の風紀委員(ジャッジメント)が重軽傷を負ったって話だから」

 

「――――え?」

 

 その言葉に、私は思わず立ち止まる。9人の風紀委員(ジャッジメント)

 

「それ……一度に、ですか?」

 

「ううん、全員別々らしいわよ? 何でも爆破の威力が派手になってきた9件の事件すべてで、風紀委員(ジャッジメント)が負傷してるって――」

 

「――――ッ!!」

 

 それを聞いて、私は鳥肌が立った。殺傷性が高くなってから、必ずいる風紀委員(ジャッジメント)の負傷者、何故か私たちのいたところで起きた次の観測。まさか、犯人の狙いって――!

 

「ちょ、ちょっと、佐天さん!?」

 

 そこまで気づいたところで、私は全力で店の中へと戻る。この事件の本当の標的は、風紀委員(ジャッジメント)だ。そして、今回観測地点に一番近かったのは!

 

「――あ! おい、御坂! ちょうど良かった、一緒にあの娘探してくれ!」

 

 ビルの中で、さっきの上条さんと合流。一緒についてきていた女の子が、見つからないとのことだった。

 

 セブンスミストの中、先程みんなで回っていた女性服売り場の階。そこまで戻ってきたところで、道の先に初春の無事な姿を見つけた。……良かった。

 

 だけど、初春は血相を変えて、近くの女の子の手からカエルのぬいぐるみを奪い取り、力の限り叫ぶ。

 

 

「逃げてください!! アレが爆弾です!」

 

 

 その言葉に三人が三人とも、全速力で初春に向かって走り寄った。

 

 最初にたどり着いた私が、女の子を抱き締めた初春を、その女の子ごと左腕を回して引き寄せる。右腕には、ARMS起動の前兆である幾何学紋様が浮かび上がる。

 

 その斜め前に、御坂さんが滑り込み、ポケットから超電磁砲(レールガン)用のコインを取り出す。だけど、慌てていたせいか、コインを取り落し、地面に転がる。

 

 さらにその前に、上条さんが回り込む。何をするつもりかなんて考える暇もなかった。

 

 そして、右腕の封が解かれるよりも早く、視界が閃光で白く染まった。閃光、爆発、衝撃――――『赤い炎』。

 

 

「う………………わあぁぁああああああああぁぁぁぁぁああーーーーッ!!!」

 

 

 絶叫とともに伸ばした右腕の先。変化もしていなかったその『右腕』は、その一瞬、爆発の光よりも眩い光を放ったような気がした。

 

 ◇ ◇ ◇

 

 爆発を起こしたセブンスミスト。そこからほど近い路地裏に、一人の少年が壁にもたれていた。

 

「ク、クフッ、ククク……いいぞ、段々強くなってきた。この力があれば、これだけの力があれば!」

 

 力を振るう喜び。昏い興奮に身を浸す少年は、後ろから近づく影にも気づかない。

 

「僕を馬鹿にしたアイツらも、僕を助けなかった風紀委員(ジャッジメント)も! 僕が必要(いら)なかった世界(このまち)も、叩き潰して――――!」

 

「「そんなことさせないわよ」」

 

 突然の声に、その男子生徒がこっちへと振り向く。そこにいるのは、右肩の半そでが千切れていたけど無傷の私と、同じく無傷の御坂さん。

 

「やっと見つけたわ」

 

「喜んでるとこ悪いけど、全員無傷よ。今回の爆発で、けが人一人いないわ」

 

「ッ!? そんなバカな! 僕の最大出力だぞ?!」

 

 自分からしゃべってくれた、か。おかげで証拠とか探さなくてすみそうだ。この会話は、携帯で初春に録音してもらってるし。

 

「へえ……」

 

「手間が省けたわね」

 

「……ッ、あ、いや。とんでもない爆発だったんで、その、とても――」

 

 そう言いながら、手を不自然に後ろに回した。私にも分かるくらい不自然に。

 

「助からないんじゃないかってね――――――!」

 

 再び前に回した手に握られていたのは、アルミのスプーン。だけど次の瞬間、そのスプーンの先を、最強無敵の電撃姫が消し飛ばした。

 

「ヒッ――――レ、『超電磁砲(レールガン)』……」

 

 スプーンを消し飛ばした『超電磁砲(レールガン)』の衝撃で、その男子は尻餅をついたように地面に転がった。その顔は、一瞬武器を消し飛ばされた驚愕に染まり――――――次の瞬間、『憎悪』に染まった。

 

「くそ……くそくそ! いつも、こうだ! オマエら強いチカラを持った奴らは、何をやっても『力』でねじ伏せる! それでねじ伏せられる奴のことなんか、気にもしないでなぁ!」

 

「――なんですって?」

 

「そうだろ! オマエらは『力』を振るえばそれでいいとでも思って、周りで痛い目にあってる奴のことなんか知ろうともしない! 『力』のある奴らは、そんな奴ばかりだろうが!!」

 

 ……ああ、そうか。その言葉で理解できた。出来てしまった。

 

 能力という名前の『力』で、優劣が決まる街。そんなトコロに住んで、しかもずっと無能力者(レベル0)と認定されてきた私だから理解できた。『力』を持たない自分の、どうしようもない『劣等感』。どんなに明るく振る舞っても、心の中に少しずつ溜まっていた、澱。

 

 だから、そいつをぶん殴ろうとしていた御坂さんの手を、『右手』で抑えこんだ。……これは、多分高位の能力者に至った人には、分からない感情だから。

 

 

 ――――けどね。

 

 

「何とか、言ったらどうなんだよ、この――――――ブッ!?」

 

 言葉の途中で、『左手』で思いっ切り頬を張ってやった。スナップを利かせてビンタした左手が、ジンジンと痛む。

 

「……正直に言うと、私は『無能力者(レベル0)』なのよ。だから、あんたの気持ちもわかる。……だけど」

 

 気持ちは、理解できる。だけど、コイツが行ったこと自体は、理解したくない。その想いのままに、胸倉をつかむ。

 

「けど! 『力』にねじ伏せられる気持ちを分かってるアンタが! おんなじことしてどうすんのよ!!」

 

 それだけは、理解したくなかった。

 

「言っとくけど、私はアンタを許さない。アンタが傷付けようとした風紀委員(ジャッジメント)は私の親友で、能力もそこまで強くなくて、喧嘩だって強くない、ただのか弱い女の子だった。アンタがその()に爆弾を届けさせようとした小さな女の子だって、何の『力』も持っていなかった。……それなのに、アンタは傷つけようとした」

 

 だから、絶対に許せない。『力』に向き合って、『力』と戦おうとしなかったコイツだけは。

 

 

「アンタは! 『力』に呑まれた!!」

 

 

 胸倉を捕まえたまま、『左手』を振りかぶる。何の能力も宿らない『左手』を。

 

 

「アンタは、自分自身に負けたんだ!!」

 

 

 思い切り振りかぶった『左手』の拳を、顔面に叩き込む。そんなに鍛えてもいない私の拳は、固い顔面の骨に当たって、少し皮膚が裂けたけど、今は言いたかったことは言ったという思いが勝って、あまり気にならなかった。

 

「佐天さん……」

 

 後ろからかかった声に、振り返る。私は今、いつも通り笑えてるだろうか?

 

「――帰りましょうか、御坂さん」

 

 能力なんか気にしない、本物の友達のところへ。

 

 ◇ ◇ ◇

 

SIDE:黒子

 

 セブンスミストの婦人服売り場。今回の爆破が起こった現場であり、初春やお姉様が巻き込まれたそこで、私は眉を顰めることになりましたわ。

 

(初春の話では、『虚空爆破(グラビトン)』の爆発を防いでくれたのは、お姉様だとのことでしたけど――)

 

 たしかにお姉様ならば、爆発から初春たちを守ることも可能でしょう。そこは信頼できます。……けれど。

 

 

(――――――『電撃』をどう使えば、『霜が降りる(・・・・・)』なんてことが起きますの?)

 

 

 爆発の中心から、視線を向けた先。なぜか『不自然に』爆発での変色を免れた床と後ろの壁は、白い霜に覆われていましたわ……。

 

SIDE OUT

 




今回の話で悩んだのは題名(タイトル)。グラビトンに当てる候補に挙がったのは、『衝動』、『発露』、あと単純に『爆破』でした。結局、一番介旅の感情を示している単語に決まりましたが。

上条さんは、今回ほぼ背景。むしろ、バンダースナッチのヤバイフラグを中心にしたかったので!

あと、あの口上は、某忍術使いのサラリーマンそのまんま……『力』に呑まれた相手に叩きつける言葉としては、あれが最高だったので♪

ちなみに作者は、連日休日出勤中。年度明けまで、投稿不定期です……

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