とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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何故か予定通りの時間に、進まなくなって来た……!



080 兄弟―ブラザーフッド―

 

 その存在は、圧倒的だった。

 

『――(ちから)が、欲しい?!』

 

 周囲に広がる異形共の悪意、その一切を通さぬ不壊の城壁。

 

『――(ちから)が、欲しいのなら――』

 

 その城壁の主たる”女王”は、光の中で、再び相見えた男を鋭く睨みつけていた。

 

『――与えましょう!!』

 

 彼の者の名は、≪女王(クイーン・オブ・ハート)≫。かつての世界に存在したオリジナルARMSの一体。

 

「なぜだ……なぜ貴様がここにいる!? ≪女王(クイーン・オブ・ハート)≫!!」

 

 キース・ホワイトは狼狽を露わにし、眼前の女王に口角泡を飛ばした。ここは、かつてARMSが存在した世界ではない。次元という壁を隔てた先にある並行世界だ。幾つも枝分かれした世界の中から、自分たちがいる世界を見つけ出すことなど不可能なはずだった。そう考えていたからこそ、この世界に存在するバンダースナッチを追い詰めたことで安心しきっていた。

 

 だというのに、その前提はいともたやすく崩された。眼前の女王は、確かにそこにいる。それが間違いもない結果だった。

 

 そんなホワイトの様子に、軽く溜息を吐きながら彼女――≪女王≫をその身に宿す女性、『久留間恵』が答えた。

 

「別に、そこまで不思議じゃないわよ……しいて言うなら、そこの二人のおかげね」

 

 そう言って振り向いた先にいたのは、今なお佐天の傍らに寄り添っている三人の中でも、女性と少年――ユーゴー・ギルバートとキース・グレイだった。

 

「どんな原理かは知らないけど、向こうの世界でくつろいでた私たちの頭の中に、突然そこのキースの声と一緒にユーゴーの声が聞こえてきた。何が起こっているのかは分からなかったけど、その声に応えなきゃって思ったら、こっちの世界に精神体だけ飛ばすことが出来たのよ」

 

 そう答える間も、恵の身体は端の方がおぼろげで、砂のように崩れたりくっついたりを繰り返している。どうやら単純な精神体の映像ではなく、佐天のナノマシンを触媒に身体を構成しているようである。

 

 恵の言葉に、すぐさまホワイトは思考を加速させる。かつてはエグリゴリの最高頭脳の一人として君臨した彼だ。有り得ない可能性を取捨選択し、やがてキース・グレイに再び目を向けた時、彼は正答へと至った。

 

「『黄金錬成(アルス=マグナ)』…………!」

 

 キース・グレイがアザゼルと融合するため、発動させ続けていた(・・・・・・・・・)魔術の存在をようやく思い出した。数ある魔術の中でも、『黄金錬成(アルス=マグナ)』の発動条件と効力は異端の域に入る。何せ『思考したことが、そのまま現実になる』のだから。ホワイトにとってアザゼルとの融合を果たした今、そんな魔術は無用の長物だったが、今この場ではまずかった。キース・グレイと共に、祈りを捧げた人間がいたのだから。

 

「キース・グレイが思考したことによって、『黄金錬成(アルス=マグナ)』が発動し……それを受けて、思念のエキスパートと言える『精神感応(テレパス)』の娘が、オリジナル共に思念を飛ばしたのか!?」

 

 『黄金錬成(アルス=マグナ)』は、思考したことが直接魔術の効力となる。今やARMSだけではなく、アザゼルまで取り込んだキース・グレイの能力増強は最大だろう。そして、彼が先程まで考えていたことはたった一つ。身体が崩れていく今わの際で、彼が祈ったのは、『祈りよ届け(・・・・・)』というただそれだけ。だが、その祈りは確かに届いた。どこまでも遠くに声を届けることが出来るユーゴーの『祈り』は、グレイの魔術によって膨れ上がり、世界を穿って確かに届けるべき相手へと届いたのだ。

 

 これは、ただの偶然だろうか?否。グレイは、ユーゴーは、ここにいる皆は口を揃えて言うだろう。これは、『ヒトの意志が生んだ奇跡だ』と。

 

「さて……」

 

 恵が横たわる佐天とその傍らの初春に微笑みかけた後、再び前を見据える。彼女のかける眼鏡の奥から、かつてブルーメンの一員として戦い続けた日々の強気な眼差しがホワイトを貫いた。

 

「ここに来る途中で大体の事情は悟ったけど……よくも私たちの『妹』に、好き勝手やってくれたわね!! 撃ち返しなさい、≪女王(クイーン・オブ・ハート)≫!!」

『悪意ある者どもよ! 汝自身の悪意で、己が身を焼くが良い――――『アイギスの鏡』ッ!!』

 

 瞬間――全てが反転した。炎が、雷が、棘が、光が、力が全て反転し、それを発したモデュレイテッドを砕いていく。形勢は一瞬にして逆転した。

 

 そして、更に『奇跡』は続く。

 

 恵の背中を頼もしく見つめるユーゴーの傍らに、再び佐天から吹き出たナノマシンの雪が集まり始めたのだ。その数は、『3』。三人の男性の姿を取って、地面にゆっくりと降り立って行く。

 

「……フ――――ッ、ここが並行世界なんだね。何だか不思議な感じだね。あまり、元の世界と変わらないって言うか……」

 

 そんなことを言う男性は、優し気な目元を緩め、周囲を物珍し気に見て回っていた。

 

「おぉい、そんな場合じゃねえだろ。俺らの不始末で、こっちの世界の『妹』に迷惑かけてるって話なんだ。さっさとキースの野郎を、ぶっ倒そうぜ!」

 

 髪を短く刈り込んだ青年は、タンクトップの中に納まる鍛え上げた両腕をぐるぐると回していた。

 

 そして、降り立ってから後、もっとも落ち着いた空気を醸し出していた男性が口を開いた。

 

「……そうだな。例え世界を隔てても、俺達はARMSを宿した『兄弟』だ。だったら、助けてやらないとな……!」

 

 その三人の姿は、かつてとは違っていた。少年であったはずの三人は成長し、今は一人前の男性へと変貌を遂げていた。けれど、その雰囲気は、その魂は、その意志は変わらない。かつて最も心優しかった少年は、包容力溢れる青年へと成長していた。怒りと復讐に燃えていた少年は、情熱を内に秘める青年へと成長していた。そして、彼女が最も愛した少年は――――変わらず己が意志を貫き通せる青年だった。

 

 知らず、彼女(ユーゴー)の口から、彼らの名がこぼれた。

 

「武士君……隼人君……それに…………高槻君!!」

 

 その声に、かつて少年であった三人は、ほんの僅か口元だけ緩めた。そして――――――世界に、『声』が響き渡る。

 

 

――――力が、欲しいか……!?

 

 

 その『声』に、世界が震える。その『存在』に、世界が畏れる。その畏怖は、世界に『共振』となって鳴り響いた。

 

 

――――力が、欲しいのなら……!!

 

 

 その恐怖に、真っ先に耐え切れなくなったのは、ホワイトだった。すぐさま周辺に横たわっていたモデュレイテッドを呼び覚まし、『声』の根源へと向かわせる。しかし、そんなことで間に合うとは、ホワイト自身も思っていなかった。

 

 

『――――くれてやる!!』

 

 

 その瞬間、舞い上がったのは、偉大なる天空の覇者。移植者巴武士の脚となり、翼となって世界を翔ける者。音を超え、光となって『導く者』――――≪白兎(ホワイトラビット)≫。

 

 

『――――くれてやる!!』

 

 

 接近しつつあった異形共が、なす術なく引き裂かれる。それを為したのは、一人の勇壮たる戦士。その『剣の主』たる新宮隼人の手足となって、敵たる全てを斬り払う者。『神の槍』を振るい、『護る者』――――≪騎士(ナイト)≫。

 

 

『――――くれてやる!!』

 

 

 そして、最後に現れるは、暴虐たる破壊の化身。悪鬼羅刹のごとき面相で、周囲を威圧する魔獣そのもの。その胸に秘めるは、唯一の友たる『高槻涼と共に生き、共に死ぬ』という堅き『意志』のみ。絶対の権化たる『破壊者』――――≪魔獣(ジャバウォック)≫。

 

 悪意が砕かれ、希望が生まれる。全てのオリジナルARMSは、今まさに眠りから覚め、最後の『妹』を助けるべくこの世界へと集結するのだった。

 




という訳で、オリジナルARMS、全て集結!の回でした。さあ、ホワイトはどこまで持ち堪えられるか……?

恵による種明かし。身体自体は、佐天の散布したナノマシン。意志そのものは、『黄金錬成』と『精神感応』をARMSで最大化したことで出来た通り道を、通って来たイメージ。ちなみにグレイかユーゴー、どっちか死んだら四人全員消えます。

そしてオリジナル三体の登場は、あのモデュレイテッド戦でのオリジナル復活をイメージ!!当時はこの展開に、とてつもなくワクワクしました。

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