とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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後日談、第一話投稿です!


086 平和―ピース―

 

 妹達(シスターズ)とARMSに関わる一連の事件が終わった後――。事件の渦中にあった佐天涙子と上条当麻は……。

 

 病院に、強制入院となった。

 

「……あのさ、ビリビリ」

「あァん?! アンタ、まだビリビリ呼ばわりなワケ!?」

「ひっ! スイマセンごめんなさい悪気は無かったです! ……いや、それは置いといて、とりあえず聞きたいんだけどさ」

「何よ?」

 

 呼び名のせいか未だに固い口調の御坂の様子に、一度はぁ、と息を吐いてから、聞いた。

 

「…………なんで俺は、病院のベッドに拘束ベルトで拘束されているのでせうか?」

 

 試しに少しだけベルトを引っ張ってみて、そのビクともしない強固っぷりに溜息を漏らしながら、出来れば納得できる答えが出てくることを祈りつつ、回答を求めてみた。

 

「なんで、もないでしょ? 今回アンタ、『右腕』が根元から無くなってたじゃない。ここの院長先生が、一度精密検査したいって説明したじゃない」

「いや、それは俺としても有り難い話だし、そこは承諾しましたのことよ? けど、なんでここまで厳重に縛るのかって聞きたいんだけど」

「あー……それは先生曰く、これから行われる検査項目で逃げようと動いたり、痙攣したりしないように」

「待って待ったちょっと待って!? 俺これからどんな検査受けさせられるの!? 目にした瞬間逃げたり、検査中に痙攣したりするの?!」

「…………ま、まあ大丈夫よ。ここは病院なんだし、何かあっても治療はしてくれるって」

「検査で治療が必要な怪我するんなら、本末転倒ですよね?! 今回珍しく大きな怪我はなかったし、細かい怪我も彼女に治して貰った(・・・・・・・・・)のに意味ないじゃないですかやだー!」

 

 そのままドッタンバッタンと暴れること暫し。拘束を抜け出すことも出来ず、余計な体力を消耗しまくった上条がベッドで大人しくなると、やがて憂いを浮かべた表情で、今最も御坂に確認したかったことを聞いた。

 

「あー、それなら、さ…………『彼女』は」

「ああ…………佐天さんなら」

 

 上条達が騒いでいた病室から階を隔てた特別病棟。清潔なベッドの上に横たわる長い黒髪の少女。今回のARMS事件の主軸とも言えた少女――佐天涙子は、今…………

 

 

「う゛~~~~……ものすごい、ダルイ…………」

 

 

 ベッドの中で、疲労困憊と言った感じの身体を横たえ、土気色の顔色で悶えていた。

 

 なぜ、こんなことになったのか?それは彼女が、あの日行った行動に起因する。そもそも彼女の能力はナノマシンを媒介にした種々のチカラのやり取りとなるわけだが、それにしたところで、扱うのはあくまで本人である。あの日、あの戦いの中だけで彼女は膨大な力を放出したり、取り込んだりを繰り返していた。自分にかかる負担を一切考えずに、である。

 

 ……その結果として、体力全快になる『魔法の薬』があるからと言って、フルマラソンの全速力を何度も繰り返したような負荷が、諸々の後始末を終えた彼女に現在進行形で襲い掛かっているのである。当然起き上がることも出来ず、体調は過去最低の底辺のまま、記録を更新し続けている。

 

「……まあ、その体調不良の原因のほとんどが『自業自得』って言うのが佐天さんらしいですね」

「う゛~い゛~は~る~……もっと優しい言葉かけてくれたっていいじゃ~~ん゛~」

「いやです♪」

「親友が、冷たい……」

 

 よよよ、とわざとらしく泣き崩れて、シーツで目元を押さえる。それでも初春も初春で、ニッコニッコとした冷たい笑みを絶やさない辺り、佐天の扱いに慣れてきたと言うべきか。

 

「そんじゃ~……みんな、はぁあ゛~~」

「ああ…………大丈夫ですよ、佐天さん。先生が検査した結果、妹達(シスターズ)全員、寿命も体調も完全に快復(・・・・・)しています」

 

 ……そう。今現在、妹達(シスターズ)の面々は、グレイが助けた個体も、それ以外の個体もクローン体ゆえに短かったテロメアや寿命、それにその他の問題点も含めて完全な健康体となっている。なぜこんなことが起きたのか?それを知るには、あの日の戦いの後まで話を遡る必要がある。

 

 まず、あのキース・ホワイトとの頂上決戦の後、当然の結果として実験云々が警備員(アンチスキル)風紀委員(ジャッジメント)にバレた。いくら統括理事会がゴーサインを出していたとはいえ、実験それ自体が倫理に反して極めて非人道的なのだから、問題にならない訳もない。幸い誰のクローンが使われたとか、誰が関わっていたかとかについては、学園都市全体に広まる前に緘口令は敷かれたようだが、それでも実験が中止になるには十分だった。そうなると当然協力していた企業はすぐさま蜥蜴のしっぽ切りを行い、全責任も負債も天井という男が負うことになるようだった。

 

 そして問題になったのは、妹達(シスターズ)の治療に関してである。彼女らはクローンであるため、極端にテロメアが短い。学園都市で最高峰のカエル顔の名医ならば治療法も見つけられるだろうが、患者は一万人近いのだ。全員に手が回る訳もない。

 

 そこで考え出されたのが、キース・グレイが遺していった完全治療用ARMS、『メディカライズARMS』を用いる方法である。これなら全員に移植するだけでテロメアはおろか、体内の障碍は全て治るので画期的な方法であった。もっともこの方法も、グレイが遺したメディカライズARMSがほんの少量だったこともあり、危うくお蔵入りになるところだった。

 

 それら諸問題を解決したのは、バンダースナッチである。彼女は佐天と協力して、ほんのわずかな『アバドンの魔軍』を生成。それを、残っていたメディカライズARMSへと『感染』させた。そして改めてメディカライズARMSを取り込んだ『魔軍』を吸収して、メディカライズARMSそのものの性能を秘めたナノマシンを新たに生成。妹達(シスターズ)全員へと散布する運びとなった。

 

 一応妹達(シスターズ)へ散布する前に、きちんと検証実験も済ませてある。丁度重症を負っていたはずのとある不幸少年(・・・・・・・)がいたため、彼には栄誉ある実験台(いけにえ)になってもらい、まったくの健康体となったのを確認してから散布した。おかげで妹達(シスターズ)は、検査が終わり次第退院できる運びとなったのである。

 

「……でも、全力戦闘後にそんな大規模で無茶なARMS発動を行ったせいで、佐天さんの方が限界を迎えるとは思いませんでしたね」

「う゛ぅ~~……身体が重い゛~、怠い゛~、眩暈と吐き気と頭痛が一斉に襲ってくる゛~~~~」

 

 ……ちなみに治療方針が決まって、それら全力行使が全て終わったのは、東の空が白々と輝く頃だったりもした。全力戦闘繰り返して、そのまま徹夜である。たとえARMSがあろうと、倒れても不思議ではない。

 

 と、佐天がそんな風に近くにいる初春に体調の絶不調を訴えていると、彼女らのいる部屋の数階下の方から、何やら叫び声が聞こえてきた。

 

「ちょっと!! 待ちなさいよ、食蜂ォッ!! 何いきなり来てソイツのベッドに潜り込もうとしてんの?!」

「アラぁ☆ やっぱりそんなお子様な発育の人には解らないのかしらぁ☆? ここからは大人の時間よぉ☆」

「喧嘩売ってんのか、ゴラァッ!!」

「あ゛ぁああああああああああ?!」

「「…………」」

 

 一段と激しい叫び声の後に、まるで雷が落ちたような轟音と、巻き添えで痺れたような哀れな男子高校生の悲鳴が聞こえてきた。

 

 治療が終わって判明したことだが、何でも上条と食蜂は一年前からの知り合いで、ある事件を機に上条の中からその時の記憶が失われ、脳にも障害が残っていたそうだ。本来治療法は無いはずだったが、メディカライズARMS投与実験により、その障害から快復。自分を思い出してくれた嬉しさから、食蜂がかなりハッチャケることとなった。……上条争奪戦に、新たに食蜂(きょうてき)が加わることで、御坂とインデックスの機嫌はとんでもなく悪くなったが。

 

 まあ、これも彼女らみんなが勝ち取った平和な光景なのかもしれない。

 

「ふぅーーーー……」

 

 ほんの少しアンニュイな気分を味わいながら、あの日一握の灰となったキース・ホワイトの事を思い出すのだった。

 




とあるシリーズ恒例の振り出し、病院回です!佐天も色々無茶したせいでダウンとなりました。

妹達の治療。原作通り進めても良かったんですが、それだとどうしてもテロメアとか完全回復しないし、問題点も多いのでメディカライズARMSの再利用となりました。おかげで今や佐天は怪我人・病人の治療まで可能です……正しくチートやw

上条の記憶回復。ニューロンの破損のようですが、ARMSにかかれば回復してしまうんですよね。銃弾を脳に喰らっても脳細胞まで元通りに出来るのは、キース・レッドがアル相手にやってましたし。おかげで食蜂大歓喜、昼間から夜這いをかけるように……どうしてこうなったwww

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