とある科学の滅びの獣(バンダースナッチ)   作:路地裏の作者

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後日談、第二話!



087 会食―パーティー―

 ――……ククク……全く、どうしてこうもお前たち(オリジナル)は、度し難い程に愚かなのだ?

 

 ――人類は、今こそ変革すべき時代を迎えているというのに……

 

 最期にそんな言葉を投げかけながら、塵となって崩れていったキース・ホワイトのことを思い出す。正しく呪いにしか聞こえない恨み言で憂鬱になった気分を、夏らしく晴れ渡った空を見上げて少しだけ紛らわせる。

 

「ああ……今日もいい天気ですね……」

「いえ、佐天さん? 今見るべきは絶対に天気ではなく、目の前に広がる現状ですわ」

 

 そんな非情な白井の宣告に、仕方なく視線を正面へと戻す。先程まで自分、初春、御坂、白井の四人だけだったファミレスのテーブル席は、近場のテーブル席からわざわざ話のために移動してきた人員で、隙間なく囲まれる状態と相成った。

 

「なんで、るいこは私に隠れて美味しい物を食べようとしてるんだよ!?」

「……。ごめん。止められなかった。」

「インデックスから、佐天様の料理の腕前はお聞きしました。この後ぜひ腕を振るってください。と、ミコは暗に食わせろと要求します」

 

 どこから嗅ぎ付けたのか、店に入る時には既に後ろにいたインデックスと姫神。そしてインデックスと食事談義で仲良くなった、御坂ミコ。

 

「よお! 何か元気無えな。根性が足りねえぞ、根性が!」

 

 席に着いたあたりでトイレから戻って来て、こっちを確認するや寄って来た削板軍覇。

 

「ウルセェぞ、テメエら! 騒ぎてえならカラオケボックスにでも行きやがれ!!」

「まあ、確かに超やかましいですね」

「結局こういうところで品性って現れるワケよ!」

「北北西から信号が来てる……」

 

 案内された席が隣同士だったことに、騒音のクレームを付けられるまで気付かれなかったアイテム御一行……。

 

 何故かあの日の事件の関係者が、結構な数揃い踏みとなってしまった。ほのぼのパートであるはずのファミレスが、日常の一ページが、あっという間に学園都市をも揺るがす爆心地(グラウンド・ゼロ)へと早変わりだ。

 

 ……何か、悪いことしたかなぁ。

 

 結局あの後、疲労困憊と徹夜明けから回復したのは翌日になってからの事で、午前中に各種検査を終え、昼前には退院となったのだ。ちなみに一緒に入院していた上条は、黒焦げでビクビクと痙攣している姿があの後発見され、退院はさらに伸びた。そして、昼食時だったので退院祝いも兼ねてファミレスに入ってみたら、見事に現在の状況である。

 

 はぁ……と重い、本当に重い溜息を漏らしつつ、騒がしい日常に加わることが出来ている御坂ミコの横顔を見つめる。彼女を含めた妹達(シスターズ)は、既に内外の医療関係企業への移送が決定されている。本来違法のクローン体、それも超能力者(レベル5)のクローンだ。たとえレベルが本来より低くとも研究的価値は計り知れない上、人数が多すぎるため結局企業の力を借りる結果となってしまった。

 

 それでも今回の非人道的実験の全貌が明らかになった上での移送だから、移送先の研究機関で行われる実験も体調管理と能力測定の範疇を越えないものと、研究そのものを極めて制限する条件が付け加えられることとなった。まあ、実際制限する意図があるのだろう。倫理的に問題がありすぎるクローンを受け入れた企業が非人道的処置を執り行ったなど、スキャンダルどころではないのだから。

 

 もちろん中にはこの学園都市に残る者もいる。上条に御坂妹と呼ばれる娘を筆頭に、何人かは計画に関わっていなかった医療施設などで受け入れ予定だ。御坂妹と何人かは、カエル顔の先生の病院で体調管理と社会勉強の真っ最中。エリーについては、食蜂保有の研究施設で警策女史と共に、施設の防衛を兼ねて同居中である。

 

 そして、御坂ミコに関しては……。

 

「とりあえず、今日の晩御飯は期待しています。具体的には、フランス料理のフルコースを。と、ミコは新たな食への探求に心躍らせます」

「……せめて、一般的な夕食で勘弁して」

 

 何故か、インデックスと共に、佐天の自宅の学生寮で預かることが決定していた。オマケに布束氏曰く、「一般常識はある程度叩き込んだから」とのことで、夏休み明けに柵川中学の一学年に転校できるよう手続きを進めているとのことだった。どうやってるのか知らないが、「御坂美琴の親戚で、学年一つ下の妹分」というカバーストーリーまで加えて、戸籍を絶賛偽造中らしい。

……あの人は、一体どれだけ余罪を増やすつもりなのだろうか?

 

 頭の痛くなる事態に、佐天が絶賛現実逃避中であったところ、不意に隣のボックス席にいた絹旗が椅子越しに振り向いて話しかけてきた。

 

「まあ、ここで会えたのは超グッドタイミングです。少し貴女の今後(・・)について語っておきましょうか」

 

 紡がれた言葉は、今回の事件の中心であった御坂美琴でもミコでもなく、佐天(・・)へと向かっていた。

 

「……今後?」

「ええ……今朝方、統括理事会の通達で、貴女を『一般には流布されない、あくまで非公式にではあるが、『八人目』の超能力者(レベル5)として認める』と」

 

 ――一般には認められない『八人目』。それを知っていて、なおかつ本人に告げることが出来るという事は、その肩書が認められているのは、彼女らが息づく世界だけなのだろう。佐天も今回の件で薄々、この都市にそうした側面が存在し、そこで暗躍する人々がいることを正しく認識しつつあった。

 

 決して日の当たる表には出られない、学園都市の――『暗部』ともいうべき存在を。

 

「まあ、表立っての物でもないので、補助金だとか学園都市側の便宜を図れるだとかはありません。それよりも警告したいのは、別の側面です」

 

 曰く、今後はそうした世界に息づく勢力から、狙われる危険性が高まるとのこと。そうした勢力に対し、身辺に十二分に気を配っておくべきこと。本当に、彼女の老婆心からの警告であると断りを告げられて、最後に。

 

「では、最後に。私たちと連絡先を交換しておきましょう。何かあった時に超相談できるように」

「「「ハァ?!」」」

 

 そんな締めくくりに、佐天だけでなく、彼女の同席者であった麦野やフレンダまでもが絶句した。

 

「オイコラ絹旗! テメェ何考えてんだ!?」

「そーそー! 結局なんでコイツとアドレス交換なんてしなくちゃなんないワケ!!」

 

 がーがーと叫ばれる内容に、絹旗は首を竦めながらやれやれと横に振った。

 

「落ち着いて下さい、二人とも。これは単なるリクルート活動の一環です」

 

 そうして絹旗が説明したのは、以下のような内容。つまり、あれだけの勢力に狙われる佐天が、今後学園都市の闇に呑まれない可能性は低い。そうした場合、状況次第では敵対勢力に取り込まれる恐れまであるのだ。その仮定の通り敵対したならば、第二位すら撃退出来る戦力を持つ彼女と互角に渡り合える人員は、リーダーの麦野位だろう。今後の情勢次第でもあるが、チームの最大戦力をわざわざぶつけなければならないような仮想敵は作りたくない。

 

「……であれば、他の勢力が獲得に動いていない今のうちに、超良好な関係を築いておくべきと判断しました。今後ウチに配属となれば、それだけで戦力倍増ですから」

「あー、成程ー……」

 

 フレンダは納得したが、麦野はそう簡単に納得できない。何せ第二位を撃退したのだ。リーダーのはずの自分より戦力評価が上の人員など、チームの不和を招きかねない。それ以前にプライドが許さない。

 

「で、どうですか、佐天涙子? 我々とのアドレス交換に応じますか?」

 

 プライベート用の端末を差し出す絹旗の横で、じゃあ私もー、と言ってフレンダも端末を取り出す。麦野は相変わらず不機嫌顔だが、止める様子はなく、滝壺はテーブルに突っ伏すように寝ている。

 

 そして、件の佐天はというと、

 

「……まあ、アドレス位ならいいですけど」

 

 結構あっさりと自分の端末を差し出すのだった。

 

「……案外応じないのでは、と考えていましたが。超あっさり出しますね」

「え、そーなの?」

「いやー、実際狙われそう、って言うのはその通りだと思いますしね。それに対しての保険とか、相談相手とか貴重ですし。…………あー、でも」

 

 手早く端末の操作をして、アドレスを交換しつつ、最後にほんの少しやり返すように絹旗へと告げる。

 

「私は、あなた達と同じ世界へ行き着くつもりはありませんよ? 『人間』として、これからも日の当たる『日常』を生きるって、あの時誓いましたから」

 

 あの日、キース・ホワイトに向けて告げた言葉を、もう一度思い出すのだった。

 




超電磁砲の日常シーン、ファミレス回です!既に収拾つかない人員が集まってますが……。

妹達の今後。SSとかロシア編考えると、移動場所は弄らない方がよいと考え概ね原作通りに。ただ、エリーは食蜂の所で、御坂ミコはインデックスと一緒に佐天の所と違いも出てますが。ミコとインデックスは、今後佐天に胃袋を掴まれる事態にww

アイテムからの勧誘。普通に佐天の戦力評価からのものでしたが、これが後にフレ/ンダ防止の布石に……なればいいね、フレンダ!後、滝壺も浜面もロシア行く必要が無くなるんだよな。治療すればいい話だし。

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