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「『
それは学園都市に広まる都市伝説。何でも、使えばその人の能力のレベルが大幅にアップするらしい。まあ能力の優劣で進路が決まったりする学園都市らしいというか。
「――
私にその都市伝説の質問をしていた白井さんは、あごに手を当て、思考に没頭している。場所は、初春の寮。風邪で寝込んだ初春のお見舞いに来た時に、この質問をされたのだ。
「実際に手に入れた学生を特定して……善良なる一般市民としての協力を……強よ…いえお願いして……」
…………聞こえない聞こえない。『強要』なんて単語は聞こえない。でも独り言の文面というか、『善良なる一般市民』を強調するところとか、全然穏便に聞こえないのは何故だろう……。
「――あ、ありました。白井さん、これじゃないですか? 『
そう言って初春が、布団の中からノートパソコンの画面を見せてくる。さっきの白井さんの台詞はスルーなのかなぁ、この
「助かりましたわ、初春! 早速確保してきます! 貴女は風邪が治るまで大人しくしているのですわよ!?」
「あ、ちょっと待ちなさいよ、黒子! ゴメンね、佐天さん、初春さん! また今度!」
そう言って、二人ともドタバタと部屋を出ていった。…慌ただしいなあ、二人とも。
「…………はー。それじゃ私は片付けでもするね。初春はゴハン食べ終わったら薬飲んじゃいなよ。学園都市の風邪薬なんだから、効くよー?」
台所に向かう前に、パソコンを持って布団から出ていた初春の腕を布団の中に戻してやる。なんか、昔弟にもこんなことしたことあったなあ。
「――そう言えば、聞きましたよ、佐天さん。佐天さん、この間の犯人逮捕の時に、啖呵を切ったって。ダメですよー、
「あー、アハハ、ゴメンゴメン」
あの時は、初春が死ぬかもしれなかったと思ったら、後先考えずに犯人を追っちゃったんだよね。で、犯人の余りの言い分に怒って……。
「――――『ちから』、か……」
……正直な話、あの日
だから、あれは、ただの強がり。
「……ッ」
私は左手で、右腕を抱え込むように抱きしめる。身体の震えが、少しでも収まるようにと。
……もし、もしも、私が『ちから』に呑まれたら。そして、今も近くにいる誰かを傷つけてしまったら。
それが、たまらなく、こわい。
◇ ◇ ◇
翌日私は風邪の治った初春を、街へと連れ出していた。
「全快、おめでとー! 初春!」
「あ、ありがとうございます、佐天さん……ここ公道ですよ……?」
なにさー、初春、テンション低いなー!あ、それともまだ風邪気味なのかな?
「いいからいいから! 全快祝いに、どっか喫茶店かファミレスでお茶してこーよ! もちろんワリカンで!」
「奢ってはくれないんですね……」
ハハハ、初春、
「んー、どっかいいお・み・せ・は――――――ん? あれって白井さんと御坂さんじゃない?」
「へ? あ、あのファミレスの中ですか? 確かにそうですね」
相席してるのは、何か顔色悪い、研究者さん?まー、いっか!
◇ ◇ ◇
「何で重要そうな話をしているところに平気で割り込むんですか……」
「まーまー、気にしない! あ、私、この新作の『ベリー山盛りパフェ』で!」
話聞いたら例の『
「で、白井さん。『
「木山先生は別件で知り合ったので、ご相談したまでですの。未だ確証は得られておりませんわ」
「私もいち研究者としては興味があるが、さすがに現物がないと、なんとも言えなくてね」
まあ、そんな簡単に分かったら都市伝説にならないしね。
「昨日、ソレを使ったって奴らには出会ったわよ? どいつもこいつもレベル2位の歯ごたえないのばかりだったけど」
「お姉様! 何シレッと捜査情報を一般生徒に漏らしてますの!」
「あはは…白井さん、今更じゃないですか? 御坂さんだって一般生徒ですし……」
そーいえば、そうだよね。後で問題にならないのかな?
「と、とにかく! 現時点での目標は、『
「はあ……まあいいですけど」
……んー、でももしかしたら、私が使えばARMSとは違う『私本来の能力』が分かったりするのかな?
◇ ◇ ◇
その後、『
「今日は楽しかったよ。教師をしていた頃を、思い出して懐かしかった」
「木山先生は、教鞭をとっていたことがおありですの?」
「……昔、ね」
この先生、物憂げな表情とか、眠そうなクマの多い目元とか直せば、かなりの美人だと思うんだけどなー。『怪奇・脱げ女』という残念な壁がある。勿体ない。
「さーて、この後どうします? カラオケとかゲーセンに繰り出します?」
「それなんですが、佐天さん。私と初春は、すぐに支部に戻り、今回の事件の洗い直しをしなければなりませんの。ですからここで抜けますわね」
「あー……白井さん。それだと自然解散ですね。いつの間にか御坂さんいませんし」
「「え?」」
初春の言葉に周りを見回すも、本当にいなくなっていた。一体どこ行ったんだろう?
「お姉様ったら……仕方ありませんわね。ここで解散いたしましょう。それでは佐天さん、ご機嫌よう」
「またメール入れますね~」
「うん、分かった! それじゃ二人ともお仕事頑張ってねー!」
二人と別れた私は、そのまままっすぐ寮には帰らず、スーパーの方へ進路を変えた。確か今日はキャベツが安かったはず……。
「~♪~~~♪~~~~~………………ん?」
しばらく歩いて、気づく。何時の間にか、周りに人の姿が一切見えないことに。
「…………?」
耳を澄ませても、一切人の話し声とかが聞こえない。まるでここだけ世界から切り取られたような……。
考えている最中、目の前の路地からとんでもない爆風が吹き抜けた。
「ええっ!? 一体なに?!」
爆風が治まって数秒待ったけど第二波が来なかったので、おっかなびっくり路地をのぞきこんでみた。そこには、なにか鋭いものに切り裂かれたような地面と、赤く染まった白い布の塊があった。…………いや、これ……布の塊じゃなくて…………
――――インデックスだ!!
「――――ど、どうしたの、インデックス?!」
よく見たら周りを染め上げる赤は、インデックスの血。血だまりの中に沈むインデックスは、苦しげな息を上げながら、それでもこちらに視線を向けてきた。
「……? るい、こ? どうして、こんなところにいるの?」
「それはいいよ! そんなことより、一体どうして――――」
「――――彼女から、離れなさい」
凛と響き渡った声に、思わず身を固める。今まで気付かなかった路地の先。そこに異質な人が立っていた。腰まである長い黒髪。白いTシャツを身に纏い、それを片方で縛っている。履いているジーンズは、片足を根元から切って白い太腿が見えている。だけどそんなことじゃない。この人のもっとも異質なところは――
身の丈ほどの長大なカタナを持っているところだった。
「ステイルの『人払い』を突破してくるとは……どうやら一般人ではないようですね」
そう言って僅かに持ち上げられた刀。それだけで、世界が張り詰めそうなほどの緊張感に覆われる。なん、なの……このヒト…………!
「るい、こ……逃…げて…………」
……自分が危ないのに、私を気遣ってくれるインデックスに、私は、一度だけその手を握り締めてあげて、前へ向き直った。
「……あなたは、誰」
「――私、ですか。そういえば、名乗っていませんでしたね」
そうして紡がれた言葉は、私を日常から非日常へと誘う言葉。
「『魔術師』、神裂火織といいます」
夕暮れの中佇む、長刀を携えた女性。それが私と魔術師のファーストコンタクトだった。
◇ ◇ ◇
誰もいない路地。邂逅を成し遂げた場所から数メートルも離れない場所で、少年は嗤う。
「――――ふふっ、受け取ってくれ、≪アリス≫……そして≪バンダースナッチ≫よ……これは僕からのささやかなプレゼントだ……」
少年は手の中を開く。そこには二枚に破り取られた、奇妙な文様の描かれた紙があった。
「すべては≪プログラム≫のため……さあ、すべてを飲み干し、さらなる進化を遂げてくれ、≪バンダースナッチ≫」
少年は手の中の紙を破り、千切り、まるで紙吹雪のようにまく。紙が全て地面に舞い落ちる頃、少年の姿はどこにも無かった……。
と、いうわけで、今回は『幻想御手(レベルアッパー)』事件の始まりと、魔術師との邂逅!そして、皆さんお待ちかね堕天使エロメイドの神裂さん、登場!時系列としては、上条とステイルが出会う直前ですね。
最初の方で触れた、佐天の『ちから』への恐怖。まあ、佐天は高槻たちより幼い女子中学生ですから……当たり前といえば当たり前の恐怖です。禁書世界の人達は、何故か当然のように高位の能力者が、暴虐の限りを尽くしますがw
次回はいよいよ魔術サイド本格化!第一形態では決して勝てない相手に、佐天はどうなるのか!?