深淵を引き裂く運命の剣   作:naka

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第五章 薄氷の上でステップを
朝の光景


 草原は朝露に潤み、名も知らぬ草花の緑がほのかにつやめいている。湿った草と土の香りに、風が遠くから花の香りを運んで、爽やかな朝の光景に深みを与えていた。空はまだまだ暗く、空に広がる深い青が夜の名残りを示していた。

 

 ティアは夜の見張りを引き受けて寝ずの番をしていた。朝焼けの空を見上げて、ゆっくりと腕を伸ばして背筋を伸ばした。

 ずっと同じ体勢でいたせいですっかり固まってしまった身体をほぐしていく。

 

 彼女はそっと後ろを振りむいて、いまだ眠りの中に沈んでいる皆をじっと羨望を含んだ瞳でながめた。

 そして、軽くため息をついてゆらりと立ち上がり、服についた枯れ草を振り払う。

 

 目を閉じて深く息を吐き、憂いを帯びた眼を虚空にやり唇を開いた。

 

「 ――――、――― 」

 

 声音はかすれて、言葉になりきれていない音がこぼれていく。

 

 その音に呼応してティアを中心に光の線が駆け巡り、青白い多重の円陣が描かれた。青白い線からはチリチリと音もなく光の粉が舞い、眠りにつく皆の寝顔をほのかに照らしていた。

 

 しかし、それも呼吸を十数える頃には光も絶えて皆の寝息が響くばかりだった。

 

 ティアは何かを確認するように周囲をみまわすと、ほっと息をつき皆を置いて振り向きもせずにすぐそばの林の中へと入っていた。

 

 

 

  ――――― 夢を見ている。

 

 

 白い閉ざされた舞台に立っている。

 どうやら観客はいないようだ。

 そこにある巨大な扉は硬く閉ざされて、開く気配は見えない。

 

 黙って扉をにらみつけていると、誰かが後ろからやってきて……。

 

 場面が切り替わり気がつけば、剣を構えて誰かをにらみつけている。

 顔はよく見えないがよく知っているような気がする。

 相手はこちらに対して、何か訴えかけてきているようだ。

 

 聞こえてくる言葉は細切れで、意味はまったく解らなかった。

 何を伝えたいのかも、何を尋ねたいのかさえも。

 それでも彼はとても真剣で、何か自分にとっても大切なことを言っているのではないかと感じた。

 

 そして、前触れもなく決闘が始まる。

 鏡あわせの剣舞は途切れることなく、いつまでも続くかのように思えた。

 

 だが、その剣戟は言葉は、少しずつ熱せられた激情を削り取っていく。

 

 致命的な一撃を受け流しきれず、激しい金属音と共に剣が跳ね飛んでいく。

 剣が転げ落ちて地面に滑っていく様子を不思議と穏やかな気持ちでながめていた。

 

 傍観者(ルーク)を置いてきぼりにして、場面は次々と切り替わっていく。

 

 そして、最後に感じたのは、わずかな後悔と満足感、胸からあふれ出す血の暖かさと剣の冷たさだった。

 

 

「のわぁっ!!」

 

 ルークは小さく悲鳴を上げ、毛布を突き飛ばして跳ね起きた。

 顔を真っ青にして、思わずといった感じで自分の胸を撫で回し、首を必死に振って周辺を確認している。

 動悸はいつまでたっても治まらず、混乱に混乱を重ねた。

 呼吸を乱して息が詰まり、咳をしながらも必死な様子で何かを探すように視線をさまよわせている。

 まだ空は薄暗くて冷たい空気が肌を刺した。

 

 しばし、荒々しい呼吸音がその場に響く。

 まぶたをぱしぱしと瞬かせたさせたあと、ルークは再び胸を確認し深くため息をついた。

 

「夢か……」

 

 じわじわと現実感が戻ってくるにつれ、あれほどまでに乱れていた動悸も徐々に治まっていった。

 ルークは頭をがしがしと掻いて、再び辺りを見回した。

 あんなに騒いだにもかかわらず周りは静かで、穏やかな寝息が微かに聞こえていた。今、目を覚ましているのはルーク独り、誰も目覚める気配がない。

 ここしばらくは、誰かに起こされる日々が続いていたため、これほどまでに静かな朝は久しぶりだった。

 いつもなら煩わしいと思う小言でさえ、不思議と恋しいと感じた。

 

「あれ?」

 

 めったに見ることのできないイオンやジェイドの寝顔を、しばらくはぼんやりと観察していたルークだったが、今更ながらティアがいないことに気がつき、キョロキョロと周辺を見渡した。

 何故、ここにいないのかさっぱり理由が見当つかず、どうしたものかと首を傾げて考え込んだ。

 

 彼のそばでは、もそもそと寝返りをうっていた仔ライガが、のそっりと起き出してきた。小さな白い牙を剥き出しにして大きくあくびをしたあと、寝惚けた目でぼーっと辺りをながめていた。そして、まとわり付く眠気を振り払おうとするように、がっしりとした前足でくいくいと懸命に顔を洗っている。

 

 ルークは大人しくここで待っているべきかとも思ったが、ここでじっとしているのもつまらない。だからといって、今から探しに行くのだとしても、彼女がどこにいったのかわからなければ動きようがないのだが……。

 

「ん? むこうにいるのか?」

 

 目を大きく見開いて、先ほどティアが向かっていった林の方を見つめた。

 木々の奥深くをじっと鋭い目で観察する。奥には彼女が間違いなくいるとはっきりとわかり、そうなると好奇心が疼いた。

 一体、独りで何をしてるのだろう?

 寝ている皆とティアがいる方とに眼を往復させ、しばらく躊躇ったあとでルークは林に向かって走り出した。

 何故、彼女がそこにいるがわかったのか、疑問に思うこともなく。

 

 身体を舐めて毛並みを整えていた仔ライガは、突然走っていったルークに驚き、そのままの体勢でぴたっと停止してルークの後姿を見ていたが、すぐにあわててルークの後を追いかけて行った。

 

 そんな彼らに気づくことなく、残された人々は眠りの中に沈み込み目を覚ます気配さえない。

 その眠りを見守るがごとく、彼らを囲むように地面に描かれた青白い円が燐光を放っていた。

 

 

 

 ティアは目の前に立つ大きな木を見上げていた。

 すっと手をかざすと白い手袋は指先から薄紅色に染まり、きらきらと光が集まる。瑞々しい青葉が赤く染まって、水気を失い枯葉となってぱらぱらと地面に落ちていく。

 半分ほど葉が落ちたところで彼女は手をよけた。

 すっかり寂しくなってしまった木の姿に、彼女は申し訳なさげに目をそらし、そっと幹に抱きついて「ありがとう」と呟きゴツゴツとした木肌にキスを送った。

 

「ティア」

 

 頭上の枝がガサっと揺れて、木の葉と共にアーチャーが飛び降りて来た。ティアのすぐそばに歩み寄り、不審げな顔で枝を差し出す。

 

「命じられた通りに、セントビナーからソイルの木の枝を持ってきたが……。

 これを一体何に使うのだ?」

 

 ティアは両手で枝を受け取って、興味深げなアーチャーを見上げていたずらっぽく笑みを浮かべた。

 

「見てのお楽しみ」

 

 そう言うとティアはソイルの枝を地面に突き刺し、小さな声で呪文を唱えた。

 ぽこっと軽い音をたてて土が盛り上がり、枝の周囲の地面がどんどんと抉れていく。そして、突き刺した枝の奥底から溢れるように水が湧き出した。

 みるみるうちに水は満ちて小さな水溜りができていた。

 

 十分に水がたまったことを確認すると、ティアは両手の手袋を引き抜いて水の中に放り込んだ。

 ティアの手を見てアーチャーは鋼色の瞳を曇らせ、彼女の顔をもの言いたげに見つめた。爪は血で真っ赤に染まり、生々しい傷跡が手の甲を飾って、今でさえ傷跡から血が伝い零れ落ちている。

 あふれ出る血もそのままに、ティアはその両手をためらいもなく水の中につける。水は血に染まり、あっという間に血の海のように真紅の赤に染まってしまった。

 ティアはその有様に眉を動かすでもなく、「また傷が開いちゃったなぁ」などとブツブツ呟いている。

 ソイルの枝はいつの間にかしっかりと地面に根付き、枝を伸ばし青々とした緑を散らしている。

 ソイルの枝は恐ろしいほどの速さで実をつけて、次々と白い実を実らせた。

 それに並行するように水の赤は少しずつ薄れていく。

 

「ティア、その手は?」

 

「んー、ちょっとした魔術の副作用みたいなものかな。

 大丈夫よ。それを見越して術式を組み込んであるから」

 

 そう言って、ティアは靴を脱ぎ捨てて水の中へと足を踏み入れる。水溜りは意外と深いようで、膝の高さまで水に浸かってしまった。

 すうっと水に腕を入れて、ティアはざっと水の中から手袋を取り出した。

 手袋を水の中へと何度も潜らせ振り洗いをして、ぎゅっと絞ると赤い水が溢れだす。何度も何度も手袋をすすぎ、ぽいっとすっかり根付いて枝を伸ばしたソイルの木の枝にかけた。

 渋い顔をしているアーチャーを横目に、ティアは小さな袋を取り出してひょいひょいと白い実を摘み取り袋の中にいれていく。

 この実と血を触媒に手袋の魔術礼装で流れを収縮させることで、なんとか魔術が形になるのだ。だが、そこまでしても効率はいまいちで、無駄が多いのが彼女の悩みの種だった。

 

「……がっかりしたかしら?」

 

「む?何がだ」

 

「こんな歪なものが、あなたみたいな英霊のマスターだなんて。

 せっかく、呼びかけに答えてくれたのに、私はあなたの期待を裏切ってばかりいる……」

 

 ぼそぼそと心もとなげな声でそんなことを言う主(マスター)に赤い従者(サーヴァント)は励ますように笑った。

 

「ティア、なにもそんな風に自分を貶めるような言い方をするものではない。

 なに、まだ始まったばかりだ。たとえ未熟なマスターであろうと、サポートし勝利に導くことがサーヴァントの役目だろうよ」

 

 あらかた枝に宿った実を摘み終えたティアは、ぎゅっと袋を縛って懐の中に入れて、迷子の子どものような心細げな目で己の従者を見た。

 

「なら、私を勝利へと導いてくれる?」

 

「もちろんだ」

 

 アーチャーは頼もしげに言って、そっとティアの手を取った。

 

「マスターに勝利を」

 

 そう呟いて、彼は痛ましげな傷跡とマスターである証の呪令が宿る手の甲にためらいもなく顔を寄せて接吻をした。

 

 青い瞳を見開いて硬直しているティアを見上げて、照れくさげに笑うアーチャーに対して何か言おうかと口を開いたとき、がさっと茂みがゆれて転げるようにルークが飛び出してきた。

 

「な、な、なななにやってんだよ!」

 

 顔を真っ赤にして小走りに駆け寄ってくるルークの脇から、仔ライガが飛ぶように走ってくる。大きくうなり声を上げ、白い鋭い牙を剥き出しにして全身の毛は逆立ち怒りもあらわに、いまだティアの手を取っているアーチャー目指して飛び掛ってきた。

 アーチャーは冷静な表情ですっと身体を避けると、仔ライガがはそこを通過して、ぽちゃんと水の中に落ちてしまったのだった。

 小さく水柱が立ち、シンッとその場が静まり返る。

 

 しかし、静寂も一瞬のことでパニックになった仔ライガは必死にそこから逃げ出そうと足をバタつかせている。水しぶきが大きく小さく跳ねあがり小さな滝を描いていた。

 ばちゃばちゃと水を飛ばして暴れているその仔の様子に驚いて、ティアはアーチャーの手を振り払って、あわてて水を掻き分けて走りよっていった。

 

「ギュアルフィキギャルギャァルルルル!!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてー!!!」

 

「ギリゥフィバヴァルグルルラゥ!!」

 

「痛い!爪立てないで!!」

 

「お、おい……」

 

 オロオロしているルークを横目に、ティアはパニックになって腕の中から飛び出そうとする仔ライガを落ち着かせようと必死だ。

 

「あー、はいはい。もう大丈夫ですよー」

 

「ウーウー、グリュルルリュ……」

 

 仔ライガは今にも泣きだしそうな目で、しっかりとティアの軍服にしがみつき、ウーウーうなっている。

 びしょびしょになった縞模様の毛並みを優しくなでて、そのうるんだ目をのぞきこんだ。改めてよっと持ち上げてしっかりと両腕に抱きかかえる。

 

「もう、困った子ねぇ」

 

 そう言ってティアは仔ライガを見て優しげな笑みを浮かべた。キョトンとした顔で彼女を見たあと、さっきまでの恐怖を忘れ去ったかのようにぽふっと身体をあずけてグルルルルーなどと言って甘えている。

 ティアはしっかりと抱きかかえ直すと、水をかき分けて地面に上がっていく。

 

 水の中から現れたティアの白い生足に、ルークは思わず目を奪われたあと、あわてて目をそらした。

 アーチャーは彼の様子におやっといった風で眉を引き上げたが、あえて何も言わず黙ってそこに控えている。

 

 そんな彼らにかまわず、ティアはマイペースに周りをキョロキョロと見たあとルークを困った目を向けてじっと見つめた。

「他の人は?」と聞かれたルークが置いてきたなどあっさり伝えると、さらに困惑した表情を浮かべて首をかしげた。

 

「おっかしいなぁ?なんか失敗したのかな。

 アーチャー、悪いんだけどちょっと先に行って結界の様子を見てきてくれるかしら」

 

「かまわんが……」

 

 そう言いつつ、枝にかけてあった手袋を手に取り彼女のそばに近づいたアーチャーに対して、仔ライガはうなり声を上げて威嚇する。

 

「こ、こら!」

 

「やれやれ、これは参ったな。

 小さいながらも、すでに一人前の立派な騎士(ナイト)のようだ」

 

 アーチャーはまるで貴いものを見たかのような目でその仔を見つめて言うと、いまだどうするべきかとオロオロしているルークを揶揄するように「君も見習うといいのではないか?」などと鼻で笑い肩をすくめた。

 「どういう意味だよ」と噛み付くルークを軽くいなして、アーチャーは顔色も変えずに笑っている。

 そして、手袋をルークに投げやりティアに手渡すように言い放って、その場を走り去っていった。

 

 彼にいいようにおちょくられ、さらにはあっさりと逃げられてしまったルークは「むっかつく!!」と地団太を踏み、苛立ちをあらわに彼の後姿をにらみつける。

 落ち着きを取り戻した様子の仔ライガをそっと地面に下ろして、ティアはそんな彼を困った様子で見ていた。そして、躊躇いがちに「手袋を返してほしいんだけど」と話しかける。

 その言葉にルークはかなりめんどくさそうな顔をしていたが、「ほらっ!」とずいっとティアに真っ白な手袋を差し出した。

 

 おずおずと差し出してきた手に残る傷跡を見て、ルークは顔をしかめる。

 その痛々しい様子に心が痛んだ。

 

「おい、それどうしたんだ?」

 

 彼女は狼狽した様子で彼の手から手袋を奪い去り、急いで手袋をつけて顔をそむけた。

 

「別に。なんでもないわ」

 

「なんでもないっつったって……。

 そういうレベルじゃねーぞ?」

 

「なんでもないったらなんでもないの!

 ルークは気にしないでいいから!」

 

 そういってティアは不器用な顔で笑った。

 言葉を失って黙り込むルークをよそに、彼女はタオルを取り出して仔ライガのそばにしゃがみこんで濡れた身体を拭き始める。

 

「あー、よしよし。大人しくしててねー」

 

 逃げようとするがそうはさせじとがっしりと抱え込み、ゴシゴシとタオルでふき取っていく。

 ルークはどうにも言葉をかけかねて目をさまよわせた。

 そのまま、ゴシゴシとタオルを擦る音と、情けなくグルルゥーとうなっている音がその場に響いている。

 

「……そういえば」

 

 ティアは何かに気がついたように、その仔の身体を拭く手を止めて顔を上げた。

 

「この仔の名前ってどうなってるの? あ、こら!」

 

 注意が逸れた瞬間を逃さず、仔ライガはティアの腕から抜け出してルークの足元に駆け寄っていった。

 

「え?何の話だ?」

 

「だからその子の名前!

 きちんと名前をつけてあげなきゃだめよ」

 

 ティアの指摘にルークはそういえばと、足元で必死に毛づくろいをしている仔ライガを見つめた。

 急に注目されたことに驚いて、きょとんとした目で見返している。

 

「名前かぁ、どぉすっかなぁー」

 

「そうねぇ。ミケはどう?」

 

「だっさ! もっとかっこいい名前ないのか?」

 

「んー、ヴァジュランダとか?」

 

「なにそれ、ややこしいな」

 

「簡単なほうがいいの?

 じゃあ、マグロとかサンマとか…んーアジ、イワシ、ヒラメ、エビ……」

 

 ルークは微妙な顔を浮かべて、何を思ったのか嬉々として魚の名前を挙げているティアの顔を見ている。

 

「魚屋でも開くつもりかね?」

 

 いつの間にか戻ってきたアーチャが、興味深げにティアを見下ろしている。

 ティアはアーチャーを見上げて真剣な表情で彼の顔を見た。

 

「あぁ、おかえりアーチャー。

 この子の名前、何がいいかしら?」

 

「ふむ、そうだ…っ」

 

 彼はちょっと困った顔で仔ライガを見下ろした。仔ライガはアーチャーを発見するや否や、ティアの前に立ち今にも飛びかからんばかりにうなり立ている。

 あわててティアが抱き上げると、しばらくの間シャーシャーと威嚇していたが、すぐに甘えるように彼女にすりよってゴロゴロいいだした。

 

「嫌われてんなー」

 

 あまりの落差に呆れた様子でルークがいうと、アーチャーはやれやれと肩をすくめた。

 

「やれやれ、こまったな」

 

 どこか子どもっぽい表情で自分の白い髪を掻いている。

 

「それで、この仔の名前は結局どうするの?」

 

 二人を見回してティアが言うと、そういえばとルークは首をひねった。

 

「―――の猛犬…」

 

「は?」

 

 ぼそっと、ルークはアーチャーが何か呟くのを耳に拾って不審げな顔でアーチャーを見たとき、彼はルークと仔ライガを見比べながら何事か考え込んでいる。

 

「ルーの…、――・―――n、いや……」

 

 考えがまとまったのか、スッと顔を上げてルークを見てにやっと笑った。

 

「ホリンというのはどうだ?」

 

「……ホリン? えっと……。

 クー・ホリンの? Celtic?」

 

「いい名だろ?」

 

 ティアはゆるゆると顔をほころばせて、仔ライガをばっと上に抱き上げた。

 そして、再びぎゅっと抱きしめる。

 迷惑そうに腕の中でもそもそしているが、それさえかまわずに今にも踊りだしそうな顔で笑う。

 

「そっか、そうだね。ルーの子ども!

 今日から君の名前はホリン! おめでとう!」

 

 ティアはまるで自分のことのように幸せそうに笑った。

 あまりの喜びようにルークは声をかけられない。

 

 そうと決まれば、みんなに教えてあげなくちゃ!とティアは仔ライガをともなって走り出してしまった。

 

「……まだ、いいだなんて一言も言ってないのに」

 

 すっかり置いてきぼりにされてたルークは、唖然とした表情でそう呟いたのだった。

 そんな彼をアーチャーは笑って、背中を叩いた。

 

「まぁいいではないか。あれほどにまで喜んでるのだ。

 わざわざ水を差すようなことをする必要も無かろう」

 

「ルーーーク! 何してるの、早く早く!」

 

「うっせ、指図すんなよ!」

 

 彼はティアの声に文句を言いつつも、彼女を追いかけて走り出す。

 アーチャーはそんな彼らの後姿を見やり、やれやれと呆れたように肩をすくめたのだった。

 

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