深淵を引き裂く運命の剣   作:naka

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第二章 災厄のリンゴ
無知とリンゴ


 

 窓の向こうは白い世界が広がっていた。

 ひんやりとしたガラスの縁には、虹色の幾何学模様が這い昇るように描かれていた。窓枠に切り抜かれた白い風景、雪に白く溶けた森はまるで立派な額縁で飾られた一枚の絵画のようだった。

 あらゆるものすべてが白い雪に埋まっている。わずかにうかがえる木々さえも、雪は白く染めてしまおうとでもいうのか、粉のような雪がさんさんと降り注いでいる。

 初めて見るような幻想的な風景に、彼はぼんやりとながめているしかなかった。

 呼びかける声が聞こえて振り向くと………。

 

 

 

「ルーク、ルークってば! おーきーて!!」

 

「ううーん、うるさいなぁ……。

 ……なんだってんだ、もっと寝かせろって」

 

 弾むような声にまぎれて、夢の白い幻影は消えてしまった。

 

「早く起きないと、毛布剥ぐよー。

 10秒前、9…省略! はい、終了ーー」

 

 ティアはフェイントを突いて、おもむろに毛布を引っ張った。

 ルークがしっかり毛布に抱きついてたせいで、彼も一緒に引きずられていく。

 なんて重い荷物だと言いたげに、よいしょよいしょとルークを引きずりながらぐるりと小さく一周した。

 地面を引きずる音と身体をぶつける音が爽やかな朝の時間に響く。

 

「いてててて!!」

 

「ティア、毛布が痛む」

 

 アーチャーのどこかのんびりした言葉に、ティアはハッとして立ち止まった。

 少し困った顔で毛布とアーチャーの顔を見比べた後、「毛布さんごめんなさい」と申し訳なさそうな声で謝った。

 ルークはガバッと立ち上がると、顔を真っ赤にして「毛布に謝まってないで俺に謝れ!!」と叫んだが、全然反省する様子も無い。

 手に取った毛布を畳みながら、「あ、ごめん。ついうっかり」とおざなりに答える。まさか「うっかりならしかたないか」などと答えるはずもなく、ルークはもう少しやりかたを考えろと怒り出し、ティアはティアでそうかしらと小首をかしげた。

 

「やれやれ朝から元気なことだ」

 

 アーチャーは軽く首を振って呆れた顔で二人を見やった後、濡れた手ぬぐいをルークに投げ渡し手元のこまごましたものを片付けながら言い放った。

 

「早く準備しろ、このペースなら昼にはエンゲーブにつけるだろう。

 まぁ、箱入り息子のお坊ちゃんが道の真ん中でダダをこね始めれば無理だろうがな」

 

「やんねーよ!」

 

「ふっ、だといいんだがな」

 

「くーむかつく!」

 

 ルークは拳を震わせて睨みつけ、アーチャーはどこか楽しそうなティアに声をかけた。

 

「ティアもだ。坊主で遊んでないで、早く準備をしろ」

 

 小うるさい言葉に追い立てられて、二人はいつものように食事を始めた。

 ルークは質素な食事にかなり不満そうな顔をしているが、文句をいうと途端にアーチャーがすごい勢いで小言を言い始めるので黙っている。

 

「好き嫌いをしていると大きくなれんぞ」

 

 黙っていてもやはり小言は付き物のようである。

 

 ルークは小魚のフライを一齧りして、すこし嫌な顔をして皿の脇によける。

 そしてその横のイモのサラダに手をつけようとしたところで、ティアが声をかけた。

 

「ルーク、フライいらないの?」

 

「あぁ、魚嫌いだ」

 

「えー、美味しいのに」

 

 そう言いつつ、おもむろにルークのほうに手を伸ばすと食べかけのフライを摘んで口に入れた。

 

「うん。おいしい」

 

「あー、人の口つけたものを食べるのはよくないんだぞー」

 

「え、そうなの?どうして?」

 

「……あれ? なんでだろ?」

 

 残念ながら、ルークは間接キスなどという概念を知らなかった。そして、ティアの方もなぜかそれは範疇外だった。

 アーチャーはそんな残念な会話を無言で聞かなかったことにして、もっぱら給仕に専念していたのだった。

 

 

 

「あぁ、そうだ。ルークに1つお願いしたいことがあるの」

 

「あん?」

 

 エンゲーブに続く道を歩いているとき、ティアはおずおずといった調子でルークに声をかけた。

 ルークはおやつにと渡された、小さなたい焼きを口に入れつつ振り向いた。

 

「アーチャーのこと黙っててほしいの」

 

「はぁ? なんでさ」

 

 ティアは自分の口をハンカチで拭って、ポケットにしまうとすこし困った顔で言葉を続けた。

 

「えっと、ここから先は敵国の勢力圏内だから、念のために奥の手は隠しておきたいの」

 

「いいじゃんべつに」

 

 あっさりと言い放つルークに、ティアは眉をひそめ固まった後、ちょっと考え込んですぐにどこか意地の悪い笑顔を浮かべた。

 

「それにサーヴァントのこと誰かに知られると大変なことになるのよ。

 例えばね……ちょっと耳貸して」

 

 ティアは顔をそっとルークの耳のそばに寄せて小さな声で話し始めた。

 

「サーヴァントをばらしたらね……ごにょごにょごにょ……。それでその人は……ごにょごにょ。で、そしたらね…………なの」

 

 最初はめんどくさげな顔をして聞いていたが、だんだんと顔を青ざめさせて立ち止まり、ギギギと首を動かしてティアの方を振り向いた。

 

「まじで?」

 

「うん」

 

「……わ、わかったよ。まぁ、べ、別に怖いわけじゃないぞ?

 ティアがそこまで言うならしかたねぇな。まぁ、黙っててやるよ」

 

 指差した手をぶんぶんと振り回して言った後、ルークは勢いよく歩きだした。

 そんなルークの後姿を見ていたティアにアーチャーは不審げに声をかけてきた。

 

『ティア、いいのか?』

 

「ばれなきゃいいの、ばれなきゃ。

 念押しに軽い暗示もかけておいたから問題ないはずよ」

 

『なるほど』

 

「おい、早く行くぞ!」

 

「あ。ちょっと待ってっ、いま行くから!」

 

 なんだかんだと言いながらも、遅れている彼女を待っているルークの姿に知らず知らずに口元に笑みを浮かべて、ティアは自分の荷物をしっかりと持ち直すと赤い髪を目印に駆け出した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 素朴な風車の大きな羽根車がぐるぐると回転して、青い空をかき混ぜていた。

 草原に姿を現したエンゲーブはのんびりとした空気を保ちながら、畑の作物や家畜を相手に働く人たちの熱気が町を明るく見せていた。

 周囲には十分に手入れのされている田畑が広がり、さまざまな作物が植えられている。ある場所では華美さは無くとも暖かみのある花々が咲いて、またある場所では実を鈴なりにつけて重みで体を揺らしている。

 

 二人はあれこれと言葉を交わしながら露天に向かう道をゆったりと歩いていた。

 ふと、ティアがブタウサギの柵の前へと吸い寄せられるように近づいて、ブタウサギのつぶらな瞳を見つめたまま無言。

 黙り込んだまま身動きもしない。

 

「ティア、ティア!! 行くぞ!」

 

「え、あ、うん。わかったわ」

 

 ルークは黙りこくったまま動かないティアをおかしなものを見る目で見て、めんどくさげに急かした。

 その声に夢から覚めたようにはっと瞬きをして、焦った声で返事をすると彼女は名残惜しげに時々振り返りつつ、ルークが行く先をついていった。

 

 露天ではさまざまな作物が並べられ、軽快な売り声が道々に響いていた。

 ルークはその活気に驚き、歓声を上げた。

 さっきまでの不機嫌はどこへやら、周りをキョロキョロと見渡している。

 エンゲーブの町を外から見たときは、汚いだの狭いだの臭いだの散々文句を言い放っていたがそんなことも忘れて、道々に並んでいる店を夢中で見回している。

 ティアはそんなルークになんともいえない表情を向けていたが、横から聞こえてきた店主の呼び込みに足を止め、店に並ぶ売り物に目を向けた。

 と、そのすぐそばで店主と客が噂話を始めていた。

 

「おお、聞いた聞いた!

 なんでも漆黒の翼がマルクト軍に追いかけられてたんだってな?」

 

「あぁ、危機一髪のところを華麗に逃走したらしいぜ」

 

「ローテルロー橋が落ちたってな」

 

「まぁ、追い詰められてたらしいからなぁ。

 でももしかしたら漆黒の翼じゃなくてマルクト軍が……」

 

「馬鹿、マルクト軍がうんなことするわけ無いだろ?」

 

「そんなもんかね」

 

「しかし、漆黒の翼もよりにもよって橋を落とすなんて……」

 

「まったくだ、流通が……」

 

 

『どうやら、あのときの騒ぎは漆黒の翼とやらのせいらしいな』

 

『そう見たいね……。

 こっちとこっちどっちがいいかしら』

 

 2本のとうもろこしをつかんで比べるようにして見てるティアに、アーチャーは迷わず片方を指し示すと、呆れたように続けた。

 

『それよりいいのか?』

 

『へ?』

 

 こんな旅の途中で買ってどうするのか、ホクホク顔でとうもろこしを買い込むティアにアーチャーは苦笑交じりに指差した。

 

 指先の向こうでは、ルークが店先のりんごを前に店主と大騒ぎをしている。

 片手に食べかけのりんごを持っておろおろしているようだ。

 大変! と買ったものを仕舞い込むと、慌ててティアは走り出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 ルークは綺麗に切ったりんごを頬張りながら、羽ペンを滑らせていた。

 軽い気持ちで齧ったりんごせいで酷い目にあった。

 漆黒の翼という盗賊と勘違いされて、町の男たちに囲まれて引きずられた挙句、ローズっていうおばさんとジェイド・カーティスっていう嫌味なおっさんの前に突き出されたのだ。

 後からやってきたティアはティアで、下手にファブレの名前を名乗るなって指図してくるし。(それにしても、齧ったりんごの代金はティアが払ってたし、たかが食べ物ぐらいでなんであんなに騒ぐんだろう?)

 ティアがそのカーティス大佐? に漆黒の翼はマルクト軍が追いかけてただろということを話してるところで、イオン導師ってのがひょっこりと顔を出してチーグルが盗んでいったって言い出した。

 引きずっていったおっさんたちは謝っていたけど、腹の虫がおさまらねー。

 ティアはなんか不機嫌だし、アーチャーは嫌味たらたらだし……。

 

 つらつらと、いままでのことや今日あったことなどを書き記しているところで、ティアがひょっこりと頭越しにノートをのぞいてきた。

 

「ルーク、何を書いてるの?」

 

「うわ、見んなよ」

 

「ごめんなさい、でも……」

 

「あーもう、ただの日課!

  記憶障害が再発したときのために、日記をつけとけって言われてるんだよ」

 

「……記憶障害?」

 

 探るような目に、ぷいっと目をそらしてルークは言葉を続けた

 

「10年前のことはぜーんぶさっぱり。一つも思い出せやしねー。

 それなのに危ないから屋敷から出るなって、ずーっと屋敷の中で軟禁。やってらんねーよ」

 

「それはいかんな」

 

 アーチャーは音も無く姿を現すと、訳知り顔で話し始めた。

 

「記憶を取り戻したいのであれば屋敷の中にとどめておくよりも、さまざまな場所に行ってさまざまな経験をつむべきだ。

 今まで行った場所や思い出の場所、友人知人に合ってみるのもよいな。

 とにかく現状維持など悪手としか思えん」

 

「そうね、いままでとは違う場所で働くのもいいかも。

 例えば果物屋さんとか?」

 

「そうだな、運搬行や農業なども悪く無いだろうな」

 

「あと、ぬいぐるみを着る仕事とか、ドレスを仕立てる仕事とか!」

 

「ふむ、舞台で女形をやるのも似合うかも知れんな」

 

「そんな仕事やってられるか、馬鹿!」

 

 口の中に放り込んだりんごは、なぜだか妙にすっぱかった。

 

 

 

 書き付けたノートをしまいこむと、ルークは不機嫌な顔でベットに飛び乗った。

 いつも二人して人をからかいやがって!

 そんな風に思って、彼は組んだ足に肘をついて手に頬を乗っけたまま唸った。

 だいたいなんだ? なんで食べ物が盗まれただけで、あんなに大騒ぎするんだ? どいつもこいつもわかんねー。

 

 宿屋の丈夫で素朴なベットは彼を乗せて軽く軋んで、清潔な木綿のシーツは太陽の匂いがした。

 屋敷の優雅な生活に慣れているルークにとって、そんな素朴で質素な宿屋はとても違和感の感じられるものだった。

 落ち着いて見て見れば、旅の途中にあれだけ望んでいた宿屋も自分の屋敷と比べてしまって、不満ばかりが胸に浮かぶのだった。

 それをなんでもないことのようにして、隣でくつろいでるティアを見ると何故だかいらいらして、どうしていいのかわからなかった。

 ティアは手元に地図を広げて、これからの道筋を確認しているふりをしつつ、機嫌の悪そうなルークをちらちらと見ていた。

 アーチャーの機転で気まずい雰囲気になるのは避けられたようだが、彼の機嫌は最悪でちょっと突っつくだけで風船のように弾け飛びそうだ。

 

 そんな不器用な二人をアーチャーはやれやれと見ていた。

 サーヴァントは子守やお見合いを取り持つためのものではないのだがなぁ。

 そんな風に思って、軽くため息をついた。

 そういえば、と言葉を譲り合うような雰囲気の中でアーチャーが話を切り出した。

 

「あの導師イオンというのは何者だね?

 あの年でずいぶんと敬われているようだが」

 

「そうね、ローレライ教団のことは説明したかしら」

 

「あぁ、天才譜術士ユリア・ジュエが残した2000年に渡るすべてを記録する預言(スコア)だったかを守り、預言を詠む事で人を導くという世界的な宗教団体だったな」

 

「そう、導師イオンはローレライ教団の最高指導者よ。

 マルクト帝国とキムラスカ・ランバルディア王国の休戦に尽力した方で、平和の象徴とも言われているわ」

 

 アーチャーは顎に手を当てて、難しい顔をしてティアを見た。

 

「なんでそんな人間がこんな辺鄙な場所に……」

 

「えぇ、どうやらあのカーティス大佐と行動しているようだけど、いったい何のつもりなのかしら。

 導師守護役(フォンマスターガーディアン)がそばに付いているみたいだから、ローレライ教団も公認の旅なのだと思うのだけれど……」

 

「導師守護役?」

 

「導師の親衛隊よ。

 神託の盾(オラクル)騎士団の特殊部隊、公務には必ず同行するの」

 

「しかし、わざわざマルクト軍の大佐と行動するなど不自然だな。

 軍と行動せずとも教団にも兵力は存在するのだろ?」

 

「えぇ、神託の盾騎士団というのがそれにあたるわね」

 

「ふむ、神託の盾騎士団を使えない理由があるのか……?

 どうしてもマルクト軍に頼まなければいけない理由があるのか、それとも強制されているのか」

 

「でも、強制されているって感じではなかったわ」

 

「それは一見しただけでわかるものでもあるまい」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「あーうっせー!」

 

 ルークは話を途中まで興味しんしんで聞いていたが、導師がマルクト軍と行動している理由の考察に入ると、そのまどろっこしさにいらいらし始めた。

 無頓着に話をぶった切り自分の言いたいことだけ口にした。

 

「ったく、ぐだぐだ言ってねーで直接聞きに行けばいいじゃねーか、めんどくせー。

 だいたいなんだよ、チーグルって。聖獣だか何だかしらねーが、なんでわざわざ食料庫なんざ漁るんだよ」

 

「ルーク、直接って言っても彼らが正直に話すわけ無いでしょ。

 目的によってはこちらが排除されることだってありえるわ」

 

 苛立ちから一気に噴火したルークを困ったように見て、真正面から正論で封殺すれば、ルークはうぐっと息を詰まらせる。

 それらのやりとりを特に気にする様子もなく、アーチャーはティアに質問を投げかけた。

 

「ティア、先ほどから気になっていたのだが、チーグルとはなんだ?

 ずいぶんと、大切にされているようだが」

 

「あぁ、東ルグニカ平野の森に生息している草食獣よ。

 始祖ユリアと共にローレライ教団の象徴になっているわ。

 生息地は……そうね、ちょうどこの村の北あたりかしら」

 

「ふ、聖獣がこそ泥か。聖獣とやらもずいぶんと落ちたものだ」

 

「アーチャー、そんな言い方ないわ。

 そう、きっと何か理由が……」

 

「理由があろうとなかろうと泥棒は泥棒だ」

 

 自分を置いて進む会話に、ルークは不愉快を隠さず二人をにらみつけていた。

 だがしかし、彼がそのまま黙りこくっているはずもない。

 案の定、とんでもないことを言い出した。

 

「あー、もうめんどくせーな!

 ……よし、決めた!」

 

「え、何を?」

 

 いったい何をという顔でルークを見ている二人に、傲慢な態度で彼は言葉を続けた。

 

「なぁ、チーグルの棲む森ってのはエンゲーブから北だって言ってたよな?」

 

「え、えぇ、それがどうかしたかしら」

 

「明日になったらその森に行って、そいつらが泥棒だって証拠突き止めてやる」

 

「はぁ?」

 

「このままじゃ、帰るに帰れねー。

 やってもいないことを押し付けられるなんて我慢なんねーよ。

 きっちり締め上げてギッタンギッタンにしてやる」

 

「ルーク、何もそこまでしなくても……。

 でも、チーグルかぁ。チーグル……見たいかも」

 

「ティア?」

 

「え、いやあのその、わざわざ聖獣に指定したくらいだからきっと可愛いに違いないと思ったり思わなかったり、でもちょっとあのその……」

 

 ティアは両手をぶんぶんさせて首を振りながらそんなことを言った。

 顔を赤らめて恥じ入るように言葉を詰まらせる。

 

 アーチャーは眉間にしわを寄せて額に手を当てて、痛みをこらえるように黙り込んだ。

 

 そんな二人をルークは首をかしげて見ていたが、発明家が発明の糸口を見つけたかのような笑顔を浮かべると、ティアのすぐそばに走りよった。

 広げた地図をわたわたと片付けているティアのすぐそばにしゃがみこみ、にかっと笑っていった。

 

「じゃあさ、一緒に行こうぜ」

 

「一緒に?」

 

「そう、一緒に」

 

 困りきった顔でルークを見つめるティアに、焦ったように顔を背けて顔を掻き、もぞもぞした態度をしていたがすぐに開き直った態度で叫んだ。

 

「いいから、明日、絶対、行くの!」

 

「私は反対だな」

 

「え?」

 

 アーチャーは黙り込んでいたが、皮肉っぽい表情でそう言い捨てた。

 

「マルクト軍がうろうろしているようなところで物見遊山など正気とは思えん。

 ただでさえ、キムラスカの貴族なんていう爆弾を抱えているのに、うろつき回るなど虎の尻尾を踏みに行くようなものだ」

 

「はぁ? なんだよそれ。俺が悪いって言うのか?」

 

「あぁ、お前が悪いな」

 

 息を詰まらせて黙りこむルークを横目に見ながら、アーチャーはさらに言葉を続けた。

 

「サーヴァントとしては、マスターをキムラスカとマルクトのゴタゴタに巻き込ませるような真似はできないな」

 

「あー、もうぐたぐたうっせーな!

 なんかあったら、この俺が!親父に頼んででも何とかしてやるよ!

 てめーはおとなしく後ろでうじうじしてやがれ!」

 

「ふむ。その言葉間違えないな?」

 

「……っ、当たり前だ」

 

「と、彼はいってるがどうする?」

 

 緊迫した彼らの言い合いに、言葉も挟めずにおろおろしていたティアは、いきなり言葉を振られてびくっとしてアーチャーを見た。

 

「私としては反対だが、マスターがどうしても行きたいというのであればマスターの意思を尊重する。

 サーヴァントとして最大限マスターの安全を保障しよう」

 

 ティアは不機嫌なルークと皮肉げな表情をした己の従者を交互に見たあと、己の意思を控えめな表情で述べたのだった。

 

 

 

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