ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第一〇四話 ハレー 聖王暦二一六年五月上 エストレガレス帝国/――――

 魔導士ブロノイルの目的を探り阻止するために西アルメキアを離れた流星のハレーは、エストレガレス帝国領ディルワースの西にある深い山の中にいた。西アルメキア軍に属している間、帝国相手にその手腕を大いに発揮したハレーは、広く顔と名を知られる存在となっていた。帝国領内での調査は常に危険が付きまとう。そのため、移動の際はひと目の多い街道を避け、あまり人の通らない山道などの迂回路を選ぶようにしているのだが、その途中で迷ってしまったのである。

 

 空を覆うばかりに木々が生い茂った森の道を進んでいたはずが、いつの間にか周囲の草木はまばらになり、今はもう草の一本も生えていない岩ばかりの荒れ地になっている。道と呼べるようなものもなく、見渡す限りごつごつとした大小さまざまな石が転がっているだけだ。平坦な場所ならばまだいいが、起伏の激しい場所では細心の注意を払う必要がある。足を取られて転ぶ程度ならまだしも、わずかな衝撃で崖が崩れる可能性もあるし、斜面を転がり落ちて深い谷へ転落する危険もある。さらに間の悪いことに、空は一面厚い雲に覆われ、先ほどからぽつぽつと顔に水滴が当たっている。恐らくすぐに本降りになるだろう。その前に、なんとか雨を避ける場所を見つけなければならない。

 

 不幸中の幸いか、斜面を少し登ったところに小さな洞窟を見つけた。ハレーが洞窟に入ると、すぐに雨は強さを増し、どしゃ降りへと変わった。なんとか濡れずにはすんだが、これではしばらく動けそうにない。ハレーは小さくため息をつくと、入口から少し離れた場所に荷を下ろし、火を熾した。炎が洞窟内を照らす。奥の方は見えない。洞窟の入口は縦横二メートルほどと小さなものだったが、奥はかなり深いようだ。雨はまだやみそうもなく、陽が暮れる時間もそう遠くはない。恐らくここで一晩明かすことになるだろう。奥に獣や野生のモンスターが潜んでいると厄介だ。少し探索しておく必要がある。そう思い、ハレーはたいまつを手に奥へと進んだ。

 

 洞窟は進むほどに広さを増していき、五刻ほど歩くと縦横五メートルほどになった。それだけでなく、ところどころ人の手が加えられたような様子もあり、どうやら天然の洞窟ではないようだ。何かしらの罠が仕掛けられている可能性もあり、ハレーはより慎重に進んで行った。

 

 途中、分かれ道は無く、十刻ほどで行き止まりとなった。そこには、ぽつんとひとつ宝箱が置かれてあった。山賊が宝の隠し場所にしているのだろうか? それにしては洞窟の入口は少々目立つ場所にあり、ここまで罠のひとつも仕掛けられていなかった。宝箱も同様だった。罠どころか鍵さえかけられていない。開けてみると、中には一本の巻物が入っていた。

 

 巻物を手に洞窟の入口まで戻ってみると、外は、さっきまでのどしゃ降りが嘘のように晴れ渡っていた。空には雲ひとつ浮かんでいない。狐につままれたような気分だった。

 

 ハレーは巻物を広げてみた。かなり古い物で、ほとんどが消えかかって読めないが、なんとか読める部分だけを繋いでいくと。

 

 

 

 世界の深奥の闇で息づくもの……

 

 永遠の無と静寂をもたらすもの……

 

 その名は……混沌の蛇……

 

 

 

 そこまで読んだ瞬間、洞窟の奥から強い風が吹きつけた。すると、まるで砂の山が風にさらわれるかの如く、巻物は塵となって流れて行った。ハレーの手には、紙の一片も残らなかった。

 

 言い知れぬ不安を抱えたまま、ハレーは洞窟を後にした。不思議なことに、あれほど迷っていたにもかかわらず、洞窟を離れて半時もせず山中の小さな集落にたどり着いた。

 

 そう言えば――。

 

 以前にも同じようなことがあったのを、ハレーは思い出した。

 

 あれは、ブロノイルを追いレオニアを目指していたときだ。今回と同じように、人目を避け深い山に入り、迷ってしまった。あのときは森の中に沸いた泉の水面に、焼けただれた大地と異形の生物が映っていた。

 

 あの泉に映っていたものは、巻物に書かれていたことと似ている――ハレーは、そんなことを思った。

 

 

 

 

 

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