ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第一〇九話 ティース 聖王暦二一六年八月下 ノルガルド/――――

 武者修行の旅を続けるイスカリオの新米騎士ティースは、国境を超え、ノルガルド南西の山深い場所にいた。王ドリストより、修行の旅をするならついでに敵国の様子を探って来いと言われたのだ。現在ティースは、ノルガルドの南西方面の最前線であるゴルレ城の周辺で情報を集めている。と、言っても、戦士としても未熟なティースに諜報活動など満足にできるはずもないので、近隣の集落に立ち寄っては住人と世間話をするくらいだった。それでも、それなりに重要な情報を得ることができた。二ヶ月ほど前、ノルガルドは白狼王ヴェイナードが自ら軍を率い、西アルメキア領だったこのゴルレを制圧した。白狼はその後しばらくゴルレに留まっていたが、現在は首都であるフログエルに戻っているという。帝国が領土を拡大したことで、ノルガルドは各拠点の部隊編成を大幅に見直しているものと思われた。イスカリオはノルガルドとも国境を接している。これは重要な情報になるかもしれなかった。

 

 さらに情報を得るべく旅を続けるティースは、途中、街道から少し離れた場所に小さな泉があるのを見つけた。よく晴れた日の午後、澄んだ水に陽光が反射してキラキラ輝くさまは、どこか神秘的なものを感じさせる。

 

 ティースは金貨を一枚取り出し、泉に投げ入れると、手を合わせた。

 

 ――早く一人前の騎士になり、ユーラにふさわしい男になれますように。

 

 ティースなりの武運を祈り、旅を続けようとした。

 

 すると。

 

「――お待ちなさい」

 

 不意に、背後から声をかけられた。

 

 振り返ると、泉の上に美しい女性が立っていた。足元には船も無ければ()()()を履いているわけでもなく、浮遊の魔法を使っているような様子もない。人が地面に立つのと同じように、ごく自然に水の上にたたずんでいる。人間技ではない。どうやら泉の精のようだ。

 

 泉の精は手のひらを差し出した。そこには、先ほどティースが投げ入れた金貨が載っていた。

 

「これを投げ入れたのは、あなたですか?」

 

「あ、はい。そうです」

 

 正直に答えるティース。内心、まずかったかな、と思った。神秘的な雰囲気に思わず金貨を投げ入れてしまったが、泉の精にとっては何の価値も無いものだろう。ゴミを捨てられたのも同然なのかもしれない。怒られるだろうか、と、心配していたが。

 

 泉の精はにっこりとほほ笑んだ。「綺麗なコインですね。お礼に、祝福のキスを」

 

 そう言うと、泉の精はティースの頬にそっとキスをした。

 

「それから、これも差し上げましょう」

 

 続いて、泉の精は一足の靴を取り出した。丈夫な革を使った底の厚い靴だ。頑丈だが、それでいて羽根のように軽い。どんなに優れた靴職人でも、牛や馬など普通の動物の革でここまで軽いものをつくることはできないだろう。かなり特殊な靴のようである。

 

「履いてみてください」

 

 泉の精に言われ、ティースは靴を履いてみた。

 

 すると、突然ティースの身体が宙に浮かび上がった。ものすごい速さで上昇し、あっという間に雲にも届く高さまで到達した。

 

「――うわ!」

 

 驚いてバランスを崩し、今度は落下する。そのまま地面激突するかと思ったら、寸前でふわりと舞うようにして止まった。ティースはほっと胸をなでおろす。まるで、重力から解放されたかのような動きだった。安心したのも束の間、急に重力が戻ったのか、ティースはドスンと尻餅をついて落ちた。

 

 その様子を見た泉の精はおかしそうに笑った。「驚かせてしまいましたね。それは、飛竜の革で作られた魔法の品・風乗りのクツです。うまく使いこなせば、自由に空を飛ぶことができるでしょう。でも、悪いことに使ってはダメですよ? では」

 

 泉の精はもう一度ほほ笑むと、沈むように泉の中へ消えて行った。

 

 ティースはお尻の土埃をはらいながら立ち上がった。なかなか面白いものを貰った。金貨一枚でこんなものを貰えるなんてツイている。ティースはもう一度手を合わせて礼を言うと、旅を再開した。

 

 

 

 

 

 

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