ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第一三二話 ドリスト 聖王暦二一七年四月下 ノルガルド/ターラ

 聖都ターラの攻防は、完全にこう着状態に陥っていた。

 

 イスカリオは、王ドリストを総大将に、死刑囚のアルスターとキャムデンの三部隊で侵攻していた。接近戦を得意とするドリストと、攻撃・回復・補助と一通りの魔法を使いこなす二人の死刑囚の組み合わせは、クセが強いイスカリオの騎士の中で最もバランスがとれた組み合わせである。それでも、ターラの攻略は容易ではない。敵将ブランガーネは城外や城下での戦闘を捨て、ターラ王宮内に立てこもる籠城戦を選んだのだ。ターラ王宮は、広大な湖の中央にある島に建てられた城だ。島へ通じる跳ね橋は当然のごとく上げられており、上陸するためには湖を渡るか空を飛ぶしかない。もちろん、敵側はマーマンやリザードマン、ロックにワイバーンと、水辺や空に強いモンスターを多数配置している。ブランガーネは王族であるがゆえ高い統魔力を持ち、加えて、元帝国のビーストルーラー・ソレイユも部隊に組み込まれているため、城を守るモンスターの数は尋常ではない。ドリストは魔法装備である空飛ぶ靴を持っている。グルーム侵攻時の渡河作戦には大いに役立ったが、今回は同じ作戦は通用しない。敵将ブランガーネは弓の名手だ。ヘタに空から近づくと狙い撃ちにされる可能性が高いのだ。

 

 このような籠城戦に対しては、無理に突撃せず、戦いを長引かせて籠城する側の消耗を待つのが有効だ。いわゆる兵糧攻めである。湖に囲まれたターラ城は完全に孤立しているため、物資の補給は得られない。相手側がどれだけの食糧を蓄えているかは判らないが、いずれは底を突くだろう。そうなれば、敵部隊の士気も戦闘力も下がり、攻略は格段に容易になる。

 

 しかし、今回の戦いにおいてはその戦法が有効とは言えなかった。現在、後方のイスカリオ領であるグルームは、ウィズリンドより出撃したノルガルド軍の攻撃を受けている。ウィズリンドはキラードール・イリアと今やイスカリオ1の騎士と言っても過言ではないユーラに守りを任せているためそう簡単には落ちないだろうが、それでも、万が一ということもある。もしグルームを制圧されると退路を失い、今度はドリスト達が敵地で孤立することになるのだ。

 

 また、そもそもの問題として、フォルセナ大陸における基本的な兵法のひとつに『敵国への侵攻作戦は十二日が限度』というのがある。魔力の源であるマナや召喚したモンスターの力の維持などを考慮すると、それ以上の戦いは被害が増えるだけであり、撤退するのが望ましい、とされているのだ。これらの要素から、やはり長期戦は望めない。

 

 つまり、イスカリオは十二日以内にターラ城を制圧できなければ、事実上このいくさに負けるのである。城攻めが始まってすでに八日。いまだ島への上陸すらままならない中、ドリストは苛立ち、死刑囚二人に八つ当たりをしている――かと思いきや、実はそうでもなかった。ドリストは、敵が籠城戦に入ったと見るや、アルスターとキャムデンに城の包囲を命じ、自分は後方へ下がって幕舎でひたすら昼寝をしているだけだった。基本兵法を無視して兵糧攻めに入ったのか、それとも他に思惑があるのか……後方のグルームを攻められている以上悠長に構えてはいられないのだが、王の昼寝の邪魔をしようものなら死刑なので、ヘタに声をかけることもできない。この八日間、ターラ攻めは岸辺での小競り合いがあったのみで、大きな動きは無く静かに過ぎて行った。

 

 戦況が動いたのは九日目だ。

 

 この日の朝、周辺を監視していた斥候部隊からの急報を受けたドリストは、アルスターとキャムデンには何も告げぬまま、突如、自身の部隊を北へ向けて進軍させたのだ。

 

 斥候からの急報は、北からの敵の増援を報せるものだった。その軍を率いているのは、西の戦線から移動してきた、白狼王ヴェイナードであった――。

 

 

 

 

 

 

「――狂王ドリスト、我が領土で随分と好き放題してくれたようだな。今日は、余自ら礼をさせてもらう」

 

 ターラ城の北、山と森林に挟まれた狭地で、二人の王が対峙していた。それまで激しくぶつかり合っていた両軍であったが、その瞬間、まるで戦義が始まったかのように戦いを中断し、王同士の会話を見守る。

 

 ドリストは、いつものように悪巧みをするような笑い声をあげた。「クーックックック、ようやくお出ましか白狼。会いたかったぜ~。テメェは、この大陸で数少ないまともな人間だからなぁ?」

 

「それはどういう意味だ」

 

「俺とお前とゼメキス……まともなヤツはそれだけだ。それ以外の連中は、どいつもこいつも本音をさらけ出さねぇ。みんなこの大陸が欲しくて欲しくてたまらねーのに、『そんなものはいらない』ってツラして戦ってやがる」

 

 薄ら笑いをしながら言うドリストに、ヴェイナードは、「なるほどな」と頷いた。「確かに、余はこの大陸を欲している。だが、そなたと一緒にされるのは心外だ。余は、遊びで戦っているわけではない」

 

「お互いの国を賭けて戦うんだ。遊びみたいなもんだろ?」

 

 ドリストはおどけたように言うと、大鎌を構えた。「さあ、やろうぜ? オレ様が勝ったら、テメェの国はオレ様が貰う。テメェが勝ったら、オレ様の国はテメェのモンだ。ま、ありえねーがな」

 

 挑発的な狂王の言葉にも、白狼は冷静さを失わない。

 

「戦いは賭け事ではない。我が国は理想を目指して戦っているのだ」

 

「勝ったモンが総取りっていう点じゃ、なにも変わらねーだろが?」

 

 ヴェイナードの顔に、わずかな嫌悪感がにじみ出た。「どうやら、そなたには王としての資質が著しく欠けているようだ。よかろう。良い機会だから教えてやる。やりたいようにやるのが王ではない。成すべきことをするのが王なのだ!」

 

 ヴェイナードは槍斧を構えると、一気に踏み込み、ドリストに向けて振り下ろした。

 

 ドリストは、その一撃を大鎌で払い除ける。

 

「それは違うなぁ。王だからって何かに縛られることはない。自分のやりたいようにやって、人生楽しめばいいんだよ!!」

 

 今度はドリストが横薙ぎに鎌を振るう。ヴェイナードがそれを受け止める。二人の武器が、激しく火花を散らす。

 

 

 

 

 

 

 北の大国ノルガルドと、南の異質な国イスカリオ。

 

 この二国の王が戦場で対峙したことは、少なくとも聖王歴に入ってからの記録には無い。大陸全土を巻き込んだ大戦ゆえの、歴史的瞬間である。

 

 そして。

 

 この戦いの結果は、その後の二国の運命をも、大きく左右することになる――。

 

 

 

 

 

 

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