ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第一三七話 ミラ 聖王暦二一七年十月上 エストレガレス帝国/王都ログレス

 王都ログレスの王城の会議室で、双子の騎士ミラは緊張の面持ちで円卓についていた。現在戦略会議中である。出席しているのは、相変わらず今すぐにでも出撃できそうなほど重装備をしている皇帝ゼメキスと、現帝国軍総帥のシュレッド、元総帥のギッシュ、そして、妹ミレの五人である。王妃エスメレーや四鬼将のエスクラドス、神官騎士団長のローコッドら帝国の重鎮を差し置いて、なぜこの重要な戦略会議に若手騎士である自分たち姉妹が参加させられているのか謎だ。

 

 開戦当初は千の兵を率いるだけの末端の騎士だったミラとミレ。それが、急に二万の兵を与えられ、王ゼメキスと共にオークニー城を攻めることになったのがちょうど二年前だ。作戦は見事成功し、それ以降、帝国における重要局面に出撃することが多くなった。兵の数はどんどん増やされ、いまや五万にまで膨れ上がった。王妃と共に西アルメキアに侵攻したこともある。それだけ軍内での地位が上がっているということであり、没落したベルフェレス家の復興を目指す二人にとっては喜ばしいことではある。しかし、こういった戦略会議に出席すると、どうしても場違いな感じがぬぐえない。会議の席に着いたからには何か発言しないといけないのだが、皇帝や新旧の総帥らが激論を交わす中で、自分のような小娘ごときが発言するのは恐ろしく勇気がいることだった。

 

 今回の会議の内容は、西の領土であるカルメリーとファザードについて、である。円卓にはフォルセナ大陸西部の地図が広げられ、各国の主要拠点と領土が色分けされている。昨年春、ゼメキスの捨て身の特攻とエスメレー・ミラ・ミレ部隊の活躍で西アルメキアを滅ぼし、大陸西の旧パドストーの領土は帝国が手中に収めた。しかし、この作戦による帝国側の被害も大きく、戦力を立て直す必要が出てきた。そこへ、南からイスカリオの侵攻。このふたつの要因が重なり、帝国はしばらく防衛に回らざるを得なかった。元々帝国は攻めに特化した騎士がほとんどで、地形的にも防衛には向いていない。結果、イスカリオからの侵攻はどうにか食い止めたものの、その隙にカーレオンにベイドンヒルを奪われ、さらにノルガルドにもキャメルフォードを奪われてしまった。ベイドンヒルは捨て地と言っても良いので大きな痛手ではなかったが、キャメルフォードの方は深刻だ。大陸西部の交通の要衝であるキャメルフォードは、東西南北全ての方向の都市へ通じている。ここをノルガルドに占領されると、東と西は行き来することができない。帝国は領土が分断されてしまったのだ。カルメリーとファザードにはまだ兵が残っているが、防衛には心もとない数であり、援軍を送ることもできない。これをどうするか、が、この会議の重要な議題だった。

 

「――無論、兵はカルメリーとファザードの城に留まらせ、どのような方法を使っても死守させるべきだ。その間に、我らの手でキャメルフォードを奪い返す」

 

 こう主張するのは魔術師ギッシュだ。四鬼将のひとりで、カーレオンの国王カイと並び大陸一と噂される魔術師である。開戦当初は軍総帥であったが、昨年春にその座をシュレッドに奪われている。シュレッド曰く、ギッシュの魔力を最大限活かすのは総帥ではなく最前線に立つ将である、とのことなのだが、この辺りの事情が遺恨となっているのか、こういった会議でこの二人は意見が対立しやすい。

 

「兵の数を考えると防衛は不可能だ。無駄に戦力を消耗させるくらいなら、撤退させるべきだ。西アルメキアの領土に固執する必要はない。キャメルフォードの奪還は、兵力を再編させてから行うべきだ」

 

 そう主張するのは現総帥のシュレッドだ。アルメキア時代より長くゼメキスと戦場を共にした拳闘士で、ゼメキスの戦い方を最も知る男である。開戦前にデスナイト・カドールの罠にはまり、長く牢に囚われていたため戦場での勘が鈍っているとのことで、現在前線に立つことはあまりなく、後方で指揮する立場にいる。

 

 ふん、と、ギッシュが鼻で笑った。「新総帥殿は西アルメキア侵攻時は勇猛だったが、急に臆病になったな。勘が鈍っているというが、カドールに囚われている間に牙をも抜かれたか?」

 

 ギッシュの挑発を、シュレッドは軽くいなすように言う。「勝ち目のない戦いに挑むのは勇猛ではなく無謀だ。ましてそれを自ら行うのではなく孤立した兵に行わせ、自分は後方で見ているというのなら、それは無能だ」

 

「この俺を愚弄する気か。ならばこの俺自ら出向いて、キャメルフォードを落としてみせよう」

 

 愛用の杖を振りかざすギッシュ。黙っていればインテリ系のイケメンなのだが、この男はやたらと気が短い。いきなり総帥に魔法をぶっ放すのではないかと、ミラはヒヤリとした。

 

「それでキャメルフォードを奪還できたとしても、南の守りはどうする。貴様にはカーナボンの防衛を任せたはずだ」

 

 こっちはヤクザの用心棒みたいないかつい顔をしているシュレッドだが、その見た目に反して相手の挑発に乗ったりせず、冷静に反論する。

 

「それこそ兵を北のトリアまで撤退させればよい」と、ギッシュ。「カーナボンを奪われても、まだトリアで防衛できる」

 

「ひとつ城を奪ってもひとつ城を失ったのでは意味がない」と、シュレッド。「城の数は同じでも、兵は消耗する。そうやって徐々に疲弊していくことこそ、この国が最も警戒すべき事態だ」

 

「ならば城をふたつ失うのは問題ないと?」

 

「ふたつ城を奪われても三つ城を奪い返す、それがこの国の戦い方だ。その準備のために、いま兵を無駄に失うべきではないのだ」

 

 ……と、いう風に、会議はギッシュとシュレッドの主張が対立し、ずっと平行線だ。この二人の間に新米小娘風情のミラとミレが割って入れるはずもなく、ただ見ているしかない。

 

 それに。

 

 ミラには、どちらの主張が正しいかの判断がつかない。何としてでも防衛するべきとも思えるし、無駄に兵は消耗せず撤退させるべきとも思う。恐らく、どちらかが正しいという明確な答えはない。問題なのは、死守するか撤退させるかではないように思う。

 

「……撤退させるにしても、キャメルフォードをノルガルドに占領させておくのは、面白くない」

 

 重い声で口を開いたのはゼメキスだった。シュレッドとギッシュは討論をやめ、視線を皇帝に向ける。

 

 ゼメキスは続ける。「奴らはこのログレスへの侵攻を狙っている。その足掛かりとして、いま最も重要なのはキャメルフォードだ」

 

 その通りだ、と、ミラも思う。

 

 ノルガルドがログレスへ侵攻するルートはいくつかあるが、北からの侵攻ルートであるリドニーやオークニーを落とすのは容易ではない。アルメキア時代より、この国はノルガルドからの侵攻に備えてきた。そのため、この地は北からの侵攻にはめっぽう強いのだ。

 

 そして、ノルガルドが南側から侵攻するのも容易ではない。ノルガルドは二年前の秋に大陸東のレオニアを併合し、ハドリアンまで領土を伸ばしている。そこからアスティンを落とせば帝国領であるカーナボン、トリア、そしてログレスへと侵攻できるが、このルートはイスカリオ領を掌握したカーレオンに阻まれる。ノルガルドが南から侵攻するにはまずカーレオンと一戦交えなければならないわけだ。ノルガルドとカーレオンはまだ交戦状態にはなっていないので、そこはノルガルドとしては慎重にならざるを得ないだろう。仮に交戦状態に入り、首尾よくアスティンを占領したとしても、そこから北上するとカーレオンに背を向ける形になり危険だ。ノルガルドが南からエストレガレスに侵攻するには、まずカーレオン領のかなり深くまで侵攻して行き、背後の憂いを取り除かなければならない。半年はかかる戦いになるだろう。

 

 つまり、ノルガルドが今このログレスへ侵攻するならば、キャメルフォードからオークニー・エオルジアという西側からのルートが濃厚なのだ。帝国は、西からの侵攻には強くない。アルメキア時代、西のパドストーは同盟国であったため、そちら側からの侵攻は想定されていないのだ。キャメルフォードをノルガルドに占領させたままにしておくのが面白くない、というゼメキスの意見は正しい。西側が弱いからと言ってそちらの防衛ばかりに気を取られていると、北や南がおろそかになり、そちらから攻められかねない。

 

 ゼメキスの鋭い目が、ミラとミレに向けられた。「ミラにミレ。ふたりでエオルジアから出撃し、キャメルフォードを落とすことは可能か?」

 

 ミラはゴクリと喉を鳴らす。やはりそうきたか。陛下とオークニーの奪還に成功して以降、ミラとミレは攻撃部隊に編成されることが多くなった。今回の会議に出席させられたのも、キャメルフォード奪還作戦に組み込まれるのだろう、と、なんとなく予想をしていた。

 

 卓上の地図を見ながら、なんと答えたものか、と思案するミラ。陛下は当然キャメルフォードの奪還を望んでいるだろう。それも、いまの戦況ではできる限り少ない戦力で奪還するのが理想だ。陛下の期待に応えるためにも、「できます」と答えるのが無難だろうか。いや、陛下は戦場で期待を裏切られることを最も嫌う。できもしないことをできると言う方が、後々ヤバいことになりかねない。

 

「……難しいと思います」ミラは、正直に答えた。「せめて、もう一部隊必要かと」

 

 内心怒鳴られやしないかとヒヤヒヤしていたが、ゼメキスは「そうか」と言っただけだった。

 

「同意見だな」と、シュレッドも言う。「キャメルフォードを守っているのは銀の騎士グイングラインとその腹心どもだ。双子の二部隊で相手をするには分が悪かろう」

 

 この意見にはギッシュも反論しなかった。ミラは内心ほっと胸をなでおろす。怒られなくて良かった。

 

 もちろん、安心している場合ではない。キャメルフォードを奪還するにはもう一部隊必要だ。カルメリーかファザードに残っている騎士に出撃してもらう、という手もあるが、あそこに残っているのは、例の腰抜けのウソツキ魔術師と、金儲けしか考えていないような生臭坊主、そして、東方の小さな島国から来たという得体のしれない覆面男だ。軍のポジション的にはミラの上司もしくは先輩だが、正直戦力的にはいないよりはマシくらいのレベルでしかない。銀の騎士らノルガルドの猛者を相手にするからには、四鬼将や王妃・陛下レベルの騎士とまでは行かなくとも、せめて中堅どころの騎士が必要だ。

 

 だが、みんな前線の拠点の防衛で手一杯だ。ゼメキスもエスメレーも四鬼将も、リドニーやオークニーから離れるわけにはいかない。やはりこの国最大の問題は騎士不足だ。どこかの戦力を厚くすれば必ずどこかが薄くなる。戦線が拡大すればするほど、それが如実になる。

 

 そして、戦力を増強しようにも、反乱によって今回の大陸全土を巻き込んだ戦争を起こしたこのエストレガレスに仕官する騎士はまずいない。実際、他国には在野の騎士や滅亡した国の騎士がどんどん仕官しているのに対し、開戦以降この国に仕官してきた騎士は一人もいないのだ。むしろ、デスナイト・カドールやビーストルーラー・ソレイユといった帝国の筆頭だった騎士、カドールの部下メルトレファスや弓騎士エニーデにランド家の次男カストールの若手の有望騎士、これらが帝国から去り、逆に騎士が減っている有様である。いまの状況ではあの腰抜け魔術師や生臭坊主あたりも怪しい。この国で敵前逃亡は死罪だが、それが抑止力になるかは判らない。ソレイユは現在ノルガルドに亡命してピンピンしているし、カストールも三兄妹で仲良くイスカリオに亡命していた。他の騎士の消息は不明だが、死んだという情報は無いし、そもそも今この国に刺客を送るほどの余力がない。カドールを抹殺できるようなつわものを戦場から外すわけにはいかないのだ。

 

 この国が抱えている問題は明確だ。それは致命的と言えるが、解決する目途が立たない。いったいどうすれば、事態を好転させられるのだろう。

 

 会議は完全に行き詰ってしまった。こうなったら、玉砕覚悟でキャメルフォードに突撃するか、防衛に回ってジリ貧になるか……最終的な決定を下すのは王であるゼメキスだ。当然、前者を選ぶであろう。この戦争自体、そんな感じで始まったのだから。もちろん、陛下はそんな危うい作戦を家臣に押し付けたりはしないだろう。必ず自身も出撃するはずだ。そうなったらミラもミレも陛下について行くしかない。悪しき迷信に惑わされず双子である自分たちの仕官を許し、わずか数年でこんな重大な会議に出席するまでに出世できたのも、すべて陛下のおかげなのだから。

 

 ミラが覚悟を決めた時、がちゃり、と会議室のドアが開いた。

 

 そして。

 

「あのー、ちょっとよろしいでしょうか……?」

 

 緊迫した空気の室内に、場違いすぎるほど気の抜けた声で若い男が入って来た。

 

「なんだ! 戦略会議中だぞ!!」

 

 ががーん! と雷が鳴るほどの勢いで怒鳴るゼメキス。ゼメキスにとって戦略会議は戦闘行為の内であり、それを邪魔されたりテンポを乱されたりするのを嫌う。ミラとミレも以前出席が遅れたり話について行けなかったりして怒鳴り散らされた。今回は、国の行く末を決める重要な決断をしようとした矢先の、あの気の抜けた声。陛下愛用の巨大なボウガンで脳天撃ち抜かれかねない。

 

「は、はいいぃぃ! 申し訳ありません!!」案の定、入ってきた男はすくみ上って情けない声を上げた。「しかし、王妃様が入っても良いと言われまして!」

 

 ん? エスメレー様が? と、首をかしげるミラ。エスメレーが許可したからには、重要な要件なのだろうか。

 

「……あれ?」

 

 ミラは男の顔を見て気づく。声と同じく、いかにも頼りなさげで弱々しい草食系の若者という雰囲気のその男には見覚えがあった。

 

「ねえミレ、あれって、あんたの義理のお兄さんじゃない?」

 

「え?」と、ミレも男の顔を見た。「あ、ホントだ。レイン様だ」

 

 双子の姿に気づいた男は、「ミレ~」と、助けを求めるような声を上げた。うわー、こりゃダメだ、と、ミラは内心呆れる。このなよなよした感じ、絶対陛下が受け入れないタイプだ。どやしつけられて泣きながら帰るハメになるぞ。ていうかこの状況であたしたちに助けを求められても困るんだけどな。ヘタをすると陛下の怒りがこっちに回ってきかねない。ここはむしろ他人のふりをしておくべきだったか、と、今さらミラは後悔する。

 

「何者だ」

 

 と、言ったのはゼメキスではなくシュレッドだった。相変わらず顔に似合わず冷静である。逆に言えば言葉は冷静でも顔は怖い。

 

「は、はい! カ……カールセン家の者で、レインと言います!」

 

 レインが背筋を伸ばしながら答えると。

 

「カールセン家? ランギヌスの息子か」

 

 今度はギッシュが言った。

 

「は、はい! そうです!」

 

 レインは緊張の面持ちで答えた。

 

 ランギヌスは帝国の騎士で、魔導の名門カールセン家の現当主である。ミラとミレの実家であるベルフェレス家の没落後、妹のミレを養子に迎え入れてくれたのがカールセン家だ。そのカールセン家の長男が、このレインである。別の家の養子になっていたミラは数回会ったことがある程度だが、見た目通り小心者の臆病者の弱虫で、いつも誰かに怒られるのを恐れているかのようにオドオドしている。そのため、義妹のミレが帝国へ仕官した後も、家でウジウジして無駄な時間を過ごしていたらしい。要するに引きこもりである。そんな彼が、一体何の用だろう。

 

 と、ミレの顔がぱぁっと明るくなった。「あ! レイン様、ひょっとして仕官に来られたのですか!?」

 

 いや絶対違うだろ、と、ミラは内心思う。家から出てこの王城まで来たというだけでオドロキなのだ。そんな男が、窮地に立たされているこの国仕官するはずがない。

 

「い、いや……ボクはその……ただミレに会いに来ただけで……」

 

 案の定そう言い淀むレインだったが、ミレの純粋でキラキラした目に見つめられ。

 

「はい、そうです!」と、ゼメキスの方を見て言った。「陛下、ボクをこの国の騎士にしてください!」

 

 ……なーんか、いま思いついたような言い草だな、とミラは思った。ミレの前でカッコつけて言っただけのようにしか思えない。

 

 とは言え、会議を邪魔された陛下の怒りを収めるには、これしかないかもしれない。

 

「ほう、仕官か」思った通り、ゼメキスの言葉は急に穏やかになった。

 

「いま騎士が増えるのはありがたい」と、ギッシュも言う。「ランギヌスの息子ならば、魔法の素質は申し分なかろう」

 

「あ、いえ、ボクの魔法なんて、そんな期待していただくほどでは――」

 

 と言うレインの声はあまりにも小さく、ゼメキス達の耳には届かない。

 

 シュレッドも乗り気だ。「戦場の経験はなくとも、一人騎士が増えるだけで戦況は大きく変わる。本来ならある程度修行をさせて出撃させたいところだが、今はそんな余裕はない。さっそく明日から戦場に出てもらおう」

 

「いえ、ボクが戦場に出るなんてそんな恐れ多い。せめて、大陸を巡って仕官してくれる騎士や配下になるモンスターとか役に立つアイテムなんかを探す役にしてくれれば……」

 

 正直いまのレインではそれくらいが適役だろうが、無論、そんな余裕はない。誰であろうとすぐに戦場に回される運命だ。

 

 とはいえ、キャメルフォード攻略に実戦経験の無いレインが加わったところで期待はできない。まだあのウソツキ魔術師や生臭坊主らの方がマシな気がする。

 

 もちろん、それはギッシュやシュレッドも心得ているようだ。

 

「では、この者をカーナボンの防衛に回し、ランギヌスをミラとミレの部隊へ編入するというのはどうか」

 

 ギッシュがそう提案すると、これまで対立していたシュレッドも「そうだな」と、すんなり同意する。「この男の魔力は未知数だが、ランギヌスの息子ならば充分な戦力となるだろう。カーレオンに攻められたとしても、防衛は可能であろう」

 

 いや絶対ランギヌス様とは比較にならないほど弱っちいぞ、と、ミラは思ったが、ランギヌスがこっちの部隊に加わってくれるのは非常にありがたい。ランギヌスは魔導の名家の当主だけあって帝国でも屈指の魔術師だ。単純な魔力だけならギッシュには劣るかもしれないが、騎士としての経験はギッシュよりも長いため、統魔力など総合的な戦力で言えば決して四鬼将にも負けてはいないだろう。これなら、キャメルフォード攻略も見えてくる。

 

「いや、ボクはミレに会いに来たので、できればミレと一緒のところに……」

 

 というレインの声は相変わらず小さくてゼメキス達には聞こえていないし、仮に聞こえたところでそんな個人のワガママが受け入れられるはずもない。

 

「ならばミラにミレよ! キャメルフォードの奪還は任せた!」

 

 レインの小声を蹴散らすような大声で言い、ゼメキスはすぐ横に置いていたボウガンを取った。

 

「俺はこれまで通り、鬼となって戦い続けよう!!」

 

 そう言って、ゼメキスは会議室を出て行った。すぐにシュレッドとギッシュも後に続き、それぞれの戦場へ向かう。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 三人だけとなった会議室だが、緊張を解き、久しぶりの再会を喜び合う……なんてヒマはない。引きこもりの小心者に構っている場合ではないのだ。ランギヌスが加わるとは言え、キャメルフォードを奪還できるかどうかは五分五分だ。心してかかる必要がある。

 

「じゃあミレ、あたしたちも行くよ」

 

「ええ、姉さん」

 

 ミレは頷くと、レインを見て、「レイン様の活躍、期待してますね」と、軽い口調で言った。

 

 そして、ミラとミレも会議室を後にする。

 

「ミレ~」

 

 会議室から情けない声が聞こえてきたが、ふたりは無視してキャメルフォード攻略へ旅立った。

 

 

 

 

 

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