ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第一五〇話 ミリア 聖王暦二一八年二月上 カーレオン/ハーヴェリー

 カーレオン領ハーヴェリーの城に用意された自室で、絵描き騎士ミリアは絵の最終チェックをしていた。戦火から逃れる民衆の姿を描いた油絵『亡国の民』である。この絵に取り掛かったのは二一六年七月下――一年半も前だ。普通なら概ね一ヶ月もあれば大抵の絵は完成させられるのだが、この絵だけは膨大な時間を費やしてきた。どうしても描けなかったのだ。その理由は判っていた。これまでミリアは、旅の風景や出会った人々の笑顔など、美しいものや心安らぐものばかりを描いてきた。それが一転、『亡国の民』で描こうとしたのは、戦争の悲惨さ・愚かさという、あまりにも悲しいものだった。そのため、ミリアの心の中は描きたくないという気持ちが大きかったのである。描かなければいけないという使命感と、描きたくないという本心がせめぎ合う。つまり、心に迷いが生じていたのである。そんな状況で筆が進むはずもない。

 

 筆が止まるたび、ミリアは気分転換に旅に出て、友人と会ったり、旅先で出会った人と交流したりした。気分転換としては充分だったが、それでも、戻ってキャンバスの前に立つと、やはり筆は進まなかった。

 

 しかし、昨年の十月下、旅先の小さな町で出会った花売りの少女の話に大きなインスピレーションを受けたミリア。これにより、遂に絵が完成する目途が立った。その後、帰り道で迷子になったり、親友だと思っていたリカーラの裏切り(?)で一節の間休養を余儀なくされるなど、なかなか再開することができなかったが、十二月上、ずっと停滞していた工程がようやく進み始める。それから一ヶ月半。苦戦していた本塗りの行程を終え、この一節は細部の色を調整する仕上げに費やした。少しでも気になるところがあれば、納得いくまでやり直した。そしていま、最後のチェックをしている。隅から隅までチェックし、ミリアは確信する。もうこれ以上手を加える所は無い。

 

 それはつまり、この『亡国の民』が完成したことを意味する。

 

 ミリアは、ググッと縮こまって力を溜め。

 

「描けたああぁぁ!!」

 

 一気に力を解放し、両手を頭上に上げ、力の限り叫んだ。

 

「描けた! 描けた! あたしは描けたよおおぉぉ!!」

 

 すると。

 

「おめでとう!」

 

「やったねミリアちゃん!」

 

「すごいよ!」

 

 いつの間にか、ミリアの周りにはたくさんの人が集まり、ミリアに祝福の言葉と拍手を贈っていた。

 

「ありがとう! ありがとうみんな! あたしは描きました! 最後まで描き切りました!」

 

 ミリアは手を振って応える。そこへ、年配の司会者が現れ、「ミリアさんの絵が、遂に完成しました!」と宣言した。それに続き、アシスタントの若い女性が、「戦場の絵を描くために仕官したミリアさん。幾多の苦難を乗り越え、ようやくこの時を迎えました!」と、ミリアが絵を完成させるまでを簡単に説明する。その言葉に背中を押されるように、ミリアは()()()()()()()()()()。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()に、笑顔で手を振る。その姿に、さらなる拍手と歓声が送られる。中には、ミリアが絵を完成させたことが本当に嬉しいのか、涙を流す人もいる。

 

 やがて拍手と歓声はおさまり、会場は静けさに包まれる。みんな、息をのむような表情でステージ上のミリアを見つめる。

 

 ミリアは、ゆっくりと時間をかけ、集まった人々を見渡した。会場内は人で埋め尽くされている。事前の発表によると、なんと七万人もの人が集まったそうだ。それほど大勢の人が、ミリアの言葉を待っている。

 

 ミリアは、ゆっくりと話し始めた。

 

カーレオン(KLO)聖騎士団(ホーリーナイト)ハーヴェリー隊(チームH)所属、ミリアです。今日は、あたしの絵のためにお集まりいただき、ありがとうございます」

 

 ミリアは深く頭を下げた。再び拍手が送られる。ミリアは感謝の気持ちを表すため、長い時間頭を下げ続けた。しばらくして頭を上げ、ミリアは言葉を継ぐ。

 

「今回の『亡国の民』の完成には、本当に長い月日を要しました。一年半……これほど時間がかかった絵は初めてです。これほど絵を描くことに苦しんだのも初めてです。正直、何度もやめようかと思いました。あたしは苦しむために絵を描いているんじゃない、もっと楽しく絵を描こう……そんな風にも思いました。でも、同時に、やめたら後で絶対後悔するとも思っていました。だから、どんなに時間がかかっても、どんなに苦しくても、描き続けました。そしてあの日……山奥の小さな町で、あたしは一人の花売りの少女と出会いました。あの出会いが、絵を完成へと導いてくれました。この場を借りて、あの少女に改めてお礼申し上げます。花売りの少女ちゃーん! ホントにありがとー!」

 

 ミリアが遠くに向かって叫ぶと、会場は笑い声と拍手に包まれた。

 

 話を続けるため、ミリアはまた前を向いた。

 

 しかし。

 

「――――」

 

 続ける言葉に詰まる。言うべきかどうか、迷いが生じた。

 

 そんなわずかな気配に気づいた人たちが、小さくざわめく。心配そうに見つめる人々。しばらく沈黙が流れた。

 

 やがて。

 

「がんばれ!」

 

「大丈夫!」

 

「みんながついてるよ!」

 

 励ましの声が聞こえた。温かい言葉だ。それに勇気を貰ったミリアは、意を決し、さらに言葉を継ぐ。

 

「ここ数年で、絵を描く状況は一変しました。()()()()()()()により、あたしたち絵描きが長い時間をかけて描いていたものが、魔法を使えばわずかな時間で描けてしまう……時間と労力をかけなくても絵が描けてしまうんです。こんな時代が来るなんて、思ってもみませんでした。『魔法を使えば簡単に絵が描けるのに、なんでわざわざ自分の手で描くんですか?』そんな風に言われるもことあります。正直、あたし自身、そのことに悩む時もあります。これほど魔法技術が発展した世界で、あたしなんかの絵が求められているのだろうか……何度も悩みました。あたしだけではありません。多くの絵描きが、同じように悩んでいると思います。とても悲しいことに、悩んだ末に描くのをやめてしまった人も、何人もいます」

 

 不意に、涙が溢れてきた。描くのをやめてしまった人たちの顔が浮かんだのだ。やめただけでなく、ミリアの前から去り、今はどうしているのか判らない人もいる。その人たちも、やめたくてやめたわけではないだろう。その悔しさを思うと、涙が止まらない。

 

 だがミリアは、涙を隠すようなことはせず、決して顔をそむけたりもせず。

 

「でも、あたしは、絵を描くことに悩むたび、必ず同じ答えに行き着きます」

 

 ただ真っ直ぐに前を向いたまま、その気持ちを語る。

 

「あたしは、あたし自身が絵を描きたいから描くんだと」

 

 それは、ミリアの覚悟と決意であった。誰に何を言われようが関係ない。魔法を使って短時間で絵を描く人がいても、自分には関係ないのだ。ただ絵を描きたいから描く。それだけである。

 

 会場内は、再び拍手と歓声に包まれる。また涙が溢れる。さっきの悲しみの涙とは違う。今度は喜びの涙だ。自分の覚悟と決意を、これほど多くの人が支持してくれている。こんなに嬉しいことがあるだろか。

 

 ミリアは一度涙を拭い、さらに言葉を継ぐ。

 

「魔法は便利なものですから、どんどん使うべきだと思います。火を熾すなら木を擦り合せたり石を打ち付けなくてもフレイムの魔法を使えばいい、重いものを持ち上げるなら大勢人を集めなくてもパワードの魔法を使えばいい、急いで移動したいならアクセルやリアクトを、うるさい人にはサイレントやソリッドを使えばいいんです。私自身も、日々の生活でたくさんの魔法を使っています。作業を効率化させるという点においては、魔法は積極的に用いるべきでしょう。しかし、絵を描くことは作業ではありません、創作です! あたしは、絵を描くことを作業と勘違いしている人たちによって、創作者の努力が踏みにじられることがあってはならないと思います!」

 

 気持ちが(たかぶ)るあまり叫んでいた。その昂ぶりに応えるように、会場の人たちも沸き立つ。拍手と歓声だけでなく、指笛やメガホンを叩く音、地面を踏みしめる音や何かの楽器を吹き鳴らす音も聞こえた。様々な音が混じりあい、会場内はさながら雷鳴のような轟きが溢れていた。それは、ミリアの言葉に同意する声。みんな、ミリアと同じ気持ちを抱えていたのだ。

 

「だから! あたしは!」

 

 会場内の轟音をかき消すかのごとくミリアが叫ぶと、あれほどの音がピタリとやんだ。

 

 そして。

 

 ミリアは最後の言葉を叫ぶ。

 

「これからも、この手で、筆で、絵の具で! この胸の内から溢れる情熱を、想いを! あの真っ白なキャンバスにぶつけて行きたいと思います! 今日は本当に、ありがとうございました!!」

 

 会場は、割れんばかりの拍手と、ミリアへの祝福の言葉に包まれる。ミリアは手を振って応える。

 

「ありがとー! みんなありがとー!」

 

 ミリアに送られる拍手と歓声は、いつまでも会場内に響き続けた。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……ミリア殿、なにをされているのです」

 

「あら、エルオード、いたの」

 

 ミリアが我に返ると、そこは広い会場ではなく狭いハーヴェリーの自室で、七万人の観客などおらずミリアとエルオードの二人きりだった。

 

「大丈夫ですか? なにやら騒がしかったので覗いてみたのですが、もはや独り言なんてレベルじゃない声量で叫んでいましたよ?」

 

 エルオードは心配そうな口調で言う。と言っても、その心配はミリアを労わるものではなく、コイツ頭大丈夫か、というような感じである。

 

「ああ、気にしないで。ちょっと絵が完成した喜びに浸ってただけだから」

 

 ミリアは何事もなかったかのように言う。絵が完成したときのミリアはテンションが上がってだいたいいつもこうなるのだ。まあ、今回は完成までにかなり苦労した分、ちょっとハメを外しすぎてしまったかもしれない。

 

「ちょっとという感じではなかったように思いますが……いや、それより、とうとうあの絵が完成したのですか?」

 

「そうなのよ! ほら! 見て!」

 

 ミリアは胸を張って完成した絵を披露した。

 

 エルオードは絵を見た瞬間、「ほう」、と、感心した声を上げた。エルオードには、これまでにも何度か描きかけのものを見せたことがある。その時の彼の感想は「ぼんやりとしている」というものだった。エルオードは絵に関しては素人だが、この意見は実に的を射ていた。『亡国の民』は、滅亡した西アルメキアからカーレオンへ逃れてくる難民の姿を描いたものだ。戦火に焼かれた街から逃れる人々――赤子を抱いた母親や、老いた父を背負った青年、親とはぐれて途方に暮れる幼い兄弟など、皆、暗い顔でうつむき、生きることに絶望している姿を描こうとしたのだ。そのため、筆はなかなか進まなかった。エルオードの言う「ぼんやりとしている」理由は、悲しい絵を描きたくないミリアの心が表れていたのだ。

 

 しかし、完成した絵は、もうぼんやりなどしていない。

 

「素晴らしいですね。ミリアさんとしては初めて挑戦する種類の絵なのに、今までミリアさんが描いてきた絵の特徴も表れているように思います」

 

 エルオードの感想に、「でっしょー?」と言って、思わず指を鳴らすミリア。嬉しい指摘だった。彼には密かに絵の才能があるかもしれない。

 

「いやホント、あの花売りの少女ちゃんには、感謝してもしきれないわ。機会があったらお礼に行かなくちゃ」

 

 ミリアも改めて完成した絵を眺める。『亡国の民』は、人々の絶望した姿を描こうとしたから描けなかった。だからミリアは、あの日花売りの少女から聞いた話――タンポポのように戦火にも負けず立ち上がった少女の話を聞いて、絵の方向性を少しだけ変えた。

 

 赤子を抱く母親の顔に、我が子を守る決意を加えた。

 

 老人を背負う青年の身体に、たくましさを加えた。

 

 親とはぐれた幼い兄弟に、見知らぬ誰かが差し伸べた手を加えた。

 

 下を向いていた人々に、上を向かせた。

 

 絶望していた人々の目に、希望を加えた。

 

 ミリアは、『亡国の民』に、苦難に負けない人々の力を加えたのだ。

 

 妥協したとも言えるかもしれない。戦争の悲惨さを描こうとしていたのに、結局は苦難に負けない人々の力という美しいものを描いてしまったのだから。

 

 しかし。

 

『戦争の真実を描く』という思いからは、決して外れていない、と、ミリアは確信している。

 

 戦争はこの先も続く。同盟交渉は決裂し、三国入り乱れての戦いが始まった。近いうち、またどこかの国が滅びるだろう。それは最後の一国になるまで続くのかもしれない。

 

 それでも、きっと。

 

 人々は、戦争なんかに負けず、この先も生きてゆく。

 

 そう信じたからこそ、完成した絵だった。

 

「本当に苦労しましたね」エルオードはミリアを労わるように言った。

 

「ええ。こんなに苦労したのは今までないし、きっとこの先もないと思うわ。本当に、完成して良かった」

 

 もう一度絵を眺める。まあ、改めて眺めるまでもなく、自分で描いた絵なのだからこれまでも何度も見ているのだが、それでもじっと眺めてしまう。テーマ・構図・色使い・などなど、妥協せず描き続けただけあって、どれも文句のつけようもない。

 

「絵を描く魅力はたくさんあるけど、やっぱり、こうして完成した絵を眺めている時が一番ね。『こんな素晴らしい絵が描けるなんて、やっぱあたしって天才!』って思えるの」

 

 ミリアがそう言うと、エルオードは「ははは」と乾いた笑い声を上げた。「まさに自画自賛ですな」

 

「まあね。でも、画家なんてみんなそうよ? みんな、自分の絵が一番好きなの。ううん、画家だけじゃないわね、彫刻家も、陶芸家も、建築家も、小説家も、音楽家も、みんな、自分は天才だって思ってやってるんじゃないかな? じゃなきゃ、創作活動なんてやらないわよ。自分の思いが形になったとき、その作品と自分の才能に酔いしれる。これが、創作の醍醐味よ」

 

「私のような何の才能もない人間には、判らない世界ですね」

 

 苦笑いのエルオードに、「あら? そんなことないわよ。なんなら、エルオードも絵を描いてみたらいいじゃない?」と言った。ミリアの絵の問題点や特徴を的確に指摘するエルオードなら、きっと、彼なりの傑作を描けるはずだ。

 

 しかし、エルオードは「私が、ですか?」と、驚いたように目を丸くした。「私には無理ですよ。そんな才能はありません」

 

「何事もやってみないと判らないわよ」

 

「そうかもしれません。でも、私はいま、現実を生きることで精一杯ですから」

 

「あら、そうなの?」

 

「はい。戦争はまだまだ続きます。いつこの城にも敵が攻めてくるかわかりませんし、逆に敵国に攻めて行かなければならないかもしれない。私一人ならまだ良いのですが、今の私には仲間がいる。仲間の足を引っ張らないためにも、私はもっと強くならなければ」

 

「かたっ苦しいわねぇ。そんな気負わなくても大丈夫よ。もっと余裕を持って生きなきゃ。むしろ、エルオードみたいな人こそ、絵を描くべきよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「そう。絵ってね、人生と同じだと思うの。絵が、自分の思い描いた世界をキャンバスに広げるように、人生も、自分が思い描いた通りに世界に色を付けていくの。もちろん、絵も人生も、常に自分の思う通りに色を塗れる訳じゃあない。時には不協和音も混じるけど、そこにも、自分の色を落としてみるの。そうすれば、思いもよらなかった色が広がって、深みが出てくるかもしれない。そうやって、いろんな人と交われば、どんどん新しい色になっていけるわ」

 

「調和、ですね」

 

「そう。他にも、絵からは、人生に関するいろんなことを学べるわ。だから、あなたも仲間を信じて、たまには修行をサボりなさい。別に絵じゃなくてもいいのよ? スポーツでもいいし、本を読んでもいい。釣りやキャンプとかでも、ボードゲームや演劇鑑賞なんかでもいい。エルオードは手先が器用だから、DIYとか向いてるかもね。とにかく、戦いばかりに囚われてないで、何か趣味を持ちなさい。やりたいこともやれないようじゃ、なんのために戦ってるのか、わかんないでしょ?」

 

「そうですな」エルオードは頷いた後、「まあ、絵を描くことは、考えておきます」と言った。

 

「描きたくなったらいつでも言ってね。道具は揃ってるから」

 

「はい。しかし、ミリアさんには、いつも教わってばかりですね」

 

「ん? そう?」

 

「ええ。ノルガルドの山奥に引きこもっていてくれた私を誘いにきてくれた時もそうでした」

 

 そう言って、エルオードは昔を懐かしむような顔になった。

 

 エルオードは、元々はノルガルドの出身だ。ルーンの加護を持ちながらも、ノルガルドの気風が自分に向いていないから、と、国に仕えることはせず、山奥に引きこもって生活していたのだ。それをミリアは、「人生を変えてみない?」と、誘い出したのだ。

 

「ミリアさんには、本当に感謝しています。あのまま山奥にいたら、私の世界はとても狭いもので終わっていたでしょう。いま、私の世界はあの頃では考えられないほど広がっている。剣や盾や魔法など様々な技術を覚えて、たくさんの仲間に囲まれて……世界が広がったのは、ミリアさんのおかげです」

 

 エルオードの話に、ミリアはかぶりを振った。「そんなことはないわよ。世界が変わったのはエルオードの力。あたしなんて、ただ絵を描いてただけだから」

 

「そうかもしれませんが、そんなミリアさんの姿に、みんな勇気を貰うんだと思います」

 

 絵を描いてる()()という点は否定しないんかい、と思いつつも、そこは褒め言葉と受け取ることにして、「そう? だとしたら、あたしも嬉しいわ」と、ミリアは笑う。

 

「これからも、よろしくお願いします」エルオードは右手を差し出した。

 

「あら、なんだか照れるわね」

 

 ミリアはエルオードの手を握り返す。ふたりは固く()()の握手を交わす。

 

「――おや?」

 

 握手を交わしていたエルオードの目が、部屋の奥へ注がれた。

 

 そこには、もう一枚キャンバスが置いてあった。一面に青い絵の具を塗って広げたものだ。

 

「もう次の絵に取り掛かっているのですか?」エルオードは感心した声で言った。

 

「そうね」と、ミリアは答える。「取り掛かってるというか、あれはあれで、もうほとんど完成してるの」

 

「完成? あれでですか?」

 

「そうよ。綺麗でしょ?」

 

 ミリアは自信満々に言った。その絵は一見、一面青く塗っただけのように見えるだろう。だが、あの色を出すために、ミリアは様々な絵の具を混ぜ合わせた。青系統の色だけでなく、緑や黄や赤など、青とはかけ離れた色も混ぜ合わせ、中には絵の具ではないものも粉末状にして混ぜてみた。気に入った色があれば、かなりお高い鉱石も躊躇なく買ってすりつぶしてみた。そして、様々な試行錯誤の末に、ようやく満足する青を出せたのである。

 

 それは、()()()見た雲ひとつ無い青空を描いた絵だった。

 

「あの絵はね、ある人へのプレゼント用なの」と、ミリア。

 

「ある人へのプレゼント? 誰ですか?」

 

 首を傾けるエルオードに、ミリアは「へへーん」と、含みを持たせて笑い返した。

 

 

 

 

 

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