レオニアの片田舎から幼馴染のキルーフを追って聖都ターラやって来た少女バーリンは、同じく田舎から出てきたガロンワンドと共に、ターラの南西にある森の中にいた。ルーンの加護を持つ二人の仕官は認められ、現在は訓練を繰り返す日々である。今日の訓練は、屋外での生き残り術の修得だ。二人はこの森の中、最低限の道具だけで七日間過ごさなければならない。今日で五日目。多くの訓練兵が
今日も朝から罠の様子を見て回る二人。昼前には、木の枝に括り付けたロープに足を取られて逆さ吊りになっているウサギを見つけた。地面に輪っかにしたロープを置いておき、獲物が通りかかったら締まって捉える罠である。今日も食料の心配はない。丸焼きにするかさばいてシチューにするか。バーリンは今夜の献立を考えながら、ウサギを下ろそうとした。すると。
「――騎士様騎士様」
誰かが呼ぶ声がする。周囲を見るが、ガロンワンドしかいない。
「ガロン、何か言ったか?」
「いや、なにも?」
首を傾げるバーリン。確かに、今の声は甲高く、ガロンの声とは違う。いったい、誰だ。
「こっちです、騎士様」
声は頭上から聞こえてくる。見上げるが、宙吊りのウサギしかいない。
「そうです。私です。騎士様」
目が点になるバーリンとガロン。どうも、ウサギが喋っているように見える。
「その通りです。私が喋ってるんです」
「うわぁ!」驚いて後ろに跳ぶバーリン。「ウサギが喋った!?」
「ウサギだって、その気になれば喋りますよ。喋らないウサギは、その気になっていないだけです」
「そういう問題なのか?」ガロンと顔を見合わせるバーリン。
「さあ? まあ、ここは田舎の森と違うからな。都会の森なら、当たり前の現象なのかもしれん」
「……そういう問題なのか?」
納得のいかないバーリンだったが、実際に喋っているのだから認めないわけにはいかない。
「それで、騎士様」とウサギが話す。「私を捕まえたのは、やっぱり今晩のおかずにするためでしょうか?」
「え? まあ、そうだね」
「そうですか。ですが、私は見ての通り体が小さく、痩せて骨と皮ばかりなので、食べてもおいしくないでしょう。しかも、家では身重の妻と子供が、私の帰りを待っているのです」
「そうなんだ」
「そこでお願いです。私を助けてくれたら、お礼に、私の宝物をさしあげましょう」
「宝物? それは、なんだ?」
「それは、騎士様が私を助けてくれると約束してくれるまでお答えできません」
バーリンはガロンの方を向いた。「……っだってさ。どうする?」
「いいんじゃねぇの? そんなに食料に困ってるわけでもないし」
「そうだな。喋るウサギを食べるのも、なんだか気が引けるしな」
と、いうことで、バーリンはウサギを放してやることにした。
解放されたウサギは、ぺこりと頭を下げた。「ありがとうございます。宝物は、この先の木の根元の穴に隠してあります。では、これで失礼します」
ウサギはぴょんぴょん跳ねながら森の中へ消えた。
バーリンたちはウサギに言われた場所へ向かった。少し進むと、ウサギの言った通りの木を見つけた。根元に腕一本入るくらいの穴がある。バーリンは腕を入れてみた。何かが手に当たる。引っ張り出すと、それは一本の大きな白い羽だった。
「なんだ、これ?」
羽を頭上に掲げるバーリン。木漏れ日が羽に反射し、キラキラ輝いているように見える。穴の中にあったにもかかわらず、土埃ひとつついていない。なんの羽かは判らないが、水鳥の羽にしては大きいように思う。ひょっとしたら、ペガサスやホーリーグリフといったモンスターのものかもしれない。
「……何にしても、宝物っていうほどのモノじゃないね」バーリンは肩をすくめた。
「まあ、そう言うなよ」と、ガロン。「綺麗じゃないか。帰って、キルーフにプレゼントしてみたらどうだ?」
「あいつがこんなもの喜ぶかよ。ウサギを燻製にして持って帰った方が、ずっと喜ぶぜ」
「違いない」
まあしょうがない。バーリンは羽をポーチにしまうと、他の罠を見て回ることにした。残念ながらそれ以上の収穫は無く、その日は木の実や野草でシチューを作って食べた。