ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第三十二話 シャーリン 聖王暦二一五年七月下 ノルガルド/ハンバー

 ハンバー城をめぐる攻防は、佳境を迎えようとしていた。

 

 前王の娘ブランガーネが勝手に兵を動かしたことで、大きな隙ができたハンバー城。レオニアの氷の華と呼ばれる騎士・シャーリンはこの機を逃さず、仲間のイスファスと共に兵五万を率いてハンバーに攻め入った。戦況はレオニア軍の圧倒的有利であったが、大きな戦力差があるとは言え、一日二日で落とせるほどハンバー城の攻略は簡単ではない。それでも、シャーリンは的確に敵の弱い所を突き、徐々に追いつめて行った。だが、もう少しで城を落とせるというところで、西から援軍が到着した。ノルガルドの軍師グイングライン率いる兵二万である。

 

 ここで、シャーリンにはふたつの戦い方が用意された。援軍の対処はイスファスに任せ、このままハンバー城を落としてしまうか。先に援軍を叩き、その後ハンバー城を落とすか。

 

 前者の方が効率はいい。援軍と当たるイスファスの部隊には血を流させることになるが、城さえ落とせば援軍は撤退するだろう。城の陥落はもうすぐだ。結果として、被害は最少で済むはずだ。

 

 だが、シャーリンは後者を選んだ。援軍を率いているのが並の騎士ならばためらいなく前者を選んだが、それがノルガルドの軍師グイングラインなら、話は全く異なる。ノルガルドの頭脳と称されるヤツの首は、城三つ四つ分に相当するだろう。利はこちらの方がはるかに大きい。

 

 シャーリンは部隊を西へ向け、グイングラインの部隊と当たった。そして、突破力を駆使して敵部隊の中枢に迫り、グイングラインの姿を捉えたのである――。

 

 

 

 

 

 

 槍の穂先を敵に向け、シャーリンはグイングラインと対峙していた。グインも剣を抜き、構える。軍師とは言え、グイングラインは前王ドレミディッヅ時代から戦場を渡り歩いた生粋の武人だと聞いている。敵が迫れば、自ら剣を取って戦うのは当然だった。

 

 剣を構えたグインは、シャーリンを見つめ、静かに口を開いた。「女か……貴様、女の身でありながら、なぜ戦場に立つ?」

 

 シャーリンは小さく笑った。「おかしな質問だな」

 

「なに?」

 

「女が戦場に立つのがおかしいのか? そちらの国では女は王位を継げぬと聞くし、随分と女を蔑んでいるようだな」

 

 グインは苦笑した。「……確かに今のは失言だった。詫びよう」

 

「いや、詫びなど必要ない。私も、今の言葉はうかつだった」

 

「ほう?」

 

「男だ女だなどと、戦場ではどうでもいい事。ただ強い者が勝つ。それだけだ」

 

 シャーリンは、グインとの間合いを一気に詰めると、槍を突き出した。グインの剣がそれを受け止める。間髪入れず、二撃目、三撃目を繰り出す。グインの剣はそれらの攻撃も受け止める。四撃目は、大きく横に払われた。今度は、グインが間合いを詰めて来る。槍はリーチが長い分、懐に入られると不利だ。グインの剣が横薙ぎにシャーリンの腹を襲う。シャーリンは槍を引き、柄の部分で剣を受け止めた。完全に防いだつもりだったが、強烈な衝撃と共に、シャーリンの身体は後方へ大きく吹き飛ばされた。なんとか体勢を崩さずにすんだものの、やはり、グインはただの軍師ではない。シャーリンは再び槍を構えた。

 

「……惜しいな。我がノルガルドにこそ欲しい人材だ」グインは、まっすぐにシャーリンを見て言った。

 

「こんな時に勧誘か? 無駄なことだ。私は主君を裏切らぬ」

 

「だからこそ惜しいと言ったのだ……行くぞ」

 

 二人の槍と剣が交わる。お互い、一歩も引かない攻防が続く。

 

 再び二人の間合いが空いた時、シャーリンの後方からイスファスがやって来た。

 

「シャーリン! 撤退だ!! すぐに兵を退くぞ!!」

 

 信じられないことを言う。

 

「バカな! 戦況はまだ有利だ! なぜここで退かねばならぬ!!」

 

「独断で兵を動かしたことで女王がお怒りだ! すぐにダマスに戻れとの命令が出ている!!」

 

「ふざけるな! ここまで我が軍にも決して小さくはない被害が出ている! いま退けば、すべてが無駄になるのだぞ!」

 

「シャーリン! これは女王直々の命令だ! 命令には従う、それが武人だ!!」

 

 シャーリンは槍の先でグインを捉えたまま、ぎりぎりと歯を噛みしめていたが。

 

「――くそっ!!」

 

 槍を下げ、兵たちに撤退を命じ、自らも下がった。

 

「……本当に、惜しい人材だ」

 

 背後でグインの言葉が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

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