ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

40 / 165
第四十話 カイ 聖王暦二一五年七月上 カーレオン/ソールズベリー

 魔導国家カーレオンの静かなる賢王カイは、家臣たちと共にソールズベリー城の会議室にいた。ソールズベリーはエストレガレス帝国の南の玄関口とも言える城で、南はカーレオン領ハーヴェリーとイスカリオ領ザナス、東にはイスカリオ領アスティンがあり、北部はオルトルートとカーナボンという城に繋がっている。帝国にとっては極めて重要な城のひとつだが、先月上旬、カーレオンはこの城に侵攻し、見事、帝国から奪い取ったのである。

 

「――いきなり帝国に侵攻し、重要拠点のひとつを占領するとは、静かなる賢王様も、なかなか思いきったことをなさいますな」

 

 会議室の円卓の座で、ナイトマスターのディナダンが言った。カーレオン騎士団をまとめる隊長で、フォルセナ1と噂される剣士だ。カイが最も信頼を寄せる男だが、主君に対しても皮肉や軽口を叩くのが玉にキズだ。

 

「ホント、あたしも驚いちゃった」カイの妹のメリオットも言う。「お兄ちゃんのことだから、しばらくは何もせずに戦況を見守るだけだと思ったのに」

 

 カイは苦笑いを浮かべた。「護りが甘かったからね。帝国にとってこのソールズベリーは南の心臓部とも言えるくらい重要な城なのに、守備に就いていたのはあまり名の知られていない騎士だった。恐らく帝国は、クーデター後の混乱から抜け出していないんだろう。うちの戦力でも十分に勝ち目があったから、攻めたまでだよ」

 

 ディナダンは腕を組んだ。「しかし、早期にこの城を占領したのは、懸命だとは思えませんな。陛下の仰る通り、帝国にとってこの城は極めて重要な拠点です。奪われたままにしておくはずがありません。恐らく、この後全力で奪い返しに来るものと思われます。今の我らの戦力で、はたして防衛できるでしょうか?」

 

 ディナダンはそう言った後、「もちろん、凡人の浅はかな考えですがね」と、とぼけた顔で付け加えた。

 

「ディナダンの言う通りだよ。我が国だけならば、このソールズベリーを占領したのは賢明とは言えない。ここを占領したのはカーレオンのためではなく、西アルメキアへの支援だよ」

 

「と、仰いますと?」

 

「西アルメキアは、五月の下旬に帝国からキャメルフォードを攻められた。帝国の総大将はカドール。対して、西アルメキアはランス王子を総大将にせざるを得ない状況だ。ランス王子には申し訳ないけど、はっきり言って絶望的な戦いだった。実際、わずか半日でキャメルフォードは陥落している」

 

 キャメルフォードは西アルメキアの首都カルメリーに直結している重要拠点だ。ここを帝国に占領されたことは、西アルメキアが極めて危機的な状況に陥ったといえる。下手をすると、開戦直後にもかかわらず西アルメキアは滅亡しかねない。

 

 カイは続ける「帝国軍は、元々はフォルセナ大陸で最強を誇った軍だ。西アルメキア軍との武力の差は歴然だろう。このまま帝国が西アルメキア侵攻に集中すれば、彼等だけでは太刀打ちできない」

 

「そのための支援、という訳ですか」ディナダンが言う。「確かに、帝国もソールズベリーを落とされては、南部に兵を集めざるを得ませんな」

 

「加えて、帝国は北西の重要拠点であるオークニー城をノルガルドに奪われている。ここも無視することはできない。だから、帝国はこの後、このソールズベリー城とオークニー城を奪還する作戦に出るはずなんだ」

 

「その隙に、西アルメキアはキャメルフォードを奪い返す、と……つまり、我らは西アルメキアのためのおとりになった、という訳ですな」

 

「おとりと言うと聞こえが悪いかな。あくまでも、支援だよ」

 

「まあ、開戦数ヶ月で西アルメキアに滅亡されたのでは、確かに困りますからな」

 

 現在カーレオンと西アルメキアは同盟関係にある。この同盟により、カーレオンは北方面の護りを気にする必要はなく、東のイスカリオやエストレガレス帝国との戦いに集中できるのだ。決して兵力が十分でないカーレオンにとっては、この同盟は極めて重要である。

 

 カイはさらに話を続ける。「エストレガレス帝国軍の武力は間違いなくフォルセナ大陸一だけど、国土が広いから、隣接する国が多いのが弱点だ」

 

 メリオットが頷いた。「確かに、帝国は、北にノルガルド、西に西アルメキア、南にカーレオンとイスカリオがあるから、東以外は敵国だらけね」

 

「どこかに兵を集中させれば、必ずその他にほころびが生じる。我々が強大な帝国軍と戦うためには、この弱点を突いて行くしかないだろうね」

 

「なるほど。賢王様の深~い考えは判りました」ディナダンが皮肉っぽい口調で言う。「それで、この後の作戦は、どうお考えで?」

 

「しばらくは様子見かな。これ以上の侵攻は、さすがに危険すぎるからね。まずは、西アルメキアがキャメルフォードを取り返すのを待とう。もちろん、その間に我が国も軍事力を蓄えておかないとね」

 

 そう言った後、カイは円卓に座る騎士たちをぐるりと見回した。ディナダンとメリオットの他に、シェラとシュストという二人の騎士が座に就いている。

 

 シェラは女魔術師で、かつてはカイと共に旧アルメキアに留学し、魔導を習った仲である。カーレオンではカイに次ぐ実力を持つ魔術師だ。カイが大陸一と噂される魔術師であることを考えると、その実力は計り知れないものがある。ちなみに年齢に関して本人は黙して語らないが、カイが「シェラさん」と呼んでいることから、二十五歳のカイより年上であることはほぼ間違いない。

 

 もう一人のシュストは、ディナダンの部下であり友人だ。武器に頼らず己の肉体のみで戦う拳士であり、曲がったことが大嫌いな熱血漢である。毒舌家のディナダンとは衝突が絶えないが、それもまたお互いを信頼している証であるとも言える。

 

「このソールズベリーの護りは、シェラさんとシュストに任せるよ」カイは、二人に命じた。

 

「お任せくださいませ」と、シェラが上品な口調で言う。「わたくしの目の黒いうちは、誰であろうとこの城より先には進ませません。カイ様には指一本触れさせませんわ」

 

 シュストは熱い口調で言う。「我が拳に賭けて、この城は護ってみせます!!」

 

「お兄ちゃんとディナダンはどうするの?」メリオットが小首を傾げた。

 

「ディナダンには、南のハーヴェリーの守備を任せるよ。僕とメリオットは、本国に帰って軍の強化かな」

 

 メリオットは、「うーん」と唸った。「こう言っちゃ失礼かもしれないけど、このお城の警備、シェラさんとシュストさんだけで大丈夫? せっかく帝国から奪ったお城なのに、簡単に奪い返されたら、もったいないよ」

 

 シェラがメリオットを睨んだ。「ホントに失礼ですわね、メリオット姫。わたくしの魔力にかかれば、たとえ相手が帝国の騎士であろうと、ひとたまりもありませんわよ」

 

「ご安心ください! メリオット姫!!」シュストは左の掌に右の拳を打ち付けた。「クーデターで国を乗っ取るような騎士は、我が拳で、その曲がった根性を叩き直してやりますよ!!」

 

「いや、二人とも、そう無理はしなくてもいい」と、カイが言った。「二人の実力を疑うわけじゃないけど、この城は、あくまでも西アルメキアの支援のために占領した城だ。今のカーレオンにとって、さほど重要な城ではない。むしろ、重要なのはハーヴェリーの方さ。あそこはカーレオンの玄関口だ。いまハーヴェリーを落とされると、この城に残るシェラさんたちは退路を断たれ、取り残されることになるからね」

 

「責任重大ですな」ディナダンは苦笑いをする。「シュストだけなら取り残されても知ったことではないですが、シェラ殿がいらっしゃるとなると、負けるわけにはいかなくなりました。万が一のことがあれば、陛下が悲しみますからな」

 

「さすがはナイトマスター殿。判っていらっしゃいますわね」シェラは嬉しそうに笑った。

 

「まあ、そういう訳だから――」とカイが話す。「シェラさんとシュストは、いざとなったらこのソールズベリーは放棄してもらって構わない。ディナダンは、何が何でもハーヴェリーを護るように」

 

「まあ、レディを護るためならば、仕方ありませんな」

 

「シュストさん、頑張ってね!」メリオットが両手の拳を握って胸の前で振った。「シェラさんも、無理はしないでね。もういい歳なんだから」

 

 いい歳――そう言われたシェラの顔が、みるみる赤くなっていく。頭からは湯気が出そうだ。

 

「――お黙りなさい!」

 

 上位の稲妻魔法を使わんばかりの勢いで、シェラはメリオットを一喝する。

 

「きゃ! ごめんなさ~い」メリオットはカイの背後に隠れた。

 

「……やれやれ」

 

 カイは小さくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。