カーレオン領ハーヴェリー攻めを中止したイスカリオの狂王ドリストは、軍を反転させ、エストレガレス帝国に奪われたアスティン城に攻め入った。アスティンは平原の真ん中に立つ城で、西へ少し行ったところに多少の森林地帯があるものの、他には障害になるものがほとんど無い地域だ。故に、この城を攻めるのに小細工は必要ない。定石通りまずは城壁を昇って壁上を制圧、その後城内へ下りて内側から門を開け、一気に兵を送り込むのだ。アスティン城を囲む城壁の上では、帝国兵とイスカリオ兵が乱戦を繰り広げていた。
「へっ! ザコどもが。オレ様のいない間に城をかすめ取るなんてセコいマネしてんじゃねーよ!!」
大鎌の一閃で多くの帝国兵をなぎ倒した狂王ドリストは、鎌を肩に担いでそう言った。戦況はイスカリオが有利だ。この城は元々イスカリオのものであり、弱点も強点も心得ている。加えて、アスティンを制圧したエストレガレス兵のほとんどは現在レオニアへと侵攻しており、残された兵の数はかなり少なかった。壁上の戦いはイスカリオ軍が大きく押している。特に、ドリストが自ら指揮しているこの南壁の戦況は圧倒的で、制圧は目前だった。
「いや~、さすがは陛下! かつてはアルメキアで最強を誇ったエストレガレス軍相手に一方的な展開! このキャムデン、誠に感服いたしま――がべぇら!!」
揉み手をしながらやって来た奴隷キャムデンの頭を、ドリストは拳で殴りつけた。「たわけが!! こんなザコどもに城を奪われるとはなんたるザマだ! てめぇとアルスターは百万回死刑だ!!」
「申し訳ありません! いえ、わたくしは相手が帝国とはいえ命を賭けてでも城を護りきる覚悟でしたが、あのアルスターめが勝手に退却などしはじめまして――あぐヴぁ!!」
「てめぇの見え透いた言い訳なんざどうでもいいんだよ! ザコども相手にオレ様の手を煩わせるんじゃねぇ! これ以上死刑の数を増やされたくなけりゃ、さっさと行って帝国のヤツらを皆殺しにして来い!!」
「か……かしこまりました!」キャムデンは殴られた顎をさすりながら兵に命令を出す。「皆の者! 南壁の制圧は目前です! このまま一気に城内へ攻め込み、門を開ければ、もう我らの勝ちですぞ!」
キャムデンの掛け声に応えるように、イスカリオの兵は次々と敵を倒してゆく。西、東、そして北の城壁の戦況も、ここから見る限りは問題なさそうだ。
「ケッ。こんなことなら、わざわざオレ様が出て来ることなかったぜ」ドリストは大きくあくびをした。「つまらんなぁ。帰って昼寝でもするか」
ドリストが城壁を下りようとしたときだった。
巨石を鋼鉄で叩いたような鈍い音が響き渡り、イスカリオ兵が数十人まとめて弾き飛ばされた。
「ん~? なんだぁ~?」
音がした方を見るドリスト。もう一度鈍い音がして、また兵が数十人弾き飛ばされる。眠そうだった目が、一瞬で鋭くなった。
そこでは、悪魔の骨面を付けたひときわ背の高い男が、身の丈を超える大斧を振り回していた。
「むむ! あの者は!!」
キャムデンが懐からメモ帳を取り出し、パラパラとめくるが。
「あんちょべれ!!」
後ろからドリストの回し蹴りが飛んできて、吹っ飛ばされた。
ドリストは骨面の男に鎌を向けた。「おい! てめぇはカドールだな!!」
骨面の男の斧が止まる。いつの間にか、二人の間に他の兵はいなくなっていた。
「ふん、狂王ドリストか。良い獲物だ」大斧を構えるカドール。その骨面が嘲笑しているように見えた。
「んっふっふ~。会いたかったぜデスナイト」
「なに?」
ドリストは、子供のように目を輝かせた。「ナイトマスターとの勝負をキャンセルして来た甲斐があったぜ。そのイカれた骸骨の仮面とムダにデカい斧……オレ様と趣味が合いそうじゃねぇか。すぐにぶちのめして、てめぇの首ごとオレ様のコレクションに加えてやるぜ!! ぎゃーっはっはっは!」
「ふん。道化めが。やれるものならやってみるがいい!」
カドールは一気に踏み込み、大斧を振るう。ドリストも、大鎌で迎え撃つ。
二人の武器がぶつかり合い、火花を散らした。