ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第五十四話 メルトレファス 聖王暦二一五年五月下 西アルメキア/キャメルフォード

 パドストーに逃げ込んだ旧アルメキアの王太子ランスを討つため、大陸最“凶”のデスナイト・カドールは兵十万を率い、パドストーの国境の都市キャメルフォードを攻めた。対するパドストー改め西アルメキアは、老王コールから国の全権を任されたランスを総大将とする兵十万で迎え撃つ。

 

 攻防戦が始まってまだ二時(ふたとき)ほどだが、戦況はすでにエストレガレス側に大きく傾いていた。かつてフォルセナ大陸最強と謳われたゼメキス軍で第二将を務めていたカドールの部隊の突破力は凄まじく、西アルメキア軍に正面からぶつかり、これらを蹴散らしながら、一気に総大将ランスがいる後方の本陣へ迫ったのである。

 

 しかし、もう少しで本陣に手が届くというところで、カドールの部隊の勢いが止まった。アルメキア時代にランス親衛隊の隊長を務めたゲライントの部隊とぶつかったためである。ゲライントは、親衛隊長となる前はノルガルドのいくさにも参加し、数々の武功を挙げ、『百戦のゲライント』の二つ名で知られた猛者だ。いかにカドールと言えど、そう簡単に倒せる相手ではなかった。

 

 だが、この展開はカドールにとって想定内であった。

 

 カドールは自身の隊がゲライントの部隊とぶつかり足が止まったのを見て、部下達の部隊を周囲に展開させた。ゲライントの部隊を自分の部隊に引きつけている間に、部下達に敵本陣のランスを狙わせる作戦である。

 

 カドールの部下の一人であるメルトレファスは、自分の運の良さに身体の芯から震える思いだった。今、彼の目の前には敵の総大将であるランスがいる。ヤツの首を取れば、このキャメルフォードのいくさだけでなく、西アルメキアとのいくさに勝利することにもなる。とてつもなく大きな手柄だ。

 

 カドールの部下の中で、メルトレファスの序列は高くない。と言うより、はっきり言えば一番下っ端の騎士である。彼がカドールの部隊に配属されたのは、一年前のノルガルドとのいくさが終わった後であり、戦場の経験は二月下旬のクーデターの夜に続きまだ二度目だ。新米騎士と呼んでよいレベルだが、今回はそれが幸いした。名のある騎士の部隊が次々と敵本陣を守る部隊に足止めされる中、メルトレファスはそれらの合間を巧みにかいくぐり、見事、敵将と相見えたのである。

 

「お前がランスだな! その首貰った!!」

 

 メルトレファスは高ぶる気持ちを抑えることもなく、声高に叫んだ。不意打ちで倒すつもりなど毛頭無い。正面から戦って首を取らねば意味が無いとさえ思っていた。

 

 ランスの顔に焦りが浮かぶ。ランスはまだ十五歳、それも、これが初陣のはずだ。それがいきなり敵の騎士に迫られれば、冷静でいられるはずもない。

 

 だが、ランスは気丈にも腰の両脇に携えた二本の剣を抜き、構えた。「来い! 非道な帝国の騎士などに、私は負けない!」

 

「帝国が非道だと? 何をバカなことを!」

 

「武力で国を奪い、大陸中を戦火に巻き込もうとするお前たちを、非道と言わずに何と言うんだ!?」

 

「はん! 大した力のないガキが粋がるな! お前の国は力がないから滅びたんだ。力のない王が国を治めていたのが間違いだった! より力のある者が、国を、そして大陸全土を支配する。これが正しい流れだ!」

 

「違う! 何が正しくて何が間違っているのかを決めるのは力なんかじゃない!」

 

「知ったふうな口を利くな! 行くぞ!!」

 

 メルトレファスは両手で剣を構え、ランスに向かって突進した。

 

 その前に、槍を携えた兵士が立ち塞がった。ルーンの加護を受けた騎士ではない。ただの護衛兵だ。

 

「邪魔だ! あいつらをどかせろ!」

 

 メルトレファスは部下に命じた。彼の横を、漆黒の毛並みをした大型犬が二匹走り抜け、護衛兵に跳びかかった。地獄の番犬の異名を持つモンスター・ヘルハウンドだ。

 

 ヘルハウンドは鋭い牙と爪で護衛兵に一撃喰らわせると、すぐさま後方へ跳んで間合いを取り、敵の反撃をかわす。そしてまた素早く飛びかかり、攻撃する。ヘルハウンドは素早い身のこなしで接近して攻撃し、また離れるという戦法を得意とするモンスターだ。

 

 さらに。

 

「――よし、今だ!」

 

 メルトレファスが命じると、二匹のヘルハウンドは敵兵から間合いを取り、口を大きく開けた。そこから吐き出される灼熱の炎! 炎は護衛兵の身体を包み、焼き尽くす。この炎の息こそが、『地獄の番犬』と呼ばれるゆえんだった。

 

 護衛兵を失ったランスに、メルトレファスは剣を振るう。

 

 がしん! と、堅い手応え。ランスの首を狙った攻撃は、交差した二本の剣に受け止められた。ランスはメルトレファスの剣を押し返し、左右の剣を同時に振るう。アルメキア王家に代々伝わるという、二刀流の剣術だ。メルトレファスは両手持ちの剣で受け止める。そして一旦間合いを取ると、また踏み込んで剣を振るった。

 

 何度か剣を交え、メルトレファスは確信した。ガキにしては悪くない剣の腕だが、まだまだ未熟だ。これならば、俺一人でも十分に倒せる。

 

 勝利を確信したメルトレファスは、こちらからは攻めず、相手の攻撃を受けながら隙を窺う。その時はすぐに訪れた。ランスの二本の剣の大振りの攻撃を見切ったメルトレファスは素早く相手の右側に回り込んだ。ランスの剣が大きく空振りし、頭が隙だらけになった。そこを狙い、剣を振り上げた。勝った、という思いがあった。

 

 しかし、そのとき。

 

 突然、周囲が暗い影に覆われた。

 

 ――なんだ?

 

 メルトレファスが見上げると、空を覆うばかりの巨大なドラゴンが羽ばたいていた。灼熱の炎を思わせる深紅の鱗に覆われたドラゴン・サラマンダーだ。メルトレファスが引き連れているヘルハウンドとは格が違う、最上級のモンスターである。

 

 メルトレファスに向けて大きく口を開けるサラマンダー

 

 ――なにっ!!

 

 その口から、ヘルハウンドの数倍の威力がある炎が吐き出され、メルトレファスを包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

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