ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第五十五話 ティース 聖王暦二一五年七月下 イスカリオ/――――

 元不良少年でイスカリオの新米騎士であるティースは、王都カエルセントの東に広がる山の中にいた。山間に小さな集落が点在する地域だが、最近この周辺で、トカゲに似たモンスターの目撃情報が多くなっているのだ。マナの力で召喚されたものの、何らかの事情によって逃げ出し、野生化したモンスターだと思われる。こういった野生化したモンスターは年々増えている傾向にあり、人が襲われる例も多く、大陸全土で社会問題化している。エストレガレス帝国のとある地域では、野生化した火竜サラマンダーの目撃情報もあるくらいだ。

 

 モンスターを召喚したのは騎士なので、野生化したモンスターがいた場合、捕獲するか最悪処分するのが騎士の務めだ。しかし、今はいくさ中であまり人手は無い。そもそもこの国には『野生化したモンスターの捕縛は騎士の務め』などと言う真面目な騎士が少ないのだ。幸いと言うべきか、トカゲに似たモンスターならリザードマンであろう。リザードマンは、その名の通りトカゲと人間が合わさったようなモンスターだ。人間よりやや小柄で知能も少々低いが、武器や防具などの道具を使いこなすくらいの知恵はある。沼地や池などの湿地帯を好むが、陸上でも十分行動可能。水陸両用が特徴のモンスターだ。どちらかと言えば下級のモンスターで、新米騎士でも十分対応できるだろう。ということで、腕試しを兼ねてティースが向かうことになったのである。

 

 現地で聞き込みをしたティースは、モンスターがねぐらにしているという洞窟にやって来た。慎重に足を踏み入れる。かなり深い洞窟のようで、たいまつを灯しても奥までは見えない。周囲を警戒しつつ、ゆっくりと進む。洞窟内の壁にはところどころ手を加えたような跡があり、どうも天然の洞窟ではなさそうだ。

 

 さらに奥へと進むと。

 

 がさり、と、正面で何かが動いた。リザードマンか? 剣を構え、たいまつを掲げながら、ゆっくりと慎重に近づくティース。たいまつの明かりが闇に隠れていたものを少しずつ暴き出す。モンスターらしき影が見える。あまりにも大きい姿だった。人間よりもやや小柄、なんてものではない。ティースの身体よりもはるかに大きく――いや、イスカリオの騎士の中で最も身体の大きいバイデマギスの三倍以上はある。これはどう見てもリザードマンではない。

 

 闇に潜む大きな影が動いた。こちらに近づいて来る。たいまつの炎がモンスターの全てを照らした。姿だけ見れば確かにトカゲに見えなくもないが、大きさがあまりにも違いすぎる。

 

 これは、四足歩行する巨大な竜・ドラゴンだ!

 

 ティースの背を冷たい汗が流れた。ドラゴンと言えば上級モンスターの筆頭である。新米騎士の自分には、とても勝ち目はない。不幸中の幸いか、背中に羽は生えておらず、身体を覆う鱗は緑色、言うなれば基本に忠実なタイプのドラゴンである。鈍重だから逃げ出せば追いつかれることは無いだろうが、背を向けた瞬間口から炎を吐く恐れがある。それに、例え勝ち目がないとはいえ、モンスター相手に尻尾を巻いて逃げたなんてことがドリスト陛下にバレたら、どんな目にあわされるかわからない。それだけならまだいいが、そのことがもし愛しのユーラの耳に入れば、臆病者と思われるかもしれない。

 

 しかし、逆に言えば、ここでドラゴンを捕縛、あるいは倒すことができれば、株は急上昇するだろう。

 

 ――ティース! 騎士になったばかりでドラゴンを倒すなんてスゴイね! これはお祝いよ! チュッ♪

 

 なーんてことになるかもしれない。

 

 よし、やるぞ! 意を決し、ドラゴンと対峙するティース。

 

 だが、張り切るティースに反し、ドラゴンの方は敵意も警戒心も見せなかった。寂しそうな顔で近寄って来る。攻撃するそぶりは全く無い。さかんに鼻を摺り寄せて来る。

 

「……おまえ、寂しいのか?」

 

 ドラゴンは、まるで小犬のように悲しげな声で鳴いた

 

「じゃあ、俺と一緒に来るか?」

 

 そう言うと、その言葉が通じたかのように、ドラゴンは嬉しそうに鳴いて尻尾を振った。

 

 ティースは、ドラゴンを連れて城に戻った。すると、「お? ボウズ、ドラゴンを捕まえたのか? なかなかやるじゃねぇか」「これは将来が楽しみでヤンスねぇ」「ティース、スゴイね」「がーっはっはっはー!! これは褒美だボウズ! 受け取れ!! チュッ♂」と、みんなが褒めてくれた。残念ながら目的の相手からの『チュッ♪』ではなかったものの、特に何もしていないのにドラゴンを配下にし、みんなからは褒められ、悪くない気分だった。

 

 

 

 

 

 

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