ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第五十九話 ハレー 聖王暦二一五年十月上 西アルメキア/カルメリー

 仇を求めて大陸をさすらう女騎士ハレーは、レオニアを離れ、再び西アルメキアに戻っていた。旧アルメキアの王太子であり、現在はこの国の君主であるランスに会うためだ。目的は、西アルメキアへの仕官だった。ハレーは、流れるような槍捌きから『流星のハレー』との異名を持ち、旧アルメキアでクーデターを起こしたゼメキス相手に一歩も退かずに戦ったほど武術に長けている。ゼメキスと五分に戦える騎士などフォルセナ大陸に数えるほどしかいないが、それほどの実力を持ちながらも、これまでどこの国にも仕官したことは無い。以前、ランスに勧誘された時も断った。愛する者の命を奪った仇・魔導士ブロノイルを討つまで、どこの国にも、どの君主にも仕えるつもりは無かったのだが。

 

 ハレーは謎の魔導士ブロノイルに関して調査を進めるうち、旧アルメキア時代、当時軍総帥だったゼメキスの周辺にそのような名前の魔導士がいた、との証言を得ることができた。具体的に何をしていたかなどの詳しい情報は得られなかったものの、もしゼメキスと深い繋がりがあったとすれば、極めて重大な問題であった。ゼメキスがクーデターを成功させた裏で、その謎の魔導士が暗躍していたかもしれないのだから。

 

 さらに調査を進めた結果、ブロノイルは東へ向かったとの情報を掴み、ハレーは東の宗教国家レオニアへと向かった。そこで、予想だにしなかった事態が起こる。帝国のデスナイト・カドールや新たに軍総帥となった魔術師ギッシュら『帝国四鬼将』が、部隊を率いてレオニアへ侵攻したのだ。帝国軍はその圧倒的武力をもってレオニアの拠点を次々と落とし、聖都ターラへと迫った。これに危機感を抱いたレオニア女王リオネッセは、北の大国ノルガルドへ助けを求めた。ノルガルド王ヴェイナードは、ノルガルドとレオニアが併合することを条件に女王の要請を受け入れ、レオニアへ派兵した。ノルガルドからの援軍を受けたレオニアはなんとか帝国の侵攻を食い止めたものの、女王リオネッセはヴェイナードの后となり、レオニアはノルガルドと併合。これは、事実上のレオニア滅亡であった。

 

 ハレーが聖都ターラに着いた時、レオニアはノルガルドと併合した後だった。そこで調査を進めるうちに、かつてレオニアで軍師を務めたという男から話を聞くことができた。彼の話はハレーを驚かせた。レオニアが帝国の侵攻を受ける直前、女王がブロノイルと名乗る魔導士に襲撃されていたというのである。開戦後もいくさに消極的で他国へ侵攻しようとしない女王リオネッセを排除し、いくさを好む別の者を王に据えようというのがその目的であったらしい。この企みは部下の騎士の活躍により阻止されたものの、ブロノイルは去り際に「すでに他の手は打ってある」という言葉を残した。その直後の帝国の侵略、そして、ノルガルドとの併合だ。結果的に、女王は排除されたことになる。

 

 帝国と旧レオニアで得た情報。このふたつから、ハレーの頭に恐ろしい考えが浮かんだ。

 

 ――ブロノイルは、今回のフォルセナ大陸全土を巻き込んだ大戦を引き起こし、更に戦乱を煽ろうとしているのでは?

 

 あまりにも突飛な話だ。飛躍しすぎているようにも思う。特に帝国で得た情報には不確かなことが多い。そこから無理に答えを導き出しても、それは妄想の域を出ないだろう。だが、捨て置くことなどできるはずもない。ゼメキスが不可能と思われたクーデターを成功させた裏には、なんらかの大きな力が働いていたとしか考えられないのだ。帝国の不可解なレオニア侵攻も、ブロノイルの暗躍があったとすれば納得がいく。

 

 しかし、なぜ大陸中を巻き込んだ大戦を引き起こし、更に戦乱を煽ろうとしているのか? その理由は、いくら考えても判らなかった。

 

 ハレーはその後も調査を進めたが、それ以上ブロノイルに関する情報は得られなかった。だが、ヤツの目的がこの戦乱を煽ることならば、近いうちにまた何か行動を起こすだろう。ハレーは、西アルメキアへの仕官を決意した。戦場に身を置けば、必ずブロノイルが何か仕掛けて来る、そう考えたからだった。

 

 カルメリー城の謁見の間でランスを待つハレー。しばらくして、ランス現れた。

 

「――お久しぶりです、ハレーさん!」

 

 ランスは高座の椅子には座らず、ハレーのそばにやって来た。彼の後ろには、側近の騎士ゲライントの姿もある。

 

「ご無沙汰しております、ランス様」ハレーは頭を下げた。「……少し、背が伸びましたか?」

 

「そうですか?」ランスは首を傾けた。「そんなことはないと思いますが……」

 

 ハレーがランスと別れてからまだ半年程しか経っていない。ランスの十五歳という年齢を考えると急激に背が伸びても不思議ではないが、そばに控えているゲライントと比較すると、確かに以前とあまり変わっていないようにも思える。

 

 ハレーは小さく笑った。「そうでしたか。では、ランス様が人間的に成長されたのでしょう」

 

「そんな……それこそ、思い違いですよ」ランスは照れたように笑った。

 

 冗談めいて言ったハレーだったが、人間的に成長したというのは、大いにあり得ることだった。ランスは五月、帝国を相手に十万対十万の大きないくさを経験している。しかも、敵軍を率いたのは大陸最凶と名高いデスナイト・カドールだ。ランスはこのいくさには敗れたものの、十五歳の少年が成長するには、十分すぎる経験だろう。

 

「それで、ハレーさん。今回は、どのようなご用件でしょうか? もしや、仇を討つことができたのですか?」

 

 ランスの言葉に、ハレーは視線を落とし、首を横に振った。「いいえ。残念ながら、まだ討てておりません。それどころか、正体すらつかめぬ有様です。大陸の各地で、噂を聞くことができるのですが……」

 

 ハレーは、ランスとゲライントにこれまでの経緯を話した。旧アルメキアのゼメキスの周りで姿を見た者がいること、レオニア女王を襲撃し、失敗後、帝国がレオニアを攻め、ノルガルドとレオニアが併合したこと、など。話を聞いたランスとゲライントは、衝撃を隠せない様子だった。

 

「……不確かな情報です。ランス様は、深く考えない方がよろしいかと思います」ハレーは最後に付け加えた。

 

「そうですね……しかし、もしそれが真実だとしたら、恐ろしいことです」

 

「仰る通りです。そこで、ランス様にお願いがあるのです」

 

「お願い? 何でしょう?」

 

「このハレーに、ランス様と共に戦うことをお許しいただきたいのです」

 

「私と共に戦う? それは、この国に仕官していただけると言うことですか?」

 

「はい。前回お会いしたときに断わっておきながら、誠に厚かましいお願いではあるのですが」

 

「いえ、とんでもない! 大歓迎ですよ! でも、ブロノイルの件は良いのですか?」

 

「これ以上一人で調査しても、進展は無いかもしれません。しかし、ヤツの目的がこの戦乱を煽ることならば、戦場に身を置けば、必ず何かしらの手掛かりを掴めるはずです。私情ばかりで、本当に申し訳ありません」

 

「そんな、謝らないでください。前回は、私とハレーさんの目指す道が違っていた。でも今は、それが同じ方向を向いている。それでいいじゃありませんか」

 

「ありがとうございます、ランス様」ハレーは、右の拳を握って左胸に当てるアルメキア流の忠誠を誓う仕草をした。「このハレー、必ずやランス様のお役にたって見せます」

 

 ランスも同じ仕草で応えた。「はい。期待しています、ハレーさん」

 

「それと、もうひとつ」ハレーはさらに続けた。「私の他に、もう一人、この国へ仕官を希望している者がいるのですが、お会いしていただいてもよろしいでしょうか?」

 

「在野の騎士ですか? どんな方でしょう?」

 

「はい。私が旧レオニアの聖都ターラを訪れた際、ブロノイルについての話をしてくれた者です。レオニアで軍師をしていた男なのですが、国を滅ぼしたノルガルドやエストレガレス帝国へ復讐を果たしたいと申しております」

 

 ゲライントが目を輝かせた。「ほう、レオニアの軍師ですか。それは興味深い」

 

「ゲライント、知っているのか?」ランスが訊く。

 

「会ったことはありませんが、噂はよく聞きます。神官騎士団長を務め、レオニア1の智将と呼ばれているとか」

 

「レオニア1の智将? そんな人が仕官してくれるのならば、心強い」ランスはハレーを見た。「ぜひお会いしたいです」

 

「では、お連れします」

 

 ハレーは一旦謁見の間から出ると、外に控えていた男を連れて戻った。

 

「――お初にお目にかかります、ランス陛下。わたくし、レオニア1の智将であり、レオニアの頭脳と呼ばれた男であり、ゆくゆくは西アルメキア1の智将&頭脳となる騎士・ランゲボルグと申します」

 

 レオニアの軍師は、ランスを前にしても跪いたり頭を下げたりすることもなく、胸を張ったまま言った。

 

「――ランゲボルグ?」ゲライントが首を傾けた。「はて? レオニアの軍師は、そのような名ではなかったはずだが……?」

 

「ああ。それは、別の者でしょう。実は、レオニアには私の他にもう一人軍師がいたのですが、大した実力も無いくせになぜか女王に気に入られておりましてね。恐らく、世辞と賄賂でのし上がった愚臣の類ですよ。私は何度も女王に献策したのですが、一切採用されませんでした。恐らく、私の才能に嫉妬したあの偽軍師が、全て握りつぶしてきたのでしょう。私のイナズマ作戦が採用されていれば、レオニアが滅びることは無かったでしょうに。ああ、イナズマ作戦というのはですね――」

 

 その後、自称レオニアの頭脳は、よく判らない作戦を長々と説明し続けた。

 

 やはりこの男を連れて来たのは間違いだったか、と、ハレーは思った。

 

 

 

 

 

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