ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第六十二話 ゼメキス 聖王暦二一五年十月上 ノルガルド/オークニー

 エストレガレス帝国の双子の新米騎士ミラとミレは、ゼメキスの予想を上回る働きをしてくれた。

 

 ノルガルドに奪われたオークニー城を奪還する作戦は、まずミラ・ミレの二人が部隊を率い東と西から攻め、それぞれの方向に敵を引きつけた後、守りの薄くなった南からゼメキスが攻める、というものだ。

 

 結果から言えば、この作戦は失敗であった。

 

 エストレガレス帝国がこの作戦のために配置した兵の数は、ミラ・ミレそれぞれに二万、ゼメキスに一万の、計五万だ。対するオークニー城には七万の兵が駐屯している。帝国の作戦としては、この七万の内五万から六万を東西へ引きつけ、南の守りを一万から二万にしておきたかったのだ。かつて旧アルメキア最強を誇ったゼメキスの部隊ならば、十分に撃破できる戦力差である。

 

 だが、ノルガルド軍はこの作戦に乗って来なかった。オークニー城を守るノルガルド兵は、東西のミラ・ミレ軍には各一万ずつの兵で当たり、残りの五万を南の守りに集中させたのだ。完全に、こちらの作戦を見透かしてのことである。それもそのはず。オークニー防衛隊の総大将は、旧アルメキアで五本の指に入る軍略家であったモルホルトだ。こちらの作戦など、お見通しというわけだ。

 

 この時点で、ゼメキスには二つの選択肢が用意された。作戦を失敗とし兵を退くか、このまま作戦を強行するかである。ゼメキスは、迷うことなく後者を選んだ。新米騎士だけに戦わせ、自分は戦わずに撤退するなどありえない。無論、いかにゼメキス率いる部隊であろうと、五万の兵に一万で当たるのは無謀である。まして今回のような攻城戦は防衛側が圧倒的に有利だ。ヘタをすると全滅してしまう。それでも撤退という道は無い。エストレガレス帝国としては、このままオークニーをノルガルドに渡しておくわけにはいかない。ここを制圧されたままでは、北部の帝国軍の動きは封じられたもの同然なのだ。

 

 ゼメキスは兵一万を率い、オークニー城へ突撃した。もはや決死の特攻とも言える、無謀な突撃だった。

 

 ミラ・ミレの二人がゼメキスの予想を上回る働きをしたのは、ここからだ。

 

 もとよりゼメキスは、ミラ・ミレの戦闘能力には期待していなかった。このいくさにおける二人の任務は敵を引きつけることであり倒すことではない。そもそも騎士になってまだ半年程度の二人が二万の兵を率いて戦うこと自体無謀であった。故に二人には、決して深く攻め込まず、ただ敵を引きつけろ、とだけ命令していた。実際二人は、ゼメキスが動くまでは、この命令を忠実に守っていた。

 

 しかし、敵兵が東西に引きつけられず、南の守りが硬い状態でゼメキスが突撃したことを知ったミラとミレは、これまでの戦い方から一変し、ゼメキス同様敵兵に突撃したのである。二人とも新米騎士なりに、今の状況に危機感を抱いたのかもしれない。

 

 結果として、この二人の作戦の変更が功を奏す。

 

 攻城戦において、五万で守る兵に一万で突撃するのは無謀だが、一万で守る兵に二万で突撃するのは無謀ではない。むしろ、十分勝ち目のある戦いだ。だがそれも、攻城戦の経験がある将が率いていればの話だ。新米騎士の二人には、攻城戦の経験が圧倒的に不足――というよりは、全く経験が無かった。だからこそ、モルホルトも兵一万で東西を守れると踏んだのであろう。

 

 だが、ミラ・ミレの二人は攻城経験の無さをものともせず、敵を次々と蹴散らし、敵本陣へと迫った。それも、息を合わせたかのように、同じタイミングで。こうなると、ノルガルド側も、南に集中している兵を東西へ分散せざるを得ない。モルホルトは、南の兵一万ずつを東西へ援軍として送った。これで、南を守る兵の数は三万となった。

 

 一度失敗した帝国側の作戦は、ミラとミレの双子の騎士の奮闘により、ここに来て息を吹き返したのである。

 

 ゼメキスは、今この瞬間がこのいくさの帰趨を決する時だと判断し、己と、己の軍の力の全てを爆発させた。

 

 そして、見事敵本陣へ攻め入り、総大将モルホルトと相まみえたのである。

 

 

 

 

 

 

「――五万の兵に対し一万でぶつかり、その兵力差をものともせず我が本陣まで到達するとは……」ゼメキスと対峙したモルホルトは、呆れたような口調で言った。「ゼメキス、相変わらず貴様の戦い方は、私の理解を超えている」

 

「フン。貴様ら軍略家がいかに策を巡らせようと、この俺には通じぬ。所詮戦いは、力こそが全てだ!」

 

「それはどうかな? 力が策を凌駕することがあるのは認めよう。だが、今の貴様はただ策の間隙をぬって我が前に立っているにすぎぬ。戦力は、我が方がいまだ圧倒的に有利であることに変わりない」

 

 ゼメキスを目の前にしても、モルホルトに動揺した様子は無い。この本陣を守る兵は約千。これに対し、ここまで到達したゼメキスの兵は二十弱に過ぎなかった。大半が、ここに来るまでに脱落、もしくは後方で追っ手を引きつけている。つまり、今のゼメキスは、敵総大将を追い詰めている状態であると同時に、二十の兵が千の兵に取り囲まれている状態でもあるのだ。

 

「この場の兵の数など無意味だ」ゼメキスは、剣先をモルホルトに向けた。「どれほど兵力の差があろうと、この場で貴様の首を獲ればこのいくさは我らの勝利!」

 

「フッ……私が一騎打ちなどという武人の酔狂に応じると思ったら大間違いだ。私は軍略家。貴様と剣を交える気など無い。だが――」

 

 モルホルトは、魔術師の武器である杖をゼメキスへ向けた「ここで貴様の首を獲ればこのいくさは我らの勝利という点においては、こちらも同じ。よかろう! 裏切り者ゼメキス! この場で貴様を倒し、この大陸の戦乱を終わらせてみせよう!」

 

「ほう? 俺を裏切り者と言うか?」ゼメキスは小さく笑った。「おもしろい。己が身を振り返ったことがあるか? 貴様は誰に仕えている? モルホルト! 貴様こそ裏切り者であろう!」

 

 モルホルトは不敵な笑みを返した。「全ては貴様を倒し、そして、兄の無念を晴らすため。あの日、アルメキアのモルホルトは兄とともに死んだ。ここにいるのは貴様を倒すために現れた亡霊!」

 

「兄、だと?」ゼメキスは小さく顎を上げた。「貴様に兄がいたとは初耳だな」

 

「だろうな。我が兄はルーンの加護を受けておらぬ一兵士だった。貴様の耳に名が届くような存在ではない。それでも、親衛隊の一人として、あの夜立派に戦ったはずだ」

 

 親衛隊とは、アルメキア時代王太子ランスを護衛していた部隊である。二月のクーデターの夜、ゼメキスはランスの首を獲るため、親衛隊の隊長ゲライントをはじめとする多くの騎士・兵と戦った。その中の一人に、モルホルトの兄もいたのかもしれない。無論、記憶の片隅にも残っていないが。

 

「貴様にとってはあの日斬り捨てた兵の一人に過ぎぬのだろうが、私にとってはただ一人の肉親」モルホルトは、憎しみの溢れる目でゼメキスを睨む。「ゼメキス! 無名の兵として散った我が兄の無念、いまここで晴らしてくれようぞ!」

 

「フン……名が有ろうと無かろうと、戦場で散れば誰もが同じ! モルホルト! 貴様も名もなき一人として、この場で散るがよい!!」

 

 ゼメキスが突撃し、モルホルトは炎の魔法を使う。オークニー攻防戦の雌雄を決する戦いが始まった。

 

 

 

 

 

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