ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第七十二話 ディナダン 聖王暦二一五年十一月下 カーレオン/ハーヴェリー

 カーレオン領ハーヴェリーの会議室には、賢王カイを始め、宰相のボアルテ、王妹メリオットとその友人ミリア、そして、カーレオン騎士団をまとめるナイトマスター・ディナダンが集まり、緊急の軍議を行っていた。カーレオンは、六月のソールズベリー制圧以降は防衛に徹し、目立った動きはしていない。ハーヴェリー近辺は、カーレオン・イスカリオ・エストレガレス帝国の三国が国境を接しており、地形がかなり複雑だ。カーレオンの兵力は決して十分ではなく、これ以上の侵攻はリスクが高いのだ。現在カーレオンは守りを固めつつ兵力の増強に努めている。

 

 ところが。

 

 先日、同盟国である西アルメキアから極秘の連絡があった。十二月に、オークニー・エオルジア・アリライムの三都市へ同時侵攻するというのだ。

 

 先月、西アルメキアは帝国に奪われていたキャメルフォードを奪還した。その勢いに乗り、今回の作戦へと移ったのであろう。帝国だけでなくノルガルドも同時に攻めるというのは、かなり大胆な作戦である。帝国はかつてフォルセナ大陸最強を誇ったアルメキア軍が中心となっているため高い兵力を有しており、ノルガルドもレオニアと併合したことにより帝国に勝るとも劣らない兵力となっている。侵攻作戦が成功すれば両国に大きなダメージを与えられるが、失敗した場合、元々兵力で劣る西アルメキアのダメージは極めて大きいだろう。

 

 もちろん、同盟国とはいえ他国のことなので、この作戦に関してカーレオンからなにか言うつもりはない。今回緊急で会議を行っているのは、この三都市同時侵攻に伴い、西アルメキア側からひとつの打診があったからだ。カーレオンも、ソールズベリーから帝国領オルトルートへ侵攻できないか、というのだ。

 

「今回の作戦を立案したのはランス王子だそうですな。歳に似合わず思い切ったことをなさる。しかも、自国だけでなく我らカーレオンまで巻き込もうとは。いやはや、いい根性をしてますな」ディナダンは皮肉を込めて言った。

 

 カイが苦笑する。「ランス様は西アルメキアの君主だよ? 少し口を慎んだ方がいいんじゃないのかい?」

 

「本人が居ない所で何を言っても構わんでしょう?」

 

「君は本人が居ても言いそうだから困るんだよ」

 

「それよりさ」とメリオット。「ランス様は、なんであたしたちにオルトルートへ侵攻させたいの?」

 

 カイは卓上に広げてある地図を示した。「西アルメキアがオークニーとエオルジアを制圧し、僕たちがオルトルートを制圧すれば、エオルジアは南東の守りを気にしなくてよくなる。そうなれば、極端な話エオルジア城は空にしても大丈夫。その分の兵力を帝国やノルガルドとのいくさへ回せるって寸法さ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 カイの説明に、メリオットは判ったのか判らないのか微妙な表情で「ふーん」と唸った。

 

「つまり、西アルメキアは自分たちのためにオルトルートを落とせ、と、我らに言って来ているワケですな」ディナダンはさらに皮肉を続ける。「気に入りませんなぁ。そもそもキャメルフォードを奪還できたのは我らがソールズベリーを制圧し帝国の主力を南部に引きつけておいたからなのに、その礼をするわけでもなく、新たな城を落とせなどと命令するとは。カーレオンは西アルメキアの同盟国で、属国ではないんですがね」

 

「命令ではないよ。単なる打診かな」

 

「では、断るおつもりで?」

 

「陛下」と、宰相のボアルテが言う。「無下に断りなどしたら、今後の同盟関係に悪い影響が出るかもしれません」

 

「命令に背いた、として、同盟を破棄し攻めてくるかもしれませんな」ディナダンは笑った。「陛下。西アルメキアとの国境スクエストに、兵を集めておきましょうか?」

 

「ランス様は、そんな心の狭い人じゃないと思うよ」苦笑するカイ。

 

()()、ですか」ディナダンも含んだ笑みを浮かべた。「まあ、同盟破棄は()()冗談ですが……どうしますか? 私としては、今のカーレオンの兵力でオルトルートまで侵攻するのは危険だと思いますがね。仮に制圧できたとしても、得をするのは西アルメキアだけで、我らにはメリットが無い」

 

「ミリアさんのおかげで在野の騎士が何人か仕官してくれたから、兵力的にはそれほど危険ではないかな。それに、西アルメキアが帝国を攻めて弱体化させてくれるなら、僕らにとっても好都合だ。メリットが無いという訳ではないよ」

 

「では、西アルメキアの要請を受けると?」

 

 ディナダンの言葉に、カイは目を閉じ、そのまま黙りこんだ。妹のメリオットに言わせれば居眠りしているとのことだが、これは、大陸一の知恵者と言われるカイが脳をフル回転させて考えている状態だ。ディナダンは静かに賢王の決断を待つ。

 

 メリオットが、ぱん、と手を叩いた。「あ、あたし、いいこと思いついちゃった」

 

「なーに? メリオットちゃん?」友人のミリアが応える。

 

「逆に、あたしたちから西アルメキアにオルトルートを制圧できないか打診するの」メリオットは卓上の地図のオルトルート付近を指さした。「そうすれば、ソールズベリーは北西の守りを気にしなくてすむんじゃない?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「それは名案ですな、メリオット姫」ディナダンは大きく頷いた。「ボアルテ卿、早速西アルメキアへ伝令を送りましょう」

 

「ディナダン殿、姫の冗談を真に受けてはいけません」ボアルテは困惑顔で言った。

 

「……あたし、冗談を言ったつもりはないんだけど」メリオットは不満そうな顔をボアルテに向けた後、カイを見た。「……っていうか、お兄ちゃん聞いてる? また寝てるでしょ?」

 

「まあまあ、メリオットちゃん。お兄様も、お疲れなんでしょうし」ミリアが言った。「それより、メリオットちゃんの言う通り西アルメキアがオルトルートまで制圧してくれたとして、次はどう攻めるといいかな?」

 

「うーん、そうねぇ――」

 

 メリオットは地図を示しながら考えを話し、ミリアはおだてながらそれを聞いている。カイはミリアのことを「妹の面倒を見てくれる貴重な戦力」と評していたが、まさに期待通りの働きだろう。

 

 ドアがノックされ、兵が一人部屋に入って跪いた。「急報です! ザナスより兵五万が出撃し、このハーヴェリーに向かっていると!」

 

 ザナスはハーヴェリーの東にあるイスカリオの城だ。イスカリオ軍には八月にも侵攻されたが、その時は戦義の段階で敵が撤退したため戦いにはならなかった。今回はどうか判らない。

 

 カイが目を開けた。「そうか。ディナダン。すぐに迎え撃つ準備を。今回は、僕も出撃するよ」

 

「……了解しました」

 

 真っ先にメリオットが立ち上がり、ミリアを見た。「頑張ろうね、ミリアちゃん、友情パワー全開よ!」

 

「そうね、メリオットちゃん! ぜーったいに、勝ってみせましょ!」ミリアは両手の拳を握って答えた。

 

「メリオットは、無茶をしないように」カイが落ち着いた声で言う。

 

「お兄ちゃんは、しっかりあたしの後ろについて来てね」

 

 パチッとウィンクをすると、メリオットは部屋を出て行った。ミリアとボアルテがそれに続く。

 

「……やれやれ」

 

 カイは肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 二人きりになった会議室で。

 

「――いま、内心『しめた』と思ってるしょう?」

 

 ディナダンはカイに向かって言った。

 

「どういうことかな?」

 

「イスカリオとの戦闘を長引かせれば、それを理由に、西アルメキアの要請に従わなくてもいい、と」

 

 ディナダンは、探るような目でカイを見る。

 

 カイは、表情ひとつ変えることはなく。

 

「まさか。敵に攻められてる状況で、王の僕がそんな不謹慎なことを思うはずないだろ? 今は、どうやって国を防衛するかで、頭がいっぱいさ」

 

 すました顔で答えた。

 

「そうでしたか。それは失礼しました。では、私も出撃の準備をしますので」

 

 ディナダンは一礼すると、会議室を後にした。

 

 

 

 

 

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