ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第八十四話 ランゲボルグ 聖王暦二一六年一月上 西アルメキア/キャメルフォード

 元レオニア1の智将にして現西アルメキアの頭脳である天才軍師のランゲボルグは、キャメルフォード城内にあるランスの執務室へと続く廊下を足早に歩いていた。分厚い書類の束を両手で抱えている。以前彼が提唱したスーパーウルトラグレートデリシャスワンダフルな作戦の第二弾で、その名も、『スーパーウルトラグレートデリシャスワンダフル作戦第二弾』である。この作戦を、一刻も早くランスに伝えなければならない。これが実行されれば、フォルセナ大陸は瞬く間に西アルメキアのものとなるのだから。

 

 執務室のドアを蹴破らんばかりに開けたランゲボルグは、「ランス様! お喜びください! 私のスーパーウルトラ(中略)作戦の第二弾が完成いたしましたぞ!!」と声高に叫んだ。

 

 執務室の奥の席に座っていたランスは顔を上げると、「おお、ランボゲルグ君。待ちかねたぞ」と、笑顔でランゲボルグを迎え入れた。

 

「おっと失礼、その前に――」ランゲボルグは書類の束を左手に持つと、右の拳を左胸に当てた。「このたびのエオルジア戦における勝利、誠におめでとうございます。あのエストレガレス帝国の精鋭部隊を相手に、わずか二日で勝利を収めるとは、さすがランス様です。北のノルガルド侵攻も問題なく成功しましたし、これもすべて、元レオニア1の智将にして現西アルメキアの頭脳である天才軍師のランゲボルグのおかげだと、皆が噂しております」

 

「うむ。その通りである」ランスは満足げに頷いた。

 

「それに引き替え、オークニー侵攻はま・こ・と・に・残念でしたな。ゼメキスの首を獲るどころか、城さえ落とせず一日で撤退。おかげで、せっかくランス様と私とで練り上げた三都市同時侵攻作戦が台無しです。やはり、メレアガント殿にオークニー城攻略は荷が重すぎましたな。いえ、彼を責めてはいけません。全ては、彼に総大将を任せた私の責任。ああ、やはり、この私自ら兵を率いて出陣すべきでした」

 

「うむ。その通りである」

 

「しかああぁぁし! ご安心ください!! 私のこのスーパー(中略)作戦第二弾があれば、今からでも十分巻き返せます!」

 

 ランゲボルグは、どん! と、書類の束を机の上に置いた。

 

「以前提案した、ス(中略)作戦第一弾の超改良バージョンです! 前回の作戦は少々高度すぎた点を反省し、今回はお若いランス様にも理解できるよう、ひじょおおぉぉに判りやすく書き直しております。まあ、詳しく書いた分ページ数は以前の三倍になってしまいましたが。しかし! この作戦さえあれば、オークニー城はもちろん、フォルセナ大陸全土が瞬く間に我が国のものですぞ!!」

 

 机を乗り越えんばかりに身をのり出し、鼻息も荒く説明するランゲボルグ。

 

 これに対し、ランスは。

 

「うむ。では、その作戦を、すぐ実行したまえ」

 

 あっさりと承認した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

「ランス様、私の作戦を、実行してくださるのですか?」

 

「もちろんです。フォルセナ大陸全土が瞬く間に我が国のものになるなんて、スゴイ作戦じゃないですか」

 

「正気ですか?」

 

「はい?」

 

「いえ……」ランゲボルグは大きく咳ばらいをした後、続ける「確かにスゴイ作戦ではあるのですが、さすがに資料を見て判断していただいた方がよろしいかと。いかに西アルメキアの頭脳と呼ばれる私の作戦でも、何か見落としがあるかもしれませんゆえ。いえ、もちろんそんなものは無いのですがね。一応、ランス様の考えも伺いたいと思いますので」

 

「えー? この本、僕が読むの?」ランスは心底嫌そうな顔をした。

 

「……はい?」

 

「あ、いや……」ランスは大きく咳ばらいをした。「そこまでおっしゃられるのであれば、ご覧になって差し上げよう」

 

「言葉づかいがおかしいですが、大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫です。では、見ます」

 

「はい。どうぞ」

 

 ランスは机の上の書類の束を二・三枚めくると。

 

「おお! これは確かにスゴイ作戦だ! では、さっそく実行したまえ」

 

 あっさりと承認した。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

「ランス様、ちゃんと読まれましたか?」

 

「ぎくっ。も、もちろん、読まれましたです」

 

「読まれた上で、実行されると?」

 

「はい。読まれた上で、実行されますです」

 

「正気ですか?」

 

「はい?」

 

「いえ……」ランゲボルグは大きく咳ばらいをした。「では、部隊編成はどういたしましょう? 私としては、やはりランス様に総大将を務めていただき、副将に、あのゼメキスと二度にわたり互角の戦いをしたというハレー殿と、後は……そうですねぇ。前回の戦いでは敗れてしまいましたが、メレアガント殿かゲライント殿に、もう一度出陣してもらいましょうか。前回の失態を考えると少々頼りないですが、まあ、失敗は誰にでもあること。挽回のチャンスくらい与えてやりませんとな」

 

「総大将は、ランボゲルグさんがやってください」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

「私が、総大将ですか?」

 

「そうです」

 

「目的は、オークニー城攻略ですよ?」

 

「そうです」

 

「現在皇帝ゼメキスと剣聖エスクラドスが守備に就いている、あの難攻不落のオークニー城ですよ?」

 

「そうです」

 

「そのオークニー城攻略作戦の総大将を、この私が?」

 

「そうです」

 

「正気ですか?」

 

「はい?」

 

「いえ……」ランゲボルグは大きく咳ばらいをした。「まあ、私の実力と過去の戦歴を考えれば、ランス様が私を総大将に任命したいのはごもっともでしょうな。私も承りたいのですが、残念ながら、この作戦に私は含まれていないのですよ。私は、次の作戦を考えなければなりませんからね。いや残念です。ランス様に、私の勇姿をお見せしたかったのですが」

 

「そうですか。では、作戦は中止しましょう」

 

「いえいえいえ、そうではなくてですね。この作戦は、ランス様を総大将として考えたものです。ランス様なくして成功はあり得ません」

 

「でも、よく考えたら、()()()()()()()()()僕が勝手に決めるわけにはいきませんからね」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

「……え?」

 

「ランス様、いま、なんと仰いました?」

 

「ですから、よく考えたら、ランス様の許可なく僕が勝手に決めるわけには……あ」

 

 ランスは両手で口を押さえた。

 

 ランゲボルグは眉をひそめた。「どうも、さっきからおかしいですね」

 

「ぎくっ。な、なにがおかしいのです?」

 

「『ぎくっ』と、擬音を口にするところとか」

 

「これはクセです。なにもおかしくはございません」

 

「その、間違った言葉づかいとか」

 

「西アルメキア語は難しいのです。僕も、間違うことはあります」

 

「それに、身長が以前より明らかに低くなっておられるようですし、顔も、よく見ると別人です」

 

「それは、ランボゲルグ君の思い違いですよ」

 

「入って来た時もそう呼ばれて一度スルーしたのですが、私はラン()()ルグではなく、ラン()()ルグです。以前は、ちゃんと呼ばれていましたのに、なぜ今日になって急に間違うのです」

 

「まあ、どっちでも良いじゃないですか」

 

「良くありません。家臣の名を呼び間違うなど、君主としてあるまじきことですぞ」

 

「そうですね、ごめんなさい」

 

 ランスはペコリと頭を下げた。

 

 ランゲボルグはぐいっとランスに顔を近づけ、まじまじと見た後、はっとした表情になった。そして、すぐさま後方に飛び退き、ニヤリと笑う。

 

「……フッフッフ。他の者の目はごまかせても、この天才軍師ランゲボルグ様の目はごまかせんぞ? 貴様、ランス様ではないな!!」

 

 ランゲボルグの指摘に、ランスもニヤリと笑った。

 

「フッフッフ。バレてしまっては仕方がない。そう! 僕はアルサス! ランス様の影武者さ!」

 

 偽ランスこそアルサスは椅子の上に立ち、えへんと胸を張った。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え、どういうこと?」

 

「えーっとですね、僕、去年の八月に仕官したんですけど――」

 

 と、アルサス少年が始めた話によると。

 

 わずか十二歳にしてルーンの加護を持つ少年アルサスは、ランスのような王様になるため、西アルメキアへの仕官を希望した。初めの内こそ「仕官は大人になってから」という方向で話が進んでいたのだが、アルメキア時代よりランスの教育係を務める剣士ゲライントが仕官を認め、彼の後見のもと、アルサスは訓練学校へ通うこととなったそうだ。ゲライントの目的はアルサスの風貌にあった。アルサスの外見がランスと似ていることに気が付いたゲライントは、将来的にランスの影武者という重大な役割を担わせようと考えたのである。

 

「本当なら騎士になるのは十五歳からなんですけど、ランス様のピンチということで急遽呼び出され、特別任務に就くことになったのです」と、アルサスは言った。

 

「特別任務?」

 

「はい。ここで待っていれば、ランゲボルグさんという人が素晴らしい作戦を持ってくるから、適当にあしらえ、と」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……君、アルサス君と言ったかな?」

 

「はい」

 

「影武者とは、敵を欺くためのものだ」

 

「そうですね」

 

「つまり、ランス様はこの私を敵と判断したと?」

 

「そういうことになりますね」アルサスははっとした表情になった後、拳を握って構えた。「ランス様に刃向う者は、容赦しないぞ!」

 

 ランゲボルグは大きくため息をついた。「やれやれ。私は忙しいのだ。子供の遊びに付き合っているヒマはないのだよ」

 

「ランス様も同じことを言ってましたよ? だから、僕に影武者を任せたんじゃないでしょうか?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……それで、本物のランス様はどこに?」

 

「さあ? たぶん、エオルジアじゃないですかね? 次の作戦に移るとか言ってましたから」

 

「なんと! こうしてはおれん! ランス様が私の献策を持っておられる! すぐにエオルジアへ向かわねば! ……と、いうことで、私は失礼する。アルサス君。影武者の任務、頑張ってくれたまえ」

 

「かしこまりました!」

 

 ランゲボルグは机の上の書類の束を持つと、大急ぎで部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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