ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第九十四話 ゲライント 聖王暦二一六年三月上 西アルメキア/オークニー

 エストレガレス帝国の皇帝ゼメキスや剣聖エスクラドスが南部の戦場へ向かったのを機に、オークニー、エオルジア、オルトルートの三城を制圧した西アルメキア。開戦当初からの第一目標であった王都ログレス奪還に大きく近づいたのだが、南の城オルトルートで思わぬ邪魔が入った。狂王ドリストが治める国イスカリオが侵攻してきたのである。この侵攻はランスとハレーの活躍によりなんとか退けたものの、西アルメキア側の被害も決して少なくはなかった。兵力の再編を余儀なくされたランスは、しばらくオルトルートで足止めを食うことになる。

 

 そして、西アルメキアの侵攻を止めようとするのは、イスカリオばかりではなかった。

 

 オークニー城では、コール老公の嫡男メレアガントと百戦のゲライントが中心となり、東のカドベリーやディルワース城へ侵攻する部隊を編成していたのだが、そこへ、北の大国ノルガルドの部隊が南下してきたのである。

 

 オークニーの北には岩山が広がっており、街道はその合間を縫うように細く続いている。大軍の進行は困難を極めるため、オークニーは北からの攻めに極めて強い城だ。ここも、リドニー要塞と同じくノルガルドの侵攻に備えて建てられた天然の要塞である。

 

 百戦のゲライントは、オークニーのこの利点を活かすため、素早く城外へ打って出て岩山の上に陣取った。戦場で高地を取ることは極めて重要なことである。高地からは弓による攻撃や騎馬隊の突撃の威力が増し、逆に低地からはこれらの威力は半減する。場合によっては高地を取るだけで戦局が決することもあるのだ。

 

 しかし。

 

 ノルガルド軍は、これらの不利な条件をものともせず、凄まじい突破力でゲライントが控える本陣に迫って来た。ゲライントは、弓兵や騎馬隊による攻撃を繰り返し、あるいは、盾兵と槍兵を布陣させ敵の足止めをしようと画策するも、敵部隊はそれらを蹴散らす勢いで迫る。エストレガレス皇帝ゼメキスを彷彿させる突破力――いや、相手はノルガルド軍であるゆえ、前王ドレミディッヅを彷彿させる突破力と言うべきか。

 

 ――この策も何も無い力任せの突撃は、まさか!?

 

 ゲライントが敵将について考えていたとき、本陣を取り囲んでいた守備兵の一角が大きく弾き飛ばされた。

 

 そして、そこからノルガルドの軍旗を掲げた隊が侵入してくる。

 

 その隊の先頭には、大斧を携えた筋骨隆々の大男が立っていた。ゲライントと目が合うと、大斧を肩に担いで豪快に笑った。

 

「ふははは! ゲライントよ! この程度の守りで我が突撃を止められると思ったか!? 甘いわ!!」

 

「ルインテール! やはり貴様だったか!!」ゲライントは敵将の名を叫ぶと、腰に携えた刀を抜き放った。「ドレミディッヅの死後、野に下ったと聞いていたが、まさか帰参していようとはな!」

 

「貴様が戦線に復帰したと聞いてじっとしてなどいられるか! さあ、今日こそ決着をつけてくれる!!」

 

「フン! 望むところ!!」

 

 ルインテールが大斧を振りかざし、ゲライントはそれを刀で迎え撃つ。

 

 

 

 

 

 

 北国ノルガルドは、一年の大半を雪に覆われ、食料生産力に乏しい国である。そのため、南の肥沃な大地を手に入れるべく、旧アルメキアや旧パドストーと長らく戦争を続けてきた。かつてアルメキア軍に属していたゲライントも、何度もノルガルドとの戦いに出撃している。その経験からついた呼び名が『百戦のゲライント』だった。

 

 そのアルメキア軍時代、ゲライントと幾度となく刃を交えて来たのが、このルインテールという騎士である。何度戦ったかは、もう本人たちでさえ覚えていない。戦績が十勝十敗十分けを超えてからは、もはや数えようともしなかった。結局決着はつかぬまま、ゲライントは王太子ランスの親衛隊長に任命され、戦線を去ることになる。その後、ノルガルドの前王ドレミディッヅの死をきっかけに、ルインテールも野に下ったようだった。

 

 しかし、ゼメキスのクーデターより始まったこの戦乱で、ゲライントは再び戦場に立つことになった。ルインテールもまた、白狼王ヴェイナードの手腕によりノルガルドが大きく勢力を伸ばしたのを聞き、居ても立ってもいられず戦場へ戻ってきたのだった。

 

 

 

 

 

 

 二メートル近い大斧をものともせず振り回すルインテール。大振りではあるが、その分一撃の威力は計り知れない。ゲライントの武器は刀身の細い刀だ。まともに受け止めるとあっけなく折れてしまう可能性もある。ゲライントは間合いを計りつつかわし、反撃の機会を待つ。

 

「どうしたゲライント! 愚王の倅のお守りをしている間に、腑抜けになったか!?」嘲笑いながらさらに斧を振るって来るルインテール。

 

「フン! 貴様は変わらぬな! 単純な突撃と力任せの攻撃。少しは頭を使わねば、ドレミディッヅのように早死にするぞ!」

 

「ぬう! 貴様、ドレミディッヅ様を愚弄するか! 許さぬ!」

 

「貴様こそ、我が主を侮辱した罪、その血で贖え!」

 

 二人は戦い続ける。陽が暮れても決着はつかず、ルインテールの部隊が下がることでこの日の戦いは終わった。そして、同じような戦いは、翌日、さらに翌日と続き、結局決着はつかぬまま十日後にノルガルド軍は撤退した。

 

 結果として。

 

 オークニーの部隊は、南のオルトルート同様少なからず被害をこうむり、戦力再編のためしばらく足止めされることになった。

 

 

 

 

 

 

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