ブリガンダインGE/小説   作:ドラ麦茶

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第九十六話 ハレー 聖王暦二一六年三月上 西アルメキア/オークニー

 エストレガレス帝国からオークニー・エオルジア・オルトルートの三城を奪い、王都ログレスへと迫る西アルメキア。しかし、南のイスカリオ、北のノルガルドから思わぬ侵攻を受け、兵力を削がれてしまう。部隊の再編等、作戦の立て直しを余儀なくされた西アルメキアは、ランスやメレアガントなど帝国侵攻軍の主だった将が集まり、オークニー城にて作戦会議を行うことになった。

 

 魔導士ブロノイルの企みを探るため西アルメキアへと仕官したハレーは、君主ランスと元親衛隊隊長ゲライントと共に会議室へ向かっていた。帝国との最後の戦いが始まろうとしている。

 

 だが、ハレーの胸の内には大きな迷いがあった。

 

 先日、二度に渡るエストレガレス軍との戦いで、皇帝ゼメキス及びデスナイト・カドールと戦ったハレー。そのさなか、二人からブロノイルに関する話を聞き、ハレーは己の考えが間違っていなかったと確信した。ゼメキスがクーデターを成功させた裏にはブロノイルの暗躍があり、その結果勃発した大陸全土の戦乱をさらに煽ろうとしている。その目的が何なのかまでは判らない。ただ、恐ろしいことを企んでいるのは間違いないだろう。それを探るためには、戦場を離れ再び単身で調査する必要性を感じていた。だが、現在この国は帝国を追い込みつつある。非常に重要な時期であり、いま国を離れるのは、今後のいくさに大きな影響を与えるだろう。ランスが王都ログレスの奪還にどれだけの思いを込めているのか――クーデターの夜、両親を殺し国を奪った憎むべき相手を目の前にしながらも、王都から脱出するしかなかったランス。その屈辱がどれほどのものだったのかは想像もできない。王都奪還を目の前にしながら今ハレーが国を去ることは、ランスを裏切ることになるのではないか――そんな気がしてならない。

 

「ハレーさん、どうかしましたか?」

 

 前を歩いていたランスが足を止め、心配そうな表情でこちらを見ていた。よほど難しい顔をしていたに違いない。ハレーは、「いえ、なんでもありません」と言いかけたが、やめた。行動を起こすならば早い方がいい。会議が始まり、そして、次の作戦に自分が組み込まれると、ますます行動を起こしづらくなる。そして、行動が遅れれば、取り返しのつかない事態になるかもしれないのだ。

 

「ランス様、お別れのときです」

 

 ハレーは、ランスの目をしっかりと見据え、言った。

 

 ランスは驚いた表情になった。「ハレーさん、なにを言っているのですか」

 

「ブロノイルが動きはじめたようです。私は、行かねばなりません」

 

 ハレーはこれまでのいきさつを話した。ゼメキスから聞き出したと。カドールから聞き出したこと。それらから導き出した考え。ブロノイルがさらによからぬことを起こそうとしていること。そして、それを探らねばならないこと。

 

「……それはつまり、西アルメキアから去る、ということですか?」話を聞き終えたランスは悲しげな表情になった。

 

「……はい」

 

「ハレー殿!」と、ゲライントが声を荒らげた。「今は西アルメキアにとって極めて重要な時ですぞ! なにもこんな時に去らずとも!」

 

「よせ、ゲライント」と、ランスが制した。「西アルメキアが重要な時であることは、ハレーさんも十分わかっているはずだ。それでもいかねばならぬのだろう――そうですね? ハレーさん」

 

「仰る通りです」ハレーは大きく頷いた。「ブロノイルの真の目的を探り、早めに手を打たねば、取り返しのつかぬことになるかもしれません」

 

「ならば別の者に探らせます」と、ゲライントは譲らない。「ハレー殿。すでにあなたは、西アルメキアを支える重要な騎士の一人です。あなたがこの国を去ることは西アルメキアにとって大きな損失。せめて、王都ログレスの奪還まで待っていただけませぬか?」

 

「いいんだ、ゲライント」と、ランスが言う。「ハレーさんは、仕官するときに言ったはずだ。私たちと共に戦うのは、ブロノイルの目的を探るためだと」

 

 ランスは「それに――」と言い、ハレーを見た。「諜報部隊からの報告によると、デスナイト・カドールが姿をくらましたそうです。それも、関係あるのですよね」

 

「その通りです」頷くハレー。

 

 カドールが三月のオルトルート戦以降、帝国領内の城のどこにも姿が見えない、という情報は、ハレーも知っていた。恐らくカドールはブロノイルと繋がっている。長くゼメキスの腹心として戦ってきたカドールだが、もしそれがブロノイルの命による偽りだったとしたら……カドールが姿を消したのは、ブロノイルの命令によるものであろう。何か大きな企みのために動いた可能性は高い。

 

「――判りました」ランスは、笑顔と共に言う。「正直、ハレーさんが国を離れるのは大きな痛手です。しかし、今回の戦争を引き起こしたのがブロノイルであるのなら、その目的を探ることは非常に重要なことだと思います。フォルセナ大陸の未来がかかっているのですからね」

 

「本当に、申し訳なく思います」ハレーは深く頭を下げた。

 

「そんな、頭を上げてください、ハレーさん。我々がここまで戦えたのは、ハレーさんのおかげですから」

 

「いえ、私の力など微々たるもの。ランス様なら、私などおらずとも、同じ結果だったはずです」

 

「そんなことはありませんが……でも、そう言ってもらえると、励みになります。ありがとうございます」

 

 ハレーは頭を上げた。「今のランス様なら、必ず、ゼメキスを討ち、アルメキアを再興できると信じております。御武運を」

 

「はい。ただ、ひとつだけ約束してください」

 

「何でしょう?」

 

 ランスは、右の拳を左胸に当てた。

 

「……必ず、生きて戻ると」

 

 ハレーも、同じく右の拳を左胸に当て。

 

「もちろんです」

 

 大きく頷いた

 

 そして。

 

 

 

 

 

 

 ハレーは、旅立った。

 

 

 

 

 

 

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