それではどうぞお楽しみ下さい!
※読者様からのご指摘があり、「魔法」の部分を「魔術」修正させて頂きます。ご指摘してくださいましたアドナイ・エロヒムさんありがとうございます!
永続狂気帝国 2-1
永続狂気帝国
カルデアによって新たに観測された特異点は、第五代皇帝ネロ・クラウディウスによって統治されていた西暦60年の古代ローマ。
そこに突如出現した『連合ローマ帝国』と本来のローマ帝国との激しい戦争が繰り広げていた。そんなローマにある広大な荒野にその場に不釣り合いな服を着た一人の男が歩いていた。
「全く、第一特異点で大人しく死んでいれば良かったものを、とことん哀れで馬鹿な男だな藤丸立香」
そう悪態をつきながら荒野を歩く男--レフ・ライノール--は、第一特異点で死ななかった藤丸立香を罵る。
至高なる『あのお方』からの命令によってこのローマに赴いたレフだったが、きっとこの特異点にやってくるであろう人間の立香に負けるとは微塵も思っておらず、ましてやその立香に召喚されたサーヴァント達にすら負けないと強い自信がレフにはあった。
「フッ、まぁこの私自らが戦闘に赴くのだ。その時は確実に奴らを始末できる。最も、あのゴミとサーヴァント風情に負けなどあり得ない話だがな」
「--お前がキャディの言ってたレフ・ライノールっつう奴か?確かにアイツの言った通り、酷いくらい慢心してるみたいだな、アイツらしい変な言い回しだと思ったが、なるほど本人見るとそんな実感湧いてくるな」
「ッ!!」
不意に後ろから誰かに声をかけられたレフは、自分が立っていた場所から勢いよく前に飛ぶと、後ろにいた人物から距離を取り、その人物と向き合う。
「誰だ貴様、いや、まずいつから私の後ろに立っていた」
「あぁ、そりゃついさっきたが?お前が独り言ぶつぶつ呟いて不敵な笑み浮かべてた辺りから」
「…そうか」
レフは、改めて自分の後ろに音も気配も無く立った男を観察する。
男は、特殊部隊のような服装をしており、顔はガスマスクで隠されていた。腰にはハンティングナイフをつけ、太もものホルスターには銃が入っていた。それ以外に特に注意するような武器は見られなかった。
「(何だこの
「おい、どうした黙り込んで」
「いきなり会って早々で失礼だが、私の存在を知った以上貴様にはここで死んで貰う」
「…あ?」
レフは片手に魔術を展開すると、その手を男に向ける。そしてその手から強力な魔力弾を男めがけて放たれる。
男は何かを言おうとしたが、その前に攻撃魔法が被弾し、轟音を立てながら男のいた場所を中心に半径5メートルが爆発する。
「全く無駄な時間を使わせおって、迷惑な話だ」
未だ男がいた場所の土煙は晴れないが、恐らく見るも無残な姿になった男を思い浮かべ、レフは小さく笑い声を上げる。
「…おい、何もう勝った気でいるんだこの野郎、調子こいてんじゃねぇぞ。ったく綺麗にしたばかりの戦闘服に土つけやがって」
「ッ!」
土煙の中から唐突にかけられた声に、勝利を確信していたレフは驚愕を隠せなかった。晴れ始めた土煙の中から、先程と同じ姿の男が服についた土を払いながら堂々と歩いてきた。その体には傷一つなく、本人もダメージを受けた様子は見られなかった。
「き、貴様、どうやって私の攻撃をっ!」
「あんなもん俺にとってはかすり傷にもならねぇぞ。それにしても今の魔術、随分弱かったな。今のがてめぇの全力か?」
「…何?」
男の言い放った一言にレフは初めて怒りを露わにした。自身に対する侮辱は、レフにとっては敬愛する『あのお方』を侮辱することと同義だった。
「このゴミクズが、たかが一撃防げたからといって調子に乗りやがって。そんなに死にたいのなら今すぐ殺してやろう」
「お、やっとその気なったか。いいねぇ俺もやる気の無い奴を痛めつける趣味は無いからよ、楽しませてくれよ?」
「ほざけこの劣等種風情が!」
今度は両手に攻撃魔術を展開し、それを男に向けて発射する。先程の攻撃魔法よりもスピードも威力も段違いになったその魔力弾を、男は俊敏な動きで回避する。
避けた魔力弾が男の背後で凄まじい爆音を立てるが、男は気にせずに腰のハンティングナイフを抜くと、それを逆手に持ってレフに接近する。レフも、近づかれまいと両手に加え、自身の周りにも10個もの攻撃魔術を展開して男を迎え撃つ。
流石に厳しいと判断した男は、魔力弾を回避しつつ、レフから距離をとる。その瞬間男の足元に魔法陣が浮かび上がり、男はその場から一歩も動けなくなってしまった。
「拘束魔術か。こりゃ一本取られたな」
「はっ!罠に掛かったのに随分と冷静だな。こうなった以上もう貴様に勝ち目は無い。命乞いをしても良いんだぞ?まぁ命乞いをしても生かす気は毛頭無いがな」
「だったら最初から聞くなよバーカ」
拘束魔術に掛かり、動けなくなった男をレフは嘲笑う。男はその嘲笑を見ても声色変えずに、逆にレフを煽る。
その態度が気に食わなかったレフは、顔を大きく歪めると男の顔の前に掌をかざし、最大火力の攻撃魔術を展開する。
「死ねこのゴミクズが。私を侮辱したこと、あの世で後悔するが良い」
「だったらその一撃絶対外さずにしっかり俺の頭に当てろよな。でないとお前が後悔するぞ」
「負け犬の最後の悪あがきか?この状況で言うと逆に滑稽だな」
レフは身動きが取れない男に零距離から魔力弾を射出する。しかし、男は
「グッ!き、貴様ァ!」
「おいおい、いつ誰が拘束魔術の中で動けないって言ったよ?変に勘違いして不意打ち喰らったのはお前だろ」
レフは鼻をおさえながら男を睨み付ける。睨み付けられた男は、呆れたようにため息を吐きながら頭を振り、冷静に指摘する。
「貴様、もう許さんぞ!ここから先はもう手加減無しだ!俺の本気を以て貴様に恐怖と絶望を刻みこんでから殺してやろう」
「…熱くなってるところ悪いんだけどよ、もう時間切れみたいだぞ」
男の忠告を無視して、レフは自身の全ての魔力を解放する。レフの体から莫大な量の魔力が放出され、それがレフを隠すように覆い尽くす。その魔力がお互いに吸着し、レフがいた場所から姿を現したのは、赤い眼の生えた大樹ような怪物だった。
『見たか、この私の真の姿を!正直貴様は取るに足らぬ人間だと思っていたが、この私を本気にさせたのだ。素直に称賛を送ろう。まぁ、今から死ぬ貴様に称賛を送っても無意味か』
「…お前の本当の姿って、言い方悪いけど木みたいだな」
『……』
男はレフの言葉を聞き流しながら、レフの本来の姿に対して率直な意見を述べる。木と言われたレフは無視されただけではなく、自身の本来の姿を馬鹿にされたことに静かに青筋を立てる。
『貴様ァ!散々この私を馬鹿にしたこと、今に後悔させてやるぞ!』
レフは、十本の触腕を動かし、触腕の先端に魔力を溜めるとそれを一斉に男に向けて放つ、レフの放った魔力弾は予想以上に速く、直ぐに反応出来なかった男に全弾直撃する。
『フンッ、私を馬鹿にした相応の罰だな。やはり所詮は只の人間、私の本気には勝てるわけが無い』
「何を勝ち誇っているのだ、貴様」
『ッ!』
その声で我に帰ったレフは、声の出所を探そうと全ての眼を動かして探す。そしてその声の出所が、土煙の中からしているのを理解した。
土煙が晴れるとそこには男の前で手をかざしている骸骨の仮面をつけた鎧を着た別の男とボロボロの外套を着た両目を包帯で覆っている老人が立っていた。
「インセクト、貴様何を雑魚と遊んでいるのだ。貴様に言い渡された任務はこの特異点の地理地形及びサーヴァントに関する情報収集では無かったのか」
「その情報収集が終わったからそいつと遊んでるんですよフローレスの旦那。俺だって何もしないで遊び呆ける程堕落しちゃいませんから」
男--フローレス--は後ろに眼だけを向け、男に問いかける。インセクトと呼ばれた男は肩をすくめ、フローレスの問いかけに答える。そこへ、フローレスの他にもう一人沈黙を貫いていたローブを着込んだ老人が口を開く。
「まぁまぁフローレス様、インセクト殿もあぁ言っている訳ですし、ここはインセクト殿を信じましょうぞ」
「…バルファ、我輩はもしインセクトが仕事をサボっているのなら貴様に頼もうと思っていたのだぞ。その前にインセクトは折檻するがな」
「おやおや、それは嬉しいですな」
「ちょっ!本人の前で凄い事言うなフローレスの旦那」
『き、貴様等ぁ!いい加減私を無視して勝手に話を進めるなぁ!』
蚊帳の外だったレフは、無視され続けられていた事にぶちギレ、三人に向けて先程の倍の数の魔力弾を発射する。
「五月蝿いぞ貴様、少し黙らないか」
しかし、魔力弾はフローレスの前で停止すると、
『ーーーーーー』
突如腹に襲い掛かる激痛にレフは言葉にならない声を上げ、全ての触腕を振るまわす。
その衝撃と余波は凄まじく、触腕が地面とぶつかる度に地面が抉れ、フローレス達のいる所までひび割れが出来る。
「おいおい随分な暴れようだな。たかが腹に穴空いた程度で大袈裟だなあいつ、あれって一応魔神だろ?」
「正確にはあれは魔神柱だ。分かりやすく言えば魔神の成り損ないといった所だ。故に痛覚は人間と同様に存在する。我輩達とはベクトルが違うだけだ」
「どうされますかフローレス様、ご指示とあらば儂が黙らせますが」
「よいバルファ、我輩がやる。お前は一切手を出すな。奴のようなタイプは追い討ちが効果的だ」
フローレスは能力で宙に浮き、未だ暴れているレフに近づいていく。空いた穴を修復させていたレフは、フローレスの魔力を察知し、フローレスを複眼で睨みつける。
「どうした魔神柱、まさか今ので降参とは言うまい。貴様まさかその程度の存在なのか?もしそうならばもうこれ以上お互いに争う理由は無い。インセクトが貴様に失礼を働いたのなら我輩が謝罪しよう。すまなかったな」
『貴様、どうやって私に攻撃を…』
「そんな事は今はどうでもいい。それよりも貴様には手伝って欲しい事があるのだ」
『なんだと?』
「何、簡単な事だ」
フローレスは更にレフに近づき、囁くように呟く。
「我輩達に協力しろ。この特異点でカルデアの連中を始末する」
◆◆◆◆◆◆
『カルデアの連中、つまり藤丸立香を始末すると言うことか』
「逆に聞くがそいつ以外にカルデアの魔術師はいるのか?」
『…貴様等、本当の目的は一体なんだ?』
「敗者にそんなことを教える程我輩が優しいと思うか?それに知った所で貴様にそれを理解出来るとは到底思えん。それでも知りたければ我輩を倒してからにして欲しいものだな」
『…良いだろうさっさと貴様に勝って貴様等の目的を聞かせて貰おうか!』
レフは触腕から魔力弾を放ちながら、他の触腕を鞭のように振り回す。フローレスは空中で器用に避け続けながら、指先に魔力を集め、魔力弾を放つ。その魔力弾がレフの魔力弾と衝突し、相殺される。
『馬鹿な!私の攻撃を相殺するなど!』
「いささか我輩の事を弱く見すぎではないか?今放った魔力弾は元々貴様のだぞ?」
『何!?』
「先程我輩達に向けて魔力弾を撃っただろ?あれは消滅したのではなく我輩を守っている
さも当然のようにフローレスは話すが、相手は魔神柱の姿となったレフ。その魔力弾に込められた魔力は測り知れず、唯の魔術師がこれを受けたり仮に吸収出来たとしても、その膨大な魔力に体が木っ端微塵に吹き飛ぶ事だろう。しかしフローレスはそれを吸収し、あまつさえそれをそのまま撃ち返すという芸当を見せたのだった。
「どうした?我輩はまだ傷ひとつすら受けていないぞ」
『調子に乗るなぁ!』
レフは触腕から一斉に魔力弾を放つ。しかし、それらの魔力弾はフローレスに向かって撃たれたのではなく、全弾がフローレスの手前で爆発したのだった。
これにはフローレスも警戒し、動きを止め次のレフの動向を待つ。その瞬間、爆風の中から不意に二本の触腕が飛び出し、レフに体に巻き付く。
『捕まえたぞ!』
「ほぉ、魔神柱にしてはなかなか考えたものだな、褒めてやろう」
『フンッ、その余裕がどこまで続くか見物だな』
フローレスに巻き付けた触腕の力を徐々に強めながら、レフは勝利を確信した。
『さぁ、私は貴様に勝った。さっさと貴様等の本当の目的を教えて貰おうか』
「まだ勝利を宣言するには早くはないかね?」
『なんだ負け惜しみか?さっき私の事を雑魚とか言っておいて負けたのがそんなに悔しいか。負け惜しみも大概にして負けを認めてはどうかな?』
「……」
『ん、どうした?私に負けたのがそんなにショックだったのか?』
「…つけあがるな魔神柱風情が」
瞬間フローレスに巻き付いていた触腕が破裂し、フローレス触腕による拘束から解放される。
顔を上げたフローレスの髑髏の仮面の目からは青色の焔が灯っていた。そして触腕が破裂した事に動揺しているレフの方へ、ゆっくりと掌を向ける。
『ガァァァァァァァァァァ!!?』
掌を向けられたレフは、突然苦悶の叫び声を上げながら触腕で複眼を押さえ始めた。
押さえている幾つかの眼球が異常なまでに膨張していたのだ。やがて膨張していた眼球は限界を越え、水風船が割れるように破裂した。眼球を構成していた体液や組織、そして眼球の一部が辺り一面に飛び散る。
「何故我輩が
『アアアアアァァァァァ…』
フローレスが話している間にも、レフは激痛に悶えながらこれ以上肉体を維持出来なかったのか巨体は徐々に収縮していき、ついには人の姿に戻っていった。
フローレスはそれを見届けるとゆっくりと地面に降下する。片膝を付いた状態で左目を押さえていたレフは、顔に脂汗を流しながら地面に降り立ったフローレスを見上げる。
「さて、いい加減見栄を張るのは止めて我輩達に協力してもらおうか。無論拒否するのは貴様の自由たが、その時は今の苦痛を更に長い時間味わうことになるが構わないかね?」
「ッ!」
レフは理解していた、今の自分の実力ではこの者はおろか後ろで待っている二人にすら勝てないと。
しかしだからといって本能から素直に従う事は魔神柱としてのプライドが傷つくと考え、口が中々開かない。ここでこの男の言うことに従ったなら『あのお方』への忠誠を裏切ることになってしまうと理性が告げ、レフは今その二つの意思の間で葛藤していた。そんなレフの心中を知ってか知らずかフローレスはそっと右手をレフの前に出す。
「別に我輩と共に戦えとは一言も言っていない。貴様は貴様の仕事に集中すれば良い。我輩達もこの特異点で我輩達の仕事に集中する。ただお互いの最終的な目的が藤丸立香の始末だと言うのを覚えて貰いたいだけだ。その為にはお互いの情報交換しない事には始まらない。もしこの手を取るのであれば、我輩達の手が空いている間、貴様が望むのであれば貴様の支援もしよう。どうだ、悪い話では無いだろう?」
「……」
レフは暫く無言でフローレスの手を見続けると、ゆっくりとフローレスの手を掴み、その場に立ち上がる。未だ疑心の目を向けてはいるが、もうフローレス達に対する敵意はなかった。
「私を裏切るつもりは無いんだな」
「今は無い、と言いたい所だがそれも貴様の努力次第だろう。さっきも言った通り我輩達は協力するのであって貴様の仕事の手伝いを一緒にするつもりは無い。それは貴様も同じことだろ?ならばお互い深く干渉し合わない方が良い」
「…理解した。なら精々私の仕事の邪魔をしないでもらおう」
「無論そのつもりだ。さて、お互い時間が惜しい、話し合いはここまでにしようじゃないか。また会おう魔神柱」
「その呼称で私を呼ぶのは止めろ。私の名はレフ、レフ・ライノール・フラウロスだ」
「分かったライノール。我輩の名はフローレスだ」
お互い簡単な自己紹介だけ済ますと、レフは『連合ローマ帝国』の
「どうやら話し合いは終わったみてぇだな」
「あぁ、お陰で便利な情報源が出来た。良い収穫と言えるだろう」
「それではフローレス様、次にこの特異点での我々の仮拠点探しでしょうかな」
「それなのだがバルファ、確か『裏』に我輩の使っていない別の城があったはずだ、可能ならばここにコンパクトなサイズの城を持ってこれないか?」
「可能ではありますが、少々お時間を頂けないでしょうか」
「構わぬ。出来るのであれば直ぐに取りかかってくれ」
「畏まりました」
命令を受けたバルファは魔法を行使する為の準備に取り掛かる。その間フローレスは視線をバルファから外し、別の場所に視線を向ける。視線を向けた先には、ネロ・クラウディウスの統治するローマ帝国の町並みがうっすらと見えていた。
「…なんか見えるんすかフローレスの旦那」
「いや、見えない。だが感じるのだよ、我輩が能力を発揮するに相応しい何かが。間違いなくカルデアの
「へぇ~、それって旦那のライバル位ですか?」
「戯け、そんな筈なかろう。奴と同等の存在などサーヴァントの中にいるわけがあるまい。奴は今も尚生きる伝説のような男なのでぞ?我輩の全力に全力で答えてくれる、そんな奴だ」
「…すまん、いささか軽率だった」
「分かればいい、分かればな」
インセクトの言葉を食いぎみに否定したフローレスは、右手で何かを握り込むような仕草を見せるながらインセクトを睨む。
睨まれたインセクトは失言だったと後悔し、直ぐ様謝罪する。フローレスは謝罪を聞くと、握り込んでいた手を開き、再び視線をローマ帝国に戻す。その佇まいと全身から滲みでているオーラは、正しく魔王のようであった。
如何でしたでしょうか?少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
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