サーヴァント(特に三蔵法師)の口調が分からない…
フローレス達が仮拠点の作成に取りかかっているのと同時刻、ネロ・クラウディウスとの接触を図った藤丸立香とサーヴァント達は、現在ネロと共にローマの町を歩いていた。時折ネロはお店の店主等に励ましや激励の言葉を掛けながら歩いていた。
「皇帝陛下はとても国民の事を大事になさっているんですね」
「ウム!これは余にとって当然の事、余はこの5代目ローマ帝国皇帝、民草達の事は常に気を配らねばならぬ。もし苦しんでいる民がいるのであれば余はその者に必ず手を差しのばす必要があるのだ」
「そりゃ御立派な考えだことで。ま、ワタシにはこれっぽっちも関係の無い話だがな」
「コラー!立派な考えだと思ってるならもうちょっと相手に敬意を表しなさーい!じゃないと御仏から嫌われちゃうからね」
「そうです両儀式さん、御仏はともかく相手は皇帝陛下なんですよ。お願いですからもう少し言葉を選んで下さい」
「アタシがそんなことする奴だとでも思ってんのか?それに敬語なんてアタシらしくないしなにより使う気にもならなぇよ。さっきもそこの皇帝がここでは敬語じゃなくて良いって言ってたし、なぁ皇帝」
「ウム、余は一度言ったことを変える気はない。それにお主の男勝りの口調は聞いていてもそれほど不快にはならぬ。それは本心から余の事を嫌ってはいない証拠だ」
「勝手に決めつけんなよ皇帝。つかさりげに両ちゃんって呼ぶんじゃねぇ三蔵」
「いいじゃない別に減るもんじゃないんだし。そんなにそんな短気じゃ愛想尽かされちゃうわよ。私ぐらい寛容な性格じゃなきゃね」
立香がネロの行動を素直に称賛するのに対し、今回の特異点修復こ為に召喚されたサーヴァント--両儀式は、その行動を一蹴する。そこにすかさずマシュと同じく召喚された三蔵法師が注意する。三蔵の言葉に両儀式は額に血管を浮かべる。
「少なくともお前みたいな仏大好き人間にはなりたかねぇな」
「ちょっと、それってどういう意味よ。言って良いことと悪いことがあるでしょうが!」
両儀式は隣にいる三蔵を睨みながら嫌味を吐き捨てる。その嫌味を聞いた三蔵は自ら寛容と言ったにも関わらずキレる。
お互いが睨み合い口喧嘩を始める光景を、止めるべきかどうか判断出来ずオロオロするマシュ、カルデアでも見た光景に口喧嘩を止めるのを半ば諦めかけている立香、「仲が良いな!」と大笑いするネロ、そこだけ見れば中々カオスな状況であった。
そして口論から戦闘になるのは避けるべきかと考えた立香は二人を止めようと近づこうと足を踏み出し、何か柔らかいものが胴に当たる感触に思わず足を止め、ぶつかったものを確認する。
「し、師匠!」
「さ、三蔵法師さん!」
「うぇ~ん、弟子ー!両ちゃんが私を馬鹿にするよぉ~何とかしてぇ~!」
「あ、てめぇ!マスターに助け求めてんじゃねぇぞ!」
「へっへーん!日頃の行いが悪い奴に仏も誰も味方しないもんね~!」
ぶつかってきたのは口喧嘩をしていた筈の三蔵で、目元に涙を溜めながら立香に抱きついてきた。
両儀式の方を見れば、鋭い目をさらに鋭くして怒りを露にしている。そんな両儀式を小馬鹿にするかのように三蔵は舌を出して挑発する。
「ねぇねぇ弟子~?この場合私と両ちゃんどっちが悪いと思う?」
「え、えっと…その前に離れてもらっても良いですか?色々問題が…」
「嫌ー!弟子が答えるまで師匠離れないから!」
「三蔵さん!マスターが困ってますから本当に離れて下さい!」
三蔵は腕の力を強めながら立香に問い掛ける。腕の力が強まるにつれ、胴の柔らかい感触が一層服越しに伝わってくるのを感じた立香は、三蔵を引き剥がそう懸命に頑張るが、三蔵は立香を離さない。
最終的にはマシュと両儀式の二人がかりで三蔵を引き剥がす。その際両儀式は複雑な顔をしていたがそこに触れたら今度こそ両儀式が本気でキレると察した立香は何も言わなかった。
「奏者達はいつも仲が良いな。余も混ぜて欲しいものだ」
「…皇帝陛下がこれに混ざると最早俺たちではもう止めに入れなくなると言いますか」
「出来るのなら参加しないでもらえたら嬉しいです」
「ム、そうか。それは残念だ」
立香とマシュが疲れ切った目でやんわりとネロに断りを入れる。そんな二人の心情を知らないネロは、残念そうな顔をする。
ふと、ネロは両儀式の方を見やると、彼女は立ち止まって何処か一点をじっと見つめていた。
「どうしたのだ両儀式、何を見ておる?」
「…いや、何でもねぇよ。気にするな」
ネロから声を掛けられた両儀式は、一度鋭い目のままネロ見ると、すぐにいつもの目に戻ると何でもないと言ってさっさと歩き出していった。
「(何だ、さっきの気配。今まで感じた事のないもんだったが…誰かが俺たちを監視してる?まさかアーチャークラスの野良サーヴァントか?だとしてもここから距離があり過ぎる。そんな超遠距離から俺たちを監視できるサーヴァントなんているわけない)」
両儀式は、ついさっき感じた気配について考え、他のサーヴァント達は気づいたのか疑問に思い、首を後ろに向け、サーヴァント達を確認するが、今後の特異点についてマシュや立香は話し合っていたのだが、ネロや三蔵は自分が感じた気配に気づいていたような気配が無かった。
「…考えすぎか」
とりあえずそう結論付けた両儀式は、前を向き今現在自分たちが向かっている森林地帯に設置された駐屯地に向かって足を進めるのであった。
◆◆◆◆◆◆
「……フム、これ位の魔力放出ならどうやらあのサーヴァントだけが気づくようだな」
フローレスは、机に置かれている水晶を見ながら、水晶玉の中に映っている立香達を観察していた。
フローレスはバルファが発動した転移魔法によってローマの荒野に転移させた城の自室で、自身の能力と連動させられる水晶玉を使用し、超遠距離から彼らを観察していた。
「おいフローレス。いつまでその水晶と睨めっこしているつもりだ。いい加減私を呼びつけた理由を話して貰おうか私も暇じゃないんだよ」
しかし、彼らの観察とサーヴァントに対する見解は、レフの不機嫌な声によって中断される。フローレスは仕方なく水晶玉から視線を切り替え、自身の座るソファの反対がのソファに偉そうに座ってこちらを睨んであるレフに視線を向ける。
「まぁそう不機嫌になるな。何、一つ貴様に保険をくれてやるのだ」
「保険?」
レフを呼びつけたのは他ならぬフローレス自身なので、あまりどうこう言うと後々が面倒だと思ったフローレスは、早々に本題に入る。
まず、部屋の片隅で待機していたバルファを呼び、レフの近くに近づいたバルファがレフに何かを差し出す。それは魔術文字やルーンが描かれた薄汚れた藁人形だった
「その人形は、ありとあらゆる攻撃から己を守ってくれる、所謂身代わり人形と言った所だ。因みに製作者はバルファ自身の手作り。但し、身代わりになってくれるのは一回までだ。故によく考えて使うのだぞ」
「ほう…」
藁人形を受け取ったレフは、人形全体をくまなく見回してからバルファを見る。バルファは微笑みながらお辞儀をして、再び部屋の片隅へと戻っていく。
「…貴様からの厚意として受け取っておこう、感謝する。話はこれで終わりか?そうならば失礼する」
懐に人形をしまったレフは、さっさと部屋から出ていってしまい、部屋にはフローレスとバルファだけが残された状態になった。
フローレスは再び水晶玉に視線を落とすと、手招きでバルファを呼ぶ。呼ばれたバルファは素早くフローレスの傍らに近づき、片膝を付き頭を垂れる。
「バルファ、貴様に任務を与える。今カルデアの魔術師のいる場所まで赴き、奴らの威力偵察を行ってこい。もし、
「はい、畏まりました」
バルファは深々と頭を下げた後、素早く立ち上がり壁に立て掛けていた杖を片手に部屋から退出する。フローレスはその間水晶玉に映っている立香達の観察を再開した。
しかし、飽きたのか途中で止めると、水晶玉の手入れを始める。すると部屋の扉がノックされる。フローレスは、一瞬扉に意識を向けるが、扉の向こう側にいる人物の魔力を感じ、ノックを無視して手入れを再開する。
「いや、流石に無視はひどくねぇか?普通っつうか一般常識的にノックしたら一言言ってくれよ。入りずらかったしこの部屋誰もいねぇのかと思ったぞ」
そう言いながら扉を開けてきたインセクトは、開口一番にフローレスを非難する。何故避難されなければならないと思ったフローレスは、呆れたためいきを漏らす。
「貴様は普段からノックも何もせずに入室してくるだろう」
「そりゃ知り合いだけならそうしたが、来客が来てる時は話が別だ。俺の他人からの第一印象が一般常識に欠ける奴だって思われたくねぇし」
「確かになそんな非常識な奴がいたら我々の組織の評価が落ちてしまうな……一人を除けば」
「……あー」
フローレスの最後の意味深な言葉を聞き、インセクトは一拍遅れてフローレスの言っている事を理解して苦笑する。おそらく今二人の頭の中には、黄色いマスクを被ったカラフルなタキシードの男が笑い声を上げている姿が浮かび上がる。
「…あれは非常識が服着て歩いてるような奴だし」
「それはそうだが…奴の狡猾な思考によって編み出された策略や戦略は、奴がたった一人で考え抜いた物だ。今この瞬間にも自身の頭脳を回転させているのやも知れぬ」
その直後、フローレスが手に持っていた水晶玉が虹色に輝き出す。二人は思わず会話を中断し、水晶玉に視線を向ける。水晶玉にはフローレスにしか理解できない文字が浮かび上がっており、文字は『キャディ・マディル』と表記されていた。
「噂をすればなんとやらだな…」
フローレスは、片手を水晶玉の前に翳し、手を横にスライドする。すると水晶玉の中の景色が変わり、水晶一杯に黄色い何かが映りこむ。
『これはこれはどうもフローレス、元気そうで何よりです』
「…キャディ、いつも言っているが顔の距離が近い。毎回貴様の黄色のマスクをドアップで見せられるのはそろそろ辟易してきたぞ」
『ちょっと!通信していきなり私のマスクディスるの止めてくださいよ!だってこれどん位の距離が丁度良いのかまだ分からないんですから』
「そうかなら慣れろ、今すぐに」
『いきなりの無茶ぶり!?流石に今すぐは無理ですからね!?』
「無能め」
『何でそれだけで私無能扱いなんですか!』
「おいお前ら、アホみてぇな漫才やってんじゃねぇよ。キャディ、通信入れたって事は俺らに用でもあるんじゃねぇか?」
『おぉインセクト!貴方なら私を助けてくれると信じていましたよ!』
「いいからさっさと用件話せ、じゃねぇよ通信切るぞ!」
『待って切らないで話します!話しますから!』
キャディは水晶玉越しに慌てると、水晶玉から距離を取り咳払いを一つ。
『実はですね、今特異点にいる貴方方にお願いしたいことがありまして』
「お願い?」
『はい、ピエレル様蘇生の際に、どうやら莫大な人間の魂が必要でして、その魂を集めて貰いたいのですよ。後、可能であれば魔神かそれと似た生物の魂も一つだけ回収してきて欲しいのですよ』
「なるほど、人間の魂ならともかく
『えぇ構いませんよ。丁度その特異点に一匹いるでしょ?』
「……貴様まさかこの事を『予測』していただろ?」
『さぁそればっかりは貴方に教えることは出来ませんねぇ』
「……」
『まぁお願いと言うのは以下の通りです。それでは特異点でのお仕事頑張って下さいね。後、本部でちょっと面白い事があったので、帰って来たら一度キーカーの部屋の前まで来てくださいよ』
キャディはそれだけ言うとさっさと通信を切る。それを見届けた二人は互いに顔を見あい、ため息を漏らす。
「なんか…いつも通りだな、あいつ。一体あいつの何処から狡猾な思考なんて思いつくんだよ」
「我輩にももう分からぬ。だが今は先に仕事を済ませるとするか」
「了解」
キャディはやはり非常識人だと結論付けた二人は、とりあえずキャディから頼まれたお願いを含めた仕事を達成するために行動を開始するのであった。
如何でしたでしょうか?
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