「いやぁ助かるね。こうして色々手伝って貰っちゃって」
「いえ、俺達がこうしたいって思ってやっている事なので、お気になさらず」
「そうですよ、こういう力仕事は中々体験出来るものではありませんから、この際沢山体験しておかないと」
「へー、立香君やマシュは偉いねぇ。陛下が連れて来るだけはあるわ。それに二人とも真面目で優しいし、さぞかし沢山の異性を落としてきたんでしょうね」
「えっ!いや、そんなことは無いかと」
「またまた謙遜しちゃって」
立香達カルデアは、現在ネロに連れられて辿り着いた駐屯地で、クラスライダーのサーヴァントブーティカとクラスバーサーカーのスパルタクスに会い、親睦を深めあっていた。と言っても、基本的にブーティカの仕事の手伝いがほとんで、スパルタクスに至ってはまず意志疎通が出来ないのだが。
それでもブーティカからはかなりの好印象を得られ、最初の頃は『藤丸君』と呼ばれていたが、共に作業をしていくにつれ、今では『立香君』と呼ぶようになっていた。立香にとってはあまり呼び慣れない呼び方のため、呼ばれる度に狼狽えてしまう。
両儀式達はと言うと、この駐屯地に付近にローマ連合の伏兵がいないかを調査するためにネロとローマ兵と共に巡回に向かってしまった。
「それで、立香君達はこの戦争で私たちに協力してくれるけど、正直な話私たちと協力したとして勝算はあるの?」
「それはまだ分かりません。でも、少なくとも相手はサーヴァントの可能性があるので、勝てない訳ではないです。僕もこれでも魔術師の端くれです。それに自惚れではありませんが、僕のサーヴァントは強いですから」
「あら、頼もしいわね。お姉さんそういうの好きよ。期待してるから」
「私もそう思います!実際先輩は前の特異点でも聖杯を無事回収出来ましたし、何よりジャンヌ・オルタとの戦闘で、先輩はとても勇敢に戦ってました!」
「ありがとうマシュ、それにブーティカさんも」
「…あ~なるほど」
「?どうしたんですかブーティカさん」
「いや、マシュちゃんは前途多難だな~って」
「ブ、ブーティカさん!」
「マスター、見回り戻ったぞー」
ブーティカの言葉で顔を真っ赤にするマシュ。そのタイミングで、丁度両儀式達が見回りから帰ってくた。
マシュは顔が赤いまま少し火照った体を冷やしてくるといい、早足にその場から立ち去っていった。
「どうしたマスター、マシュになんかしたのか?」
「何もしてないよ。それよりもマシュ、顔赤かったけどどうしたんだろ?」
「…立香君、それはちょっと鈍感過ぎやしない?お姉さんちょっとビックリだよ」
「え、なんですかいきなり」
「はぁ…これは道のりは遠そうね。マシュちゃんも苦労しそうだわ」
「?」
「弟子、この特異点終わってカルデアに帰ったらちょっと恋愛観についてあたしと一緒に勉強しようか」
「え、それって別に勉強しなくても「い い か ら !」は、はい!」
「もう、弟子がまさかそんなに鈍感だったなんて、師匠としてはしっかりとそういうのも少しは学んでもらわないと」
「楽しい談話中の所大変申し訳ないが、敵襲でございますぞ」
「「「「!?」」」」
不意にかけられた声に、同は一斉に声のした方に振り向く。
何時からそこいたのか、木の幹の上にローブを着た老人が立っていたのだった。立香達の視線の中、老人はゆっくりと木の幹から降りると、ローブに付いた葉っぱなどを払い落としてから、ゆっくりと立香達に一礼する。
「はじめまして、儂の名はバルファ、バルファ・ルーゲルと申します。『組織連盟』のしがない
丁寧に自己紹介をしたバルファは、優しい雰囲気に、声も人を安心させる声色でこちらに微笑み続けていた。立香は一瞬親切心から自分も自己紹介しようとしたが、『組織連盟』の名前を聞いて身構える。
「あなたも組織連盟の人...なんですね」
「えぇ、と言っても儂は組織連盟幹部が一人、名前は言えませぬから、『王』とだけ言わせておきましょう。その『王』の部下でしかありませぬ。儂自身それほど強くはありゃせんよ」
「じゃあなんでお前はこんな敵地のど真ん中にノコノコ姿を表したんだよ。その『王』とか言う奴に命令されたのか、それとも年食い過ぎたせいで頭朦朧としてんか?」
「はっは、面白いこと言うのうお嬢さん、じゃが儂の頭はまだ正常じゃよ。なに、『王』から命令を与えられてのう。それを果たしに来たまでじゃ……………主らを殺してこいという命令をな」
先ほどまでの温和な雰囲気から一転、底冷えするほどの殺気と無機質な声になったバルファに、一同は各々の武器を構える。
バルファが杖を掲げると、体から魔力が溢れ出し、バルファが持っている杖に集まると拡散し、バルファの左右に二メートルの魔法陣が出現する。
「どれ、まずは小手調べじゃ。死後も騎士であれ---
バルファの言葉に反応し、魔法陣は激しく発光する。そして、左右の魔法陣からそれぞれ一体ずつ怪物がその姿を現した。
右の魔法陣からは、一メート八十センチの全身にボロボロの漆黒のローブを着た化け物が六体出現する。その体は半透明で、今にも消えてしまいそうだった。
反対の魔方陣からは、一メートル七十センチ程の、純銀の
「どれ、お前達存分楽しむが良い」
バルファの合図を皮切りに、体六体は一斉に立香達に襲いかかる。死霊騎士達は、自身の姿を完全に消し、グレートソードだけが宙を浮いた状態から、五体は兵を集めたネロに襲いかかり、残った一体は立香に襲いかかる。
「この私の前で弟子に手を出すなんていい度胸ね!」
しかし、それは三蔵の杖によって弾かれ阻止される。攻撃を阻止されたグレートソードは、剣先を三蔵に向ける。三蔵は片足をあげるような構えを取る。
「さぁ、どこからでもかかって来なさい!」
グレートソードは、三蔵に向けて飛翔する。三蔵は杖でこれを弾くが、弾かれても弾かれた瞬間に、その場から再び三蔵の方向に飛翔する。
「まだまだぁ!」
しかし三蔵は、杖で弾く他にも、如意棒や
すると、宙に浮いていたグレートソードが唐突に地面に突き刺さる。そして、突き刺さったグレートソードの後ろから死霊騎士が姿を現し、地面に刺さっているグレートソードを抜くと、今度は真正面から三蔵に斬りかかる。
「へぇ!正々堂々やる気になったって訳ね!」
「……」
死霊騎士は何も言わず、再び三蔵とお互いの武器を交える。もう片方の殺戮聖騎士は、獣のような声を上げながら、本能の赴くままに、自分に最も近かった両儀式を攻撃する。
「ガァァァァァァァァァァァァ!!!!」
「はっ、単調で品が無ねぇ。見え見えの攻撃がアタシに当たるかってんだよ」
両儀式は、余裕の表情で殺戮聖騎士の攻撃を避け続ける。殺戮聖騎士がメイスを振る度に、メイスが接触した木々や地面がズタズタになる。更に声を上げながら出鱈目にメイスを振るが、全く当たる気配が無い。
しかし、時折両儀式からのナイフによる攻撃に対しては、左手腕の盾でしっかりと防御する。
「(こいつ…攻撃は当たらない割に、アタシの攻撃はしっかりと防御してやがる。成る程そう易々とは殺らせてくれねぇみたいだな)」
頭の中で冷静に殺戮聖騎士を分析する両儀式だが、攻撃を中断し、その場に停止した殺戮聖騎士を見て動きを止める。
殺戮聖騎士は、盾を構え、メイスを自身の顔の前に構える。するとメイスが淡く発光し、そのまま淡い光がメイスを包み込んだ。
「おいおい、一体何するってんだぁ?」
両儀式の疑問を余所に、淡く発光したままのメイスを再び両儀式に叩き込もうとする。両儀式は、先程と同じように回避しようとしたが、一瞬だけ背筋に寒気が走り、一気にバックステップを踏む。
その直感が的中し、殺戮聖騎士の振り下ろしたメイスが、地面と接触した瞬間爆発したのであった。
「おいおいそんなのありかよ」
思わず呆れ返る両儀式を余所に、殺戮聖騎士は再び両儀式に向かってメイスを振り回す。爆発効果も付与されたとなり、両儀式は先程より更に殺戮聖騎士から距離をあけざる負えなかった。
「あぁもうメンドクセェ!」
そろそろこの泥仕合に嫌気がさした両儀式は、ナイフを逆手に持ち、自分から殺戮騎士に肉薄する。その両目に蒼い光が灯しながら接近してくる両儀式の、その目を見た殺戮騎士は生存本能から防御態勢を取るが、両儀式はそれを無視して殺戮騎士を斬りつけながら跳躍し、殺戮騎士の背後に降り立つ。
「悪ぃな、あんたはもうとっくに斬られてるよ」
殺戮聖騎士がその言葉を理解するよりも早く、殺戮聖騎士は口から吐血するとそのまま地面に跪く。殺戮聖騎士は何をされたのかまるで理解できずに、自分が吐いた血を見つめる。
「アタシはあんたの死を視て、それを斬った。あんたには理解出来ないだろうけどな」
冷ややかに事実を口にする両儀式。その言葉を聞いた殺戮聖騎士は、吐血しながら後ろにいる両儀式に一度目を向けた後、今度は天を見上げ、両手を広げる。
「神ヨ…我ガ死ニ祝福ガアラン事ヲ。感謝スル、オマエノオ陰デ、私ハ死ネル…仲間達ニ会ウ事ガ出来ル。アリガトウ、名モ知ラヌ暗殺者ヨ」
殺戮聖騎士は、その言葉だけ残すと両手を広げたまま地面に倒れこみ、そのまま灰色の炎に包まれながら消滅していった。
「……なんで、殺した相手に感謝すんだよ。意味分かんねぇよ」
「両ちゃん!そっちはもう終わった?」
「あぁ終わったよ。つか、その呼び方止めろって言ってんだろ」
「えぇー」
「えぇー、じゃねぇよ」
「…何故お主等は顔を合わせれば口論しておるのだ」
「あぁネロ、そっちは終わったのか?」
「ウム!数は多く苦戦はしたが、なんとか勝利する事は出来たぞ。しかし、少なからず我が兵達に負傷者が出てしまった」
「それって大丈夫なのか?」
「ウム、被害が少なかったのが幸いであった。なんせあの化け物共、一度戦い始めた奴を執拗に攻撃し続けるのだ。お陰で此方は十分数の利を活かす事が出来た」
「そうか、それじゃ後は…あの爺だけか」
戦闘を終えた三人は、視線を動かしバルファを視界に捉える。三人が戦闘の最中でも立香達に襲い掛からず、静観していたバルファ。その目は何処か無機質で、こちらを見定めているように見えた。
「フム、この程度であれば英霊一人でも簡単に撃破可能か。やはりもう少しハードルを上げてみるべきかのぉ。いやしかし儂の目的はカルデアの排除を視野に入れた威力偵察じゃから…あまり本気になりすぎて一緒にいる現ローマ皇帝を殺すことは命令に含まれておらんから殺してしまったら儂が『王』に叱咤を受けてしまう。それは不味いしのぉ」
先程の二人の戦闘を見ていたバルファは、先程までの戦闘の結果と自分に課せられた命令を冷静に見極めており、立香等から視線を外し、深く考え込んでいる。
「おい、一人で考えこんでる所悪いんだけどよ、お前の召喚したモンスター、始末したぞ」
「ん?あぁこれは申し訳ない。少し考え事をしていたようじゃ。さて、次は何を出そうかのぉ」
「両儀式!師匠!バルファから杖を!」
「分かってるよ!」
バルファは、再び杖を掲げ、召喚の態勢を取る。それよりも早く立香は二人に指示し、両儀式と三蔵はバルファに肉薄する。三蔵はバルファから杖を奪い、両儀式はバルファの背後に回ると、両手を素早く拘束して地面に押さえつける。
「また面倒な事しようとすんじゃねぇよ」
「…やはり二回目は許されませんか」
地面に押さえつけられたバルファは、両儀式に顔を向けると、朗らかな笑顔と声色で降参した雰囲気だった。両儀式は、自分達サーヴァントを前にしてよくそんなことが言えたものだと内心呆れ果てた。
「当たり前だろ。おいマスター、捕まえたぞ!三蔵、何か縛れる物持ってないか」
「それならさっき兵士さん達を手伝った時に貰った縄があるからこれを使って」
両儀式は、三蔵から縄を貰うとバルファの両手首を縛り、バルファを連れて立香の元に戻る。その間バルファは、一切抵抗せず、なすがままだ。
「えっと…まずは、ご老体に無理させてすいません。僕たちもまだ殺される訳にはいかないですから」
「…マスター、こいつは敵だぞ?敵に情なんていらねぇだろうが」
「そうじゃよ小僧。儂は一応お主らを殺す為にやってきた敵じゃぞ?情をかけてくれるのは嬉しいが、情けは人の為ならずと言うじゃろう?最も、儂が情をかけられるに値する者ではないがのう、ホッホッホッホ!」
「黙ってろよ爺。マスターこいつの処遇をどうする、殺すか?」
バルファが自虐ネタで軽快に笑い、それを両儀式がバルファの縄を引っ張り黙らせる。三蔵とマシュ、立香は苦笑いを浮かべる。
「いや、流石に殺すことはないよ。それに、彼の言う『王』のいる拠点を聞き出せれば、こちらに有利に働くかもしれないし」
「なるほど!確かにそれなら、こちらはいくらでも対策を講じれますね!」
「さすが私の認めた弟子ね!」
「そういうことだ。おら、その『王』とか言う奴のいる場所吐けよ爺」
「いや、それはおそらくそれは難しいじゃろうなぁ。後もう少し聞くのが早かったら、もしかしたら儂は拠点の場所を吐いておったかもな」
立香の提案にサーヴァント三人は納得し、両儀式はバルファに命令するが、バルファはそれを拒む。全員の視線を浴びたバルファは、涼しげな顔で、余裕の表情をしていた。
「…どういう事ですか?」
マシュは、バルファの発言の意図が掴めず、聞き返す。バルファはマシュに顔を向けると、老人特有の優しげな微笑みを浮かべる。
「じゃから、もう少し早く聞いておれば、拠点の場所を吐いたかもしれんぞ?」
「だからそれがどういう事だって聞いて---ッ!?」
バルファの言い方に痺れを切らした両儀式は、強くバルファに聞き出そうとして、背後から突如感じた異様な魔力に、素早く後ろに振り向き、ナイフを構えて迎撃態勢を取る。
しかし、他のサーヴァントはおろか、マスターの立香でさえ両儀式がどうして武器を構えたのか分からず、両儀式の唐突な行動に、只々困惑していた。そんな中、バルファだけが、両儀式を興味深く観察していた。
「ほぉ…お主、分かるのか?『王』が放つこの魔力に」
「おいバルファ、この魔力の奔流はなんだ?こんな魔力を発せられる奴、いままで感じたこともねぇぞ」
「ど、どうしたんですか両儀式さん突然!?」
「マシュ、三蔵、マスターを守れ、何か来るぞ。今までの敵とは比べ物にならねぇ何かが!」
両儀式の警戒と同時に、両儀式の視線の先にあった空間が内側に吸い込まれるように徐々に歪みだし、そこから、金属の擦れ合う様な不快な音がその場に響き渡る。その音に、ようやく両儀式の行動の意味を理解した面々は、各々の武器を構え、歪みが進行している場所を見つめていた。
そして、歪んでいた空間が唐突に元に戻ると、その場所がボール等による衝撃で割れたガラス窓のように崩壊し始める。
「----バルファ、迎えに来てやったぞ」
そして、崩壊した空間の中から身の毛もよだつおぞまし魔力を発しながら、正しく『王』の風格を醸し出しているバルファの言う『王』なる者が、その姿を現した。
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