「でもなんで急に召喚するんだい?」
いつものごとく俺が英雄召喚という名前を借りたガチャをしに行こうとしたらどこから嗅ぎつけたのかエリウッドとヘクトルが「やはり爆死か。いつ開始する? 俺達は見学に行こう」と勝手に同行してきた。
「伝承召喚の確率が8.5%に上がっていてな。それを『上がった確率は収束させなければもったいない』というプレゼンをリンとフィオーラにしたらオーブ30個分だけ許可してくれた」
「完全にお小遣い制じゃなぇか」
「自覚していることを突っ込むんじゃない脳筋……!!」
自由に召喚できていたあの頃が懐かしいぜ。
とりあえず召喚室に入り、召喚石版を起動する。
「何色狙いだい?」
「とりあえず最新型の伝承セリカがいる緑だな。幸いなことに同色のスラシルもいねぇし」
「スラシルさんにあんな酷いことしておいて召喚できると思っているのかい?」
「大丈夫大丈夫。スラシルだったらリーヴの写真で許してくれる」
「「チョロイン……」」
エリウッドとヘクトルが遠い目をしながら呟くが、事実だから仕方ない。スラシルがリーヴに惚れていることは恋愛感情幼稚園児と言われる俺でも気づいた。
つまり気づかなかったリーヴはそれ以下。
本人が聞いたらブチ切れそうなことを考えつつ俺が緑のオーブを石版に叩き込む作業をする。
そして何回目かの召喚
捲き上る砂煙。浮かび上がるシルエット。そんなに背の高くない髪の長い女性。
「私はアドラスレアの皇位継承者、エーデルガルト・フォン・フレ…ス…ベル……」
「あ、確率が収束したね」
「やったな召喚士、未召喚英雄だぞ」
「うちに伝承は来ないということか」
エリウッドとヘクトルの言葉に力なく項垂れる俺。
そして召喚されたエーデルガルトは驚愕の表情を浮かべて俺を指差す。
「な、なんでシェイカー先生がここにいるの!?」
「召喚士の知り合いかい?」
「俺は知らん」
「だったら並行世界の召喚士だな」
「並行世界の召喚士ってどういうこと!?」
「お前の知っている俺とここにいる俺は別物ってことだ」
俺の言葉に歓喜の表情を浮かべるエーデルガルト。
「本当に!? そしたらキチガイ行動をしたりもしないわよね!!」
「「「あ、それは普通にする」」」
「ウソダドンドコドーン!!!!」
俺達の言葉に『世界よ呪われろ』と言わんばかりに床を叩く未来のアドラステア皇帝。
だが、すぐに立ち上がり俺を力強く見据えてくる。
「けどシェイカー先生とは言え、私に命ずるなら、相応の覚悟をもつことね」
皇帝の雰囲気を出しながら俺を見つめてくるエーデルガルト。
その雰囲気にエリウッドとヘクトルが思わず武器に手を伸ばす。
だが安心してほしい。俺はベレスとベレト。ヒューなんとかくんやペトラ、メーチェから彼女の人となりを聞いている。
「ここにはベレスもいるんだが」
「犬とお呼びください」
「「土下座行ったぁぁ!!!」」
俺の言葉に即座に土下座するエーデルガルト。そこには『皇帝』の姿はなく『こ〜てい』の姿があった。
「うっそマジで師がいるの? ちょっと待ってちょっと待ってまだ私心の準備ができてない。でも大丈夫、大丈夫よエーデルガルト。いつだって私はパーフェクトな姿を師にお見せできるわ。そんなわけでシェイカー先生、師に会わせてくれる?」
「う〜ん、速攻で壊れたな」
「壊れたというより素が出てきた感じだよね」
「この雰囲気、俺達に通じるものがあるな」
エリウッドとヘクトルの割と失礼な評価を気にせずにエーデルガルトは俺の肩を掴んでくる。
「シェイカー先生、師に、会わせて……!!」
「わかったわかった」
俺はエーデルガルトを連れて召喚室から出る。エリウッドとヘクトルは新人歓迎会のためにオカンを筆頭にした厨房英雄達のところに向かう。
そして俺とエーデルガルトは一つの部屋の前にくる。そこは俺の執務室であるが、今はベレスとベレトが仕事をしているはずであった。
「この先にベレスがいるが」
「ちょっと待って!!」
俺の言葉に鬼気迫る表情で身嗜みを整えるエーデルガルト。そして大きく深呼吸してから頷いてきた。
それを見てから俺は部屋の扉を開ける。中ではベレスが作業をしていた。
ベレスはかけていた眼鏡を外し、俺とエーデルガルトを見てくる。
「ああ、先生と……おや、エルじゃないか」
「ゴボッファぁぁぁ!!!!」
「いかんぞエーデルガルト!! その鼻血の量は致死量だ!!」
ベレスの姿を見て鼻血を撒き散らす『こ〜てい』。そこに未来の皇帝とかアドラステア皇帝の姿はなく、ただの『師大好きっ娘』がいるだけだった。
「く、流石は師。師と一緒にお風呂に入った経験がなかったら死んでいたところだったわ」
「?」
エーデルガルトの言葉に無表情ながら不思議そうに首を傾げるベレス。
しかし混沌は終わらない。
「ベレス!! ルフ子さんとの交渉が終わったぞ!!」
そこにやってきたのはグレート・ティーチャー・ベレト。ベレスの男性としての側面である。
ベレトはエーデルガルトに気がつくと100%爽やかな笑顔を浮かべる。
「おお、エーデルガルトじゃないか!! 久しぶりだな!! これから一緒に頑張ろう!!」
その言葉に再びエーデルガルトの鼻から愛が溢れる。
致死量の鼻血に沈み、小刻みに痙攣しながらもエーデルガルトは呟く。
「え? これって夢? 師が男性になってるんだけど? いいえエーデルガルト、間違いなく現実……!! うっそでしょ、男女の師がいるとかここが楽園でしょ。しかも私が師の子供を孕める可能性があるってことよね。いいえ、焦ってはダメよエーデルガルト。まずはゆっくりと距離を詰めなきゃ……まずはしっかりとしているところを師に見せるのよ」
そしてガバリと立ち上がって威風堂々と口を開く。
「は〜、師達の間に挟まって感動に打ち震えたいわ!!(久しぶりね師、これからよろしく頼むわ!!)」
「本音と建前が逆になってるぞ!!」
エーデルガルト
重度のベレトスオタク。師大好き。師最高な『こ〜てい』陛下。ちなみにここにいるベレトスとは別の世界線からやってきた(外道、フォドラに立つルート)
ベレス
仕事の時は眼鏡をかける。
ベレト
GTB。彼がいた世界線ではベレトは金鹿の教師だった模様。
致死量の鼻血の床
フローラが3秒で綺麗にしてくれました
そんな感じで確率を収束させようと伝承ガチャを回したところ師大好きっ娘がログインしました。
キャラ崩壊しているように見えるでしょ? でも原作でも割とこんな感じなんですよ、彼女。
さて、前回は飛空城を初詣仕様にしておくと言っていたのですが、作者の設定ミスでなっていませんでした。これは完全に作者が悪いです、楽しみに攻めてきた方は申し訳ございません。来年があればこの反省を生かしていきたいところです。