召喚士と英雄の日常   作:(TADA)

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烈火を知っている読者の方が『この相手はおかしい』と思っていただけたら作者の勝ちだと思ってます。


デビルクエストⅤ〜悪魔の花嫁〜

 「私の扱いが雑な気がするのよ」

ヘクトルが悪魔(エリウッド)の奥さんを教えてくれるということで、部屋で待っているとその話を聞きつけたリンがやってきた。リンも祖父のハウゼン爺さんが死んだ後に速攻でキアラン侯爵家をオスティア侯爵家に丸投げしてサカの草原に帰って隠棲していたらしい。なのでエリウッドの結婚もフロリーナから手紙で聞いただけだそうである。その中に『相手を知ったらきっと驚く』と書かれていたらしい。

 「この作品で私が出てくる時は大抵が三馬鹿に対してのツッコミと、召喚士の浮気に対する制裁の時だけ。そのせいで感想に『リンちゃん鬼嫁になりそう』なんて言葉が来る始末。普段から召喚士の部屋に通って料理したり掃除したりしているのに描写されないせいで鬼嫁扱い。酷いと思わない?」

 「ちなみにリン。俺と結婚したらお金の管理はどうする?」

 「召喚士に任せたらろくな事にお金を使わなさそうだから、私が管理するわ」

 「それは鬼嫁の特徴の一つらしいぞ」

リバースの杖+(物理)が俺の頭に振り下ろされた。痛みで悶絶しているが、リンは呆れたようにため息を吐いた。

 「烈火時代に召喚士が管理していた結果が、アンナの秘密のお店の出禁だったはずだけど?」

 「戦争は金かかるんだから少しでも値切り交渉をするのは当然だと思うんだが」

 「反省の色がないわね。ちょっとそこに正座しなさい」

そして始まるお説教。普段の生活態度から食習慣、さらにはエリウッドとヘクトルと問題を起こすなというお説教である。

 「おう待たせたちょっと用事思い出したわ」

 「まぁ、ヘクトル。早く入ってこい。遠慮することはないぞ? 何せ俺たちの仲だからな」

 「いやいや、親しき中にも礼儀ありって言うだろ? だから早く離せ召喚士…! リンの説教に俺を巻き込むな…!!」

 「いやいや……! エリウッドと三人で『残る二人を地獄に落として自分は生き残る』って誓った仲じゃないか……!!」

 「その理論だとエリウッドの一人勝ちだろうが!!」

必死に逃げようとするヘクトルを、逃すまいとヘクトルの足にしがみつく俺。リンはそんな仲の良い俺たちを見て呆れたようにため息を吐いた。

 「それでヘクトル。エリウッドの奥さんを教えてくれるんでしょ?」

 「お、おお。そうだった。おう、入ってくれ!!」

ヘクトルの言葉に一人の女性が入ってくる。バカみたいに深いスリットと谷間を見せる服。だが、それを下品な印象を与えずに、どこか気品を感じさせる美人。そして特徴的な青いショーカットの髪。

俺とリンは当然、その人物を知っている。

ヘクトルは唖然としている俺たちを見て面白そうに笑いながら口を開いた。

 「こちらはフェレ侯爵夫人ウルスラさんだ」

 「ふふふ、改めてよろしくね。召喚士、リン」

黒い牙の四牙で『蒼鴉』のウルスラだった。

 

 

 

 

 

まさかのエリウッド夫人がウルスラだったと言う事実に一瞬だけ意識が飛んだが、とりあえず意識を戻していつも通りにお茶の準備をする。

ウルスラもどこか上品に俺が用意したお茶を飲んでいる。その姿はどう見ても貴族の所作であり、フェレ侯の夫人に相応しい姿だった。

同じように座っているヘクトルを見る。お茶を飲む姿は居酒屋で酒を飲むおっさんの所作、貴族の気品が微塵もないクズの空気。

ヘクトルが俺の視線に気づいて俺を見てきた。

 「なんだよ?」

 「お前は絶対に貴族じゃないだろ。どちらかと言えばチンピラだな」

 「お? オスティア侯爵様に向かって喧嘩売ってるのか?」

いつも通りにバトルを始めようとしたら、リンがヘクトルにミュルグレ(攻撃49)、俺に鉄の剣(攻撃37)を叩き込んでくる。

 「ぬぉぉぉ!! 俺と召喚士の扱いに差がありすぎるだろう!!」

 「良妻週間実施中よ」

 「それを言う時点で良妻とは言えな」

ヘクトルの発言の途中で、今度はソール・カティを叩き込む。ヘクトルは泡を吹いて失神したが、すぐにリバースの杖+によって復活させられた。

 「ああ、クッソ。イテェな。なんでエリウッドの嫁を紹介しに来たのに、ダメージを喰らわないといけないんだ」

 「ヘクトルは不幸枠だからな」

ヘクトルが投げて来たアルマーズを回避する。お互いにメンチを切り合っていたが、リンがフルコースの準備を始めたのと、ウルスラがブラーウルフ+を準備したことで俺とヘクトルは肩を組んで仲良しアピールをする。見えないところでお互いに殴り合うのは様式美とも言えるだろう。

 「でもよ、ウルスラはモルフだろ? 子供産めなくないか?」

 「まぁ、それを説明する前に烈火の最終決戦を思い出してみないかしら?」

ウルスラの言葉に俺とヘクトルとリンは不思議になって首をかしげる。

 「確か最終決戦の前に召喚士……このメンバーだったら軍師でいいわね。軍師が『俺がネルガルだったら、黒い牙の幹部クラスのモルフを用意する』って言ったわね」

 「その後にパントが『だったらモルフの肉体にその人物の魂が定着する魔法を生み出さなきゃ!!』とか言い始めて、軍師と一緒に徹夜で作り上げていたな」

 「それで最終決戦に挑んだら俺の言った通りになってただけだな」

 「問題はその後よ」

はて?

 「俺とパントとエルクとカナスの四人で魔法発動させて全員復活させたな」

 「ブレンダンとロイドとライナスの怒り心頭の姿を今でも思い出せるわ」

 「全員でネルガルボコって、トドメを誰が刺すか揉めた結果、瀕死のネルガルを樽に詰めて『ネルガル危機一髪!!』をやったよな」

 「貴方達は頭がおかしい」

超今更なことをウルスラにマジ顔で言われてしまった。

 「こほん。あの戦いの後に軍師は行方不明、リンはサカに帰ったから知らないでしょうけど、私たち黒い牙はエリウッドに雇われたのよ。しばらくエリウッドのところで働いていたらフラリとパントとルイーズの夫婦が現れてね。モルフだった私達を人間に戻したわ」

 「ちなみにパントが人間に戻す研究にかかった期間は?」

 「一ヶ月よ」

流石のパントえもんである。

 「まぁ、それから私とエリウッドは仲良くなってね。エリウッドの妻になってくれってマーカスに頼まれたのよ。ソーニャ様もいなくなってしまったし、エリウッドのことも嫌いじゃなかったから結婚したのよ」

色々端折られた気もするが、深く突っ込むのはやめておこう。

 「でも、その割にヴァイス・ブレイブでエリウッドと殺し合っている姿をよく見かけるけど……?」

リンの言葉にウルスラは無表情になって持っていた湯呑みにヒビが入る。

 「忌々しいわね……! 封印の時は一緒にロイの手助けをしていたのにFEHではあっさりと先に実装されたのよ……! しかもロイと一緒に!!」

最後の怒りの言葉と共に湯呑みが粉々の砂になった。湯呑みが破片ではなく砂になった。お前は魔道士やめて前衛職になれよ。

俺とリンが確認するようにヘクトルを見ると、ヘクトルは力強く頷いた。

 「ウルスラも親バカだ」

 「「うわぁ…」」

俺とリンが触れたくないものを見る目になる。ウルスラはそれに気づかずに延々とエリウッドに対して呪詛を吐き続けている。

 「ここの親バカ夫婦はロイの教育方針でしょっちゅう喧嘩してな。フェレ騎士団じゃ止めきれないから俺のところにも援軍依頼が毎回くるんだよ。こいつらも手加減はしているから死人は出なくても怪我人はすげぇ出てな。そしたらある日オズインが気づいたんだよ」

過去を思い出しながら語るヘクトルの瞳はだんだんと死んで行く。

 「俺が一緒に行くと、俺に被害が集中するってさ。それからは早かったよ。オズインが俺を縛り上げ、マシューが猿轡噛ませて、爆心地に放り込むんだ。はは、何回死んだはずの兄貴に会ったかな……」

 「もういい……もう休め……!!」

ヘクトルの目から心の汗が流れるの見て、思わず慰めてしまった。

 「あれ? もしかして烈火時代に使ってたギガスカリバーじゃなくて、エリウッドにすごく刺さるブラーウルフを持ってきたのって……」

リンの呟きにイイ笑顔をしたウルスラに俺とリンは全てを察した。

 「でも良かったわ」

ウルスラの笑顔に俺はとてつもなく嫌な予感を感じる。

 「今度からロイがスキル継承に使われたら、心置き無く私も参加できるようになるからね」

ウルスラの笑顔は腹黒暗黒侯爵が浮かべる笑みと同じだった。

 




唐突なリンちゃん
作者がノーマルリンちゃんのスキル継承に悩んでいる時に『有用なスキルを全部継承させちゃえばいいんだ』という悟りを開いた結果出演。決してノーマルリンちゃんの戦闘絵の魅力的なふとももに惹かれたわけじゃないんだからね!!

ウルスラ
原作烈火のウルスラさんは各自ググってください。ここではまさかのフェレ侯爵夫人。そしてロイに対する教育熱心な教育ママ。その厳しい教育姿勢から、徹底的に甘やかしたいエリウッドとしょっちゅう喧嘩する。そして巻き込まれるヘクトル。ちなみにウルスラさんの教育は苛烈を極める。1時間の勉強に1時間の戦闘訓練。栄養バランスのとれた三食の食事に、おやつと昼寝の時間も設け、きちんと8時間以上の睡眠を義務付ける超スパルタ教育である。その教育方針に危機感を抱いたロイの教育役であったウィルがフェレ侯爵夫婦に無断でオスティアに留学させる。そしてウィルは星になった。

貴方達は頭がおかしい
ちなみに発言者も烈火出身者の模様

パントえもん
実装されていないのに存在感溢れるイケメン天才魔道士。こいつとラクチェが実装されるのが楽しみな半分恐れもある。この二人が実装されると我がヴァイス・ブレイブのカオスが加速する。

オスティア学校セシリア先生
軍師(召喚士)原作、パント編集の『サルでもなれる英雄への道!!』を教科書にしてロイとリリーナを教えた名教師。


みなさんの予想は当たりましたか? ヘクトルはこの作品を始めた時から家族ネタで弄るために嫁さんを決めていましたが、エリウッドは召喚士とヘクトルの悪友ポジションだったので、嫁さんを決めていませんでした。作者は初回プレイ時にエリウッドの支援相手をマーカスにしてしまったので、結婚相手のイメージが湧きませんでした。なので感想で『エリウッドの嫁さん誰なん』(意訳)が来た時に考え始め、とりあえず支援相手は普通だから除外、味方も面白みに欠ける。そこで『あ、ソーニャとかいいやん』とか思いましたが未実装。そこで次点のウルスラさんに白羽の矢が立ちました。エリウッドの奥さんなのでもちろんロイコン。今度からロイをスキル継承に使った場合、デュランダルとブラーウルフの合体技が来ることに決定しました。もし花嫁ガチャに花嫁ウルスラが実装されたら作者は勝手に公式設定って認識しますね!!

これを書いている時に気がつきましたが、封印開始時点でエリウッド、ヘクトル、パントが存命。諸悪の根源である軍師(召喚士)がいないとは言え、どう考えても大人しくしているわけないので作者の中で『封印の剣=烈火世代の暗躍』のイメージが染み付きました。

FEHが配信1周年ですね。せっかくだから記念小説を書きたいですが、ここの連中に『お祭り』という大義名分を与えるとアルフォンスくんの胃がバーストしそうなので自重します。スルト視点は書いたからヴェロニカ視点の『ゔぇろにかちゃんのだいぼうけん!!』でも書くかなぁ…でもそれを書くと召喚士達の立場がさらに悪く。ただでさえ感想で『三馬鹿がテロリストでは?』(意訳)と来てしまっているのに。

英雄総選挙でヘクトルが1位? 不幸枠のヘクトルの幸せな話なんか書きませんよ

追記:感想でご指摘のあったウルスラの武器の名前間違いを直しました。ご指摘感謝です。

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