えりなは理解が追いつかなかった。10年前にえりなに虐待擬きの教育を行い、伯父によって薙切を追放された実も父親である薊が遠月十傑の過半数を味方につけ、祖父から学園長の座を奪いとったと思ったら、伯父と愉快なバカ二人に連れられてアメリカの基地に見学した時に見た覚えのある輸送ヘリが上空にやってきて、そこから軍人達が降下してきて父親である薊が拘束された。
父親が戻ってきただけでお腹一杯なのに、そこに軍人達の登場である。学園祭にきていたお客さん達も薊の遠月学園奪取からの軍人の拘束で思考が停止している。えりなもできれば思考を停止させたかったが、伯父と愉快なバカ二人によって鍛えられた直感スキルがビンビンに働いている。
そして一機のヘリが降下してきて、そこから四人の男性が降りてくる。一人はえりなの伯父であり、遠月で教師をやりながら、遠月グループを実質的に支配している薙切軍召。赤髪が特徴的で微笑みを浮かべている男性。遠月十傑第二席小林竜胆の父親であり、伯父の悪友である小林襟都。黒髪でどうみても料理人ではなく格闘家という筋骨隆々な体格を持ち、遠月十傑第四席茜ヶ久保ももの父親で襟都と同じく伯父の悪友である茜ヶ久保兵人。そしてえりなは見覚えのないぽっちゃり体系でスーツを着て、メガネをかけた白人男性。だが、三人と一緒に軍人たちが支配するこの場に来る時点でカタギの人間ではないだろう。
そしてえりなは悟った。
(あ、お父様は三馬鹿に嵌められたんだわ)
最初から違和感は感じていた。仲間に容赦がなく、敵には一切の慈悲を持たない三馬鹿が、敵認定している父親を自由にさせるわけがないのだ。つまり父親の学園奪取計画は全て伯父達の手のひらの上だったわけだろう。
現に父親は憎々しげに伯父を睨みつけている。
「薙切軍召……! 貴様……!!」
「慣れない謀略なんかやるもんじゃないぞ、中村」
軍人に押さえつけられた父親の言葉も、伯父は冷笑で返している。いけない、本来なら父親が立つべきだったポジションに、もっと立たせちゃいけない人間が立っている気がする。
すると白人男性が父親の前に立つ。
『中村薊だな。君にはアメリカに対するテロ行為をしようとしている容疑がかかっている』
『な!?』
英語での会話だが、伯父と愉快なバカ二人に振り回されて世界中を連れまわされた経験があるえりなは問題なく理解できる。
『私はそんなことをしようする理由がない!!』
『まぁ、私が調べた限りでも動機は見つからないけれど、テロリストに対する指示書や、アメリカに潜在的な敵対国に対する援助等etc……物的証拠や情報証拠が山程あるから逮捕せざるえないんだ』
父親が伯父達の陰謀に気づいたのか、三人を睨み付けると、三人は戦隊物の決めポーズを決めていた。伯父さん、もうちょっとシリアス続けて。
軍人達に連行されていく父親とその仲間達。なんというか……これからの物語を全てぶち壊された気分になる。
『それでプロッター。態々君の描いた絵図通りにCIAは動いてあげたんだから、それなりの見返りを求めてもいいかい? 具体的に言うとお嬢の計画とかさ』
『それ教えるとココがガチで切れるから無理だよ、ブックマン』
『ココは怒ると怖いからねぇ……』
『伊達に武器商人をやってないよなぁ』
白人男性の言葉に伯父と愉快なバカ二人が答える。さらりとCIAとか武器商人と言う単語が出てくることに、恐怖じゃなくて納得の気持ちが出てきてしまうのは三馬鹿に毒されているからだろうか。
ブックマンと呼ばれた白人男性はその答えもわかっていたのか、軍人達の隊長と一緒にヘリに乗り込んで去って行った。
残されたのはあまりの超展開についていけない観衆と、唖然としている祖父。伯父は残されていた祖父に近づいていき、一枚の紙を突きつける。
「さて、親父殿。ここに遠月十傑評議会で決定されたことがあります。簡単に内容をまとめると『中村薊に遠月総帥の座が渡った場合、即座に中村薊を解任し、薙切軍召・小林襟都・茜ヶ久保兵人の三名を共同総帥とする』。署名している十傑は小林竜胆・女木島冬輔・茜ヶ久保もも・齋藤綜明・一色慧・叡山枝津也の六名です」
父親についていた十傑の大半を味方につけているところに伯父の悪意を感じる。祖父は苦々しい表情をしていた。それはそうだろう。義理の息子の謀略に嵌められたと思ったら、実の息子が本当の黒幕だったのだ。人間不信に陥ってもおかしくない。まぁ、義理の息子の追放は祖父が決めたことだが。
「軍召……貴様も美食こそが至高などと言う巫山戯たことを抜かすか」
「いやいや、親父殿。俺がそこまで料理に熱中してないの知ってるだろ?」
「軍師はむしろ他人を嵌めることに生きがいを感じているよね!!」
「こいつが倫理の授業を持ってるとか、遠月の学生の未来が心配だな!!」
「世迷言はそこまでだぞ腹黒親バカに単細胞脳筋。俺は自分が倫理から外れていることを知っている……つまり自覚ある外道だからこそ人の道を教えられるんだ……!!」
「「その理屈はおかしい」」
内心で二人の発言に全面的に同意するえりな。口には出さない。口に出したら外道が飛び火する。
「それでは貴様は何が目的だ」
「簡単なことだよ」
祖父から聞かれた言葉に、伯父は暢気に答えた。
「教育機関として正しい姿にしたいだけだよ」
「……え?」
伯父のあまりに真っ当な返答に思わず声が漏れてしまった。その声が聞こえたのか、伯父が白けた目でえりなを見てくる。
「おい、えりな。どう言う意味の反応だ」
「いやいや、えりなちゃんの反応は至極当然だね! 何せ外道で鬼畜でクソな軍師がまともなこと言っているんだから!!」
「俺たちも最初に聞いた時は『軍師はそんなこと言わない!! 誰だお前は!!』って叫んだからな」
「いや、当然の反応だから。義務教育じゃないから退学はあってもいいけど、それが多すぎ。それのせいで遠月グループ全体の評判まで落ち始めているんだ。経営に携わっている人間としては、学園だけの評判だけならまだしも、グループ全体に悪影響を出されると、考えざるおえないんだよ。つうかうちの一族は料理に特化しすぎなんだよ。グループは大きいんだから、他の評判も気にしなきゃやっていけない」
何故だろう。伯父は経営陣から見た時の当然の言葉を言っているんだろうが、何故『お前が言うな!!』と言うツッコミをしたくなるのだろうか。
「……もし、儂が拒否すればどうなる?」
「食の魔王の名前が国際的テロリストの代名詞になるだけだよ」
実の息子(伯父)の脅しに屈する父親(祖父)。伯父は『薙切一族はクソ』と言っていたが、言った本人が一番クソなのではないだろうかとえりなは思った。
(そうだわ……今度、アリスと一緒に温泉でも行きましょう)
小さい頃から三馬鹿に一緒に振り回された従姉妹と一緒に安らぎに行こう。そうでないとこれから先に三馬鹿が中心になって巻き起こされるバカ騒ぎについていけない。えりなはどこか達観した目で共食いを始めた三馬鹿を見ていた。
1時間後、えりなはアリスのノリが三馬鹿寄りなのを思い出して吐血し、秘書である新戸緋沙子を狼狽えさせるのだった。
薙切えりな
今回の語り部の原作ヒロイン。原作で父親からの虐待を三馬鹿が外道術を駆使して華麗に解放!! そして三馬鹿の奇行に巻き込まれる不幸な少女。高等部に入って安心していたら、爆弾がやってきて、それを解体した張本人達が核爆弾だったという可愛そうな少女。
薙切軍召
えりなの伯父さん。いわゆる召喚士ポジション。薙切グループの影の支配者。この出来事で表立っての支配者に。薊追放後も常にマークを続け、薊の陰謀を探知した後は、邪魔な実父を追放させた直後にアメリカに拘束させて二度と外に出れないようにする。
小林襟都
小林竜胆の父親。エリウッドポジション。もちろん子煩悩なので、絡みも書きたかったが、話が脱線に脱線を重ねて収拾つかなくなるので却下されました。
茜ヶ久保兵人
茜ヶ久保ももの父親。ヘクトルポジション。筋肉達磨から幼女から産まれるというミラクルのためだけの親子設定。ちなみに共同理事長就任後は一番の人格者として生徒達に慕われる。こら、他二名が酷すぎるだけとか言わない。
ブックマン
薊が海外で活動していたらしいので、どこかの諜報機関のキャラクターいないかなぁと思っていたら本棚にあった『ヨルムンガンド』が目に入り、その結果出演。こいつがいるということはココ・ヘクマティアルがいるということであり、三馬鹿なら普通にココに協力しそうだな、と思っている
薊さん
原作で悪役ポジション。娘に虐待とか三馬鹿が黙ってないよな、と思ってしまったのが始まり。10年前に娘に対する行きすぎた教育が食の魔王さんにバレて追放(尚、黒幕は三馬鹿)。慣れない陰謀を駆使して学園を乗っ取ろうとしたら、それすらも召喚士の計画の内。最終的に用済みになったので召喚士が用意したでっちあげの証拠でアメリカに捕まってしまった。
食の魔王さん
完全に流れ弾を食らって総帥の座から引きずり降ろされた。でも普通に考えて教育機関としてあの方針はどうかと思うんだ。
前書き通りに食戟のソーマを読んでいて、『そうだ、薊を不幸にしよう』という考えから執筆しました。正面から魔王打ち倒すのは原作主人公達に任せるとして、こっちは召喚士の陰謀によって完全に冤罪で倒されました。召喚士の戦い方は調略や謀略で相手を嵌めた後に、相手より多くの兵力を揃えて潰すという所業です。内通者を作るのは必須。ですので原作で薊に与した方々が軒並み裏切っています。え? どうやって裏切らせたか? 高校生を丸め込むのなんか召喚士はヘクトルを不幸にさせる以上に簡単です。
次回はまたFEHに戻る予定です。シグルドはレベル40になったんで、次はセリスくんの番です。それが終わり次第に親バカ二人による息子自慢対決を書く予定です。だが、その前にネフェニーとエイリーク(赤魔騎)のスキルポイント稼ぎがあるからいつになることやら……