スルトは血まみれの姿となってムスペル王国の王城内部を歩く。ムスペル王国が誇った精強な戦士達はヴァイス・ブレイブとの戦いで9割が大地に亡骸を晒し、貿易や外交などによってムスペル本国も疲弊させられた。
己の信念を捨てて国を守ろうと思い、ニフルの第三王女とエンプラ帝国の皇女を供物として行った儀式も己が滅ぼしたニフルの王女によって破れ去り、最後の賭けとして挑んだ決戦にもまた敗北した。
スルトが王城まで辿り着けたのは家臣達の必死の抵抗のお陰であった。ヴァイス・ブレイブとの戦いでスルトと共に多くの戦場を駆け抜けた家臣達はいなくなり、最後の決戦に共に赴いたのはスルトの娘達と同じ年代の若者達だ。そんな若者達がスルトの首を渡すわけにはいかないと必死の抵抗をした。
スルトの身代わりとなって矢を受けた若い騎士がいた。
自分の魔力を暴走させてヴァイス・ブレイブに自爆特攻をした若い魔道士がいた。
スルトを逃すために自分の馬をスルトに無理矢理乗せた若い騎兵がいた。
そんな若者達の犠牲の上にスルトは本城に辿り着いた。スルトの傷をみて慌てて回復魔法を使おうとした若い衛生兵をスルトは止めた。
『私の傷はもう助からん。貴様の魔力は後から戻ってくる者達のためにとっておけ』
スルトがそう声をかけると若い衛生兵は泣き崩れた。最後にスルトはその衛生兵の肩を軽く叩いて玉座へと進んだ。
スルトは己が起こした侵略を否定しない。スルトが若くして王になった時、ムスペルはいつ滅んでもおかしくない状況だった。土地は痩せ細り、産業もない。そして貴族達の反乱は相次いで起きた。
だからスルトは王位を継いだ時にムスペルを精強な国にしようと思った。王子時代からの側近と共にムスペル貴族の7割が参加した『ムスペル王国の大乱』を平定し腐敗貴族達を一掃すると同時に、平民達からも武芸に長けた人物達を引き上げ『軍事国家・ムスペル王国』を作り上げムスペル国内に安定をもたらした。
だが、スルトと一番の側近は1つの結論に行き着いた。
『このままではムスペルの民は飢えで滅びる』
いくら国内を平和にしてもムスペルがよくなるわけではない。ムスペルの1番の問題は食料を作れる土地が全くなかったことだ。そしてムスペル国内にはその問題を解決できる人材がいなかった。
だからスルトは隣国であるニフルへ侵攻した。自国が生き残るために他国を滅ぼすことに決めた。ムスペルの民を食べさせるためにニフルの民を蹂躙することにした。
だが、スルトがニフルに侵攻して見たものはムスペルでは見たことがないほどの肥沃な大地であった。ニフルの大地があればムスペルだけでなくニフルの民も飢える心配がないと思ったのだ。だからニフルの王子や王女達を見逃した。連中より自分の方が民を豊かにできると確信し、豊かにすれば民も侵攻を受け入れると考えたからだ。
だが、そんなスルトの甘い考えはニフルの第二王女が逃げ込んだヴァイス・ブレイブによって木っ端微塵に粉砕された。
ヴァイス・ブレイブは外交、貿易、謀略などを駆使して戦場に出る前に勝利する形を整えてから戦場に出てくる連中だった。そんな搦め手に実直なムスペルの騎士達は対応できるわけがなく、歴戦の勇者達が敵の雑兵達によって嬲り殺しにされ、一騎当千の猛者達もヴァイス・ブレイブの英雄達の前に散った。
「私は他国を知らなすぎたということか……」
スルトは玉座に座りながら呟く。玉座もすでにスルトの流した血液で真っ赤に染め上げられている。
「父上!!」
「レーギャルンか」
王座の間に飛び込んできたのはスルトの娘であるレーギャルンであった。彼女もまた鎧はボロボロになっている。
「すぐに傷の手当てを……!!」
「よい。助かる傷ではない」
慌てて衛生兵を呼ぼうとした娘をスルトは止める。なにせスルトが相手にしたのはヴァイス・ブレイブの修羅筆頭・アイラだ。なんとか相手にも致命傷を負わせてその後の参戦を防いだが、スルトもまた致命傷を負った。アイラは即座に後方に運ばれたからその後はどうなったかわからない。
泣いているレーギャルンにスルトは声をかける。
「レーヴァテインとヘルビンディは無事か?」
スルトが尋ねたのは残るように厳命したにも関わらず従軍した次女と、最終決戦において重傷も負いながらもニフル国内の残っていたムスペル残党を率いて救援に駆けつけた忠臣の行方だった。
「は、はい……二人とも部下とともに城にたどり着いております……!!」
流す涙を拭きながらスルトの問いに答えるレーギャルン。
「そうか。ならば二人を呼んできてくれ」
「父上」
「案ずるな。最期にお主達に言い残すことがある。だからお主達が戻るまで命は残しておく」
スルトの言葉にレーギャルンは騎士としての敬礼をすると王座の間から飛び出していく。その姿を見ながらスルトは呟く。
「思えばあやつらにも不憫なことをした。私は娘を女としてではなく戦士として育ててしまった。戦うことしか知らぬがゆえにであったが……」
「それでもあの娘達は幸せそうでしたわ」
「ロキか」
スルトの呟きに答えたのは軍師としてスルトに仕えていたロキであった。だがスルトの驚きはない。長年戦場で培った経験がロキの気配を感じ取っていたからだ。
だからスルトは娘を部屋の外に出した。今の状態では娘を守ることができなかったからだ。
「ふん、私の首を手土産にヴァイス・ブレイブにでも寝返るか?」
「あら、心外ですわん。これでも陛下には誠心誠意仕えておりましたのに」
「ほざくな女狐。私は貴様を味方と思ったことなどないわ」
吐き捨てるスルト。確かにロキはムスペルの利になることを多く行ったが、同時にヴァイス・ブレイブの敵愾心も煽った。ロキの煽りがなければヴァイス・ブレイブとの講和も望めたのだ。
「貴様の目的はなんだ、ロキ」
スルトの言葉にロキは笑顔を浮かべると芝居かかった大袈裟な動きで優雅に一礼しながら口を開く。
「世界平和のためですわ」
「……くく。世界平和と来たか」
「ええ、世界平和のためですわ。スルト陛下。そのために貴方にはどうしても死んでいただかなくてはならなかった。陛下はまさしく覇王の器。ですがその覇気は世界平和のためにならない」
「だから私をヴァイス・ブレイブに殺させたか」
スルトの問いにロキは答えない。それが答えであった。
「ロキ、娘達は貴様の考える世界平和の妨げとなるか?」
「……なりませんわ。あの娘達には不本意かもしれませんが陛下の覇気はあの娘達に引き継がれませんでした」
「そうか」
ロキの言葉にスルトは目を瞑る。思い出すのはまだ二人が幼かった時のこと。スルトが使っていたシンモラを二人で持ち上げようとして持ち上げられず、半べそをかいていた幼き二人だ。
「ならばロキ。二人の命は助けて欲しい。私が死ぬ。それは構わぬ。この戦争を起こした者としてケジメはつけねばならぬ。だが、娘達は私の役に立ちたいと思ったからこの戦争に加わっただけだ。この戦争の全ての責任は私にある。娘達には何の責任もない。だから……」
そこまで言ったところでスルトは吐血する。本格的に最期の時に近づいたらしい。スルトに近寄るロキ。それをスルトは狭まり始めた視界で収める。
(最期に娘との約束も破るか……許せよ)
しかしロキはスルトに留めを刺さず、逆にレーギャルン達が戻るまでスルトの体が持つような回復魔法をかける。
「……なんの真似だ?」
「あらん? 私は陛下の家臣ですわ。家臣として陛下のご希望に添えるように動くだけですわ」
「……貴様だけには礼は言わぬぞ」
「結構ですわ。今更、陛下にお礼を言われましても気色悪いだけですもの」
「最後まで減らず口を叩くものよ」
スルトの皮肉にロキは楽しそうに笑うが、すぐに真面目な表情になった。
「さらばですわ、スルト陛下。後世、貴方は愚かな王として語られるでしょう。ですが、少なくとも陛下の治世にあったムスペルの民は知っています。誰よりも貴方が『王』であったことを」
それだけ言い残すとロキは姿を消す。魔法等で姿を消したわけではなく、転移魔法を使ったのか玉座の間からも気配が消えている。
「……最後まで女狐は女狐であったか」
スルトの呟きと同時に玉座の間の扉が開かれる。レーヴァテインとヘルビンディを呼びに行っていたレーギャルンが二人を伴って戻ってきたのだ。
レーヴァテインとヘルビンディも傷だらけであった。
「レーギャルン、レーヴァテイン、ヘルビンディ。ムスペル国王として最後の命令を下す。これは一切の異論は認めぬ」
「お父さ……」
「よしな、レーギャルン王女。陛下最後の命令だ」
レーギャルンの言葉をヘルビンディが止める。この貧民街から引き上げた若者がここまでの将に育つとは思っていなかったスルトは内心で苦笑し、ヘルビンディの才能を見込んだ側近であり親友であった漢の姿を思い出す。その漢もレーギャルンを助けるためにその命を散らした。
「レーヴァテイン。私の後はそなたが継げ。だが、決してヴァイス・ブレイブに復仇戦を起こそうとは思うな。逆に奴らと講和を結べ。今回の戦争はあくまで私の独断と言い張ってな。次にレーギャルン。お主はヴァイス・ブレイブに降り、奴らに協力せよ。お主がヴァイス・ブレイブに持つ恨みは私にもわかる。だがそれを飲み込んで奴らに協力せよ。奴らの力をムスペルに貸してもらえればムスペルは今より豊かになることができる。個人の恨みでなく、王族としての責務を果たせ。そしてヘルビンディ。貴様は決して死ぬな。私に対しての忠義を果たして殉死という安楽な道を選ぶな。貴様には幼き妹を守る義務がある。死なぬのであればあとは好きに生きよ。貴様の将才はムスペルという小さな国でなくしてはならぬ」
スルトの言葉に3人は無言で臣下の礼をとっている。そしてその足元には涙が溢れているのも見える。だが、スルトはそれを見なかったことにして言い放つ。
「返事はどうした」
「「「御意」」」
三人の返事にスルトは満足する。これで少なくともムスペルという国は残る。レーヴァテインは新しいムスペルの象徴として、レーギャルンはヴァイス・ブレイブに協力してムスペルの復興に力を貸せさせる。そしてヘルビンディは他国に仕えてムスペルの騎士の強さを知らしめる。そのためにスルトが悪名を被ることになるが。それも今更だ。王についた時から悪名を被る覚悟などできている。
言い残すことがなくなるとスルトの視界がぼやけてくる。すると1人の漢がスルトの目の前に立っている。その漢はスルトにとって側近であり、友であった漢。レーギャルンを助けるためにその命を散らせた漢。
「……そうか、迎えに来てくれたのか」
いつの間にかスルトはムスペルの大地に立っていた。漢もまた笑いながらスルトの隣に立っている。
スルトは持っていたシンモラを肩に担ぎながら笑いながら友に言い放つ。
「行くかスルツェイ。ムスペルの繁栄を目指して」
ムスペル王国スルト死す。その遺体は玉座に座りながらも『王』としての矜持を見せつけるような姿であったと伝わる。
『ムスペル王国スルト。この人物は長年戦争を引き起こした大罪人であり、時勢が読めずに国を滅亡の危機に追い込んだ愚か者として伝わっていた。だが、1000年続いたヴァイス・ブレイブが崩壊し、ヴァイス・ブレイブが隠していた資料が発見されてから彼は再評価され始めている。それまで情勢不安だった国内の情勢を安定させ、一時的とは言え荒れ果てていたムスペルを復興させたのだ。確かに彼は戦争を起こした。だが、そこにあったのは国のため、民のためという信念であった。ヴァイス・ブレイブの崩壊によって公開された文書の中に当時のヴァイス・ブレイブの中心人物であった召喚士(本名不明)が語ったとされる言葉がある。「ムスペル王国スルトはまさしく王の器だった」。果たしてスルトという人物は賢王であったのか、はたまた時勢の読めなかった愚かな王であったのか。意見はいまも割れている。』
アラズラム・J・D著 『ヴァイス・ブレイブ〜その栄光に消え去った英雄達〜』より一部抜粋。
スルト
FEHでの最後があまりにも微妙だったのでこっちのスルト陛下には王様として死んでいただきたくなりました。一番悩んだのは侵略理由。この話の8割はスルト陛下のニフル侵略理由に費やされました。
スルツェイ
レーギャルンを救ったり、ヘルビンディを見込んで鍛え上げたりとムスペル側では割と重要キャラだったにも関わらず、登場と同時にアイラに斬り殺された御仁。名前はスルト繋がりで北欧神話でスルト関係を調べましたがいい名前が見つからなかったので、なんか北欧神話に関係あるらしい島の名前を頂きました。
アラズラム・J・D
せっかくクロスオーバータグを入れたので、作者が今まで一番総プレイ時間が長いゲームの歴史学者を放り込む所業。なんのゲームかわかった人はそのゲームの名言を活動報告のアンケートにて叫ぶように
そんな感じでスルト陛下の最後でした。いまいち作者的に納得できていませんが考える時間がガチでないので投稿。ムスペル側はシリアスになっていけませんね。そのせいでスルト陛下のドM設定を使う機会を完全に無くしました。
レーギャルンがヴァイス・ブレイブに降伏したのはガチャのせいです。無料召喚で赤2つが来たので連続で引いたらリーンとレーギャルンの連続星5というミラクル。そして伝承チキも無料で来る始末。最近はFEHのガチャ運がよくて自分の未来が心配になる作者(伝承ルキナのことは忘却の彼方
どうでもいいですけど作者はベルファストに釣られてアズールレーンを始めました。そしてアズレンで思いついてしまうネタ。書きたいけど書く時間がねぇぞオラァン!!