「死の王御前会議のお時間で〜す」
「「わぁぁぁぁ」」
死の王ヘルの発言にやる気のない合いの手を入れるリーヴとスラシル。座っているのはリーヴとスラシル。そしてヘルの娘のエイルが戸惑ったように座っている。
「今回の議題は『アスク王国に侵攻してみたら喧嘩を売ってはいけない相手がいたのでどうすべきか?』になります。はい、皆さん。活発な意見を出して」
ヘルの言葉にリーヴが手を挙げる。
「お、積極的な姿勢は死の王ヘル様に好印象ですよ。はい、リーヴくん」
ヘルの言葉にリーヴはスラシルと頷きあってから口を開く。
「我々はヘルに蘇らせられて無理矢理従われているだけだから」
「きたなぁぁぁぁい!!! その逃げ方は汚い!! なまじ間違ってもいないところが特にムカつく!!」
机をバンバンと叩きながら文句を言うヘル。それに呆れたようにスラシルが口を開いた。
「だって事実じゃない。私たちはヘルに生き返らせられて無理矢理従わせられている。かぁ!! これは無罪だわぁ!! あの畜生も情状酌量の余地を入れてくれるわぁ!!」
「汚い!! 流石建国者汚い!! 君らだってあの鬼畜を殴りたいって言ってたじゃない!!」
ヘルの言葉に呆れるリーヴ。
「いいかヘル。確かに俺とスラシルはあの畜生を殴りたいと言った。それは仲間の立場で殴りたいのであって敵として殴りたいわけじゃないぞ?」
「? え? 結局殴るんだったら同じじゃないの?」
リーヴとスラシルのダブルため息!! ヘルに精神的ダメージ!!
「いいかしら? 仲間の時に殴ったらあの畜生も仲間同士のじゃれあいで済ますわ」
「……敵対している状態で殴ったら?」
「「宣戦布告扱い」」
「ノォォォォォォォォォォ!!!!!!」
リーヴとスラシルの無慈悲な発言に前衛芸術のような体勢になるヘル。
「おかしい。今回こそあの鬼畜を倒すために覇王の魂を持った人間を取り込んで完全究極体ヘル様になる予定だったのに」
「見事にあの畜生が仲間にしていたな」
「そしてその覇王の魂を持った人間を見事に怒らせていたわね。ヘル、あんたは何でわざわざムスペルの死兵として生き返らせちゃうのよ」
「え? だってあの国の兵士強いじゃん」
ヘルの言葉に再びダブルため息。
「「死の王に人の心はわからない」」
「わからないよ!! 何がまずかったの!?」
リーヴは呆れながらも口を開く。
「ムスペル国王スルトは王の中の王だ。何よりも自国の民や兵士を大事にする人物だぞ? そんな人物相手に自分の家臣の死体達が敵として出てきたらどう思うかわかるだろ?」
「さっぱりわからない。だって強いんだよ? 利用しなきゃ!!」
「「お前、本当にクズだなぁ」」
「2人して酷い!!」
私はヘル〜、などと歌い出したヘルを無視してリーヴとスラシルは会話を続ける。
「しかし、マジでどうするか。元ムスペル国王スルト、元ムスペル王女レーギャルン、現ムスペル国王レーヴァテイン。そして何を考えているかわからないロキを中心に編成されたヴァイス・ブレイブ軍は半端ではないぞ?」
「半端どころかスルトだけに味方の9割が潰されたわよ。リーヴも斬りかかっていたけど『効かぬ!!』されてたしね」
「そうだな。スラシルも川を挟んで攻撃して『効かぬ!!』された上にレーギャルンに惨殺されたしな」
無言でお互いの胸ぐらを掴みあうリーヴとスラシル。
「あ、あの……少しよろしいでしょうか?」
そこでおずおずと手を挙げたのは薄幸系美人エイル。
「先ほどからお話に出ている畜生や鬼畜とはどなたのことでしょうか?」
エイルの言葉に滝のように流していた涙を止めてエイルをみるヘル。
「エイルには説明しませんでしたっけ? ヴァイス・ブレイブの召喚士のことです」
「ヴァイス・ブレイブの召喚士……? 確か異世界から召喚された救世主だと聞いていますが……お母様とリーヴ様、スラシル様はお知り合い何ですか?」
「俺とスラシルはあいつを軍師として雇っていたことがある」
「むしろあの畜生の手によって王に仕立て上げられたわね」
「……えぇ?」
リーヴとスラシルの発言に軽く引くエイル。なにせ2人が建国した時代を歴史として知っているからだ。あの修羅の時代を生き抜いた上に上司を王にまで仕立て上げた化け物が敵だったことにこれからのことを考えて憂鬱になる。
「そ、それではお母様は?」
「どの世界でも会ったら即殺しあう関係かな」
ヘルの能天気な言葉にエイルは気を失いそうになる。修羅の世界を生き抜いた化け物相手に喧嘩を売った母親。文献を見る限り敵対したら女子供にも容赦しないのが召喚士の特徴だ。間違いなく自分も死ぬ。
「流石にやばいんだよねぇ。前の世界にいた時に逃げる時に『次会ったら絶対に殺すからな!! 今度は逃がさんぞ!!』宣言されてるんだよねぇ。いやぁ、困った困った。HAHAHAHAHA」
そしてヘルは完全に崖っぷちだった。それすなわちエイルの命の危機である。
「そこでなんとか命を救われる方法を考えたいわけだけど……とりあえず土下座とかどうだろう?」
「笑顔で剣を振り下ろすであろうな」
「待ちなさいリーヴ。断頭台の可能性もあるわ」
「どっちも死ぬじゃないですか、ヤダァ!!」
命の危険が迫っているのにどこか軽い死の王ヘル。
「あの、お母様。命がかかっているのにどこか軽くないですか?」
「え? あぁ、大丈夫大丈夫。だって私は『死』の王だからね。絶対に死なないよ。今までも命だけは助かっていたわけだし」
「相変わらず甘い考えだな」
「あの畜生が『次は絶対に殺す』宣言をしたんでしょ? それって殺す方法が見つかったってことよ」
スラシルの言葉に普段から青い顔がさらに青くなるヘル。
「ど、どどどどどうしよう!? リーヴえもん!! スラミちゃん!!」
「人をネコ型ロボットのように言うな」
「私はリーヴの妹なの?」
「そこじゃないでしょ!! このままじゃ私達目出度く死ぬより辛いことになる気がするよ!!」
「安心しろ」
「気がするじゃなくて確実にそうなるから」
「安心できる要素がない!! それ言ったら君らも巻き込むからな!!」
「「ワレワレハシノオウヘルサマニアヤツラレテイルダケデス」」
「超棒読み!! くそったれぇぇぇぇ!!!」
床をモップのように転げ回るヘル。そして起き上がってズビしとエイルに指を突きつける。
「こうなったら暗殺しかない!! エイル!! ヴァイス・ブレイブに偽装降伏して召喚士をサクッと殺ってきなさい!!」
「え……えぇぇぇぇ!!! 無理ですよお母様!!」
「大丈夫!! 召喚士は美人に弱いからきっと大丈夫!! でもバレたらゴメンね!!」
そしてエイルはヴァイス・ブレイブに偽装降伏をした。ヴァイス・ブレイブの(名目上の)隊長にもバッチリ怪しまれた結果、諸悪の根源である召喚士預かりということになった。この時点でエイルの緊張は最高潮である。
「さて……エイルだったかな?」
「あ、はい」
フードをかぶっているために表情はわからないがどこか優しそうな雰囲気を出しながら話しかけてくる召喚士。この時点でエイルは「あれ? 上手くいくんじゃね?」と甘い考えが頭をよぎる。
「あのクソの企みを素直に喋るのと拷問されながら喋るのはどっちがいい?」
「あ、すいません。全部喋るんで命だけは許してください」
エイルは即座に土下座して母親を売った。
死の王ヘル
ダメ系王様。死の王だから人の心がわからない。いくつもの世界で召喚士とぶつかり合って酷い目にあってきた人物。そのため小物臭がやばい。作者的に出番はもっと後だと思っていたから陛下の話の時にあのキャラにしたのに速攻登場で作者の怒りが有頂天。貴様は小物がお似合いだ。
リーヴ&スラシル
アスク王国とエンプラ帝国の初代偉い人。傍にはフードを被った笑顔の胡散臭い男性がいたそうである。一体何者なんだ……
エイル
完全に貧乏くじを引かされたヘルの娘。見た目が作者の好みだったから酷い目には合わなかったよ!! やったね!! ちなみに得意技は土下座。その土下座の美しさは一流土下座士である三馬鹿が惚れ惚れとするほど。
こんな感じで第3章敵サイドのお話でっす。第2章がシリアスってしまったのでシリアルに走る作者。ちなみに本文に出てくる陛下が『効かぬ!!』をしたのはマジです。インファのリーヴまで殺されることのなかった陛下。ちなみに陛下を倒したリーブは弓騎馬リン(勇者装備)にハチレンダァァァァァ!!! されて昇天しました。
感想にてまさかの『特務機関ヴァイス・ブレイブVS人理継続保障機関・カルデア〜謎のヒロインXを求めて〜』を見たいというリクエストがありました。作者も完全に忘れていた時にやってくる無茶振り。せっかくいただいたので今書いている『父親達の宴』が書き終わったら書こうかと思います。ちなみに『父親達の宴』は年内に投げたいところ。