僕と未来とパラレルワールド   作:NYO

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僕と未来と自分との出会い

「……雄二」

「なんだ?」

「……『プロポーズ』って知ってる?」

「ああ、知ってるぞ。結婚する時に言う言葉だろ」

「……どういうのか教えて」

「いいぞ、ただしその手に持っている録音機を俺に渡したらな」

「……いや」

「じゃあ、この話は終わりだ」

「……はい」

「ふぅ、こんな物誰から貰ったんだ?」

「……いいからはやく言って」

「いざ言うとなると恥ずかしいな」

「……約束」

「んっ。翔子、お前をあいアンクローを何故俺にする」

「……違う」

「じゃあ何だって言うんだ?」

「……キス」

「よし、その手をゆっくり離せ。余計なことはするな、ゆっくりだぞ」

「……雄二」

「ぐああぁっ!しょ、翔子、頭を近づけるのに握力は必要ない!」

「……じゃあ」

「(ケホッ)今度は何だ」

「……子供は何人がいい?」

「お前にはあれがプロポーズでいいのか!?」

 

 

             ☆

 

 

 

 

桜も雪のように散り始め、春風も勢いを衰えてきた今日この頃。つい先日、幼い頃は神童と呼ばれた雄二と協力し、打倒Aクラスを目指した僕達。

けれど結果は惜敗。いや、惨敗かもしれない。圧倒的な戦力(がくりょく)……ではなく雄二の油断によって僕達はまけた。結果、僕達は椅子が畳からござに、机が卓袱台からダンボールに変わった。

僕らはともかく、綺麗な容姿で優しい性格のクラスメイト姫路瑞希さんは、少し病弱だから心配だ。本来ならAクラスに入る実力を持ちながらも、テスト中体調を崩し、Fクラスに来てしまった。教室が変わってから数日しか経っていないけど、このごろよく咳をしているところを目にする。

 

「どうしたのじゃ明久? そんな真剣な顔をしおって」

 

上履きに履き替えながら、そんな事を思っていると隣から声をかけられた。

突然現れた絶世の美少女の名前は、木下秀吉。古めかしい言葉を使う演劇部のホープ。これで"男"だというのだから世の中どうかしてると思う。

 

「何でもないんだ秀吉、今日も可愛いね」

「あ、明久! いきなり何を言い出すのじゃ!?」

「? 秀吉、熱があるの? 顔が赤いよ」

 

風邪なら大変だ。我がFクラスにはただでさえ男の比率が多いんだから、これ以上むさくるしくなったら困る。

 

「はいはい、朝から変なことやってないの」

「おはよう美波。今日も朝から機嫌が悪いのは僕だったから腕をそんな方向に曲げないでー!」

 

突然腕を固めたのは、ドイツ帰りの帰国子女である島田美波さん。気が強いのと、ポニーテールが特徴の元気な女の子だ。

 

「で、アキ、何を悩んでたの?」

「そうじゃ、何を悩んでおるのじゃ、明久よ」

「僕そんな悩んでいるように見える?」

 

二人して息をぴったり合わせたように頷く。これならシンクロ世界一も狙えるんじゃないのかな?

 

「ごめん、ほんとに何でもないんだ」

「そう? じゃあ何も言わないけど、悩みなら一人で抱え込まない方がいいわよ」

「いつでも相談に乗るからの」

 

二人の優しさが心に染みる。僕の周りってこんなに暖かい人たちだったんだな。心には満開の花、地平線まで所狭しと咲き誇る花が、僕の心情を表している。

 

「ま、アキだったら一晩寝たら忘れてるでしょうけどね」

 

僕の心が氷河期に突入した。

 

 

 

             ☆

 

 

 

『え……い……ん…………の……』

『……か……み……つ…………う……』

 

 

「どうしたんだろう?」

 

教室にたどり着くと騒がしいかった。いや、いつも騒がしいんだけど、それはガヤガヤっていう感じで、今日はザワザワって感じだ。そしてそれは僕の机を中心におこっている。

ガラガラ。立てつけの悪いドアをスライドさせて教室に入る。

 

「吉井君!」

 

ドア付近にいた姫路さんが僕に向かって叫んだ。もともと小さな声なので叫んでも普通の声量だけど、この時だけは雄二の声のように教室内を静まり返し、クラス内の注目を集める。

 

『やっと来たのか』

 

なんだろう、人垣の中心からこちらに歩いてくる人がいる。雄二と同じくらいかそれ以上に大きい背の人。声は聞いたことがないようだけど、髪形は僕に似ている。やがてその人の姿がはっきりと見えてきた。

 

 

 その人は特殊な鏡を持っていたようで――

 

「やぁ、僕!」

 

――身長以外は全て僕そっくりだった。

 

 

「すいません、とりあえずその鏡をどけてくれませんか」

 

きょとんとした顔を浮かべられる。それもそうか、鏡を持っているんだから、今の僕と同じ表情になるのか。

 

「明久よ、どう見ても相手は鏡を持っておらぬぞ」

「それに制服じゃないわ」

 

目線を下に向けると、そこには由緒正しき文月学園の制服ではなく、ぴしっとした黒いスーツ。向こうは僕を知っているようだけど、僕の記憶を総動員してもこの人が分からない。

 

「今流行のボクボク詐欺だよ」

 

僕の中の悪魔が叫ぶ。確かにそう言われて見るとそうかもしれない。

 

「明久よ、お主の親戚ではないのか」

「いえ、違うんです。その人は、その……」

 

姫路さんが歯に何か詰まったような話し方をする。なにか言いにくいことがあるのかな? だとしたら――

 

「ごめん、気が利かなかったね。僕は少し席をはずすよ」

 

それが紳士さ!

 

「ち、違うんです吉井君!」

「へぇー、この頃の僕はこんな感じだったんだね」

 

腕を組み、顎をさすりながら答える男の人。髭が生えているわけでもないけど、その仕草は板についている。観察する瞳はどことなく懐かしんでるように思え、寂しがってるようにも見えた。

 

「じゃあ誰なの?」

「それはですね」

「瑞希、僕から説明するよ」

「えっ!? 瑞希だなんて……」

 

目の前の男はしれっとした表情で姫路さんを"瑞希"と呼び捨てにした。なんとも羨ま―――羨ましい!。

 

「いいか、明久、僕は――」

「「「僕は?」」」

 

僕、秀吉、美波が同時に聞き返す。一呼吸置いて、男の人は僕の肩に手を当てこう言った。

 

「十年後の君だ」

 

 

 

            ☆

 

 

 

 

「っていう夢を見た」

「明久よ、それは夢ではないぞ」

 

秀吉! 僕が目覚めるのを待っていてくれたんだね!

 

「さすが過去の僕、この程度で処理落ちするんだ」

「えっと、吉井さんはこんな事態になっても落ち着いていられるんですか?」

「うん、どんなことでも受け止められるようになったから」

「それは諦めていると言ったほうが正しいのではないかの?」

「あははっ、さすが秀吉、手厳しいね」

 

目の前で談笑する"自称"未来の僕。僕ってこんな風になるのか。基本的な部分は変わってないけど、若干目が鋭くなって、体つきもがっちりしている。

 

「でも、これからなんて呼んだらいいんでしょう。吉井さん? 明久さん? 明久(大)?」

 

姫路さんが我がFクラスに染まりつつある気がする。

 

「そうじゃのー、思い切ってあだ名をつけてみるとかはどうじゃ?」

「ああ、それに関しては大丈夫だよ。僕の事は明人(あきと)と呼んで欲しい」

 

皆を落ち着かせるように話す口調は、今の僕にはないものだ。あんな自分になれると思うと十年後が楽しみになってくる。

 

「明人さんですか。いい名前ですね」

「うむ、じゃが、何故明人という名前にしたのじゃ?」

「それは、僕の子供の名前が明人っていうからだよ」

「「結婚しているんですか!!」」

 

血走った目で未来の僕(あきとさん)に接近する二人。明人さんも目を点にして驚いている。そっか、僕十年後には結婚しているんだ。

 

「明人さん! 相手は誰ですか!」

 

ポニーテールを揺らし、明人さんの眼前に迫る美波の迫力には鬼気迫るものがある。

 

「そうです! 相手は誰なんですか!」

 

聞いたことのないような声で話す姫路さん。確かに僕も知りたい。すると明人さんはちらりと教室を見渡して、

 

「翔子、今度から朝起こしに来ないでくれ。心臓に悪い」

「……目覚めのキス」

「失礼、ムッツリーニ君はいるかい?」

「秀吉、ちょっと話があるんだけど」

「ふぅ、汗かいちゃったよ。服、脱ごっかな?」

「お姉ちゃん、お弁当届けにきたです」

 

「今、この近くにいるよ」

 

クラスにありえない声が響き渡った。人間の口から超音波がでるところなんて初めて見たよ。まぁ、姫路さんの叫ぶ姿は心のシャッターが全てシャットアウトしたけど。

 

「葉月! あんたなんでここにいるのよ!?」

「今日お姉ちゃんお弁当忘れて出かけたです!」

「う……ありがと……」

 

美波が見知らぬ女の子、小学生ぐらいだろうか、そんな子どもと何やら話している。話の内容と目が似ていることから妹かな?

 

「久保君! なんで()この教室にいるんですか!」

 

そう姫路さんが叫ぶのは久保利光君(♂)。時折熱い視線を感じるけど、僕はそれを華麗に避けている。決して無視をしている訳ではなく、無意識に避けていると言った方が正しいかもしれない。

 

「やぁ、姫路さん。次の学力テストでは負けないよ」

「別にそっちは負けてもいいです!」

 

姫路さん。それは問題発言だと思うよ。

 

「姉上よ、一体何のようじゃ?」

 

秀吉が話しかけるのは、木下優子さん。秀吉と瓜二つの容姿を持っていて、違うところと言えば、彼女は成績は良く、Aクラスにはいっているということぐらい。

 

「あんた、また女装で色々したそうね」

「い、色々とはなんじゃ!?」

「色々は色々よ!ちょっとこっちに来なさい」

「あ、姉上!そこの関節はそっちには曲がらなっ!!」

 

すごく仲が良い姉弟だ。

 

「……(チラッ)」

「…………(ボダボダボダボダ)」

 

廊下で半裸になっているのは工藤愛子さん。ボーイッシュな女の子で、そこで鼻血を垂れ流している土屋康太こと寡黙なる性職者(ムッツリーニ)とよく変な勝負をしている。ちなみに、十割、工藤さんの勝利だ。ムッツリーニの敗因はいつも貧血。

そして今教室の扉に――

 

「うお!? てめぇら、離しやがれ!!」

 

――いたけど覆面集団に連れて行かれたのがたてがみのような短い髪の毛が特徴の僕の悪友、坂本雄二。そして扉に一人佇む女の子は霧島翔子さん。黒髪でストレートな彼女は学年主席であり、運動神経も良い。唯一つ、男を見る目が無いという欠点を持つ。だって、雄二の事が好きなんだもん。

 

「でも、結婚しているのと、子供を産んだ人は別かもね」

 

なんだ、とてつもない悪寒がする。風邪を引いたときでも、こんな風にはならなかった。万が一の可能性が出てきてしまった。まさか、子供を産んだのは姉さん、なんてことはないよね。

 

『アキ君、お姉さんお嫁にいけなくなってしまいました』

 

僕の脳細胞よ! 今の記憶を削除して!

 

 




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