ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red   作:轟th

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今話で早くも11話目。
前作だと、一章が大体10話ぐらいで終わっていたので変な気分です。
まぁ、一つの話の文字数を以前の半分ぐらいにしたのだから当然ですか。
果たして章を完結させるのに何話費やすことになるのやら。

では、本編をどうぞ。


ハロウィンの夜

 ハロウィン、あるいはハロウィーン。

 元々ケルト人の間では一年の終わりは10月31日と考えられており、この夜は夏の終わりを意味するのと同時に冬の始まりでもあった。死者の霊が家族を訪ねてくると信じられ、時期を同じくして出てくる有害な精霊や魔女から身を守るために仮面を被り、焚き火を焚くことにより魔除けを行っていた。

 しかし現代では宗教的な意味合いは失われつつあり、一般的な家庭ではカボチャの中身をくり抜いて代わりに蝋燭を立てた「ジャック・オー・ランタン」を作ったり、魔女やお化けに仮装した子供たちが家々を訪ねてお菓子を貰ったりする民間行事となっている。因みに家を訪れた際には家主に対して『お菓子か悪戯か(Trick or treat)』と唱える。

 

「――という訳だ。分かったか?」

 

 そう説明し終えたノエルは一度話を切る。

 年間行事の一つに数えられるハロウィーンは今時の子供は勿論のこと、人と接さず山の中で育ってきたノエルでさえも内容ぐらい知っている。しかし、ここにおいて唯一の例外とも云うべき少女が一人だけ混じっていた。

 

『ねぇ、ハロインって何?』

 

 云うまでもなく、マリアのことだ。

 彼女とて十月の終わりに何やら魔女やお化けの仮装をした子供たちが夜に出歩いていること自体は孤児院の窓から見て知ってはいたが、それが何を意味しているのかは知らずにいた。一度だけ院長のロージャーに訊ねた時には、「あれは子供を誑かす悪い大人の策だ」と聞かされて決して参加することを許されなかった。その言い分を信じていた訳ではないが、自分には関係ないと思って特に気にしていなかった。

 しかし幾ら興味がなかったとは云え、食べることが何よりも大好きなクラッブやゴイルならいざ知らず、他の生徒まで朝から何処か浮き足立っていれば気にはなる。だからこそ、授業が自習になったタイミングで訊ねることにしたのだ。

 因みにマルフォイたちも話を聞いていたが、彼らではダメだった。

 

『ハロウィーン? 仮装する日だな』と、マルフォイ。

『ハロウィンはお菓子を貰える日だよ!』と、クラッブ。

『お化けの格好でイタズラが許される日だね』と、ゴイル。

 

 どれも間違ってはいないが、断片的過ぎた。

 そこで白羽の矢が立ったのがノエルな訳だが、気付けばハロウィーンの起源などを教室の前に出て全員の前で説明する羽目になっていた。幸い(?)なことに教室にいるのはスリザリン生だけなのだが、どうしてこうなったのか。

 ハロウィーンの当日に、何をやっているのだか。

 そんなことを考えている間に授業は終わり、皆が待ちに待ったハロウィーンのご馳走を食べに大広間へと向かっていった。スリザリンのテーブルにていつものように五人集まって座り、宴が始まるのを待っていたマリアはふとグリフィンドールの席を見たことで気が付いた。

 

「ハーマイオニーが、いない?」

 

 友人のハーマイオニーの姿が何処にも見当たらない。

 特別な用事でもない限りは生徒は基本的に夕食に出席するが、もしかしたらハーマイオニーのことだから図書館で調べものか勉強でもしているのかもしれない。同じ寮生ならば情報は直ぐにでも入ってくるのだろうが、生憎と二人はスリザリンとグリフィンドールという敵対する寮にそれぞれ属している。なのでこういうとき、互いに意思疎通が出来るような魔法か道具があったら便利だなと思わずにはいられない。

 

(……今度調べてみよ)

 

 そして校長が挨拶をし、金色の皿に乗ったご馳走が出現する。

 始まった宴に誰もが我さきにと料理を皿によそっていた丁度その時、大広間の扉を勢いよく開け放ってクィレル先生が全速力で飛び込んできた。いつも何処かおどおどとしていたが、今はそれ以上に恐怖で顔が引きつっていた。大広間にいる誰もが何事かと見詰める中、クィレル先生はダンブルドア先生の席の前まで駆け寄ってきて息も絶え絶えに口を開いた。

 

「と、トロールが……地下室に………お知らせしなくては」

 

 とまで言った所で先生は意識を失った。

 一瞬の静寂の後、大広間は混乱する生徒たちにより大パニックとなった。下級生などは悲鳴を上げながら逃げ出さんと扉へと殺到するが、大広間の扉の前は大渋滞を起こす。怪我人が出かねない状況の中、ダンブルドア校長は杖の先から紫色の爆竹を何度も爆発させることで、ようやく生徒たちを落ち着かせる。

 

「監督生よ、直ぐに自分の寮の生徒を引率して寮に帰るのじゃ」

 

 重々しい校長の言葉に、各寮の監督生は直ぐに行動に移す。

 我関せずといった様子で食事を続けていたノエルとマリアも他の生徒に習って席を立つ。ぞろぞろと自分たちの寮へと戻らんと生徒たちは移動する中、最後尾を歩いていたマリアは突然の腹痛に足を止めた。

 

「うっ……拙い」

 

 マリアはその感覚を知っていた。

 先ほどまで平然としていたマリアの顔が、血の気の失せた真っ青へと変わっていた。

 これまで数え切れないほど感じてきたそれ―――尿意だ。

 スリザリンの寮までは普通に歩いて十分ほどだが、現在の混雑状況だと軽く倍は時間が掛かってしまうだろう。ハッキリ云ってそこまでトイレを我慢できる余裕はない。ここから一番最寄りの女子トイレにだったら急げば五分と掛からない。

 

「……背に腹はかえられない、か」

 

 既に列から離れていたのもあり、マリアは女子トイレへと向かった。

 

 

 

 人気のない廊下を、マリアは小走りで進む。

 避難の指示が出ているのに単独行動を他の寮の監督生や先生に見つかっては面倒なので、出来るだけ物音を立てないように廊下を進んでいく。幸いにも誰にも見付かることなく、マリアはトイレにたどり着くことが出来た。

 

「ふぅ……」

 

 一番奥の個室に入り、いざ用を足そうと下着に手をかけて。

 

(あれ、何か急に悪臭が………)

 

 まるで汚れた靴下と、掃除をしない公衆トイレの臭いを混ぜたような悪臭だ。これがマグル界にあるトイレならいざ知らず、このホグワーツで清潔が保たれていないトイレはない。ならばこの臭いは何処から来たのか。マリアが臭いの正体に気付くよりも早く、今度はヴァーヴァーという耳障りな音が響いてきた。

 

(何か……いる!)

 

 個室の扉の向こう、得体のしれない何かがいる。

 そっと屈んで扉の下の隙間から覗き込んでみれば、二つ挟んだ向こうの個室に女子生徒の足が確認できる。そしてもう一つ、入口の方にコブだらけの平たい足が見える。マリアは咄嗟に、それがトロールだと気が付いた。

 地下室にいる筈のトロールが上の階、それも女子トイレに入ってきたのか。

 いや、この場において理由などどうでもいい。

 問題なのは、如何にして気付かれずにやり過ごすかだ。

 

「あ……っ!」

 

 そう考えていると、女子生徒が個室から出てしまった。しかし直ぐにトロールに気が付いたのか恐る恐る後退り、急いで先ほどまでいた個室へと逃げ込み屈んだ。まるで頭を守るような体制に気付き、マリアも慌てて頭を抱えた。

 ズガァッンと音を立て、木製の衝立が破壊される。

 マリアのいる個室までは届かなかったが、どうやらトロールがトイレを破壊したようだ。

 

「きゃあああああっ!!」

「えっ、ハーマイオニー!?」

 

 襲われた女子生徒は、友人のハーマイオニーだった。

 ハーマイオニーも声が聞こえたのか、バッと顔を上げてマリアの方をみた。

 その顔は恐怖に青ざめており、瞳には涙を浮かべていた。

 

「ハーマイオニー、こっちに!」

 

 その言葉に、ハーマイオニーは必死になって動いた。ほふく前進するかのように、個室と個室を隔てる敷居の下にある僅かな隙間を這って移動する。幸いにも十一歳という小柄な体躯のおかげで何とか通れていた。

 その間にもトロールは構わず、その手にした巨大な棍棒を振り回す。二撃目で五つあった個室の壁は全て破壊し尽くされてしまう。それまでには何とかハーマイオニーはマリアの所まで辿りつけたが、逆に云えば追い詰められたのだ。

 初めて目にした怪物を目の前に恐怖し震え、ハーマイオニーは自分よりも小柄な少女の身体に必死になってしがみついた。そんな彼女を安心させるようにマリアは抱きしめ返し、間抜けな表情でこちらを覗き込んでくるトロールを見据えた。

 

「死ねない……こんな場所で、死んでたまるか」

 

―――ならば、どうする?

 

「抗う……最後まで、諦めない!」

 

―――では、行動するのだ!

 

「ルーモス――マキシマ!!」

 

 杖を引き抜き、間髪入れずに呪文を唱える。

 杖先からは強烈な閃光が放たれ、至近距離でそれを直視したトロールは顔を押さえながら後ろに下がった。視界が灼かれたことに悶え苦しみ、突然五感の一つを奪われたことへの混乱から適当に棍棒を振り回す。

 マリアは咄嗟に目を瞑って顔を逸らしたので、視界がぼやける程度で済んだ。

 

「ほら、立って! 逃げるよ!」

 

 ハーマイオニーの手を引き、何とか立たせる。

 足元に転がる個室の残骸に足を取られないように気を付けながら、トロールから逃げようとトイレから出ようとしたタイミングで誰かが突入してきた。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

 何とかぶつかるのは避けられた。

 女子トイレに入ってきたのは眼鏡をかけた男の子と、赤毛の男の子だった。

 

「ハリーっ、ロン!」

「ハーマイオニー! 良かった、無事だったんだね!」

「二人共、どうしてここに……」

「君が心配で探しに来たんだ!」

「えっ、そうなの?」

「歓談中のところ申し訳ないけど、早く逃げないと……!」

 

 その時、耳を劈くような咆哮が響いてきた。

 思わず身をすくめて振り返ってみれば、どうやら視界が回復したらしいトロールが怒りに目を血走らせながらマリアたちのことを見据えていた。怒っている、それも半端じゃないほどに。殺意を漲らせている。

 ずしんっと音を響かせ、トロールが一歩を踏み出す。

 

「拙いよ、完全にキレてるよ」

「ボクが合図を出したら、三人とも全力で走って逃げるよ」

「合図って、いつさ?」

「今!」

 

 マリアの号令に従い、四人は同時にトイレから飛び出した。

 無論、獲物を仕留めんとしてトロールもまた全力で四人を追いかけ始めた。

 

 




今回はちょっと半端ですが、前後編に分けさせて頂きます。
はてさて、暴走状態のトロールから四人は無事に逃げ延びられるのか。
そして、マリアが耳にしたあの声の正体とは。

クリック? クラック! また今度!
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