ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red 作:轟th
去年の十月から投稿を始めたので、章を終わらすのに一年近く費やしてる。
やばい。これ、終わるのに何年掛かるのか。
あ、本編をどうぞ。
消灯後、静まり返ったホグワーツ。
その一角を、まるで音を消すようにして進んでいたのはノエルだ。
無論、こんな時間に寮を抜け出しているのを先生や管理人に見付かれば罰則は免れない。そんな危険を犯してまで外にいるのは、未だに帰ってこないマリアを心配してのことだった。どういう理由からか今日の最後の試験の後から見当たらず、ルームメイトの女子生徒に訊ねて見ても誰も行方を知らない。
もしや体調が悪くなって医務室に運ばれたのかと心配したが、それも違っていた。
では彼女は今どこにいるのか?
「あー、何してるんだろう……」
自らの行動を思い返し苦笑する。
確かにノエルはマリアに対して何かと面倒を見てきた。
ダンブルドアに頼まれたから、同じ寮生になった知り合いだから。
幾つか理由はあれど、校則を破ってまで行動する自分に驚きを隠せない。
「………猫だ」
目の前の曲がり角から、茶縞色の毛並みをした長毛種の猫が現れた。
ミセス・ノリス、ホグワーツの管理人たるアーガス・フィルチの愛する相棒だ。
「こんばんは、ミセス・ノリス。すまないが、ミス・エバンズを見てないだろうか?」
ダメ元で訊ねてみる。
そんな質問に猫が答える訳もなく、暫くするとぷいっと向きを変えてしまう。
「まぁ、そうですよねぇ………あ、これどうぞ」
そう言って差し出したのは、煮干しだ。
知れば意外に思うかもしれないが、実はミセス・ノリスには賄賂が有効だ。普段なら彼女は夜中に出歩いている生徒を見かけたらフィルチに知らせてしまうが、こうして煮干しや鶏ささみといった猫が好むオヤツを貢ぐと見逃して貰えるのだ。ただしオヤツがお気に召さなかった場合には食われた上で報告される。
今回はセーフだったようだ。
「とっとと見つけないと……あ?」
歩き出すと、何やら怪しげな一団を発見する。
首を傾げつつも、彼らの後を追ってノエルもまた階段を登っていく。
たどり着いたのは、四階の禁じられた廊下だった。
立ち入り禁止に指定されているだけあって人の侵入は殆どなく、床には目に見えるほどに埃が層を形成している。壁や天井を見ても城内に住み着いている蜘蛛が好き勝手に巣を張っているので廃墟のような雰囲気となっている。
ノエルも来るのは初めてだが、追いかけていた三人は既に廊下にいない。
「………奥か」
足元を見れば、奥へと続く足跡を発見する。
興味本位から付いてきたが、流石にこれは見逃すわけにはいかない。
さりとて見捨てることも出来ないと、ノエルはローブの内から小さな水晶を取り出す。
「クラウス。聞こえているか、クラウス」
『――お呼びでしょうか、若様』
水晶に声をかければ、やや遅れて返ってくる声があった。
それはノエルの持っている水晶と対となる石を持つクラウスへと通じる単発の通信具だ。
「ダンブルドアに今から言うことを伝えてくれ。
“ポッターたちが禁じられた部屋に入った。これから連れ戻す為に俺も部屋に突入する。”」
『畏まりました。確かにお伝えします』
ブツッと通信が切れ、水晶は音を立てて砕け散る。
埃の上に残る四つの足跡を追って、ノエルもまた奥へと進んでいく。通路の奥には鍵の掛かっていない扉が一つだけあり、軽く押すだけで簡単に開いてしまう。ぎぎぎっと音を立てながら扉は開いて中に入る。
部屋の中に居たのは床から天井までの空間全部を埋めるほどの巨体の犬。大きさもさる事ながらそれ以上に驚愕なのは、犬には頭が三つもあることだ。三つの鼻がヒクヒクと動き、血走った三組の目の全てがノエルへと向けられる。こんなものに噛み付かれでもすれば、一発で身体を食い千切られてしまうだろう。
そんな怪物犬を前に、ノエルは落ち着いていた。
「ああ、ここにいたのか。フラッフィー」
ノエルが名前を呼べば、怪物犬は大きく一声してぐいっと顔を近づけて来る。互の関係を知らぬ者が見たのならば間違いなく、自分が食われることを想像しただろう。しかしノエルは冷静さを失うことなく、突き出された大犬の鼻先を撫でた。
「久しぶりだな、元気にしてたか?」
「バウッ!」
ご機嫌な様子で三頭犬は吠える。
構ってもらおうとグイグイと顔を押し付けてくるが、如何せんサイズが大きすぎる。どうやら元のサイズのつもりでやっているようだが、体格も重量も差がありすぎてノエルはどんどん押されていく。
「ちょっ、ストップだフラッフィー。悪いけど、今は遊んであげられないんだ」
「くぅん」
「ごめんな。元のサイズに戻ったら遊んでやるから」
そう言うと、名残惜しげにフラッフィーは後ろに下がった。
自由になったところで改めて室内を見渡すも、今しがた自分が入ってきた扉以外に出入り口の類は見当たらない。ならば上か下かと視線をやれば、フラッフィーのすぐ傍の床にある仕掛け扉を発見する。徐に開けて覗き込んでみれば、底が見えないほどの暗闇が広がっていた。これが初回なら躊躇するのだが、以前同じような体験をしていたノエルは何でもないかのように穴の中へと自らの体を投じた。
時間にして一分ぐらい落下していただろうか、ドシンと奇妙な音を立てて何か柔らかい物の上に着地した。薄暗いので確証はないが手触りからして植物だろうと推測しながら四つん這いになって動こうとすると。
「足が動かない?」
足を見れば、長い蔦が足首に絡み付いていた。
引っ掛かったのかとも思ったが、明らかに意思を持って締め付けている。
「ん? ………げっ、『悪魔の罠』かよ」
どうやら只の植物ではなかったようだ。
悪魔の罠は長い触手をゆらゆらとさせた醜い植物。この植物は自分に触れた対象に長い蔓を巻きつけて手足の自由を奪い、やがては絞め殺して自らの養分とする。パニックを起こして蔓から逃げようともがけばもがくほど、蔓は固く締めて付けてくる。
捕まった時の対処は身動きしないか、あるいは――。
「こっちは急いでいるんでな。
構えた杖先から、眩い光の塊が放たれる。
悪魔の罠は暗闇と湿気を好み、反対に炎や光を嫌うので対処は容易い。
「よっと」
悪魔の罠を抜け、地面の上に降りる。
そして奥へと続く石の一本道を杖の明かりを頼りに進んでいけば、前から柔らかく擦れ合う音や鈴の音のような音が聞こえてきた。周囲に警戒しつつ通路を抜ければ、狭い通路から打って変わって天井の高い部屋へとたどり着いた。
室内には宝石のようにキラキラとした無数の鳥が部屋いっぱいに飛び回っていた。どうやらこちらへの攻撃意思はないらしく、部屋の向こう側にある分厚い木の扉に近づいてみても襲ってくる気配はなかった。
「むっ、開かない」
扉には鍵が掛かっており、開錠の呪文も意味を成さなかった。
しかし手段がないわけではないらしく、その証拠に先に来ている人らの姿が見当たらない。
「ヒントがあるとすれば、あの鳥ぐらいだが………おや?」
頭上を飛び回る鳥を注視すれば、それに気が付く。
それは鳥などではなく、まるで妖精のような半透明な美しい羽を生やした鍵だった。
どうやらあの無数に飛び回る鍵の中から正解を探さなくてはならないようだが、一個一個確認していたのでは時間が掛かりすぎる。壁際には箒が何本か立て掛けられているが、そんな面倒なことをするつもりはなかった。
「これぐらいの老朽なら平気か―――
杖先を鍵穴へと向けて唱える。
バキンッと音を立て扉を固定していた鍵の部分だけ粉々に砕け散る。
これで問題なしと、これを罠を仕掛けた人物が見れば卒倒してしまうような方法を用いてノエルは三番目の部屋をクリアした。もし扉と対を成していた鍵に意志があれば、乱暴な目に合わずに済んで良かったと胸をなで下ろしただろう。
次の部屋にあったのは大きなチェス盤だった。入口側には黒い駒が立っており、それら全てがノエルよりも大きくて黒い石で出来ていた。反対側には同じサイズの白い駒が見える。どうやら今度はチェスゲームのようだ。
「成る程。これで勝てないと前に進めないと」
ノエルの独り言に、近くにいた黒のナイトが頷く。
仕方がないと諦めて黒のナイトと役を交代すれば、白からの初手でゲームは開始された。
「ふむ……チェックメイトだ」
25手目にして白のキングは詰みとなった。
どうやら難易度としては然程高い訳ではなかったらしく、苦労することなく勝利できた。
乗っていた黒の馬から飛び降りて奥へと向かおうとしたところで、ノエルはチェス盤の外に何やらこの場に似つかわしくない物があることに気がついた。近付いて確認すれば、盤外には倒れ伏す赤毛の少年の姿があった。
「赤毛……ウィーズリーか。犠牲になったのか」
周囲に他二人の姿はない。
どうやら仲間を先に向かわせる為に、自らが犠牲になったようだ。
念の為に状態を確認すれば意識がないだけで、頭部のコブ以外に酷い怪我はないようだ。しかしこのまま放置するのも可哀想であり、どうしたものかと考えていると奥へと続く扉が開いて誰かが戻ってきた。
「ハーマイオニーか」
「ノエル! どうして、貴方がここに?」
戻ってきたのは、ハーマイオニーだけだった。
彼女もまたウィーズリーと同じように煤けており、慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お前たちを見付けたから連れ戻す為にここまで来たんだ。それとウィーズリーだが、どうやら気を失っているだけのようだ。詳しくはマダム・ポンフリーに診てもらってからだ」
「そう……よかった、ロン」
「それで? 何でお前たちはここに侵入したんだ?」
「そうだ! 聞いてノエル、大変なのよ!」
ハーマイオニーは事情を説明した。
三人はある理由からホグワーツに『賢者の石』が隠されており、その石をスネイプ先生が狙っていることを知った。そしてダンブルドア校長が不在なのを聞き、石が奪われるとしたら今夜と思ってここまでやってきたとのこと。一番信頼できるという意味でマクゴナガル先生に相談してもこれ以上の介入を禁止されただけだった。他に頼れないのなら自分たちで石を守るしかないと意気込んだが、奥まで行けたのはハリーだけだった。
「スネイプ先生ねぇ……」
俄かには信じられない。
スネイプがダンブルドアを裏切るとは、ノエルには思えなかったからだ。
「いや、真偽はどうでもいい。ハーマイオニー、すまないが俺は奥に進む。一応ダンブルドアには俺の方から連絡を飛ばしてあるから、ここでウィーズリーの様子でも見ていてくれ。余裕があるならコイツを連れて地上に戻れ」
「分かったわ。気をつけてね」
「ああ、任せろ」
ハーマイオニーはこの時、ある可能性を口にしなかった。
ノエルの不安を煽りたくなかったという善意からの行動だったが。
それが良かったのか悪かったのか、それは誰も知らない。
一応、ネット上にあるフリーのチェスをしました。
相手はNPCで難易度も低めでしたので、今回のゲーム結果は以下の通りです。
1.d3d5、2.e4dxe4、3.dxe4Qxd1+、4.Kxd1Nc6、5.Be3Nf6、6.Ne2Nxe4、7.Nec3Bf5
8.Nxe4Bxe4、9.Nc3O-O-O+、10.Ke1Bxc2、11.Be2e6、12.Rc1Bg6、13.f3Bd6
14.h4Bg3+、15.Bf2Bf4、16.Be3Bxe3、17.h5Bxc1、18.b4Bd2+、19.Kd1Bxc3+
20.Bd3Bxd3、21.g3Bf5+、22.Kc1Rd2、23.g4Rc2+、24.Kb1Rb2+、25.Ka1Rxb4#
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