ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red 作:轟th
これで一章も終わりましたが、二章も出来るだけ早めにしたいと思います。
ただ間は空くとは思いますので気長に、それこそ頭の片隅程度に覚えておく程度で思い出した時に確認する程度でお願いします。
では、本編をどうぞ。
「………」
「すー……すー」
片や、心地よさげな寝息を立てる少女――マリア。
片や、不機嫌そうに腕を組んでいる少年――ノエル。
「人が大変な思いをしていたと言うのに、こいつは……」
さて、どうしてくれようか?
幾ら腹が立つとは云え、女の子に手を挙げるのは男として最低だ。
「………ふむ」
腕を解き、すっと手を伸ばす。
そして少女の小さな可愛らしい鼻をきゅっと摘み、残りの指で口も抑える。
当然、鼻と口を塞がれては呼吸などままならず、マリアの表情は徐々に苦しげに眉をひそめていき手や足をバタバタとさせる。あまりの息苦しさにマリアが飛び起きるのと同時に、塞いでいた手を離してやる。
「はぁ! はぁ! ……の、ノエル?」
「おはよう。寝坊助」
「何で女子寮に……見付かったら怒られるよ?」
「一先ず、周りをよく見ろ」
マリアは言われた通りに辺りを見渡し、首を傾げた。
スリザリンの女子寮で眠っていたつもりが、目覚めたら見知らぬ部屋にいたのだ。
「ここ、どこ?」
「寝る前のこと思い出せるか?」
「……試験を終えて、廊下を歩いていたら声が聞こえてきて……教室を覗いてみたらクィレル先生が誰かと話していて、それが先生に見つかって………あれ?」
「お前はクィレルに眠らされたんだ」
「そうなんだ……あれ、ノエルは何でここに?」
マリアの柔らかな両頬を摘み、左右に引っ張る。
「お前が、帰って、こないから、俺が、探しに、来たんだ!」
「
両頬が引っ張られてていて、口が言うことを聞いてくれない。
「お前危うく死にかけたんだぞ? わかっるのか」
「
最初は手加減していたが、徐々に込められる力は増していく。
痛み自体は大したことはなくとも自然と目に涙が浮かぶ。
「ったく、気をつけろよ」
ぱっとマリアの両頬から手を離した。
頬を抑えながら口をへの字にしながら、むっとした表情でノエルを睨んでいる。
「……ノエル、随分とボロボロだね?」
よく見ればノエルの顔には治療の跡が見てとれる。
経験したことがあるからこそ分かるが、ノエルの傷は殴られたことで出来たものばかりだ。
「何かあったの?」
「……後で話すよ。それよりほれ、替えの服持ってきたから着替えとけ。あっ、ちゃんとお前と部屋が一緒の女子に頼んだからな。誓って、俺は中身を見てないからな」
外で待ってる、とノエルは部屋から出ていく。
いまいち状況が掴めないが、兎も角着替えを済ませようとベッドから起き上がろうとしたマリアは何か小さな物が落ちることに気が付く。手に取ってみれば、それは直径二センチほどの赤色をした水晶か何かの破片のようだ。
ぼんやりと眺めていると思ったより先端が尖っていたのか、プツッと皮膚を裂いて摘んでいた人差し指に刺さる。
「……痛い」
傷口を見れば、僅かに血の玉が浮き出ていた。
消毒のために人差し指を咥えていると、廊下から声が響いてくる。
「おーい、まだかー?」
「もう少し待ってて」
「了解」
急いで着替えを済ませようとして気付く。
今し方拾った欠片、怪我をした時に落としたとばかり思ったが見当たらない。
「………まぁ、いいか」
この時、マリアは気付かなかった。
人差し指にできた小さな傷、それが既に完治していたことを。
それから三日後、長かった一年が終わろうとしていた。
ノエルたちが大広間に着くと既にパーティーの準備は整っており、生徒の殆どが集まっていて一年生などは今か今かと待ちわびていた。しかし二学年以上の生徒の表情は暗いのに対し、スリザリン生だけは上から下まで意気揚々としていた。
それはスリザリンが七年連続での寮対抗杯を獲得したからだ。無論、パーティーの最中に校長より正式に発表されてからだが、ここまで来ては今更開いた点差を覆すのは難しい。過去に結果が覆ったことは一度としてない。
「さて、また一年が過ぎた!」
全員が揃ったところで、ダンブルドア校長が朗らかに話を始めた。
内容としては在り来りなもので、その最後には各寮が今年一年間に獲得した点数を告げた。
四位:グリフィンドール 312点。
三位:ハッフルパフ 352点。
二位:レイブンクロー 426点。
一位:スリザリン 472点。
結果から分かる通り、スリザリンが今年も優勝した。二位であるレイブンクローとも四十点以上もの大差、最下位のグリフィンドールとはポッターたちが150点を減点されてなかったとしても勝利は揺るがなかった点差だ。
だが、今回は違っていた。
「しかし、つい最近の出来事も換算線といかんのぅ」
ダンブルドア校長の突然の発言に、大広間から音が消えた。
一度態とらしく咳払いをしてから校長は再度口を開いた。
「では駆け込みの点数を幾つか発表しよう。先ずはロナルド・ウィーズリー、その類まれなるチェス・ゲームを見せてくれたことを称え、グリフィンドールに五十点を与える」
一拍の間を置き、グリフィンドールから歓声が上がった。
高が五十点で何を喜んでいるとスリザリン生たちが思う中、ノエルだけはこの後の展開を容易に想像できた。
「次にハーマイオニー・グレンジャー、冷静に真実を見抜く目と高い論理力を有することを称えグリフィンドールに五十点を与える」
段々と、スリザリン生に戸惑いが生じた。
敏い者は既に、ありえるかもしれない未来に青ざめていた。
「三番目はハリー・ポッター、その恐怖を克服する勇気と素晴らしい精神力を称え、グリフィンドールに六十点を与える」
これでグリフィンドールの点数は472、スリザリンに並んだ。
「さて、勇気にも色々とある。敵に立ち向かって往くのも勇気ならば、味方の前に立ち塞がるのもまた勇気じゃ。そこでわしは、ネビル・ロングボトムに十点を与えたい」
そしてグリフィンドールが上回った。
六年にも渡って続いたスリザリンの連勝記録をグリフィンドールが打ち破ったことに、グリフィンドールだけでなくレイブンクローとハッフルパフもまた同じように喜び喝采を上げた。
「最後にノエル・ルカニア。規律を破っても仲間を救いにった功績を称え、スリザリンに十点を与えたい」
大広間の空気が止まった。
グリフィンドールは計170点を与えられ、スリザリンよりも十点上回った。
そしてノエルが十点を得たことにより、グリフィンドールとスリザリンは同点となった。
つまり。
「おや。これでは同率一位が二組みあるの。では飾りを変えねばあるまい」
ダンブルドア校長の一声で、大広間の飾りつけが半分変わった。
スリザリンを示すグリーンの生地に銀の蛇を半分残し、残りは赤地に金の獅子となった。
「一年……長いようで短かったかな」
談話室の一角にて、そうため息をこぼす。
傍らには既に荷造りを済ませたトランクが置かれており、いつでも帰る状態にあった。
一年間のホグワーツでの寮生活も今日で終わり、明日からは夏休みが始まるのだ。大半の生徒が一ヶ月以上の長い長期休暇を喜んでいたが、マリアはあの孤児院に戻らないといけないのかと考えて憂鬱な気分になっていた。出来ればホグワーツに残っていたいが、規則でそれは許可されていないので出来ない。
「友達の家にでも泊まりに行けばいい」
同席しているノエルがそう返す。
「友達? ………ハーマイオニーの家か。うー……」
泊めてもらえれば確かに嬉しい。
おそらくハーマイオニーなら喜んで泊めてくれるだろうが、長期間となれば迷惑になる。
「後は、漏れ鍋なんかどうだ? あそこの二階、宿泊施設があるんだ」
「それも手かな……」
ぐでっとテーブルに突っ伏す。
一度だけ彼女が育った孤児院を訪れたことのあったノエルは、マリアがあそこに戻りたくないという気持ちが分からなくもなかった。なので自分の家に招待しようかとも考えたが、あんな辺鄙で危険が外を歩き回っているような場所に好んで来たがる酔狂な人間もいないかと判断して誘うことは止めておいた。
「さて、そろそろ時間だな。行くか」
「………うん」
他の生徒たちが動き出したのに合わせ、二人もまた寮を後にする。
一年近く前にホグワーツに来た時と同じようにホグワーツ特急に乗り込んでいく。出発するまでの暫くの間、ぼんやりと外の景色を眺めながら夏休みのことを考えていると何かの雑誌を読んでいたノエルが不意に声をかけてきた。
「そういえばマリア、お前の誕生日はいつだ?」
「え? 7月31日だけど……それが?」
「プレゼントを贈るからに決まっているだろう?」
何を当たり前のことを、とノエルは首を竦める。
マリアは誕生日を祝られたことは一度たりともない。そもそも誕生日自体も自分が生まれた日程度にしか認識しておらず、だからプレゼントのことで一喜一憂する子供の気持ちが毛ほども理解できなかった。
「でも、ふくろう便は使えないよ?」
「心配するな。何もふくろうだけが魔法使いの連絡手段じゃない」
そう得意げに答える。
変にあの院長を刺激しないでほしいな、と思いつつまた窓の外に視線を向ける。
出来ることなら何事もなく、新学期を迎えたいものだとマリアは思った。
――― 第一章:完 ―――
唐突に、ノエルとマリアのニヤニヤを書きたくなりました。
私の感性がどうなっているかは兎も角として、男の子と女の子がこうイチャイチャしている光景を書きたいと思っています。まぁ、まだ幼いので微笑ましい程度でしょうが。どうでしょうか?
単独で禁じられた部屋を突破するノエル。
最後まで行き着いてヴォルデモートとも戦ったのに、貢献度は十点程度。
多分きっと、もっと評価されても良いと思ったりします。
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