ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red   作:轟th

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気が付けば、今年も残り僅か。
去年の今頃は……新しい職場へと向かっていたな。まぁ、そこがブラック過ぎて三ヶ月で辞めてしまったけどね! 幾ら正社員になれるとは云え、最初のアルバイト雇用期間の一ヶ月目でやる気が失せたら無理だよ。現に、私の後に入ってきた子全員辞めてってたし。
話が脱線してしまった気がする。

今回は諸事情により、前日ではなく25日現在のものです。
夏季様、主はきませり様、爆発美学様、ぺにー様、カゲウス様、蒼い空様、裏訃塔様、飛燕神様、レーザーよ永遠なれ様、るみあ様、寒がりさん様、霧島椎名様、筆者+α様、こうてつ226様。
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この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。

では、本編をどうぞ。



ダイアゴン横丁

 久しぶりのロンドンの街並みを、マリアは楽しげに眺めた。

 前院長が亡くなってから暫らく外を出歩くことはなかったが、数年ぶりに訪れた街はそれほど変化は見当たらない。しかし懐かしい、と思う程度には変わったように感じられた……と云えるほど街を知っている訳ではないが。

 しかし、こんな都市のど真ん中に魔法使いのお店があるとは到底思えない。

 

「ねぇ……本当に、ロンドンにお店があるの?」

「ああ、あるぞ」

 

 そう返事をし、ノエルは前へと進む。

 このまま進めば駅に行き着くと考えていると、不意に先を歩いていたノエルが止まった。彼の目の前にあったのは、ちっぽけな薄汚れたパブだった。《漏れ鍋》と年季の入った看板を下げている店は、言われなければ見落としていたことだろう。先程から道を歩く人たちもパブには一人として入らず、隣接する本屋かレコード店にしか向かっていない。いや、間にパブがあることにすら彼らは気が付いていないのかもしれない。

 

「ほら、入るぞ」

「あっ、うん」

 

 ノエルに促され、店内へと踏み込む。

 パブはやはり外観と同じで暗くて見窄らしく、客も五人にも満たない少人数。バーテンと思しき禿げているじいさんがこちらに気付くと、ノエルと顔見知りなのかニッと笑顔を浮かべてグラスに手を伸ばした。

 

「おおっ、ノエル。どうした? 何か飲んでくか?」

「止めておくよ、トム。今日はホグワーツに行く為の準備をしに来たんだ」

「ほーっ、お前ももうそんな年になるのか……年月ってのは早いもんだ」

「何ジジくさいこと言ってんのさ。後、未成年に酒を勧めるのはどうなんだ?」

「なーに言ってんだ。ガキの頃から、ハグリッドに連れられてよく飲んでたじゃないか。しかも全然酔わねぇから“蟒蛇”なんて呼ばれてただろう。別に急ぎじゃないだろう? 奢ってやるから一杯飲んでいきな」

「いや、今日は駄目だ。連れもいるしな」

「連れ……?」

 

 そこでようやく、バーテンはマリアの存在に気が付いた。

 

「これはこれは、小さなお客さんだ。初めまして、私は店主のトムと言います」

「はじめまして。ま、マリア・エバンズ……です」

「エバンズ?」

 

 はて、とトムは顎に手を当てた。

 何か聞き覚えがある様子だが、どうやら思い出せないようだ。

 

「と言う訳で……トム、悪いけどまた今度な」

 

 ノエルはそう言って、パブを通り抜けて壁に囲まれた小さな中庭へとマリアを連れ出した。ゴミ箱と雑草が煉瓦の隙間から生えているだけの狭い空間。こんな場所に来たからには、何かしらの理由があるのだろうが。

 

「ちょっと下がってろ」

 

 ノエルは腰の細長いホルスターから杖を取り出して目の前の壁を三度叩いた。すると叩いた煉瓦が震え始め、まるで意思でもあるかのように動き、あっと言う間にアーチ型の入口が二人の目の前に出来上がっていた。

 

「ようこそ魔法使い御用達の通り、《ダイアゴン横丁》へ」

 

 仰々しく、ノエルは一礼する。

 二人がアーチを潜ると、煉瓦は独りでに戻っていき前と同じ壁となった。この隠し扉ならぬ隠し壁ならば、例え一般人が間違って入ってきたとしても、この魔法使いの大通りには辿り着くことは出来ないだろう。

 

「さて、まずは金を下ろしに行くぞ」

「そうだ、お金……ボク、持ってないよ?」

「ん? あー、その辺も話は聞いてるから安心しろ」

 

 どうやら話は伝わっているらしく、横丁を突き進んでいく。

 魔法使いのお店だけあって、ここにはマリアが見たことのないような品物が幾つもあった。例えば様々な材質で鋳られた大鍋や何羽ものふくろうが展示されたお店もあれば、最新型の箒が飾られたショーウィンドウの前には何人もの子供たちが眺めていた。何やら薄暗い通りへと続く小道もあったが、兎に角全てがマリアを飽きさせなかった。

 

(凄い。これが魔法使いの世界なんだ!)

 

「着いたぞ。《グリンゴッツ銀行》だ」

 

 そこにあったのは、一際高くそびえる真っ白な建物だった。磨き上げられたブロンズの観音開きの扉の両脇に立っていたのは、真紅と金色の制服に身を包んだ奇妙な生き物だった。マリアと同じぐらいの背丈をした浅黒い賢そうな顔付きの、不思議な生物だ。

 

「ねぇ、あれは何なの?」

「あれは《小鬼(ゴブリン)》だ。気を付けろ、凄まじい守銭奴だ」

 

 へぇ、とマリアは小鬼を横目で眺めた。

 銀行の中は汚れ一つ無い磨き上げられた大理石のホールとなっており、ノエルとマリアは幾つもあるカウンターの一つへと近付いた。そこでは真鍮の計りでコインの重さを測っている小鬼が脚高の丸椅子に座って仕事をしていた。

 

「失礼、マリア・エバンズさんの金庫から金を取りたいんだ」

「鍵はお持ちでいらっしゃいますか?」

「それなら此処にある」

 

 ノエルは上着のポケットから、黄金の鍵を取り出した。

 小鬼は鍵を受け取ると、それをしげしげと眺めてから別の小鬼を呼んだ。ボグロッドと呼ばれた小鬼の後に従い、無数にある扉の向こうに続く細い石造りの通路を進む。よく見れば床には小さな線路が敷かれており、三人はそこからトロッコに乗って移動した。

 

「ねぇ、ノエル。どうして小鬼が金庫番をしているの?」

「彼ら程、優秀な宝の番人は居ないってことだ。因みに言うとここは魔法界唯一の銀行でな、殆どの魔法使いは自分の財産をグリンゴッツに預けている。何故ならここに盗みに入ろうなんて馬鹿な考えをする奴はいないからだ」

「それは、どうして?」

「誰だって命は惜しいだろう?」

 

 つまり、それだけ危険と云うことだ。

 ジェットコースターなんて目じゃないくらい、右へ左へと揺られながら三人を乗せたトロッコは目的地へとたどり着いた。小鬼は当然のことながらノエルも慣れているのか、平然とした様子でトロッコから降りた。その後に続くマリアの顔は真っ青になっており、少しフラフラなので石柱に寄り掛かる。

 そんな少女を尻目にボグロッドが金庫の扉を開け放てば、そこには金貨や銀貨に銅貨の三種類が幾つもの山を築き上げていた。今まで見たこともないような財産の前に、マリアは目がチカチカとするのを感じた。

 

「こ、これが……」

「お前のものってことだ。さてと、必要な分だけ取るぞ」

「この硬貨の価値は、どうなの?」

「金貨をガリオン、銀貨がシックル、銅貨はクヌートと言う。価値としては十七シックルが一ガリオンに相当し、一シックルは二十九クヌートになる。因みに子供のお小遣いとしては一シックルが妥当だな」

 

 失くすなよ、と言って通貨の入ったバッグを渡される。

 それなりに詰め込んだので、肩にはかなりの重みが掛ったが何とか堪える。

 

「さてと、戻るとするか。あっ、途中にドラゴンが居るから余裕があれば見るといい」

 

 猛烈な地獄のトロッコに乗り込み、一行は地上へと戻っていった。

 余談ではあるが、帰り道でドラゴンを眺められるほどマリアには余力はなかった。

 銀行を後にした二人が先ず最初に向かったのは、《マダムマルキンの洋装店》という看板を掲げた洋服のお店だ。店主のマダム・マルキンは愛想の良い、藤色ずくめの服を着たずんぐりとした魔女だった。

 

「お嬢ちゃん、ホグワーツなの?」

「はい、そうです」

「丁度今、別の子も丈を合わせているところよ」

 

 マリアは店の奥へと案内され、茶色い髪がふさふさとした女の子の隣に立たされた。踏み台に立つとマダム・マルキンが頭から長いローブを着せかけ、丈を合わせてピンで留め始めた。それを眺めていると、女の子が話しかけてきた。

 

「ねぇ、貴方もホグワーツなの?」

「……そうだよ」

「私ね今からとても興奮しているの! 私の家族に魔法族は居なかったから、手紙を貰った時は本当に驚いたわ。けど同時にとても嬉しかったわ。ホグワーツは最高の魔法学校だって話は聞いているけど、どんな学校なのかしら?」

「よく、知らない」

「そう言えば、あなたはどの寮に入りたい? 私はいろんな人に聞いて調べたけど、《グリフィンドール》に入りたいと思ってるの。そこが一番いいみたいだし、何よりあのダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でも《レイブンクロー》も捨てがたいのよね。知られざる叡智を解き明かしたいって思うもの」

 

 女の子は捲し立てるように話を続ける。

 彼女が何を言っているのか、マリアには半分も理解できなかった。ただちょっと、こうした相手は初めてだったので少し苦手に感じていた。悪い子ではなさそうなので、出来ることなら親しくなりたいとは思うのだが。

 

「ねぇ、あそこに居る彼は知り合い? 一緒に入ってきたけど」

 

 女の子の見ている方を向けば、そこにはノエルが入口の脇に立っていた。どうやら彼は寸法をしないのか、腕を組んで壁に寄りかかっている。唯でさえ長い前髪は俯いているせいでカーテンのように目元を隠してしまっており、起きているのか寝ているのか分からない。

 

「うん。ホグワーツに、入るって聞いた」

「彼は魔法使いの家柄なのかしら?」

「知らない……会ったばかり、だから」

「そうなの?」

「うん……」

 

 そこへマダム・マルキンが終了を告げたので、話はそこまでとなった。おそらく先に終わったのは彼女よりも、小柄だったからかもしれない。マリアは女の子に別れを告げると、ノエルと合流して店を後にした。

 

 

 

 

 

 ローブが仕上がるまでの間、二人は色んな店を見て回った。

 授業に必要な教科書類を始めとし、羊皮紙や羽ペンなどを買い揃えた。タイミングを見計らって出来上がったローブを受け取ると、一度小休止を取ることになった。二人が入ったのはマグルの世界にもあるような喫茶店だった。

 

「後必要なものは……杖だな」

「ねぇ……魔法使いのこと、教えて」

「ん? あー、お前は《マグル》の中で育ったんだったな」

「マグル?」

「分かりやすく言えば、非魔法使いのことだ。マグルなんて呼び方をするが、魔法族との差異なんて魔力の有無だけ。そもそも魔法族の起源は、突然変異で魔力を有した人間なんだ。にも関わらずマグル生まれの魔法使いを卑下する連中もいるが……まぁいい。兎も角、現在の魔法使いは親に魔法使いを持つか否かぐらいなもんだ」

 

 あの洋装店にいた女の子も、魔法族ではないと言っていた。

 おそらく、彼女はマグルを両親に持つ魔法族なのだろう。

 

「ボクはどうなの?」

「確実ではないが、少なくとも片方は魔法使いだな」

「そうなんだ。じゃあ次はホグワーツについて教えて」

 

 店員が持ってきたコーヒを一口飲んでから、ノエルは口を開いた。

 

「歴史書を読めば分かることだが、ホグワーツの歴史はとても古い。今から大体千年前、偉大なる四人の魔法使いたちの手により創設された。騎士のように勇猛果敢だった《ゴドリック・グリフィンドール》、誠実で心優しかった《ヘルガ・ハッフルパフ》、まだ見ぬ叡智を求めた《ロウェナ・レイブンクロー》、血と才智を尊んだ《サラザール・スリザリン》だ。その後、教育方針の相違からスリザリンは他の創設者と決別し、ホグワーツを去ったとされる」

「どうして仲違いしたの?」

「簡単に言えば、スリザリンは純血を重んじたんだ。さっき言ったマグル生まれの魔法使いはホグワーツに相応しくないと彼は主張したんだ。因みにこの考えは今では変わらず、スリザリンに入りたがらない生徒も多い。何しろ《例のあの人》の出身でもあるからな」

 

 ノエルの妙な言い回しに、マリアは疑問を感じた。

 

「《例のあの人》って誰?」

「……それは魔法族なら誰もが知る――決して忘れられない人物だ。こんな一通りの多い場所で名前を口にするのは憚られるからな、文字にして見せる。だが、決して口にするな。名前を聞いただけで怯える奴もいる」

 

 ノエルはメモ用紙と万年筆を取り出すと、サラサラと名前を書き始めた。

 そこには達筆な字で《Voldemort(死の飛翔)》と記されていた。それが「死を撒き散らす者」なのか、あるいは「死から脱却した者」か定かではない。マリアがそれを覚えると、ノエルは羊皮紙の切れっ端を杖でトントンと叩いた。するとボッと切れっ端は瞬く間に燃え上がり、あっと言う間に灰となると風に乗って散る。

 

「この魔法使いは今から二十年ほど前に活動を始め、瞬く間に仲間を増やしてこの魔法界を恐怖で支配しようと目論んだ。純粋に彼に同調した者もいたが、恐怖心から軍門に下った魔法使いも少なくはない。無論、立ち向かった者も大勢いた………が、全員殺されてしまった。ただホグワーツだけが唯一安全な場所とされた」

「どうして?」

「ダンブルドアが居たからだ。《例のあの人》も一目置いていた」

 

 つまり、ダンブルドアには下手に手が出せなかったと。

 ホグワーツは素晴らしい学校だと聞いたが、ダンブルドアがいるからかもしれない。

 

「それで、その人はどうなったの?」

「今から十年ほど前、彼はある一家を殺害しようとした。どうしてその家族を狙ったのかは詳しくは知らないが、歯向かったからか邪魔と思ったのか。兎も角、彼はそこの夫妻を殺害して僅か一歳だった子供の命まで奪おうとした。だが、失敗した」

「失敗? それ程までに恐ろしかった人が?」

「如何なる方法でか、たった一歳の赤子が彼の放った呪いを打ち破った。その跳ね返った呪いにより彼は肉体を砕かれ、額に稲妻のような傷跡を残した赤子だけが生き残った。大人たちはその赤ん坊を《英雄》呼ぶようになった」

 

 十年前に一歳だったのなら、自分と同い年ということになる。

 だが、それ以上にマリアはどうしてか生き残った子供が気になって仕方がなかった。

 

「その子の、名前は?」

「ハリー・ポッターという」

「―――っ!」

 

 ドクンッ、と急に右目が疼いた。

 今まで体験したことのない感覚に、マリアは咄嗟に右目を押さえた。ノエルが心配して声を掛けてきてくれるが、それすら彼女の耳には入ってこなかった。ただ無性に、その生き残った男の子の名前が彼女を蝕んでいた。

 この時、もしマリアが顔を上げていたのなら気付いたことだろう。

 彼女のルビー色の瞳が、赤く、朱く、赫く輝いていたことに。

 

 




拙い。何か間を空いたから、書き方が安定していない。
半年ぐらい前には、こう……流れ的な物が出来ていたのだが。
一応、気をつけますが気になる方もいるかもしれません。
時間が、欲しいです。

クリック? クラック! また今度!
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