ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red 作:轟th
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では、本編をどうぞ。
「ごめん……迷惑、かけた」
あれから少しして、右目の疼きは収まった。
突然のマリアの異変にノエルも戸惑ったが、マリアも何が何なのか分からなかった。こんなことは今まで一度としてなかったのに、何故か今日に限って異変が起きてしまった。ハリー・ポッターの名が何か意味を持つのか。
理由は分からないが兎も角、二人は残った買い物を済ませることにした。
「気にするな。……ここだ」
それは紀元前382年創業の看板を掲げた杖の専門店だった。
しかし老舗の割に店は小ぢんまりとしており、店内も狭くて見窄らしく思える。それでもノエルの勧めてくれた店だからと入ってみると、来客を告げるベルが奥から聞こえてきた。少し待つと奥から月のように輝く薄く淡い色をした、大きな目を持った老人が姿を現した。
「こんにちは、お嬢さん。まもなくお会いできると思ってましたよ」
「えっ……ボクを、知ってるの?」
「勿論ですとも。わたしはオリバンダー、お嬢さんのお名前を聞いても宜しいかな?」
「マリア。マリア・エバンズです」
マリアの瞳を眺めながら、老人は懐かしむように口を開いた。
「ああ、君もお母さんと同じ目をしているね。あの子がここに来て、最初の杖を買っていったのが昨日のことに思えるよ。二十六センチの長さ、柳の木で出来たとても振りやすい、妖精の呪文にはぴったりの杖じゃった」
「……もしかして全ての杖を覚えているの?」
「勿論ですとも。わしの店で売った杖は相手も含めて、全て覚えていますよ。例えばお嬢さんのお隣にいる坊ちゃん。三日前のことじゃったが、彼に売ったのは二十七センチ、宿り木で出来たそれなりに弾力がある杖じゃ」
チラッとノエルの方を見れば、正解と云わんばかりに頷く。
「おっと、年寄りの長話に付き合わせる所だったな。ではエバンズさん、杖腕はどちらで?」
「杖腕? 利き手なら左手だけど……」
「では左腕を伸ばして。そうそう」
言われるがまま、左腕をカウンターの上に伸ばす。
老人はマリアの肩から指先、手首から肘、肩から床と様々な寸法を採った。しげしげとオリバンダーの動きを観察しているマリアに、壁に寄りかかっているノエルが暇つぶしにと自分の知っている知識を教えた。
「マリア、オリバンダーの売る杖は一本一本が芯を持っている」
「芯……?」
「ああ。俺なんかだと不死鳥の尾羽が使われている。他にも一角獣のたてがみやドラゴンの心臓の琴線なんかが有るが、決して一つとして同じ物は存在しない唯一無二の杖なんだ。魔法使いにとって杖とは命を預ける相棒のようなものであり、だからこそ誰もが大事に扱う。基本的には最初に購入した杖を生涯大切にする」
「その通り。流石に博識でいらっしゃる。ではエバンズさん、これをお試し下さい。ツタの木に一角獣のたてがみ、長さは二十五センチ。手に取ったのなら、振ってご覧なさい」
言われるがまま、杖を振るってみる。
途端に階段に積み上げられた箱が雪崩を起こし、老人は直ぐに杖を取り上げた。マリアは怒られるかもしれないと考えたが、老人は気にした様子もなく次の杖を取り出してカウンターの上においてみせた。
「今度はハシバミとドラゴンの琴線、二十八センチ。弾力がある」
今度は振り上げる前に、取り上げられてしまった。
そうして何本も何本も杖を試していくが、一向にマリアの杖は見付からなかった。やがて試し終わった杖の山が形成されだし、もしかしたら自分の杖は出てこないんじゃないだろうかと考え始めた頃だった。
「マリア、一つ助言しておくぞ。魔法使いは確かに杖を選ぶが、それと同時に杖もまた自分の主を選んでいるんだ。杖は主人の想いに全力で応えるからこそ、他人の杖を使っても決して最高の力を発揮することは出来ない」
「杖が、主人を選ぶ……」
「試しに意識を集中してみるといい。それに杖が応えてくれる筈だ」
助言に従い、そっと目を閉じた。
この建物の所狭しと置かれた数千数万とある杖の中に、自分の相棒がいると信じて。
「―――そこの箱」
マリアは棚の中にある一箱を指さした。
オリバンダーは言われるがまま、指定された箱を取り出すとカウンターの上に置いた。
「これは紫丁香花の木とケンタウロスの尻尾、三十センチ。しなやかで強い」
手にとった瞬間、それは確信へと変わった。
マリアの気持ちに応えるかのように、杖の先から出た虹が薄暗い店内を照らした。そして祝福するかのように雪のような結晶が、ひらひらとマリアの頭上へと舞い散った。オリバンダーは「ブラボー!」と叫び、ノエルも拍手を贈った。
「あの、ありがとう」
「素晴しい。まさか自ら杖を見付け出してしまうとは……偉大な魔女となることでしょう」
「……はい」
ピンと来ないマリアは曖昧に返事する。
それから杖の代金七ガリオンを支払い、オリバンダーのお辞儀に送られて二人は店を出た。通行人の少なくなったダイアゴン横丁を元来た道へと歩き、壁を抜けて薄暗いパブへと戻る。大通りへと出たところでマリアは空が茜色に染まっていることに気が付いた。どうやら杖選びに思っていた以上に時間が掛かっていたようだ。これでは今から帰っても夕食までに間に合わない。日に一度の貴重な食事を抜く羽目になってしまう。
(いや、走れば間に合うかな?)
「もうこんな時間か……折角だし、何か食べていくか」
「ボク、こっちのお金持ってない」
「奢ってやるから気にすんな。っても、大した物は買えないがな」
二人は近くのバーガーショップにて軽めの夕食を購入した。ジャンクフードと云う物の存在を知っていたとて、こうして口にするのは初めてだったマリアは一心不乱に、その小さな口でバーガーにかぶりついていた。そんなマリアの様子をぼんやりと眺めながら、「小動物みたいだな」とノエルは思った。
「っと、そうだ忘れるところだった」
孤児院の側の公園にてゴミを捨てる。
別れる直前のところで、ノエルは封筒をマリアに手渡した。
「ほれ、ホグワーツ行きの切符だ」
「九月一日、《キングズ・クロス駅》――11時発」
「あの孤児院から駅まではちょっと遠いが、心配する必要はない。じゃあ九月に会おう」
ポンポンとマリアの頭を叩き、ノエルは夜の闇へと消えていった。
大荷物を抱えて戻ったマリアをロージャーが怒鳴りつけたが、そんなことよりも本当に魔女になれることへの興奮から大して気にならなかった。荷物を部屋へと運び込み、ベッドへと寝転んだマリアは改めて渡された切符を眺めた。
(あれ?)
「9と4分の3番線?」
切符には確かにそう書かれていた。
奇妙だとは考えたが、思ったよりも疲れていたマリアは直ぐに夢の世界に旅立った。
--ノエル・M・ルカニア--
そして来る九月一日。
ホグワーツ行きの特急が出発する日の朝、九時を回る少し前にノエルはマリアを迎えるべく孤児院へと訪れていた。ローブや教科書など必要なものが詰まったトランクケースを引っ張ている姿は旅行でもしているように見えるが、顔には呪術風の奇妙な模様を刺繍されたアイマスクが装着されていて明らかに浮いていた。
彼が使っているのは只のマスクではなく、魔力を封じ込める特殊な文字が描かれていた。普段は感情が落ち着いていれば良い《魔眼》だが、何しろホグワーツは
そうした準備をして孤児院のドアを叩いたのだが。
「……? いない?」
ノエルの問いに返したのは、孤児の一人だった。
見間違いでなければ、目の前にいるのは初めて訪れた際にマリアを呼んでくれた子だ。
「うん。朝早く、出てった」
「そうか……分かった。ありがとうな」
パタンッと扉が閉じられる。
そして一人残されたノエルは頭を抱えた。
「ヤベェ、どうしよう」
マリアが何処にいるのか想像はつく。
おそらくは渡しているチケットからキングズ・クロス駅に向かっているはずだ。無表情でボーっとしているように見えるが、マリアの頭の回転が速いことは分かった。放っておいたところで同じ列車に乗る魔法使いを、自力で見つけて同行しているに違いない。しかし、だからと云って放置していい理由にはならない。
それにしても。
「なんで一人で行ってんだよ。俺が案内するって説明を……したよな?」
一ヶ月近く前のことなので、覚えてない。
何は兎も角、今は早いところマリアを見つけなければならない。
「仕方ない……クラウス」
周囲に人影がないのを確認し、それを呼び寄せる。
「及びでしょうか、若様」
「クラウス、今すぐにキングズ・クロス駅に向かってくれ。そこでマリアという少女がいるかどうか確認してきてほしい。特徴は真っ黒な髪に虹彩異色の瞳、明らかに栄養失調による低身長。もし無事にホグワーツ特急に乗り込んでいるなら構わないが、間違って別の列車に乗り込もうとしていたら止めてくれ。念の為言っておくが、マグルが多いからくれぐれも気を付けてくれよ。ついでに他の魔法使い族にも見つからないように」
「畏まりました」
了承した従者は姿を消した。
このまま待っていても仕方がないので、ノエルも荷物を抱えて駅へと移動を始めた。
ライラックには幾つかの花言葉があります。
例えばフランスでは青春のシンボルとして親しまれ、『青春の思い出』や『大切な友達』といった友情を重んじる花言葉があります。
ですが、他の花がそうであるように、ライラックも色に応じて意味が異なります。
紫色のライラックは『愛の芽生え』や『初恋』として知られています。
果たして、少女に与えられたのは――何色のだったのか。
友情か、それとも愛情か。
クリック? クラック! また今度!