ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red   作:轟th

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今回、新しく五名の方に登録して頂きました。
弁慶さん様、アーゴット様、朱麗シュリ様、ゲーム中毒様、reonrein様
この場を借りて、御礼申し上げます。

因みに、前話と同じサブタイトルですが、色々と考えて前話を変更して今回の話のサブタイトルとしました。理由としては単に、前話がそんな列車が舞台ではなかったからです。
では、本編をどうぞ。


ホグワーツ特急

 時刻は十一時となり、ホグワーツ特急は出発した。

 家族と別れを惜しんで窓から顔や手を出していた子供たちも、十分もすれば中に引っ込んで同じコンパートメントにいる子とお喋りに興じ始めた。しかしマリアのいるコンパートメントは他に反して静寂に包まれているが、別に険悪な空気が流れている訳ではない。

 単純に、マリアもハーマイオニーもお喋りではなかったのだ。

 寧ろ二人共、読書に精を出す方が好きだった。

 

「……………」

「……………」

 

 互いに無言のまま、ひたすら読書を続ける。

 本を読み始めてから三十分が過ぎた頃、コンパートメントの戸が叩かれた。

 

「失礼、ちょっといいかな」

「あ、……?」

 

 聞き覚えのある声に顔を上げたマリアは、思わず首を傾げた。

 色素の抜け落ちた様な真っ白な髪と耳を打つ声からノエルと判断したが、しかしその顔には半分以上を覆う奇妙なマスクが付けられていた。おそらく本人で間違いないだろうが、この一ヶ月の間に怪我でもしたのだろうか?

 

「あなた……何?」

 

 見るからに怪しい人物に、ハーマイオニーは警戒心を顕にする。

 

「俺はノエル。二人と一緒で今年からホグワーツに通う新入生だ」

「私はハーマイオニーで、こっちの娘はマリア。それで、一体何の用かしら?」

「ああ、ちょっとマリアに言いたいことがあってな」

 

 そう答えてから、ノエルはマリアの方を見た。

 いや、見たといっても目が見えないので顔を向けたと云った方が正しいか。

 

「どうか、した?」

「どうかした? じゃないだろう。何で先に駅に向かったんだ」

「? よく、わからない」

「………俺、一か月前に案内するって言ったよな?」

「ううん……言って、ないよ」

 

 思わぬ返しにノエルは固まり、ややあって深くため息をついた。

 

「すまん。本当なら俺が駅まで案内する予定だったんだ」

「気に、しないで」

「いや、保険をかけたとは言え下手したら辿り着けない可能性もあったんだ。となれば何らかの品を………っと、丁度いいものが来たな」

 

 ふとコンパートメントから通路のほうを向いたノエルが何か見つけた。

 暫くすると、カートを押しながら感じの良さそうな魔女がマリアたちのいるコンパートメントの前で立ち止まった。

 

「何かいかが?」

「マリア、好きなものを頼んでいいぞ。そっちの、グレンジャーも良かったらどうぞ」

「あら、私もいいの?」

「ああ、別に構わない。子供の小遣いで買える良心的な値段だ」

「………ノエル。殆ど、残ってないよ」

「え?」

 

 ノエルがカートを覗き込んでみると、空っぽになっている箇所が多かった。彼らがいるのは全体から見て後ろに位置する車両なので、もしかしたら此処まで来る間に売り切れてしまったのかもしれない。

 

「本当だ。これは……」

「ごめんなさいね。一つ前の車両で、殆ど買い占めちゃった子がいたの」

「相当な量が用意されていたと思うのだが?」

「そうなのよ。わたしもそう言ったのだけど、大丈夫だって聞かなくて」

 

 魔女と話をしつつ、マリアは相手のことを考えた。

 おそらくは突然、大金を手に入れた子供が食べ切れもしないのに大人買いしたのだろう。

 

「だから、残っているのはこれぐらいなの」

「それなら私は……この百味ビーンズにするわ。マリアは?」

「ボクは……蛙、チョコ?」

「蛙の形をしたチョコだ。見た目は兎も角、味は問題ない」

「なら、それで……」

「後、四人分のカボチャジュースも頼みます」

 

 四人? とマリアは首を傾げた。

 そう思っている間にもノエルは手早く会計を済ませ、代金と引き換えに品物を受け取る。

 

「ちょっと待ってろ」

 

 ノエルは品物をマリアに渡し、コンパートメントを出て行く。

 少しして戻ってきたノエルは何やら包を一つと、一人の男の子を連れて戻ってきた。子供らしくふっくらとした顔立ちをしているが、自信なさげに視線を右往左往させる。

 

「ノエル、その子は誰?」

「こいつはネビル。同じコンパートメントになった新入生だ」

「は、はじ、初めまして。ネビル、ロングボトム……です!」

 

 どこかおどおどとした様子で挨拶をする。

 

「これも何かの縁だと思ってな、折角だから連れてきた」

「うぅ~、僕はいいよ。三人で楽しんで」

「ネビル。もう少し自分に自信を持て。お前の婆さんもそう言ってただろう?」

「そ、そうだけどぉ」

 

 何処までも頼りなさげだ。

 そんな彼を尻目にノエルはマリアにハーマイオニーと並んで座るように頼むと、空いた席にネビルと並んで腰を下ろした。それからマリアに預けていたかぼちゃジュースの瓶を受け取り、それをそれぞれに手渡した。

 

「では、今日という日の出逢いに感謝を込めて――乾杯」

「「「乾杯」」」

 

 カチャンと軽い音を立てて瓶がぶつかる。

 くいっと飲んでみたマリアは、一口だけにして静かに瓶の栓を閉めた。

 

(これ……不味い気がする。匂いはシナモンが強いし、味は……何これ?)

 

 結論、美味しくない気がする。

 自分だけが可笑しいのかと思っていると、ノエルが何やら膝の上で何かしている。

 

「何、してるの?」

「流石に飲み物だけじゃ味気ないからな。用意しておいたものがあるんだ」

 

 ノエルは杖を取り出すと、軽く包みを二度叩いた。

 すると手乗りサイズだった包みは二周りは大きくなり、包み紙を外せば中から出てきたのは僅かに湯気が立つアップルパイだった。それを四等分すると、用意しておいたナプキンに載せて三人へと配った。

 

「うわぁ! 美味しそう!」

「出来立てを魔法で保存しておいたから熱いぞ」

「これ……ノエルが、作ったの?」

「楽しみの一つ程度には覚えたが……まぁ、お店の味には負けるがな」

「そんなことないよ! これ、すっごく美味しいよ!!」

 

 そう絶賛するのは、既にパイを食べていたネビルだった。

 折角出来立てを魔法で保存されていたのだから、冷めてしまっては申し訳ないのでマリアとハーマイオニーもパイにかぶりつく。

 狐色に焼かれた生地はさくっとした歯ごたえをし、砂糖で煮詰まれたリンゴは少し熱かったが程よい甘さと酸味が口の中に広がってくる。初めて食べたアップルパイの味に、マリアは目を見開いて驚いた。

 

「本当に美味しいわ。お店で出せる味よ!」

「お世辞でも嬉しいよ」

 

 この歳でこの腕前、大したものと云える。

 ノエルのパイのおかげでネビルも緊張が解れたのか、それから四人は談笑を楽しんだ。

 

 

 

「っと、もうこんな時間か」

 

 腕時計で時間を確認したノエルがそう呟く。

 ふと車窓へと視線を向ければ、気が付けば外は夜の帳が既に降りていた。もうそんなに時間が過ぎたのかと考えていると、頭上に設置されたスピーカーから声が響いてきた。

 

――当列車はまもなく、終点のホグズミード駅に到着します。

 生徒の諸君は制服に着替え、列車が止まりましたら荷物を置いてホームに降りて下さい。

 

「ネビル。俺たちもそろそろ戻って制服に着替えよう」

「う、うん。そうだね」

 

 そう言ってノエルとネビルはコンパートメントから出て行く。

 残されたマリアとハーマイオニーも急いで指定の制服に袖を通すのだが。

 

「……………」

「あら、マリア? 何かあったの?」

「………ブカブカ」

 

 そう、マリアの制服は小柄な彼女の体躯に比べて大きかったのだ。

 おかげで腕を下ろせば手は完全に隠れ、前に伸ばしたとしても指の第二関節から先しか顔を出せていない。これでは服を着ていると云うより、服に着られているようで落ち着かない。おそらくこの制服を仕立てたあの魔女は、マリアがこれから成長することを鑑みてわざと大きめに作ったと思われる。しかし 栄養不足による発育不全のマリアは、同年代の子供と比べても一回り以上も小柄で最低限の肉しか付いていない。加えて外であまり遊ばなかったので日焼けしておらず、スカートと黒のハイソックスの隙間から覗く白い肌――所謂、絶対領域が眩しく思わず視線が吸い寄せられてしまいそうになる。そして大きめに作られたローブの袖から白魚のように白い指先だけが見えている萌え袖状態も気になる。

 

「うー……スースーする」

 

 初めて履いたスカートの頼り無さに、マリアは違和感を覚える。

 孤児院ではもっぱら履いていたのは裾が擦り切れたジーンズばかり、女の子らしい服など着たことすらない。これでは下手に走ろうものならスカートの中身が見えてしまうではないか。

 

「……大丈夫、かな?」

「大丈夫よ。とても可愛らしいわ!」

 

 ハーマイオニーに褒められながらも、マリアは落ち着かなかった。

 ふと外へと視線を向けてみれば、いつの間にか外には夜の帳が降りていた。なので分かり辛いものの、汽車が徐々にながら速度を落としているのが分かった。それから暫くすると、ガタンッと大きな音を立てて汽車は完全に停車し、荷物はそのままで構わないらしいのでマリアたちは同じようにローブに身を包んだ生徒たちに習って下車を始める。

 薄暗いプラットホームに降りると、汽車の先頭側に壁があることに気が付いた。

 

「マリア、あれは壁じゃないぞ」

 

 傍にいるノエルが、そう教えてくれる。

 目を凝らしてよく見れば、壁だったと思ったものはとても大きな人間だった。おそらくマリアの倍以上の身長があり、目の前に立とうものなら首を思いっきり反らさなければ顔を見上げることができないだろう。

 

「あれはホグワーツの森番を務めるハグリッドだ」

「森番?」

「分かりやすく云えば、森の管理人だ」

 

 そうなのか、とマリアは納得した。

 ハグリットは新入生たちが全員いることを確認すると、目印になるようにランタンを高く掲げながら先頭に立って誘導を始めた。どうやら新入生は在学年とは別ルートでホグワーツに向かうらしいが、どうにも目の慣れぬ夜道を歩くのは難しく、周囲でも滑ったり躓いたりしながらも険しく狭い小道を下って行く。聞こえるのは梟の声ばかりなので、誰もが不安な気持ちを抱きながら黙々と進んでいく。

 

「みんな、ホグワーツがもうすぐ見えるぞ」

 

 ハグリットの声に顔を上げてみれば、狭い道が急に開けて大きな黒い湖畔に出た。

 その湖の向こう岸には高くそびえ立つ崖と半ば一体と化している大きな城が闇に浮かんでいた。てっきりマグル界における校舎のような物を想像していたマリアは、まさかホグワーツが城だった事実に驚いていた。

 

「四人ずつ、ボートに乗るんだ!」

 

 そう言ってハグリットは岸部に繋がれた小舟を指さした。

 どうやら城の下まではボートで移動するらしく、マリアはノエルと列車で知り合ったハーマイオニーとネビルの三人と一緒になってボートへと乗り込んだ。すると、誰もオールに触っていないのにまるで意思があるかのように独りでにボートは城へと針路を取った。

 

 

 




今回は準主役級のネビルに登場してもらいました。
ハリポタの一巻を読んだ頃は、まさか未来の彼があんなにも人して成長して活躍するとは夢にも思いませんでしたよ。いや、そもそも脇役の一人としてしか見ていませんでしたね。
聞けば、ネビルが選ばれていた可能性もあったとか。
彼が人として成長していく物語もまた面白いかもしれません。

クリック? クラック! また今度!
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