ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red 作:轟th
十月から始まったハリポタ前作のリメイク版ですが、前作から続けて読んで下さっている方、気になってクリックしてくれた新規の方と多くの方に読んで頂けて嬉しく思います。これからも更新を絶えず続けていきたい所存です。
では、良いお年を。
本編をどうぞ。
新入生たちは湖を渡りきると、ボートから降りて歴史を感じさせる長い石段を登ってホグワーツ城へと入っていく。全員が中に入ると背後で門がひとりでに閉じたが、何故か前に進む気配がなくその場で止まってしまう。何事かと様子を伺っていると、背伸びをして前を見ていたノエルが口を開いて教えてくれた。
「どうやら、ハグリッドとはここで別れるようだ」
「案内、するのは?」
「別の魔女……おそらく先生の一人だろう」
「皆さん、これより私が案内します。付いてきなさい」
前方から嗄れた老女の声が響く。
すると新入生の列は再び動き始めて城の中を進んでいき、大きな階段を登ったところで正面の大扉ではなく脇にある空き部屋へと新入生たちを誘導した。てっきりそのまま入学式が行なわれるとばかり思っていた生徒たちは不思議そうに近くの生徒と首を傾げていた。
「先ずは皆さん、ホグワーツへの入学おめでとうございます。私は本校の副校長を務めますマクゴナガル、変身術の授業を受け持ちます。間もなく新入生の歓迎会が行われますが、大広間の席に着く前に皆さんが所属する寮を決めます。寮の組み分けの儀式は、これから始まる学校生活に大きく関わってくる大切なものです。勉強をするのも、寝起きするのも、自由時間を過ごすときにも関わってきます」
ふとマリアはノエルから聞いたホグワーツのことを思い出した。
ホグワーツの歴史という本にも書かれていたが、ホグワーツに通っている生徒たちは例外なく四つある寮のどれかに所属することになる。それぞれに輝かしい歴史があり、どの寮も偉大な魔女や魔法使いを多く輩出してきた。無論、ただ所属するだけではなく、ホグワーツは各寮による対抗戦を行っている。これは各寮に所属する生徒の日頃の行いにより点数がプラスされて最終的にその年の学期末に総合点で順位が決定する。優勝した寮には優勝杯が送られ、生徒はこれを手にすることを名誉としている。
なので年を越した辺りから、優勝杯を今年こそは手に入れようと上級生たちは躍起になっていく。これに伴い、学校全体がピリピリしていく。
「準備が終わるまで、皆さんは出来るだけ身なりを整えておきなさい」
そう言って先生は退出した。
扉が閉まるのと同時に新入生はざわざわと近くにいる生徒と話を始め、人によっては身嗜みを整えようとしているのが散見された。そんな中、マリアは軽く制服を整えると側に立っていたノエルに話しかけた。
「ねぇ、ノエルは……儀式の内容、知ってる?」
「さてな……ただ難しい物じゃないはずだ」
「どう、して?」
「考えても見ろ。ここに集められた新入生全員が魔法界出身というわけではなく、中には魔法とは無縁な世界で生きてきた者も少なくはない。それに購入した教科書類に目を通した奴がどれだけいるよ? そんな状況で試験的なことをしようものなら明らかに差が生じてしまう。これから七年間も過ごすことになる大切な寮決め。となれば考えられるのは厳格な方法による選定――おそらく本人の資質が問われるんだろう」
確かに、彼の言うことは尤もだ。
マリアはそう感じたし、どうやら周囲で聞き耳を立てていた生徒たちも同様のようだ。
待つこと十分。
マクゴナガル先生が部屋へと戻ってきた。
「さあ、準備が整いました。二列縦隊で付いて来てください」
新入生たちは言われた通りに縦に二列作ると、先生の後を追って大広間へと入っていった。
大広間には並行して並べられた四つの長テーブルは優に五十メートルはあり、そこには既に先輩にあたる在校生たちが期待に満ちた表情を浮かべながら新入生を待っていた。そして各テーブルの上には寮のシンボルたる旗が吊るされており、右から順に赤い布地に金獅子が描かれたグリフィンドール、明るい緑みの黄の布地に灰色の穴熊が描かれたハッフルパフ、青い布地に鈍い銅色の鷲が描かれたレイブンクロー、そして緑色の布地に銀色の大蛇が描かれたスリザリンとなって並べられている。
「見て、マリア。天井素敵じゃない?」
「うん……すごい」
天井の光景に、少女たちは興味を惹かれていた。
本来ならアーチ状の天井が見えるはずだが、天井は黒い夜空となり満天の星が光り輝く舞台へと魔法により変えられていた。ハーマイオニーはプラネタリウムみたいだと思ったが、生憎と孤児院暮らしでそんなものを見たことも聞いたこともないマリアは感心していた。それと同時に“これが魔法なんだ”と実感した。
「これ、どういう魔法なんだろうね?」
「ああ。これは確か、天井をスクリーンとして、頭上の夜を投射しているんだ。だから今見えている満天の星は、外に出て空を見上げれば見ることができる。それ程難しい魔法じゃないから在学中には出来るようになるよ」
「ノエルは………何でも、知ってる?」
「何でもは知らない。寧ろ知らないことの方が多くて、気付かないことの方が圧倒的にある。だからこそ“
「……ノエル?」
「いや、待て……俺は、何を言って?」
自らの言葉に、ノエルは困惑していた。
おそらく無意識に出た言葉だったのだろうが、自分自身で理解できなかった。
そんな彼にマリアは声を掛けようとして―――歌が、聞こえてきた。
――私はきれいじゃないけれど 人は見かけによらぬもの 私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう 山高帽子は真っ黒だ シルクハットはすらりと高い
私はホグワーツ組み分け帽子 私は彼らの上をいく 君の頭に隠れたものを
組み分け帽子はお見通し かぶれば君に教えよう 君が行くべき寮の名を
グリフィンドールは優希を胸に悪を討つ 勇猛果敢たる騎士が進む王道
ハッフルパフは忠実さと心優しさを宿す 謹厳実直なる学士が歩む雲路
レイブンクローは知識と機知を友とする 洽覧深識なる修士が赴く道筋
スリザリンは目的を貫くに手段を選ばぬ 神機妙算たる策士が往く経絡
かぶってごらん―――恐れずに! 興奮せずに―――お任せを!
君を私の手にゆだね―――私は手なんかないけれど―――だって私は考える帽子!
歌が終わり、やや間を置いて拍手喝采が起こる。
ノエルの方に集中していたマリアは突然のことについて行けず、それでも周りに合わせてパチパチと手を打ち合わせながら首を傾げていた。彼女は気付いていないが、実は今のは大広間の奥にある教員用テーブルの前にある背の高い椅子に置かれたボロボロな――相当年季の入った古びたとんがり帽子だ。
「ではAから順に名前を呼ばれたら椅子に座り、帽子を被りなさい」
どうやら組分けの儀式が始まるようだ。
一人一人前に出る以上は必然的に注目されることになるのだが、目立つことを好まないマリアとしては避けたかった。しかしここで彼女一人が不満を漏らしたところで状況が変わらず、逆に目立ってしまうことになる。
なと彼女がそんなことを考えていると、遂にマリアの番が回って来た。
「エバンズ・マリア」
名前を呼ばれ、マリアは前へと進み出る。
静まり返る観衆を意識しないようにしながら、マリアは少し高めの椅子に座って帽子を被った。
《成る程、今年は難しい子が多いようだね》
「―――っ」
何処からともなく、声が響いてきた。
誰、と一瞬焦ったが、直ぐに声が鼓膜を響かせてないことに気が付いた。
《さてさて、君は何処に入れたら良いやら?》
「……………」
《うーむ、これはまた難しい。才能だけ視るのなら、間違いなく偉大な者に比肩する。しかし他人を信頼することを忌避し、親しくなった者にも心の内を見せようとはしない。例え他人の屍を踏み越えても同情や哀れみを抱くことはない。悪く云えば臆病でいて残酷だが、大切なものの為に闘う勇敢さもある》
よく見ている。
確かにこの帽子の言葉は、マリアのことを理解していた。
《君は……ご両親が、憎いかい?》
憎い? 自分を捨てた親が?
そんなこと……考えたことすらなかった。
どうして置いていったのかと云う疑問はあったが、別にそれ以外には何もなかった。そもそも名前はおろか顔すら知らない相手を、どう憎めというのか。マリアにとって親など、所詮は血の繋がった他人でしかない。
《………成る程》
マリアの沈黙をどう取ったのか。
帽子は独りごちると、そして高らかにスリザリンの名を告げた。
「……ありがとう」
思わず、そう呟いてマリアは帽子を脱いだ。
そしてスリザリン側からの拍手喝采を受けつつテーブルへと向かいながら、マリアはチラッとグリフィンドールの方を向いた。そちらには既に先輩たちに混じっていたハーマイオニーが、ショックを受けたような表情を浮かべているのが見えた。おそらくは折角出来た友達と離れてしまったことへの哀しみだろう。
何やら後ろ髪を引かれるような感覚がするが、マリアは構わずスリザリン席に座った。
暫らく組み分けされていく新入生を眺めていると、見覚えのあるプラチナブロンドの髪をオールバックにした少年がマリアの向かいの席に座った。それはキングズ・クロス駅にてマリアが出会ったあの時の男の子だった。
「また会ったね。同じ寮に慣れて嬉しいよ」
「……宜しく」
「そうだ。コイツらの紹介もしておこう」
そう言ってドラコ・マルフォイは自分の両側にいる二人の少年を指さした。
「右のこっちがビンセント・クラッブで、左のがグレゴリー・ゴイルだ。僕たちの両親が知り合いだったから、ホグワーツに入学する前からの付き合いなんだ。悪い奴じゃないけど、難点は少しおつむが悪いことだな」
「宜しく、マル、フォイ………クラッブ、ゴイルも」
握手を交わし、視線を帽子の方に向ける。
それから特に問題もなく組み分けはされていき、ネビルはハーマイオニーと同じでグリフィンドールに配属された。後は件の“英雄”や燃えるような赤毛の男の子もまた、グリフィンドールになったがマリアには関係ない話だ。
そうして遂に最後の一人を迎え、それが見覚えのある白髪だと直ぐに気が付いた。
「ルカニア・M・ノエル」
名前を呼ばれ、最後の一人が前へと進み出た。
家名がLから始まるのにTやWよりも後なことに疑問を感じるが、それ以上にこの場にいる生徒たちの注目はノエルの顔へと集まっていた。何しろ顔の半分以上を奇妙な模様が描かれたアイマスクで覆っているのだから当然だ。マリアも見た限りでは、あのアイマスクには覗き穴のような物は見当たらなかった。
《おや、また来たのかい?》
「また? それはどういう意味だ?」
《少しばかり変わっているが、魂に変わりはない》
「どういう……」
《再会を喜びたいところだが、君の道先を決めなければ。何処へ往くかね?》
「それは貴方が決めることだろう?」
まるで選べと言いたげな帽子に、ノエルは返す。
《かつては光の中にいるべきと思ったが、結局は失敗だった訳だ》
「かつて? 貴方は俺を知っているのか?」
《なら過去の過ちを繰り返さぬよう、私が導こう》
何を、とノエルが尋ねるより早く、帽子はスリザリンの名を告げた。
帽子を取りながら心の中では疑念を抱きつつ、ノエルはマリアたちのいるスリザリンのテーブルに向かった。
「一緒になったね」
「ああ、そのようだな」
「マリアの知り合いなのかい? 初めまして、僕はドラコ・マルフォイだ」
「ノエルだ。マリアとは……顔見知りかな?」
質問に疑問で返しつつ、握手を交わす。
新入生の組分けも終わったことにより帽子は片付けられ、やがて校長アルバス・ダンブルドアの挨拶が行われた。その内容はとても独創的なものだったので、新入生はあまりの突飛な挨拶に呆然としたが、在校生や教職員たちは慣れたものらしく、拍手し歓声を上げていた。何は兎も角、歓迎会は始まった。
ダンブルドア校長の魔法により先程まで空となっていた食器類が、色とりどりなご馳走や飲み物で一杯になっていた。見れば上級生たちは待っていましたと云わんばかりに料理に手を付け、やや遅れて新入生たちも食事を始めた。マルフォイは気品ある食べ方をし、クラッブとゴイルは見た目通りの大食漢らしく両手に違う料理を鷲掴みしながらがっついている。ノエルもマイペースながら確実に食べ進んでいたが、マリアは明らかに遅かった。
「凄い、量だね」
「まぁ食い切れない量ではあるな……取り敢えず、奪い合いにはならないから安心してたべろ」
「………うん」
気付かれていた。
マリアは自分の皿に料理を盛ると、料理に舌鼓しながらも周囲を警戒していた。別に意識してそうしている訳ではなく、無意識の内に料理を“奪われないよう”に気をつけていたのだ。もし彼女の皿に手を伸ばそうものなら、おそらくは握り締めたフォークかナイフにより手の甲を突き刺されたことだろう。
卑しいと思うかもしれないが、そうしなければならなかったのだ。
孤児院は経営の関係で贅沢は出来なかったが、食事はきちんと出ていた。しかしロージャーが管理するようになってからは、もはや子供同士による奪い合いが発生した。マリアよりも幼い子供も少なくはなかったが、飢え死にした子も何人も見ていた。情けを掛けなかったのかと考える人もいるかもしれないが、もしそんなことをすれば死んでいたのはマリアの方だ。何より他人を気にするなど余裕のある人間の行動だ。
「今すぐに慣れろとは言わん。けど、ここでぐらい食事を楽しめ」
「……楽しむ?」
マリアの感覚からすれば、食事を楽しむものではなかった。
けれど、ああ確かに……前院長がいた頃は、みんな笑っていた気がした。
「………」
それからデザートも食べ終えると、歓迎会も終わりとなった。
新入生たちは各寮の監督生が引率することとなり、マリアたちはスリザリン寮のある地下へと階段を降っていった。そして地下牢の奥、湿ったむき出しの石が並ぶ壁の一角にスリザリンの寮の入口はあった。
「いいか、新入生。ここがスリザリン寮へと通じる扉だ。ここを開けるためには毎回合言葉が必要となるが、これは二週間ごとに入れ替わる。新しい合言葉は談話室の掲示板に張り出されているから確認しておけよ。今週の合言葉は、“選ばれしもの”だ」
ゴゴッと音を立て、壁に隠された石扉が開いた。
扉を抜けた先には細長く天井の低い談話室となっており、部屋の壁と天井は荒削りの石造りで丸い縁がかったランプが天井から吊るされている。よく見れば壁際にある暖炉には壮大な彫刻が施されている。
「奥の螺旋階段を上がった二階から入れるのが男子部屋、女子はその更に上だ。言っておくと男子が女子階に上がろうとすると階段がスロープになって滑り落ちるから気を付けろよ。荷物は部屋に運び込まれてある」
監督生の号令で、新入生は解散となった。
誰もが満腹感から夢見心地となり、特に談話室に残ることもなく各部屋へと別れた。
寝室には緑の絹の布掛けがついたアンティークの四本柱のベッドが壁際に沿って計六つずつ置かれており、ベッドカバーは銀色の糸が刺繍されている。天井からは銀のランタンが吊り下げられていて、緑色に燃える炎が灯っている。
(ここからボクの魔法への一歩が始まる、か)
自分のベッドに寝転がり、ぼんやりと天蓋を見つめる。
緊張していたのものあってか、マリアの意識は速やかに闇に沈んだ。
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