ハリー・ポッターと呪われた瞳ーInnocent Red   作:轟th

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今更ではありますが、新年明けましておめでとうございます。
今年も、宜しければ私の二次創作にお付き合いください。

早速ですが皆さんはご存知ですか? 生ける屍の水薬の材料の花言葉。
アスフォデルはユリ科の植物で、天国に咲く不死の花とされます。「私は君のもの」「後悔」
ニガヨモギは楽園から追放された蛇が這った跡に生える多年草。「離別」「不在」「恋の悲しみ」
まるでスネイプ先生を現したかのような植物ですね。

では、本編をどうぞ。


魔法薬学の授業

 新学期の歓迎式から数日が過ぎた。

 ホグワーツにおいて生徒が受ける授業は大きく分けて二種類あり、八つの必須科目と四つの選択科目が存在する。ただし三年生までは選択科目はなく、なのでマリアたちが受ける必要があるのは必須科目だけとなる。

 即ち変身術、薬草学、魔法史、呪文学、闇の魔術に対抗する防衛術、天文学、魔法薬学。

 それから一年次にのみ受講する、飛行訓練となっている。

 

「ひー、ひー……!」

 

 だが、新入生が苦労するのは授業ではない。

 見ての通りホグワーツは古城に幾多もの魔法が掛けられた校舎だ。城というものは内部はとても広くなっていて、幾つもの廊下と階段が設置されている。例えば上に上がる為の階段も廊下の端っこから端っこに作られている。これは敵が攻め込んできた際、簡単に攻略されない為に工夫されたからだ。

 おまけに授業で使う教室は毎回別の場所となっている。

 だから何かの授業で四階に居たとしても、次の授業では地下まで降りなければならない場合も出てくる。なので授業が終わってものんびりとはしていられず、大抵は次の教室に移動してから思い思いに休憩したりする。慣れてくれば時間配分や近道なども分かり、余裕のある行動が取れるようになることだろう。

 しかし、新入生にはまだ無理な話だ。

 となれば授業が終わる度に、新入生は次の教室に急いで向かわなければならない。

 必然、新入生に求められるのは知識や魔法ではなく体力となる。

 

「ぜぇ、ぜぇ………も、もう、無理」

 

 それ故に、マリアは息も絶え絶えになっていた。

 マリアはその特殊な生活環境から同年代の女子よりも小柄で、日々の食事すら満足に取ることができない状態にあった。人が体力作りをする上で資本となるのだが、マリアはその肝心な段階で十分な栄養を摂取できていない。言ってしまえば運動しようにも、運動できるだけの体力も肉体も出来上がっていないのだ。

 

「マリア、一先ずそこに座って休もう。まだ時間はある」

 

 勧められるがまま、廊下に設置されたベンチに腰掛ける。

 呼吸を整えつつ隣に座ったノエルをのぞき見れば、彼も走っていただろうが呼吸は乱れていなかった。男の子だから体力が女の子(マリア)よりあるのかもしれないが、なんだか負けているようでいい気分ではない。

 

「マリアはもう少し体力をつけた方がいいな」

「………うん、遅刻は、いやだ」

 

 授業に遅刻する新入生は実際、何人かはいる。

 その殆どが道に迷ってしまったり、あるいはのんびりし過ぎて間に合わなかったのどちらかだ。

 先日は変身術に遅れてきた男子生徒二名――片方は英雄、もう片方は赤毛――が、「道に迷って遅れました」とマクゴナガル先生に言った際には、「では貴方たちを地図に変えましょうか?」と注意されていた。

 おそらく冗談だろうが、誰も地図にはなりたくはない。

 

「次は……グリフィン、ドールとの合同授業」

 

 最近になって知ったが、グリフィンドールとスリザリンは致命的に仲が悪い。

 いや、他のハッフルパフやレイブンクローの二寮とも仲が良いとは決して云えないが、ことグリフィンドールに関してはそういう次元の問題ではなく、もはや水と油―――不倶戴天の敵といった間柄と云っても過言ではない。

 この理由としてはスリザリンが目的遂行の為なら手段を選ばない狡猾な寮であるのに対し、グリフィンドールは卑怯を忌避して正義や勇気を尊ぶ寮だからだ。客観的に見て、この二つの寮は光と闇のような間柄にある。

 つまり、どう足掻いても相容れぬのだ。

 そんな二つの寮が一緒に授業をすればどうなるか?

 考えるまでもなく、答えは明白だ。

 

「……………」

 

 マリアとしては別にどちらでも構わない。

 個人的に云えば友人のハーマイオニーと一緒に授業を受けられて嬉しいが、かといって露骨に彼女と一緒に居れば色々と言ってくる輩が出てくる。別にハーマイオニーと友人であることを恥じることなど何もないが、これから七年間も過ごす学校でそうなっては生活しづらい。なので普段はあまり必要以上の接触はお互いに避けようと、ハーマイオニーから申し出があった。そう言われてはマリアも無碍にできず頷いたが。

 

「そろそろ移動するか」

「うん……」

 

 呼吸も落ち着いてきたところで、二人は次の教室へと移動した。

 

 

 

 次の授業は魔法薬学だった。

 場所はスリザリン寮からほど近いくある地下牢を改造した教室だ。元は地下牢だっただけあって教室はとても不気味で、光源がロウソクの火だけなので薄暗いのも拍車をかけている。それこそ肝試しで来るような場所に思える。

 そんな教室にはテーブルが間をあけて二列に並べられており、向かって右側がスリザリン、左にグリフィンドールと分かれている。まだ十分前だと云うのに、既に殆どの生徒が席について待っている状態だった。これは魔法薬学の教授であるスネイプ先生が厳しい人だと先輩から聞かされているからに他ならない。

 ノエルの隣に座って待っていると、授業開始のチャイムと同時にバンッ、と音を立てて扉を開け放ったスネイプ先生が、カツカツと靴を鳴らしながら教室に入ってきた。そうして教壇の前に立つなり教室を見回しながら出席を取ったが、ハリーの名前まで来たところで止まった。

 

「あぁ、さよう……ハリー・ポッター。我らが新しい――スターだね」

 

 スネイプ先生は猫なで声でハリーにいう。

 それが決していい意味ではなく嫌味であることは明白だったので、ハリーは顔をしかめた。

 

「このクラスでは杖を振り回すようなことはしない」

 

 そう言って、スネイプ先生は生徒に杖を仕舞わせた。

 魔法薬学についてまだ理解していない生徒たちは、杖を仕舞ってどうするのか疑問を抱いた。

 

「このクラスでは魔法薬調剤と微妙な科学、そして厳密な芸術を学ぶ」

 

 その疑問に答えるように、彼は演説を始めた。

 前半は授業の説明であったが、後半からは生徒を馬鹿にしている内容にも取れた。

 

「ポッター!」

 

 説明が終わるなり、スネイプ先生はキツく叫んだ。

 冷たく見下ろす先生の瞳には、憎悪にも似た感情が揺らいでいるのが見えた。

 

「アスフォデルの球根の粉末に、にがよもぎを煎じたものを加えると一体何が出来るかね?」

 

 突然の質問に、ハリーは戸惑った。

 今までマグルの世界で生きてきた彼には、そもそもアスフォデルというのが何の植物なのかさえ皆目検討もつかなかった。思わず隣に座る親友のロナウド・ウィーズリーを見たが、お手上げらしく首を横に振っていた。そんな彼らの後ろの席に座るハーマイオニーが、高らかに手を挙げているが無視される。

 

「分かりません」

「チッ、チッ、チ……有名だけではどうにもならんらしい」

 

 スネイプ先生は口元で、せせら笑っていた。

 その言葉を耳にしながらマリアは、随分と意地の悪い質問だと思った。彼女の記憶が正しければ質問の内容は教科書の最後の方に記されていたし、何より実際に作るのは六年生になってからの難しい魔法薬だ。つまりこの内容を知っているのは、マリアやハーマイオニーのように事前に教科書を読破している生徒に限られる。

 

「では、もう一つ聞こう。ベアゾール石を見つけてこいと言われたら、どこを探すかね?」

「分かりません」

「授業の前に教科書を開こうとは思わなかったのかね、ミスター・ポッター?」

 

 ハリーは俯き、堪えるように握りこぶしを作る。

 その様子にマルフォイたちは身を捩って笑い、他のスリザリン生もクスクスと笑っている。笑っていないのは同じグリフィンドール生と、ノエルとマリアの二人だけだった。

 

「では最後の質問だ。モンクスフードとウルフスベーン、この二つの違いとは何か?」

「分かりません。僕よりハーマイオニーが分かっているみたいですから、彼女に質問してみたらどうですか?」

 

 ハリーは落ち着いた口調で言い返した。

 それにスネイプ先生は不快そうに眉をひそめ、ハーマイオニーを座らせた。

 

「全く話にならんな。では、ミス・エバンズ……君は答えられるかね?」

 

 その一言に、誰もが固まった。

 今にも笑い転げそうだったマルフォイでさえ、目を見開いて驚いていた。

 マリアはどうすべきかと隣にいるノエルを一瞥すると、彼は何も言わず頷いた。

 

「どうだね?」

「……アスフォデルとニガヨモギを合わせることで睡眠薬となり、その強力さから別名“生ける屍の水薬”と呼ばれています。作用が強いので少しでも配合を間違えると、服用者は永遠に目覚めることはありません。

 次にベゾアール石は山羊の胃の中から取り出せる結石のことです。萎びていて茶色いので石と言うより、干からびた内蔵のようにも見えますが、その効能は大抵の薬に対する解毒剤となるので重宝されています。

 最後にモンクスフードとウルフスベーンに違いはなく、どちらも同じ植物です。これは別名をアコナイトとも呼ばれていますが、トリカブトのことを意味します。特徴的な花を咲かせ、根には毒があります」

 

 そこまで一気に話し、マリアは大きく深呼吸した。

 実を言えば普段から流暢に話そうと思えば出来なくはないが、それをすると非常に疲れるのでいつもはトーンを落としてゆっくりと喋っているのだ。実際、あまり喋らずに生きてきたので会話が苦手ではあるのだが。

 

「………どうやら、きちんと教科書は読んでいるようだな。さて諸君……何故彼女の答えをノートに取らんのかね?」

 

 その一言に、一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音がした。

 誰もが先ほどの内容をメモしていく中、スネイプ先生はハリーが無礼な態度をとったとしてグリフィンドールから三点減点し、逆にマリアは想像に反して完璧な回答をしてみせたのでスリザリンに五点加点された。

 

「では授業に戻ろう」

 

 スネイプ先生は二人一組を組ませ、おできを治す簡単な薬を調合させた。

 マリアは席の関係上、隣に座っていたノエルと組むこととなったが、二人とも教科書の内容は覚えていたので順調に調合を続けた。しかしスネイプ先生はお気に入りであるマルフォイ以外の生徒全員を注意して回り、二人のところにも来た。とは言っても軽く指摘された程度で、他の生徒ほど厳しくはなかった。

 

「ぎゃああああああっ!!」

 

 それは突然だった。

 殆どのグループが薬を完成させた頃、地下牢一杯に強烈な緑色の煙が吹き上がり、シューシューという大きな音が広がった。どうやらネビルが一緒に組んでいたフィネガンの大鍋を溶かしてしまったらしく、こぼれた薬品が石造りの床に広がっていき、それを見て生徒たちは慌てて椅子の上に避難した。

 だがただ一人、ネビルだけは逃げ損なっていた。彼は大鍋が溶けた際に跳ねた薬を被ってしまったらしく、肌が露出している部分にはおできが容赦なく吹き出し、痛みにうめき声をあげていた。余りにも状態が酷かったので誰もが顔を背けていた。

 

「馬鹿者!」

 

 スネイプ先生が怒鳴り、杖をひと振りしてこぼれた薬を取り除いた。

 それから机の上に散乱した材料を一瞥してから、スネイプ先生はネビルに追求する。

 

「大方、大鍋を火から下ろさない内に山嵐の針を入れたな」

 

 それは答えを求めての問いではなかった。

 しかし鼻までおできが広がっているネビルはシクシクと泣くばかりで、どうやら調合に失敗してしまったことと、フィネガンの大鍋を溶かしてしまったのがよほど堪えたようだ。これではどうしようもないと思ったらしく、スネイプ先生はフィネガンにネビルを医務室へと連れて行かせた。

 二人の姿が地下牢から出て行くなり、先生はハリーの方を向き静かに口を開いた。

 

「ところでポッター。針を入れようとしたロングボトムを何故止めなかった?それとも彼が間違えれば自分の方がよく見えるとでも考えたのか?」

「なっ、僕は……!」

「グリフィンドールより、更に二点減点する」

 

 それは余りに横暴でしかなかった。

 理不尽さにハリーは反論しようとしたが、ウィーズリーが直前にそれを制した。ここでもし反抗しようものなら、また何かしらの理由をつけて寮から点が引かれる可能性があったからだ。入学して一週間足らずで既に五点も減点されているのだ、これ以上は今後の生活に支障を来たす恐れがあった。ハリーにもそれはわかったので、歯がゆく思いながらも口を閉ざした。

 その後は何事もなく授業は進み、ハリーは友人を連れて早々に教室を出て行った。

 

「ポッターは災難だったな」

「う、ん……」

 

 相槌を打ちつつ、マリアは疑問を抱いていた。

 ネビルが山嵐の針を先に入れた件、グリフィンドールから点が引かれるにしても厳罰対象となるのは組んでいたフィネガンのはずだ。にも関わらず、選ばれたのはハリーだった。フィネガンがネビルと一緒に教室を出て行ったから?

 いや、それを指示したのはスネイプ先生だ。

 つまりスネイプ先生はハリーを罰するために、フィネガンを行かせたと考えられる。とするとハリーはこの一週間でスネイプ先生の機嫌を損ねるような真似をしたのか。あるいはそれ以前に何らかの因縁でもあるのか。他人のことなので詮索しても意味はないと判断して、マリアはお昼を食べに大広間へと向かっていった。

 

 




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